隣に住む高嶺の花な同級生が気づいたら子持ちライバーになってた 作:Tmouris_
今日は路上ライブじゃなくって、会場を使った初めてのライブだ。
そんな大規模なライブではないにしろ、こんな機会、今までなかったから緊張する。
「ねえ、本当に私も行くの?」
「来て!い・ろ・は」
二人は人差し指と中指を絡める。
「仲良しのやつ」
俺が隣でそれを眺めてると、かぐやは俺の方に拳を突き出した。
「もちろん、月夜も!」
俺も拳を突き出して、コツンと合わせる。
ファン数も十分で注目もそこそこされてる。このライブで上手くバズることが出来れば一気に流れを掴める気がする。
―――
ライブは大成功に終わった。ライブの日以来、ファン数の伸びも上がってきたし、配信の同接数も増えてる。
それと、芦花さんと真実さんとの神戦ゲームコラボ配信も結構受けが良かった。
元々かぐやはゲームセンス高かったけど、神戦の才能もあるとは……sengokuモード結構難しいんだけどな。
「最近、視聴者増えてきたから、俺と彩葉さんでモデレーターやろう」
「私、勉強で忙しいんだけど」
たしかに、かぐやの配信の度にモデレーターなんてやってたらいくら時間があっても足りない。
ていうか、俺も全部は付き合いきれない。
「最近、かぐやへの求婚コメント増えてきてるんだよな」
それを聞くと、彩葉さんがぴくりと反応した。
「ま、まあ?時間のある時くらいなら?」
ちょろ葉さん……
その日の夜のコメント欄は凄かった。俺はやじだと思ってスルーしてたけど、彩葉さんは辛抱ならないらしく、次々と求婚コメントを削除していく。
「頑張ってるなぁ」
ただ、さすがにスパチャまでは削除するまではいかなく、求婚の赤スパで配信は溢れていた。
「あのさ〜みんなかぐやに会ったことないじゃん。わがままですぐ暴れるし、ちょう面倒くさいよ」
こいつ自覚あったんか……
ていうか、その理論でいくと、声すら聞いたことないやちのことが気になっている俺はコメント欄のこいつらよりやばいやつなのでは?
「よし!彩Pか月夜に勝ったら結婚な!」
おい!俺は勢いよく彩葉さんの部屋に壁ドンする。
彩葉さんも同じく文句を言ってるのか、配信が一時中断された。
―――
「それで?どっかの誰かさんのせいで、対戦の申し込みが大量に来てるわけなんだけど?」
「あ、あれぇ?月夜怒ってる?守ってよ〜」
「無理!」
「なんでぇ!」
無理なもんは無理だ。そもそも、俺はフィジカルが強いわけじゃないからsetunaモード強くないし、kessenモードも彩葉さんと毎回毎回合わせるわけにもいかないし。
「無理なもんは無理!単純に俺じゃかぐやを守りきれない!」
悔しいけど、この役割をこなせるのは彩葉さんにしか出来ない。
「彩葉さん……こればっかりは彩葉さんにまかせるしかない。彩葉さんの強さなら並大抵の相手には負けないから!」
俺は額を床に擦り付けて、彩葉さんにお願いする。
「彩P守ってぇ?」
上目遣いしてる暇があったらお前も頭を下げろ。頼むから。
「もー!私の休憩時間がなくなっていく!」
そのうち彩葉さん過労でぶっ倒れるんじゃないかって最近心配になってきた。
「というか、スキンどうするの?たしか、俺とか彩葉さんがつけてるコスチュームってヒットボックスかなりでかくなかったっけ」
「そこは腕と気合いで」
あ、顔出しは意地でもしないつもりなんですね。
次の日から、かぐや防衛戦が始まり、彩葉さんが挑戦者をひたすらボコボコにする時間が始まった。
強い強いとは思ってたけど、まさか彩葉さんがここまで実力者だったなんて……
かぐや彩Pチームと俺とやちで戦ってみたいな〜。
そこからはもうかぐやの快進撃は止まらなかった。
ファン数も増えてスパチャも増えて、ふじゅもとんでもない量溜め込んでるのを前に見た。
正直、学生の俺とかには無縁の額で心臓が飛び出るかと思った。
「彩葉さん大丈夫?最近エナドリの量明らかに増えてるけど」
「大丈夫。エナドリ代はかぐやに出させてるから」
そういう問題じゃないんだけど……シンプルに心配だ。
「というか、もうさすがにこのボロアパートじゃ大分手狭じゃない?」
彩葉さんの部屋には、かぐやが買った色々な道具やらグッズが散らかってる。
「引っ越しかぁ」
何より、彩葉さんの夜の安眠のためにも部屋は分けた方がいい。
―――
「ねぇ、こことかは?」
かぐやが指を指したのは、家賃35万の3LDKのタワマンだった。
ややや家賃35万?そんだけあったら何ヶ月生活できるんだ……
「はぁ。こんなとこに住んでたら人間おかしくなるって」
「激しく同意」
まぁ……別に俺が住むわけではないんだけど。
かぐやはそのレベルの家に住めるくらいバシバシ稼いでるけど、俺は別にそうじゃないし、彩葉さんと違って同居してるわけじゃないので。
「それよりごめんね月夜くん。こんな事に付き合わせちゃって」
「いいよ別に。かぐや一人だとどんな物件選ぶか怖くてしょうがないし」
なんて軽口を叩いていると、彩葉さんがその場にしゃがみこんだ。
「彩葉さん?彩葉さん!」
明らかに様子がおかしかったのでおでこに手を当てる。
「やっば、熱あんじゃん!」
「だい、じょうぶ」
大丈夫なわけあるかい!顔色も明らかに悪くなってきてる。
「かぐや!彩葉さん運ぶの手伝って!」
「え、あ!了解!」
左右から肩を組むように彩葉さんを支えて、何とか家まで連れていって布団に寝かせる。
「かぐや、エアコンのリモコンどこ!?この部屋暑いけど、体も暖かくしなきゃだから!」
あー!普段からこの人が扇風機で妥協してるせいでリモコンが中々見つからない!
