隣に住む高嶺の花な同級生が気づいたら子持ちライバーになってた 作:Tmouris_
「というわけで、ライブ告知もしたし、動画で宣伝もしたけど」
路上ライブ予定地についても人っ子一人いない。そりゃまぁ、まだファン数も数十人だし、なんとなく予想はしてたけど。
「というか、月夜くん大丈夫?なんか疲れてない?」
「あぁ、さっきまでkessenやっててさ。対戦相手がブラックオニキスだったんだよ……」
「あ、それは災難……」
同情してくれて彩葉さんは優しく肩ポンをしてくれた。
「でも、悪い事ばっかじゃなかったよ。ヤチヨと一緒に戦えたし、帝は落とせたし」
「ヤチヨと一緒に戦ったの!?何それ詳しく教えて!」
そんな話をしていると、かぐやはふくれっ面で俺と彩葉さんの間に割り込むように下から頭を出してきた。
「もう!かぐやの初ライブなんだから!そっちに集中してよ~!」
「わ、わかったから。そんなに肩を揺らすなああああ」
思いっきり肩を掴まれて、ぶんぶんと体を揺らされたせいで頭が痛くなりそうだ。
「そんで、伴奏は俺と……あれ、彩葉さんキーボードは?」
「やりません。顔出しする気もないのでギャラリーです」
そんな……まぁ、最悪俺一人でもメロディを弾くことはできるけど、ぜひとも音を厚くするためにキーボードは欲しかった。
「月夜も何とか言ってよ!彩葉説得して」
「自分で何とかしなさい」
流石に俺はそこまで強制するほど図太くないので。
「ほら、ライブの時間だよ。お客さんいなくてもこういうのはやる気が大事」
そして、俺とかぐやによる初ライブが始まった。観客は彩葉さん一人だけだけど、やるからには真面目に弾こう。
かぐやの歌は天真爛漫で元気いっぱいといった感じだ。聞いてるこっちが元気を貰えるようなそんな歌。
そんな声に惹かれたのか、ライブが終わるころには数人のお客さんが集まってて拍手を送ってくれた。
『って感じだったんだけど、やち的にはどう思う?初ライブにしては成功?』
『一からのスタートだからね〜最初はそんなものだよ。むしろお客さん集まっただけすごいすごい』
それもそうだ。お客さんが集まっただけ上々か。
『それにしても、月夜またベース上手くなったね~?』
『まっ未来の歌姫様を支えるならこのくらいできないと困るでしょ?』
『何それ口説いてる?』
よしスルーだ何も言うな俺。偉いぞ偉いぞ。深呼吸。やちの煽りに屈するな。
『それで、そっちはどうなの?ライブできるの楽しみにお待ちしてるんだけど』
『んー頑張ってるよ。だから、月夜たちもいっぱい頑張ってね~ほじゃノシ』
そっか、やちも頑張ってんだな。なら、こっちも負けてられないな。
―――
「「彩P!一緒に伴奏してください」」
「いや」
俺とかぐやが一緒に頭を下げても、有無も言わさず断られてしまった。
「顔出しが嫌ならこれ着ててもいいよ~」
かぐやが取り出したのは狐のコスチュームだった。
たしかに、これなら顔出しせずに済む。
「せっかくだから、俺もコスチューム着ようっと。目立つのはかぐやだけでいいからね~」
俺は狼のデフォルメされたコスチュームを購入して着用する。
「さ、これであとは彩Pだけだよ」
「っ!はぁ……盛り上げ役くらいなら」
「「っし!」」
彩葉さんがついに折れて、俺とかぐやは二人でガッツポーズをする。
強制はしたくないけど、本人も納得してるからね!問題なし!
二回目のライブでは前に聞いてくれた数人のお客さんが既に路上で待ってくれていた。
「んー!みんな来てくれてありがとう!」
かぐやもご機嫌にみんなと握手をしてファンサもばっちり。
結局、彩葉さんは伴奏は請け負ってくれなくて、花びらを撒いて場を盛り上げる役になってた。本人はやる気はなさそうで、適当にパラパラと撒いてる感じだけど、付き合ってくれるだけ大きな一歩と言える。
ただ、今回一番の収穫と言えるのは、ライブにあの忠犬オタ公さんが来てくれたことだろう。
公式の配信にも引っ張りだこで有名人の彼女に注目してもらえるのはかなりでかい。
しっかり、最後までいてくれたし拍手も送ってくれた。
一応、挨拶をしておこうかな。
「あの、今日は来てくれてありがとうございます」
「ん?ああ!ベース弾いてた人?」
「はい、月夜って言います」
俺はペコリと頭を下げる。
「そんな、かしこまらなくていいよ、今日はプライベートだし。ヤチヨカップ頑張ってね応援してる」
手をひらひらと振りながら体を翻して、それだけ言ってどこかに行ってしまった。
余計なことしちゃったかな?
