隣に住む高嶺の花な同級生が気づいたら子持ちライバーになってた 作:Tmouris_
「私みたいな貧乏人でもここでならいくらでも遊べるんだよね」
ミニライブまでの少しの待ち時間。
池のほとりで足を水につけながら、ツクヨミのパフェを三人で並んで食べている。
かぐやはよだれをたらしながら、期待に満ち溢れた目でパフェを口に運ぶが、すぐにその表情はがっかりしたものに変わった。
「んっ……味しな~い」
二人のそんなやり取りを聞きながら、俺はやちにメッセージを送る。
『今日ヤチヨのミニライブだけど、やちはツクヨミ来たりしないの?』
だけど、メッセージに既読はつかなくて、一向に返信が来る気配がないからメッセージを閉じる。
早いときはいつも速攻で既読ついて返信も早いんだけどな。たまーに全く連絡がつかない。
「私は特技とかないから、ゲームで小遣い稼ぎするくらいが関の山だし」
……多分ツクヨミのゲームで小遣い稼ぎができるって相当上澄みだと思うんですけど、その辺は特技に入らないんですかね彩葉さん。
「時間だ、行くよ」
ミニライブの時間になって、俺たち三人は会場に移動する。
「ンフっ」
会場につくと、彩葉さんはライブチケットを眺めながら分かりやすく嬉しそうににやけている。
あそこまで表情を崩すなんて、相当ヤチヨのファンなんだろうな。
「ねえねえ、さっきヤチヨと話した」
「それはチュートリアル。これから出てくるのが本物だよ」
そう説明してあげると、モニターの電源がついて、忠犬ハチ公さんがカウントダウンを始める。
そして、ついに月見ヤチヨが大きな鳥居と一緒に現れた。
「ヤオヨロー!神々のみんな今日も最高だった~?」
かぐやは登場演出にテンション上がってるし、彩葉さんは完全にヤチヨに魅入ってかぐやに体を揺らされても反応すらしてない。
ヤチヨのライブが始まり、その歌声がライブ会場一帯に響き渡る。
綺麗な声だ。透き通るようにまるで頭に響くようなそんな歌声。
やちのやつもこんなライブをいつかするのだろうか。
『ふふん。私は天才の電子の歌姫になるんだから。月夜がベース上手くなったら支えさせてあげるよ』
その言葉を小学生のときから信じてベースを猛特訓した。
だけど、あいつは歌声を聞かせてもくれなければ、声すら出さないからな。もはや、表舞台でライブ活動してるかすら怪しい。
俺がライバーになって人気になればあっちから声をかけてくれるのか、はたまた、あんな言葉を今も信じてる俺がバカ垂れなのか。
そんなことを考えていると、三人のヤチヨの分身体が俺たち三人のもとにやってくる。
後ろから抱きついてくるミニヤチヨはかわいらしく、頬をぷにぷにと押してやると嬉しそうに指に頬ずった。
無事にライブが終わると、隣で彩葉さんが感動して涙を流して「ヤチヨー!」と叫んでいた。
「イエーイ!感謝感激雨アラモード!」
ヤチヨもライブの出来に満足したのか高い鳥居の上でご機嫌な様子。
AIにもライブの出来とかあるのかは分からないけど。
「あっここでお知らせ!」
ヤチヨの肩に乗ってるFUSHIの目が光って、モニターが表示される。
そこには『YachiyoCUP!!』とでかでかと書かれていた。
「ヤチヨカップってイベントを開催しま~す」
概要をまとめると、期間内で一番多くの登録者を獲得したライバーがヤチヨとコラボライブができるというイベントらしい。
それにしても、ヤチヨがコラボライブとは……
「うっそコラボ!?」
案の定彩葉さんは驚いて困惑している様子。
「それ、すごいの?」
「すごいも何も……配信のコラボはあったけどライブはいつも一人で歌ってたんだよ!」
「へぇ~じゃあ、彩葉と月夜一緒にやろ!」
かぐやさん……さすがにそれは無理があると思うんですけど。
彩葉さんは見た目も良くてゲームも上手くてたしか、ピアノを弾くのも上手いから音楽も出来るけど。
俺は、ゲームが……下手なわけじゃないけど。ベースも……下手なわけじゃないか。
条件は揃ってる気もしなくはないけど。
「厳しいと思うなぁ……」
そこに輝かしくて派手な演出と共にプロゲーマーのブラックオニキスが登場して、ド派手に優勝宣言。
ブラックオニキスと言えば超実力の高いプロゲーマー三人組。ツクヨミの合戦で色々な大会を総なめしている上に、ライバーとしても多くの人気を獲得してる。
唐突に始まったブラックオニキスのゲリラライブに会場は大盛り上がり。
あれに勝つのは相当厳しい……というか無理じゃないか?
