隣に住む高嶺の花な同級生が気づいたら子持ちライバーになってた 作:Tmouris_
ヤチヨカップが終わって目を覚ますと、やちから一件のメッセージが入っていた。
『スマコン持ってここに来て』
メッセージに添付された住所を見ると、そこは明らかにマンションの一室だった。
オフ会でしょっぱなから家に呼ぶ?なんか危ないことに巻き込まれたり――
いや、やちに限ってそんなことないか。
緊張しながら書かれた住所に向かう。
ちょっと気合いの入った服装をして髪を整えてから。
そして、ついに部屋の前までやってきた。
俺は、指を震わせながらインターホンを押す。
すると、すぐさま鍵が開く。
「……おじゃましまーす」
――は?
中には大量のコンピューターが置かれていて、その中央にはタケノコ型の何かがあってたくさんの電極につながれていた。
普通なら意味が分からなかったかもしれない。
ただ、俺にはそれを理解できてしまう心当たりがあった。
まさか、やちも月から……
そうだ、スマコン。
持ってこいっていったくらいだ、きっとなにか意味があるはず。
スマコンをつけて、ツクヨミにログインすると、和室らしき一室に入った。
「なんで……ヤチヨが」
「分かってるでしょ」
思い当たる節はあった。言葉の言い回しとか話し方とか、でも……疑問に思ったのは初めてタッグを組んでブラックオニキスと戦った時だった。
初めてのはずなのに初めてとも感じさせない連携。
実はやちは設定を似せてるだけのパチモノなんかじゃなくって本当のヤチヨなんじゃないかって。
「やちはヤチヨだったんだね」
なんだよ、未来の歌姫とか。もうすでに歌姫じゃねえか。
しかも、俺はずっとやちとコラボライブするためにかぐやと頑張って来たなんて……
「そうだよ。そしてかぐやでもある」
……は?
「じょ、冗談でしょ?ヤチヨが月から来たっていうなら俺全然信じるよ!でも、ヤチヨがかぐやだなんて意味わかんないじゃん!」
そうだよ、ヤチヨがかぐやなら、今彩葉と引越ししてるかぐやは誰なんだよ。
「かぐやはね、今年の秋頃に月からお迎えが来るの」
そこからはめちゃくちゃな説明を聞かされた。
月の技術で彩葉のところに戻ろうとしたら、トラブルで8000年前まで飛んでしまったらしい。
「か、仮にその話が本当だとして。なんで俺になんて話したんだよ」
「それはね。月夜だからっていうのもあるけど……月夜は私にとってイレギュラーだったから」
イレギュラー?俺なんかが?
「私はね月夜のことを知らなかったんだよ」
「そりゃ、初めて話したのなんて小学生の時だし、会ったのも今が初め――」
いや、おかしい。何かが違う気がする。
「私は未来からきたかぐやだよ?なんでそんな私が月夜のこと知らなかったと思う?」
聞いてはいけないことな気がする。聞いたらもう後戻りはできないような。
「それはね、私の隣には彩葉しかいなかったから。私もヤチヨカップに出場して優勝した。でもね?そこに月夜はいなかったの」
話の意味が半分も分からない。俺はいなかった?でも、俺はこうして、かぐやと彩葉さんと優勝して。
「だから、二人と月夜が一緒にいた時は絶望した。だって、8000年彩葉に会うために頑張って生きてきたのに……私の知ってる彩葉はそこにはいなかったから」
困惑する俺を他所にヤチヨは話を続ける。
「彩葉は彩葉。でもね、私と二人きりで過ごしてきた彩葉はそこにはいないの。同じ人でも違う人なんだよ」
じゃあなにか?俺が彩葉さんとかぐやと出会ってしまったせいで、ヤチヨが今まで8000年なんて途方もない時間を全部無駄にしたのか?