「あったよ!」
「ナイスかぐや!」
冷房をつけると冷たい風が部屋に流れる。
とりあえず一段落かと思って腰を下ろすと、彩葉さんのスマホのアラーム音が鳴り響く。
画面を覗き込むと、そこには『バイト』と表示されていた。
「ねえ!彩葉大丈夫!?死んじゃったりしないよね!」
「大丈夫だから静かに」
俺はメッセージを開いて『彩葉さんの友人です。彩葉さんが熱で寝込んでしまった為代わりに連絡させていただきました。出勤が難しいため病欠にしていただきたいです』
バイトの方はこれで大丈夫だろう。
すぐに、『承知しました。病欠で処理しておきますね。ゆっくり休ませてあげてください』と返信が来た。
「かぐやってお粥とか作れる?」
「ふふん。かぐやに任せとき!おっと、静かにしなきゃだね。栄養満点のお粥作るから」
―――
数時間後、彩葉さんが目を覚まして、慌ててスマホを確認する。
「やばいバイト!」
「彩葉!しんどい?」
「大丈夫、すぐ出るから」
俺は立ち上がろうとする彩葉さんの肩を掴んで、ゆっくりと布団に戻す。
「ちょ、月夜くん!」
「バイトは休みの連絡入れておいたから。今は休む方が先決です」
ほら、後ろでかぐやが心配過ぎて涙ダラダラ流してちゃってるから、起き上がらないでください。
「あ、ありがとう」
「そうだ!病院、一緒に行こ!」
まぁ、過労と寝不足による疲労とかだろうけど。これを機会に一回彩葉さんはゆっくり休んだ方がいいのかもしれない。
……忙しくさせてるの主にかぐやと俺だけど。
「全部ギリギリで予定組んでるから、何日も休んだら……もう追いつけないよ」
涙目になりながら弱音を吐く彩葉さん。
大分追い詰めてしまっていたのか……俺とかぐやが無茶ぶりしていたせいで。
俺はぎゅっと拳を握って、今までのことを反省する。
「なんで彩葉は一人はそんなに一人で頑張らなきゃいけないの?」
そう言って、かぐやはまた涙を流しながらギャンギャンと泣き始める。
「私もめっちゃ無理言っちゃったし……彩葉死んじゃったら嫌だー!」
「こんくらいで死にやしないよ。それに、月夜くんがかぐやの面倒見てくれてたから、その辺は楽できてたし」
かぐやの鳴き声だけが部屋に響いて、俺と彩葉さんの間に沈黙が流れる。
「なんで、彩葉さんはそこまでしてるの?学費ならまだしも生活費まで稼いで……」
彩葉さんは視線を逸らして、口を塞いでしまった。
けど、もう一度こっちを見るとゆっくりと事情を説明してくれた。
どうやら、母親との言い合いで生活費学費を自分でどうにかするって条件でこっちに飛び出して来たらしい。
……なんだその人生ハードモードは。
「えらい簡単に言ってるけど、みんなそんなことしてなくない?」
「お母さんも平気で同じくらいのことしてたし。私も譲らなかったから」
家族揃ってどんな人生歩んでんだよ。というか二人とも凄すぎだろ。
「それに、自分の力だけで生きていくんだって思ったらラッキーってめっちゃ力湧いてきた」
「今の話のどの辺がラッキーなの!?」
「宇宙人調べでもそのお母さん激ヤバおかしいって!おかしい〜!」
「かぐやには……」
彩葉さんはそこまで言って、続きは口にしなかった。
きっと『かぐやには分からない』って言いたかっただろうに。
家族の問題だし……色々あるんだろうな。
「はぁ〜いや、なんでこんな話してんだ。月夜くんもごめんねこんな話聞かせて」
「いや、大丈夫」
それ以上は何も言えなかったし、言っていいのかも俺には分からなかった。
「それじゃ、これ以上俺がいても迷惑だろうし帰るよ」
「あ、月夜くん。色々ありがとうね」
軽く手を振って俺はその場を後にした。
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