隣に住む高嶺の花な同級生が気づいたら子持ちライバーになってた 作:Tmouris_
初めて月夜に会ったのはネット掲示板で、月夜もまだ小学生の時だった。
いつもみたいに2chでレスバしてたら、月夜が現れて『自称8000歳のババアがなんか言ってるよw』って言ってきた。
やっちょも幾多のレスバを乗り越えてきて、もうその程度の煽りじゃピクリともしないと思ったのに、この時は珍しくカチンときた。
そのあと、ゲームで対戦することになって、大人気もなくボコボコにした。
『よっわwこれで煽ってきたのw』
『うっせえ!今日は調子悪かっただけだから!次こそは勝つ!』
これだけボコボコにされたら、もう二度と対戦しにこないだろうなと思ったら、月夜は次の日も掲示板に現れた。
今日こそは今日こそはって、何度も何度も挑んできた。
「正直ね、最初はうざかったよ〜」
「っげ……俺そんなこと言ってたっけ」
また、来たななんて思う日々だったけど、気がつけば、今日も月夜来てるかなって掲示板を確認するようになってた。
そして、アドレスを交換してメッセージのやり取りするまでの仲になった。
色んな時代を生きてきたけど、この時代でここまで仲良くなったのは月夜が初めてだった。
色々なゲームを一緒にやった。
彩葉を待つだけの8000年だと思ってたのに、久しぶりに楽しいって思えてたかもしれない。
『私はね〜未来の歌姫なんだよね』
『ヘーソウナンダネ』
『あ、信じてないね!?』
楽しい日常はずっとは続かない。ツクヨミが始まれば、私はヤチヨとして表舞台に出て、ツクヨミ世界じゃ月夜には会えない。
『マジなん?』
『まじまじ。もしその時が来たら私は月夜にも私の歌を支えて欲しいな〜』
すぐには返信がくることはなかったけど、月夜から『わかった』って言ってしばらくメッセージが返ってこなかった。
『家族に頼んでベース買ってもらった』
『え!?本気で言ってる!?というかなんでベース?』
『低音好きだし……なんか支えてるって感じするじゃん』
でも、なんか子供っぽい理由で可愛いなって思った。
『指めっちゃ痛いんだけど!?指が全然動かないんだけど!?』
月夜は彩葉みたいな天才でもない普通の男の子だった。ベースの上達速度も決して早いわけじゃなかった。
『6弦ベースまじでムズいんだけど……』
『なんで最初っから6弦買っちゃったの?』
『だって、俺だけでやちの歌を支えるんなら音域は広い方がいいし……』
あぁ、月夜は本気で私のためにベースの練習をしてくれてるんだって伝わってきた。
年月は過ぎて行って、月夜のベースの腕はかなり上達して、ゲームも結構上手くなってきていた。
そして、ついにツクヨミのサービスが開始される。
『私、ゲームとかしばらく出来ないから』
この時には、月夜はもう中学生になろうとしていた。
『なんで!?ツクヨミで一緒にゲームとかしたいと思ってたのに!』
『あはは、やちにも色々あるのですよ』
『メッセージのやり取りは出来るの?』
メッセージのやり取りか〜まあそのくらいなら大丈夫だよね。あの時のヤチヨも表で関わってなかっただけで、月夜と友達だったかもしれないし。
『え〜月夜は私がいないと寂しいのかな〜?』
『寂しいだろそりゃ』
って、小学生相手に何照れてるんだろう私は。私が好きなのは――彩葉なんだから。
『メッセージくらいなら大丈夫だよ。未来の歌姫の道のりが始まるのです!』
『そういえばそうだったな。活動始めたら教えてよ。応援しにいくから』
『それは秘密。その時が来たら教えてあげる』
月夜は歳も顔も性別も分からない私とずっと仲良くし続けてくれた。その上、私をいつか支えるんだって、どんどんベースも上達していった。
「小学生相手に照れるってどうなん?ショタコンなの?」
「8000年も生きてるとね〜その辺狂ってくるんだよね」
そもそも不死の私からすれば、今考えれば歳の差なんて些細な問題だった。