「……恨まなかったのかよ」
「うーん……どうだろ。でも、隣にいたのが月夜で良かったなって思ったよ」
「それってどういう……」
「8000年ってすっごーい長いんだよ?そして、いざその時になってみれば恋焦がれた相手は、私の知ってる相手とは少し変わってた。だけど、会いたいって気持ちは変わらない。私にとって彩葉は帰りたいって思える場所になったの」
なんだよそれ。そんなん余計俺の事恨んでても……
「初めてレスバした時のこと覚えてる?なんだこのガキー!ってヤチヨも大人気なく言い合ってさ」
「そ、そりゃ覚えてるけど」
「私を支えるためってわざわざ難しい6弦のベース必死に練習してくれたの嬉しかったな」
ヤチヨは空を見上げて昔を思い出すように微笑む。
「いっぱいいろんなゲームしたね。いっぱいいろんなこと話したね。帝様を倒した時はそれはもう気持ちよかったよ!」
はしゃぎながら語るヤチヨはそこまで言うと、呼吸を整えて、目をじっと見つめて、俺のことを指さした。
「私はね、月夜。あなたが好き」
「は?」
「面倒くさいところもあるけど、からかいがいもあって、一緒にいて楽しくて……でも、こんな8000歳のおばあちゃんは嫌だよね〜」
――なに言ってんだよ。
「なんで俺なんだよ。彩葉さんじゃなくていいの?8000年もあればもっと色々な人に会ってきただろ」
自分が大した人間じゃないのなんて分かってる。それこそ、ヤチヨ……やちに好かれるほど。
「……偶然かな」
「は?」
「たまたま彩葉に失恋した時に仲良かったのが月夜だった。だから偶然……偶然が運命になるんでしょ?」
嬉しかった。ヤチヨに好きと言われて、ただその事実はあまりに残酷だった。
「じゃあ、今のかぐやが月に帰ってまた8000年を繰り返すのも運命なのか?」
「そうだよ。でも、私たちは輪廻の輪からはみ出しかけてる。月夜ってイレギュラーがいたから。だからね、月夜にお願いがあるんだ〜」
俺も彩葉さんにちょろいちょろい言っていたけど、俺も大概ちょろいのかもしれない。
だって、ヤチヨに好きって言われた時には覚悟を決めていた気がするから。
「かぐやの卒業ライブで何もしないで欲しい」
「一応理由を聞いてもいいかな」
「かぐやはね、あの日あの場所で月に連れて帰られる。それが運命なの。それをねじ曲げたら何が起こるか分からない」
胸が締め付けられるように苦しい。
かぐやに出会って色々な経験をした。
彩葉さんに出会って、ライブして、プロデューサーして、ワイワイ楽しんで、ヤチヨカップにも一緒に優勝して……
「分かってて見て見ぬふりをしろって言うんだね」
「そうだよ。ズルいって分かってる。でもね、お願い」
「……分かった」
納得なんて出来なかった。それでも、今は受け止めるしかなかった。
「これでも、ヤチヨとまだゲームしてくれる?」
「っは。名前がやちからヤチヨになっただけだよ」
「いったーい!」
おでこに軽くデコピンをしてやると、オーバーリアクションでおでこを抑えた。
「出来ればこれ以上このことは考えたくない……」
「うん。そうだよね……ごめんね」
二人の間に沈黙が流れる。
「さっきの好きってやつの答えなんだけど」
そう言うと、ヤチヨは人差し指で俺の口を抑える。
「それは全部終わってから聞かせて……そう全部終わってから」
ヤチヨの言う全部がどこまでかは分からない。
ただ、俺に出来るのはヤチヨの言葉を受け止めてあげることしかできない。
「じゃあさ、今までの話を聞かせてよ。かぐやじゃない。ヤチヨがこの8000年間どんなふうに生きてきたのか知りたい」
その日から、俺は毎日のようにヤチヨの家を尋ねては昔の話を聞かせてもらった。
ライブの打ち合わせで話したりはするが、かぐやと彩葉さんにはあまり会わないようにしていた。
だって、これ以上ずっと一緒にいたら、彩葉さんにもかぐやにも申し訳なくてどうにかなってしまいそうだから。
そして、ついにヤチヨとのコラボライブを迎えた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
また多くのUAお気に入り登録ありがとうございます。
モチベーションになるので気に入ったらお気に入り登録評価ポチってあげてください