「次の挑戦はアニメの同時視聴とか、ゲーム配信だと思うんだ」
「どうした急に」
かぐやがノートPCをカタカタといじる中、彩葉さんに次の作戦について相談する。
「かぐやって宇宙人じゃん?地球の文化というか常識?みたいなものがないからさリアクションがすげえ新鮮で面白いと思うんだ」
「……それは、たしかに」
実際に、何度か上げたゲーム配信の視聴数は悪くないし、メイン活動の一つにしても良いと思った。
「って!今は私勉強してるんだけど!?作戦会議なら後にして」
彩葉さんってノリも良ければお人よしなんだよなぁ。
狙いは上手くいって、かぐやの新鮮なぶっとんだリアクションは視聴者にぶっささってバズらせることに成功した。
切り抜き動画とか作られたり、それに反応するように歌ってみた動画とかの視聴回数も伸び始めた。
何よりもかぐやはリアル美少女なので、顔出し配信とかの反応がめちゃくちゃ良い。
ただ、これでもまだヤチヨカップで優勝を目指すには足りない気がする……なんかこう一気にファン数を増やせる作戦は――
「え?芦花と真実にコラボを頼んでくれ?」
「お願いします!二人ともファン数十万越えのインフルエンサーで、美容系とグルメならどっちもかぐやと相性いいから!」
彩葉は「うーん」と腕を組んで考えてから、何かを思い出したように口を開いた。
「コラボのお願いなら、月夜くんがすればいいんじゃないの?二人と連絡先交換したってきいたけど」
っぐ……それを知られているとは。まあ、三人とも親友でそのくらいの情報交換はしてるか。
「そのぉですね。私からすれば芦花さんも真実さんも高嶺の花といいますか。緊張するというか、頼みづらいというかぁ」
「へぇ、へ~」
それを聞いた彩葉さんは何やらご機嫌ななめのご様子。
「私にはあんな無理やりコスチューム着させたり、ライバー活動手伝わせてるのに、二人にはお願いできないんだ」
ぐうの音も出ない。
「それに関しては大変申し訳ございません……ほら、かぐやからもお願いして」
「彩葉ぁ……お願い」
出た、かぐやの上目遣い。これには彩葉さんも勝てない。
「はぁ……頼むだけだからね。コラボ内容とかは月夜とかぐやで考えるように!」
―――
「芦花さん今日はコラボありがとう」
「別にいいよ~かぐやちゃんめっちゃ可愛いし。むしろ楽しみ」
芦花さんのところの視聴者は男性層が多いし、ビジュの良いかぐやが出れば導線は完璧に引けるはず。
「彩葉は元気にしてる?」
「まあ、元気そうだよ。ずっと勉強でかぐやの無茶ぶりに付き合わされて大変ではあるだろうけど」
まあ、その無茶ぶりの中に俺のも入っているんだけど。
それにしても、化粧したかぐやはそれはもう綺麗だった。
それがどうしようもなく悔しく感じたのは内緒である。
―――
「真実さんコラボありがとうございます」
「ラーメンおごってくれるんでしょ!だったら問題なし!」
かぐやは何故かめちゃくちゃ料理を作るのが上手い。だから、真実さんつながりでもファン数を確実に稼げるはずだ。
―――
その後も、芦花さんと真実さんとのコラボは続き、ぐんぐんとかぐやはファン数を稼いでいった。
「ぐあ~!ブラックオニキス強すぎ!全然まだ足りなーい!」
かぐやはヤチヨカップの公式サイトを見ながらギャーギャーと騒いでいる。
「分かってたことではあったけど……一位は遠いな」
「そんなことより、今日は路上ライブなんでしょ?準備しなくてもいいの?」
ファン数が増えての久しぶりの路上ライブ。
最近はコラボ動画やら、配信やらでライブできてなかった。
「あのぉ……それで彩葉さんにお願いがあるんですけど」
「いや」
「まだ何も言ってないのに!?」
「どうせキーボード弾いてとか言うんでしょ」
っぐ……だけど、これ以上ライブの質を上げるなら彩葉さんの力は必要不可欠。かぐやの歌もパフォーマンスもいいけど、音の厚みを出すなら俺が低音で支えて、彩葉さんがメロディを奏でたほうがいい。
――この手は使いたくなかったんだけど。
「かぐや!やっておしまい!」
「らじゃー!」
結局、かぐやの上目遣いに彩葉さんはまたもや敗北した。
……ちょろ葉さんって言ったら怒られるだろうな。
路上ライブの告知場所に行くと、すでに数十人のお客さんが待っていて、その中にはまた忠犬オタ公さんの姿があった。
「こんなに人数いると緊張するな……」
「何言ってんの月夜!ヤチヨと一緒にコラボライブするんならこのくらい慣れておかないと!」
それもそうかと思わせるだけのポテンシャルがかぐやにはある。
カリスマ性っていうのかな、面白おかしく人を引き寄せる魅力みたいなものがかぐやにはある気がする。
それに、未来の歌姫の歌を支えるんならいい経験になるだろうな。
そんなしょうもないことを考えながら、今日も俺と彩葉さんはかぐやのライバー活動に協力する。
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