隣に住む高嶺の花な同級生が気づいたら子持ちライバーになってた 作:Tmouris_
「かぐや?」
彩葉さんはすごいな。本当の本当にかぐやのことを良く見てて、ヤチヨの大ファンで。そこまで気づけちゃうんだ。
「っは、ヤチヨ」
そうなるよね……と思ったら、彩葉さんはもう一度口を開いた。
「ヤチヨはかぐやなの?変なことを言ってるのは分かってる――でも!」
そして、ヤチヨは静かに立ち上がり、今までのかぐやがヤチヨになった経緯を説明した。
「でも、ここには私の知ってる彩葉も彩葉の知ってるかぐやもいないの」
「それってどういう……だって、ヤチヨはかぐやなんでしょ?だったら!」
「ヤチヨがかぐやだった時間には俺はいなかったんだって」
彩葉さんに全てを話した。俺の存在が全てを変えてしまったことを。
ヤチヨが8000年彩葉さんに恋焦がれ、それでもそこにいたのはヤチヨの知ってる彩葉とは少し違ったことも。
「じゃあ、私の知ってるかぐやは……」
「今もまた同じ輪廻を巡ってる。仕事を終えて、地球に帰ろうと8000年前に戻る。ただ、私みたいなケースもあるからかぐやが8000年遡ってもそこには月夜はいないかもしれない。私たちは輪廻の輪からもう外れかかってるから」
「ぜんぜん……分かんないよ」
「これはただの私のおとぎ話」
そう、これはあくまでヤチヨの過去の話。
俺たちといたかぐやがまた同じ過去を辿るとは限らない。
二人は外を眺めながらツクヨミを見下ろす。
「ここからの眺めがヤチヨは本当に大好きなの」
彩葉さんに声をかけるヤチヨは彩葉さんを見ているはずなのに、違う人に語りかけるように見えた。
きっと……かぐやの時に一緒にいた彩葉さんを思い出しているんだろう。
「ごめんね、ハッピーエンド。連れてくって約束したのに。ドジっちゃった。キラキラのかぐや姫は……もうおばあちゃんです」
そう言ってヤチヨは涙を流した。
怖かったんだろうな。彩葉さんが会いたかったのはかぐやなのに、自分はもう8000年も生きて色々な経験をして、全く別人と言っていいような性格にもなって。挙句の果てに、一緒にいた記憶も二人は食い違っているんだから。
否定されたら、拒絶されたらって。
「ヤチヨ!」
彩葉さんはそう叫ぶと、ぷんすこと怒って、部屋の中央に座り込む。
「話は分かった。でも、ヤチヨだってかぐやなのには変わりないでしょ!だから8000年あったこと全部聞かせて。月夜がいなかった時のことも全部!」
その程度のことでヤチヨのことを嫌いになると思われたのが相当不服だったようだ。
「よっと」
ヤチヨの掛け声と同時に部屋がいつものボロアパートに置き換わった。
そして、ヤチヨの長い長い8000年の話しが始まった。
途中まで話したところでヤチヨは眠りについてしまって、俺と彩葉さん、FUSHIの二人と一匹が残される。
「ねぇFUSHI。ヤチヨが隠してることあるよね」
俺も8000年の話しは聞いたが、まだ聞いていないことがあった。
「俺からもお願い。俺はヤチヨの全部を見なくちゃいけないから」
楽しいこと、出会い、色々なことを聞いたけど……悲しかったこと、別れ、辛かったことは決してヤチヨは語らなかった。
「人の体で耐えられるか分からない」
「「問答無用」」
「ヤチヨは……二人のおかげで本当に楽しそうだったんだ」
FUSHIはコクリと首を縦に振ると、目を光らせる。
「いくぞぉぉぉぉお!」
それと同時にヤチヨの記憶が頭に流れ込んできた。
彩葉さんを一人で待ち続けてきた孤独。色んな人と出会い別れた悲しみ。人の残酷さに触れた辛さ。
そして、かぐやと彩葉さんだけの二人きりのヤチヨカップ、俺とヤチヨの二人だけの話も。
そこで、世界が弾けるように割れて、綺麗な夜空の下の湖が投影される。
「月夜!彩葉!」
俺と、彩葉さんは体を起こした。
「ヤチヨは……本当に私の知ってるかぐやじゃないんだね」
「そう、だよ……」
