隣に住む高嶺の花な同級生が気づいたら子持ちライバーになってた 作:Tmouris_
かぐやが月に帰った翌日、彩葉さんは学校を休んだ。
そりゃそうだ……目の前でかぐやを守れなかったショックは大きいはずだ。
俺だって何も知らなかったら、ショックで休んでいただろう。
でも、かぐやが消える直前涙ながらに『彩葉、大好き』と肩に頭を寄せていた光景が脳裏に焼き付いてはがれない。
俺の選択は正しかったのか、ヤチヨが消えてしまわないことに賭けてでもかぐやを守ってあげるべきだったんじゃないか。
かぐやが消えた隣を呆然と見つめる彩葉さんの表情を見て……俺はそう思ってしまった。
「ねえ、月夜くん」
廊下を歩いていると、芦花さんと真実さんが後ろから声をかけてきた。
「彩葉大丈夫かな。かぐやちゃんのこともあって今日も休みだし」
真実さんは涙目になりながら、顔を下に向ける。
「月夜くんなら彩葉を元気づけてあげられると思うんだ。かぐやちゃんともずっと一緒にいたし……」
多分、俺が行ってあげるべきなんだと思う。声をかけて少しでも楽にさせてあげるべきなんだとも思う。
「……ごめん」
俺にその資格はない。
だって、俺は分かっていながら何もしなかったんだから。
「そう、だよね。月夜くんもかぐやちゃんとめっちゃ仲良かったもんね。無神経なこと言ってごめんね」
俺はそれ以上なにも言えなかった。
二人は心配そうに俺を見つめていたけど、そんなふうに見られるべきじゃないんだ。
そう思って、その場をあとにした。
―――
「ヤチヨ、全部終わったね」
「……終わったね~」
きっと、ヤチヨだって苦しいはずだ、彩葉からかぐやを取り上げるようなことをしたんだから。
「それじゃあ、聞かせてもらおっかな。ヤチヨの告白の返事」
そういうと、ヤチヨは立ち上がって、俺のすぐ正面に座った。
「俺はヤチヨが好き……ううん大好きだ。俺と付き合って欲しい」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろし――」
そこまで言いかけたところで、ほっぺたにほんのりと温かさを感じる。
「え、ちょヤ、ヤチヨさん?」
「えへへ~ずっと我慢してくれてたご褒美」
キスされた。ほっぺただったけど。だけど、俺が動揺するには十分すぎるくらいの出来事だった。
「それと、もう一つ話さないといけないことがあるよね」
ヤチヨがもう一度口を開くと、雰囲気はがらりと変わり、空気もピリピリとし始めた。
「かぐやを取り戻す方法」
俺はごくりと固唾を飲む。
「方法は二つあるよ」
ヤチヨがそう言うと二つのメモリーのようなものが現れた。
「一つは私の8000年前のバックアップを使ってかぐやを再現する方法。元々、私たち月人は電子生命体……データの塊みたいなものだから、コピーとは違うけどね」
俺は足りない頭をフル回転させながら、なんとか話についていく。
「そして、もう一つは月に直接かぐやを連れ帰りに行く方法。ここに私が80年間働いた仕事のデータが入ってる。ツクヨミから月にアクセスして、これを届ければかぐやも返してもらえるはず」
なる、ほど……なんとなくは理解できた。どちらの方法をとってもかぐやは戻ってくる。
……でも、だったらなんでヤチヨは方法を二つも提示したんだ?