「というか、VCも顔出しもNGだったのも今になれば納得だよな。ヤチヨの人気じゃ」
「ま〜あの日が近かったから慎重になってたってのもあるけどね」
何より、私の知ってるヤチヨのそばには月夜なんて人物はいなかったから。
そして、運命の日がやってきた。
今日はツクヨミに初めてかぐやがログインする日。
私のミニライブに彩葉と二人きりで訪れている――はずだった。
なのに、そこには一人の知らない少年が一緒にいた。
その瞬間、嫌な予感がした。
私の知ってる過去と、何かが違う。
その少年のIDを見てみるとtukiyoと表示される。
そっか、君が私を輪廻の輪から外してしまったんだね。
そして、私は悟った。
私が8000年会いたかった彩葉はいないんだって。
私と一緒にヤチヨカップを優勝するはずの彩葉はいないんだって。
彩葉の反応もかぐやの反応もほとんど変わらない。
それでも、そこにはたしかに月夜がいて、三人で楽しそうに話してた。
それを見て思った。
この三人には私の知らない時間がもう出来てるんだなって。
でも、彩葉たちの隣にいるのが月夜……きみで良かった――そう思ってる自分がどこかにあった。
君だから恨まなくてもすんだ。この8000年が無駄だったって思わなくてすんだ。
それはきっと月夜が私の親友だったから。
そして、少しずつ、私の彩葉を見る目は変わっていった。恋情を抱いていた相手から、それでも帰りたい相手になった。
偶然は運命になった。
月夜は彩葉とかぐやと一緒にどんどんとファン数を伸ばして、この世界のかぐやもヤチヨカップ優勝に手を伸ばそうとしていた。
『やち!頼む!』
月夜は、間違えて呼んだだけ。分かっているはずなのに、この姿の私をやちって呼んでくれたのがすごく嬉しかった。
だからかな、月夜に意識が向き始めたのは。
失恋して、傷心していた私に今の楽しさをくれたのは月夜だった。
月夜との普段のやり取りはそれだけ私にとって楽しみになって、初めてのkessenは魅力的だった。
「もしかして……相方が切断になってたのって」
「いやいや、それは本当に偶然。相手がブラックオニキスって見て萎え落ちしてただけだよ」
まあ……タイミングが合えばヤチヨとして月夜とゲームしたいなって思ってたけど。
「それで、今に至るわけか」
「そう、だね」
ヤチヨカップで月夜たちは優勝して、コラボライブを経て……かぐやの迎えがやってくる。
「彩葉には話すの?」
「うん。全部終わったらちゃんと話すよ」
正直、話すのは怖い。
どんな言葉を言われるんだろう。8000歳になった私を見て彩葉はなにを思うんだろう。
顔に出ていたのか、月夜はそっと私の手を握ってくれた。
「大丈夫。俺も一緒にいるから」
「ありゃりゃ口説かれちゃった」
あの世界のヤチヨはもっと怖かったんだろうな。だって、隣に誰もいなかったんだもん。
「……かぐやも救うことってできないのかな」
「この世界のかぐやは8000年かけて彩葉と月夜に会いにいくんだよ」
本当は可能性はある。
私が確定させられる未来は、かぐやが月に帰るところまで。
そこから先の未来はまだ確定してない。
だから、手段は二つだけ残ってる。
だけど、それはまだ月夜には言えない……だって、言ってしまったら月夜にとっても彩葉にとっても辛いだけだから。
「俺が全部変えちゃったのかな……」
「変わっちゃったかもしれない。でも、壊した訳じゃないよ」
たしかに、8000年待って結果は全然違ったけど――月夜に会えてよかった。
「だから、そんな顔しないで。一緒にコラボライブかんばろ〜!」
「そうだな……全力で弾いてやるよ」
そうして、コツンとヤチヨと拳の先を合わせる。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
連日日間ランキングに乗っていて嬉しい限りです。
お気に入り登録、評価モチベーションになるので気に入ったらポチってあげてください。