隣に住む高嶺の花な同級生が気づいたら子持ちライバーになってた 作:Tmouris_
慌てて酒寄さんの家の玄関を開けるとそこには信じられない光景が広がっていた。
「また大きくなっとる……」
あのよちよち歩きだった赤ん坊がすっかりと少女の姿になって座り込んでいた。
「酒寄さ――」
声をかけようとしたら、酒寄さんはベビー用品をとんでもない速さで段ボールにまとめて、少女の前に差し出した。
「お引き取りください」
……その通りではあるか。
「てか怖っ!何ですぐ大きくなってんの?怖っ!」
完全にパニックになって頭の処理も追いつかずに、帰ってもらうために一瞬で荷物をまとめたのか。
相当夜の赤ん坊の子育て大変だったんだな。
「まあ、今どきは何もかものスピードが速いんですわ」
そしてこの子もなんでこんなに流暢に日本語が話せるんだ。そして、そんな言葉をどこで覚えてきたんだ。
「得体のしれないものは、お断り!」
酒寄さんは少女の両腕を掴んで引っ張るが、少しも動かせない。
「ちょっと、月夜くんも手伝って!」
えぇ……そこで俺に振られても困るというかなんというか。俺も状況についていけていないというか。
結局、酒寄さんは根負けして、少女の腕を離す。
相当力を入れていたせいか、少女はごろごろと転がり勢いよく窓に頭を打ち付けた。
「私、子供助けてる暇なんてないよ……」
すると、ぐぅ~っとお腹のなる音が部屋中に響き渡った。
嫌な予感がする。時間も遅いし、明日も学校……
「それじゃあ、問題なさそうなので今日はこの辺で~」
「こ・れ・のどこが問題ないっていうわけ!?逃げないでくれる!?」
腕を掴まれて、目力いっぱいで睨まれてしまう。
そんな俺たちを見て、少女はというと。
「助けてぇ~?」
その暴力的な可愛さのビジュアルで上目遣いを使ってきたのだった。
―――
「はい、そこのコンビニで適当に食えそうなもの買ってきた」
「ありがとう……いくらくらいした?払うよ」
そう言いながら、酒寄さんはスマホを取り出し、ふじゅpayを起動しようとした。
「いいよこのくらい。俺も軽く自分用の夜食買ってきたし」
時計を見れば時間は二時。そんな時間に起きて動きまわれば腹も減る。
酒寄さんが俺の買ってきたオムライスを食べやすいように皿に盛り付けて、机に置いて少女の前に差し出した。
少女はオムライスを頬張ると、相当味が気に入ったようで、がつがつと口の中に流し込んだ。
「あなた、どこから来たの」
酒寄さんも冷静さを取り戻したのか、ついに本題に入った。
ゲーミング電柱から出てきて、毎晩毎晩とんでもない速度で成長する少女……普通なわけはない。
すると、何か思い出すように少し考えた後、少女は夜空に浮かぶ月を指さした。
「つ、月?」
それを聞いて、酒寄さんは頭を痛めたように額に手を置いた。
「それで、その宇宙人さんは何しに来たの?」
頭を抱える酒寄さんの代わりに俺が少女に質問をする。
「うーん……なんかあんまよく覚えてないんだけど」
少女の説明によると、月はくっそつまらないところらしく、それが嫌で、仕事をほっぽらかして楽しそうに見えた地球に逃げて来たらしい。
「逃げんな~」
現実を受け入れることを拒絶したのか、酒寄さんは軽くそれを受け流しながら竹取物語をタブレットに表示した。
たしかに、月から来た女の赤ちゃんと言えばかぐや姫だよなぁ……出て来たのは竹じゃなくてゲーミング電柱だったらしいけど。
「あのさ、ちなみにこれに心当たりは?」
「あ!俺の夜食!」
どうやら、竹取物語よりも空腹の方が勝っていたらしく、袋に入れておいた俺のおにぎりを取られてしまった。
「んで……じゃあこのおじいさんは彩葉なわけ?」
それを聞いて、酒寄さんは切れ気味に「八十年後の姿でも見えちゃってるのかなぁ?違うよ!?」と反論。
「あーでも、おじいさんだからどっちかっていうと、月夜か~」
「誰がじじいじゃ」
ていうか、さっきから、俺と酒寄さんの名前呼んでるけど……まさか赤ちゃんのときに聞いてたこと全部覚えてるの?それともとんでもない天才なの?