「ヤチヨ的にはかぐやを月から直接連れ戻すのがおすすめだけどどうかな?」
何かが、おかしい。
いや、ちょっと考えればわかることじゃないか。そして、ヤチヨの覚悟も。
「ヤチヨ。本当のこと話して」
「え~ヤチヨは嘘なんて――」
「嘘ついてないのはわかる。だから、本当のことも話して」
すると、ヤチヨは押し黙って、少しため息をついた。
「はぁ、月夜には敵わないな~。でも、いいの?聞いたら後悔するかもよ?」
「聞かないで後悔するよりずっとマシだっつーの」
「私はかぐやだった時に月夜に出会ってないって話は前にしたよね」
「うん。だから俺はイレギュラーなんだって」
俺のせいで、歴史は変わった。
「だからね、私のバックアップには正確にこの時間のかぐやの記憶は保存されてないの。保存されてるのは、私と彩葉二人だけだから。正確に言えば彩葉が会いたいかぐやじゃないの……私が会いたかった彩葉が少し変わってたみたいに」
俺が黙って聞いていると、ヤチヨは「そして」と話を続ける。
「もう一つのかぐやを月から取り戻す方法。これなら正確に彩葉が会いたいかぐやに再会できる……代わりに私は矛盾として消えちゃうかもしれないけどね」
「彩葉さんに黙ってればいい」
俺がそう言っても、ヤチヨは首を横に振った。
「私はね十分楽しんだ。彩葉にも会えたし、月夜とこうして一緒にいられたし」
ヤチヨは俺の隣に来て、指を絡める。
「かぐやに忘れられたって構わない。彩葉さんには納得してもらえるまで何度でも何度でも説明もするし謝りもする」
「だから、月夜。私は――」
「俺は!ヤチヨに消えてほしくない!これからもずっと一緒にいたいんだよ!」
声を荒げると、部屋に静寂が流れる。
俺ははっとして、ヤチヨの顔を見ると、ヤチヨは涙を流しながら泣きじゃくるように表情を崩した。
「私だって!消えたくない!消えるのは怖い!もっと、月夜と一緒にいたい。せっかく会えたんだからもっとライブもしたいし、ゲームだってしたい!でも……彩葉には私と同じ思いをしてほしくない。目の前に大切な人がいるのに!自分の知ってる人とは少しだけ違う。そんな思いさせたくないから!」
そう叫ぶヤチヨを俺はぎゅっと抱きしめる。
「それでも、俺はヤチヨに側にいてほしい」
「そんなの……ずるいよ」
ヤチヨは力強く俺を抱きしめ返して子供のように涙を流した。
「落ち着いた?」
「うん……ありがとう月夜」
抱きしめていた手を離して、俺とヤチヨは少しだけ距離を置いた。
「私も、月夜と一緒にいたい……でもごめんなさい。やっぱり私には決められない」
そうだよな。ヤチヨは昔から優しいから。
「分かった。それなら俺と彩葉さんで話をつけるよ」
―――
ヤチヨの話によれば、彩葉さんは昨日には曲を完成させてかぐやに届けるらしい。
そして、その曲を聞いたかぐやは爆速で仕事を終わらせにかかるんだとか。
正直、それを聞いてホッとした自分が嫌でもあった。
彩葉さんが深く傷つくと知っていながら見て見ぬふりをして、いざ元気を取り戻すと聞いたら安心してるんだから。
なによりも、そんな彩葉さんと決裂するなんて分かりきってる話をしないといけないから億劫だ。
ピンポンと彩葉さんのいるマンションのインターホンを押す。
すると、反応は無いのに鍵が開いて、俺は中に入った。
「久しぶり彩葉さん」
「うん……久しぶりだね。月夜くん」
彩葉さんが学校に復帰するまでここに来ないで、復帰したあとも出来る限り避けていた。
リビングで向かい合うように座ることなく、立ったままお互いに目を見つめ合う。
「ねぇ、月夜くん。月夜くんはなにか知ってるよね」
そういいながら、彩葉さんが俺に見せつけて来たのはヤチヨへのメッセージ送信エラー画面。
「知ってる。ううん、知ってたよ全部」
「知ってたって……どういうこと?」
俺はリビングのソファーに腰掛ける。
「出かける支度して。そこで全部話すから」
彩葉さんも俺の行動の違和感に気がついてる。
もう、後には引き返せない。
―――
「ねぇ彩葉さん。もう会えなくなる大切な恋人と一緒にいる方法が見つかったとしたら彩葉さんならどうする?」
「なにその質問」
「いいからいいから」
ヤチヨのマンションに着くまでの間に、この答えを聞いておきたかった。
「……そのためならなんでもしちゃう、と思う」
彩葉さんは一瞬立ち止まって、空を見上げてからそう答えた。
「じゃあさ、大事な親友と大切な恋人のどちらかとしか会えなくなるとしたらどっちが嫌?」
「そんなの選べるわけないじゃん」
「だよね。意地悪な質問だったか」
俺もちょっと前までなら絶対答えられなかった。
でも、今は違う。
「でも、俺は選んだよ」
「……え?」
「ほら、ついたよ。この部屋に入って」
そして、彩葉さんはついにタケノコの宇宙船を目撃した。
「月夜……」
「ここからツクヨミにいくよ」
そうして、俺たち二人はスマコンを装着して、目を閉じた。