彩葉さんは立ち上がり、いつも使っている武器を手に取った。
「月夜が言ってた選んだってこういうことだったんだね」
「そうだよ」
俺も武器を手に取って彩葉さんに向き合う。
「月夜……彩葉」
ヤチヨの体は半透明になってきていて、まるで今にも消えてしまいそうだった。
「俺は俺たちの知っているかぐやを失うことになってもヤチヨを選ぶよ」
「私は……ヤチヨを失ってでも私の知ってるかぐやと一緒にいたい」
その時、彩葉さんは涙を流していた。
当たり前だ、辛くないわけがない。だって、ヤチヨだってかぐやなのには変わりない。それでも彩葉さんは、俺たちの知ってるかぐやを選んだんだから。
夜空の下に、武器がぶつかり合う金属音だけが響き渡る。
何度も何度も何度も。
そして、決着はあっという間についた。
考えれば分かることだ。俺が彩葉さんに一対一で勝てるわけがなかった。
それでも戦わなきゃいけなかった。
「ごめん。ヤチヨ……負けちゃった」
「ううん、いいの。私のために戦ってくれてありがとうね月夜」
俺はヤチヨのことをぎゅっと抱きしめて、ヤチヨもそれに応えるように抱きしめ返してくれた。
「……私の勝ち。ヤチヨには悪いけど」
「大丈夫だよ彩葉。彩葉はちゃんとかぐやと幸せになってね」
そういいながら、一つのデバイスをヤチヨは俺に手渡した。
「これを使えば満月の日に一度だけ月にアクセスできる。データも全部入ってる」
俺はそれを受け取ったが、思わずそれを握る手に力が入る。
そして、ヤチヨの存在はどんどん薄くなっていって――
消えなかった。
「ありゃ?なんで?」
一番驚いていたのは当の本人で、俺と彩葉さんの二人にも理解できなかった。
「ねえ、ヤチヨ。ヤチヨはかぐやだった頃に月夜と出会ってなかったんだよね」
彩葉さんは指を顎に当てて、何か思いついたかのように話し始めた。
「そうだよ?」
そう、ヤチヨはかぐやだったころに俺には出会ってない。ヤチヨになってから俺に関わり、思い出を作っていった。
「それって、ヤチヨがかぐやだった時も同じだったんじゃない?」
……つまりどういうことだ。
「あ……そっか。今のかぐやが8000年生きても、もう私にはならないんだ」
けれど、ヤチヨはなにか納得したようすで難しい顔をしてた。
「ヤチヨが月夜くんに会ったから、起きた出来事も変わって、記憶も経験も違って。それって同じヤチヨって言えるのかな。この世界のかぐやとヤチヨって同一人物なのかな」
「私はいつの間にか輪廻の輪から飛び出しちゃってたのか~」
「ちょっと待って全然話が見えてこないんだけど」
二人だけ納得していて、俺だけ置いてけぼりだ。
「つまりね月夜。私がこの世界で会った彩葉は少しだけ違ってたって言ったでしょ?それと同じ。かぐやが月夜と出会って、私が月夜と関わってきたことで同一人物として世界が認識から外れかけてるんだと思う」
「つまり、完全に同一人物じゃないからかぐやを連れて帰っても矛盾にはならない?だったらなんで消えかけてるのさ」
消えてない理由はなんとなくわかった。だけど、じゃあなんで消えようとしてるのかが分からない。
「それはまだ、私が輪廻から完全に外れ切ってないから。きっと、私の知っているヤチヨと同じ歴史を辿ろうとしていて、存在が不安定になってる」
「つまり、完全に歴史から外れ切れば」
「そう!私の存在も安定する」
「全く……かぐやはヤチヨになっても人騒がせなんだから」
だけど、ヤチヨの手はまだ震えていた。それはきっと、自分の考えに自信が持ててないから……あくまで仮説でしかないのか。
それを見ていると、俺も拳にぎゅっと力が入る。まだ一緒にいられるって決まった訳じゃないんだ。
ただ、それに彩葉さんは気がついたのか、俺とヤチヨの手をとってぎゅっと握りしめさせた。
「大丈夫!かぐやははちゃめちゃなハッピーエンドをお望みなんだから」
SFの設定は難しいです……
でも目指すはハッピーエンド一択でした!
次回最終回蛇足です