闇のカードが手元にあるが、私は平凡な人生を送りたい。 作:瑠璃色砂糖月
1話 転生先は現代TCGワールド
それは魂の共鳴。心の同調。
異界に棲む生命体、異界に実在する遺跡や土地、異界で飛び交う魔法や呪文。
それらが1枚のカードとなって、地球上に存在している。
彼らは波長の合う魂を求めている。
さあ、彼らを集めてデッキを組もう。
そして、他のプレイヤーとバトルをしよう。
響け! 私の魂!
繋げろ! 私達の情熱!
というのが、
前世では結構……いやそこそこ……いやまあまあ有名……有名、ではなかったかもしれないが、日曜日の午前4時くらいの朝アニメとか出ているくらいには人々に愛されていたカードゲームである。
ただ、今世では一部の人類だけでなく、全人類がこのTCGを愛しており、老若男女誰もがソルクラを行なっている。
なにせ人類黎明期からやり続けられているのだ。多分もうソルクラの才能が遺伝子に組み込まれているんだと思う。
……前世だとか今世だとか勝手に言っているが、私は別に頭がおかしい人ではない。
事実、私は
どうやって死んだのか、なんで転生しているのか。それについては全く分からない。唯一分かるのは前世で好きだったTCGのアニメに入ったような転生をしていることくらいだ。実際にどうなのかは知らない。だってまだ主人公とか見たことないもん。しょうがない。
「これで最後だ! 【ギガノトス】! 全てを踏み鳴らし蹂躙しろ!!」
そんなことを考えていたら、何やらラストアタックでもしていそうな掛け声と共に観客の野太い歓声が聞こえてきた。
顔を向けると、1番近いバトルコートで対戦が行なわれている。そこから聞こえてくる声だったようだ。
体長10メートルを超えた、苔むした巨大なゴーレムが広大なバトルフィールドを闊歩している。ゴーレムが立ち止まったのは、自身を見上げて震える対戦相手である。
そして、ゴーレムは視線の延長戦上にいる対戦相手に向かって腕を振り上げ、そのまま無感情に腕を振り下ろした。
「ぎゃあああああああああっ!!!」
対戦相手の悲鳴が木霊するが、それは観客席の歓声と嗤い声で掻き消えた。
対戦相手が後ろに倒れると同時に、バトルコートのホログラムも全て剥がれる。残ったのはステージに堂々と立つ筋骨隆々とした大男と、白目を剥き泡を吹く負け犬の男である。
『プレイヤーB・浸水のミカミのライフが全て破壊されました。よって、勝者はプレイヤーA・石腕のゴズ』
コートのジャッジシステムAIが勝敗を告げれば、石腕のゴズと呼ばれたプレイヤーが右腕を上げた。
それに肯定的な雄叫びをあげる観客と、ブーイングとヤジを飛ばす観客がいる。マナーが悪いと言いたくなる人が多いだろうが、私も後者と一緒になって舌打ちを打ちたい気分である。
なぜなら彼らはバトルステージで行なわれていた対戦で賭けをしていたのである。
雄叫びをあげているのはゴズに賭けていた人たちで、ブーイングを飛ばし中指を立てたりサムズアップをひっくり返したりしている人たちはミカミに賭けていた人たちである。
かくいう私もミカミに賭けてボロ負けした。手に持つ端末に目線を落とすが、バトルコインが減った状態のまま増えていない。ついため息が漏れる。
……まあ、賭けだのなんだのとやっているが、普通に非合法である。
表のカードショップでこんなことをやったら速攻で警察に連絡が行きお縄につくことになる。店も賭けをしていた客も。
でも、ここでは合法。やっても警察にチクられることはない。
ここは裏のカードショップ。もっと言えば、地下にある非合法の闇施設である。
ソルクラをするためのバトルコートの他に、あちこちに
そんな治安が悪すぎる場所に、なぜ私がこんなところにいるのか、というのも、まあ理由があるからで……。
「ヤミィちゃん、どうだった?」
「どうだった、というと?」