「ていうか!こんなん絶対かぐや姫じゃない!」
「それには激しく同意」
こんな現代風かぐや姫がいてたまるか。
「いや、でもそんなことより、えっと……」
俺もキャパシティをオーバーしそうで、酒寄さんも頭を悩ませる。
「んで、お話はどうなんの?」
俺たちの苦労も知らずに、少女は話の続きを普通に聞いてくるし。
とりあえず、酒寄さんがお話の続きを説明してあげる。
なんだかんだ言って面倒見がいいんだろうな……
「それで、姫は羽衣をきせられて地球のことは忘れる……で帰る」
一通り話をしてあげると、想像以上にお話が面白かったのか少女は目をキラキラさせながら次のページをめくろうとした。
「続きはないよ。それで竹取物語はおしまい」
「え~!?月に帰って終わり?何それ超~バッドエンド!」
「ぬははは!」
なぜか勝ち誇ったように酒寄さんも笑ってるし。深夜テンションと疲れで相当ぶっとんでるなこれ。
少女は物語に文句をつけて、ぎゃーぎゃーと騒ぎつけるが、まぁそれで物語が変わるわけでもない。
「これはそういうお話なの」
「バッドエンドやだやだ。ハッピーなのがいい~!」
俺もバッドエンドよりもハッピーエンドの方が好きだ。でも、この時かぐや姫って幸せじゃなかったのかな。
地球に残ってほしいって人が大勢いて、その為にみんなが戦ってくれて、ハッピーエンドではなかったけど、幸せだったかもしれない。
「歌ったって暴れたってしょうがないじゃん。決まってることが変わるわけじゃないし。受け入れて覚悟するしか……ない」
その言葉は力強くて、酒寄さんの覚悟みたいなものを感じた。でも、それと同時に危うくてどこか胸が締め付けられるようだった。
「よし決めた!自分でハッピーエンドにする。そんで、ハッピーエンドまで彩葉も月夜も連れてく!一緒に!」
ブイサインでどやる少女だったが、酒寄さんはため息をついて「ハッピーエンドいらない、普通のエンドで結構です」と言い返した。
ていうか、なんでさりげなく俺まで巻き込まれてるんですかね。
二人の言い争いを見させられて、俺もなんだかどうでも良くなってきた。
「俺、帰ってもいいかな」
―――
改めてようやく布団に入った。
マジで疲れた。控えめに言って疲れた。
これで明日学校ってマジか。
ただ、唯一の救いは赤ん坊が少女に成長したことだ。これなら昼間面倒を見てなくても問題ないから学校に行ける。
最悪、俺が学校を休む必要もあるかと思ったんだけど……そうならなかったのは不幸中の幸いとも言えるか。
「面倒見なくてもいいのか」
俺と酒寄さんをつないでいた赤ん坊の面倒っていう問題は解決されてしまった。じゃあ、それがなくなった今、明日からもう相手なんてしてもらえないんだろうか……
でも、そりゃそうだよな。あの事件がなければ俺たちに接点なんてなくて卒業まで同じクラスにいる高嶺の花でしかなかったんだから。
むしろ、この数日だけでも関係を持てたことを奇跡だと感謝するべき……って割り切れねえよな。
正直、くっそまじめで固い人なのかと思ってた。
だけど、話してみれば、普通にゲームとかもしてて推し活もしてる普通の女の子だった。
反応は面白いし、パニックにもなれば口調も悪くなるしで……
いや、これ以上考えるのはやめよう。
こういう考え事をリセットしたいときはやつと話すのが一番だ。
『起きてる?』
『今何時だと思ってるのかにゃ~?』
『普通に起きてるじゃねえか』
たまに既読がつくのがめちゃくちゃ遅い時があるけど、既読がつくときは即レスしてくれるのがやちのいいところの一つだ。
と言っても、話題とかなんにも考えてないんだよな。
『竹取物語のかぐや姫って最後幸せだったと思う?』
『やぶからぼうだね。う〜ん。でもまぁ、幸せだったって私は思うけど。ハッピーエンドではないけどね』
会話が続かない。そりゃ、話のタネもなしに話しかければそうなるのは目には見えてたけど。
『なになに?急にどうしたの?恋でもした?』
『どうしてそうなるんだよ!』
こいつの謎の察しの良さはなんなんだ。いや恋をしたわけじゃないけど。
『いやさ、関わることのないと思ってた女子と色々やる機会があってさ。でも、それも終わっちゃって。これで終わりなのは寂しいな~っと』
『つまり、月夜くんはその子と離れ離れになるのが寂しいから何か関係を続ける口実が欲しいというわけですな』
ぐうの音も出ない。
『だったら、赤ん坊の面倒見るのでお互い迷惑かけたでしょ。それを口実に勉強でも見てもらったら?月夜、学生でしょ?』
『それだ!さんきゅー』
『いえいえ~やちは恋のキューピットとなるのです』
『そういうんじゃないから!とりあえず、こんな時間にありがとう。おやすみ』
『おやすみ~』
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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