0から始める分有利だったりするのか……いや、それでも勝てる未来が見えない。
「というわけで、俺たち優勝するから。ヤチヨちゃんコラボよろしくね」
かぐやは残念がった顔をしているけど、彩葉さんは心底見るのも嫌そうな顔でブラックオニキスのことを眺めていた。
「そういう運命ならもちろんヤチヨは従うよ~」
そういうヤチヨの顔はどこか切なそうに見えて、胸の奥がぎゅっと締め付けられるようだった。
「一緒にハッピーになってめでたししちゃお~!」
だけど、すぐさまいつも通りのテンションになって、みんなに愛想を振りまいた。
「しちゃう~」
彩葉さんはそんなヤチヨにメロメロになって瞳の中までハートマークになっちゃってるし。
そんな彩葉を見てやきもちを妬いたのか、かぐやはむくれっつらでバシャバシャと前に出て大きく口を開ける。
――あ、止めないと。
「ヤチヨーーーーー!!!」
会場中に響き渡るほどの大声でかぐやが叫び注目を集める。
「かぐやがヤチヨカップ優勝する。そんで絶対コラボライブする!彩葉を……」
そこで俺と彩葉さんの二人で取り押さえて、どうにか収拾をつける。
「さっきの約束もう忘れたの!?」
「ねぇ月夜、彩葉!一緒にやろ!」
「俺もやるの確定なんすねえ……」
俺たちが、がやがやと言い争っていると、ミニヤチヨがゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「無理無理無理!小娘が!」
FUSHIってヤチヨのマスコット的なペットだと思ってたけど、結構口悪いんだな。
「お忘れかな~ヤチヨカップの参加はライバー限定なのです」
「じゃあ、かぐやライバーになる!」
そう言って、かぐやはあっという間にログアウトしてしまう。
彩葉もてんぱりながらもヤチヨからのファンサービスを受けて、ログアウトしていった。
俺だけがぽつりと取り残されてミニヤチヨと二人きりになる。
「それじゃあ、俺もこの辺で」
「待って」
俺はミニヤチヨに両手を掴まれて、引き止められる。
「君は参加しないの?」
「……俺はもう一緒にライブしたいやついるんで分からないです。それでは」
身近で見るとヤチヨやっぱり可愛いな……あいつの影が脳裏にちらつくけど、普通に推せるかもしれない。ファンサも神ってたし。
俺たち三人がログアウトすると、そこにはミニヤチヨが一人だけぽつりと取り残されて空を仰ぐ。
「いつも来てくれてありがとう、彩葉」
目をつむって何かを思い出しながら、両手を胸に当てる。
「それと、待ってるよ月夜」
―――
目を開くと、自分の部屋の天井が広がっている。
一緒にライブしたいやつ……か。あいつはどう思ってるんだろう。
スマホを手に取ろうとすると、通知音が鳴る。
画面を開くと、やちからのメッセージが飛んできていた。
『ヤチヨのこと月夜はどう思う?』
ミニライブのことを話したから、気になったのだろうか。こいつ設定丸々似せるくらいのヤチヨファンだろうし。
『今日のライブで結構好きになったかも。今まではなんとなくで見てたから』
彩葉さんのヤチヨ熱にあてられたのもあるかもしれないけど……
『でも、俺はやちのライブを早くみたいかな。一緒にライブするんでしょ?』
『およよ~そう言ってくれるのは嬉しいけどやちはまだ身バレNGなのです~』
こう言うくらいだし、どこかしらでライバーの活動はしてるんだろうな。もしかしたら、俺の知ってるライバーの誰かかもしれない。
『俺もライバー活動に付き合うことになりそうだから、そのうち知らない間にコラボとかしてるかもね』
『月夜のベースと早く合わせたいな~。すっごく優しい音してるからやちは好きだよ~』
たまに、曲を弾いたときとかにそのデータをやちに送ったりしている。未来の歌姫の横で楽器弾くならそれ相応の実力が必要だしな~
そんな適当なことを考えていると『月夜は運命って信じる?』と唐突な質問がぶっ飛んできた。
『運命?乙女みたいなこというじゃん』
『やちもお年頃な乙女なのです~』
『8000歳が年頃ねぇってまじで女だったのかやち』
『前から歌姫って言ってるじゃん!』
言われてみれば、姫だから女性か。マジで言ってるとは思ってなかったけど。
『やちみたいなのが近くにいたら気軽で楽なんだけどな』
最近は彩葉さんとか芦花さんとか真実さんとか高嶺の花とばかり話してるせいで、楽しいんだけど疲れるっちゃ疲れる。
『もしかして口説いてるのかにゃ〜?でも、やちは8000歳のおばあちゃんなので』
『ズイブント年の差のオツキアイダナ~』
まあ、実際にやちには会ったこともないし、相手もどう思ってるか分からないしな。
でもまあ、親友であるのには変わらない。
『ま、運命ねぇ……偶然で起こったことを運命といえば運命だし。あるんじゃない?』
『なるほどね~まあ、運命には正面から向き合って生きたまえ少年よ』
なんで、質問された俺がこんなこと言われないかんのだ。
『余計なお世話』
それだけ送ってスマホの電源を落とした。
多分、明日から忙しくなりそうだし……
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