「賭けの結果。ゴズに賭けてた?」
「ミカミさんに賭けてました」
「あらまぁ」
まったく「あらまぁ」という顔はしていないこの人はバーの店員をしているシュナさん。もちろん偽名らしい。
彼女の言葉につられるように、私の両隣にいるガラの悪いおじさんたちも私の背中を叩いてニヤニヤしながら私を煽り始めた。
「残念だったなぁ、ヤミィちゃん!」
「ソルクラは強くても賭けは弱いんだなぁ?」
「愉悦愉悦ww」
「いやー、俺さっきは稼がせて貰えましたわぁ! オレンジジュースでも奢ってやろうかヤミィちゃんw」
「全員バトルスタンバイ。纏めて相手してやる」
「嫌でーすww」
「ボコボコにされるもぉんww」
ゲラゲラと大笑いする彼らに今度こそ舌打ちをしながら、シュナさんに「オレンジジュース」と強めに言う。彼女は「はいはぁい」という軽い調子で作業を始めた。
バー・
そこのカウンター席に私は座っていた。まだ未成年だからアルコールを飲むつもりはないが、賭けで惨敗して対戦をする気も起きなかったし、このバーの雰囲気は好きなのでここにいた。
「お待たせ、ヤミィちゃん。こちらオレンジジュースになりまぁす」
「ありがとうございます」
それと、私の名前はヤミィではない。それはこの裏カードショップで使っているプレイヤー名である。本名が知られると色々と面倒なので。
ちなみに私の本名は
名前とここでの通り名? みたいなものをもじって「ヤミィ」と名乗っている。
シュナさんからオレンジジュースを受け取ろうとしたら、ジュースが横に逃げていった。……逃げていった? 横に?
ジュースが移動した先を見れば、そこにはオレンジジュースをグビグビと喉を鳴らしながら飲む大男がいた。ジョッキに入ったビールのようにオレンジジュースを飲み干せば、音が鳴るくらいコップをカウンターに強く置いた。
バーが一気に静まり返る。
「注文は?」
「プレイヤーはいねぇのか」
大男……石腕のゴズが声を発したシュナさんに目を向けた。血走っていて、据わっている目だ。
シュナさんは穏やかな微笑みを浮かべたまま、接客を続ける。
「ここにいる人達は全員プレイヤーですよ。対戦に誘ってはいかが?」
「骨が
「はい?」
「頭の中でよぉ、粉砕したいってさぁ、囁いてるんだよ……。あの白くて硬い人間の内殻を砕いて粉にして素材にしたいってさぁ……」
「骨が
あー、これは……。かなり汚染されてるなぁ……。
脇腹を小突かれて目を向ければ、同じくカウンター席に座っている人がゴズを指差して顎をしゃくっている。
……行けって言ってる? もしかして。
私が相手を指差して、次にゴズを指差して「お前が行けば?」と目で言うが、相手は首を横にぶんぶんと振った。
いくじなしめ。
私はため息を吐いたあと、ゴズさんに顔を向けた。
「私が相手しましょうか」
「やるぞ」
声をかければ、ぎょろりと目がこちらを向く。コケた頬と目の下のクマと血走った目のせいで顔がホラーみたいに怖い。
「そこの
「いい。やる。やろう。早く、早く骨が、骨がいる」
「大丈夫かなこれ」
つい言葉が口から漏れてしまったが、ゴズさんは何も気にしていないようで、
さて、私はどのデッキを使おうかな、と考えたら、脳内が途端に騒がしくなった。
《ハイ!!! ハイハイハイハイ!!!! であればこの
《は? 俺が行くに決まってんだろ。相手殺していいんだろ? 最近殺ってねぇから溜まってんだわ。サクヤ、俺に殺らせろ》
《ギャオオオッッ! グルルルルル……!!》
《さっき嬢ちゃんを唆して大負けさせちまったからなァ……罪滅ぼしってことでおじさんが出てやってもいいよォ》
ええい頭の中で喚くな騒ぐな喧嘩すな。
ギャンギャンと吠える連中についこめかみを掌で押さえる。こんなことしても意味はないと分かってはいるんだけどね……。
「おい何してんだ。早くデッキをセットしろ」
「ん、あー……すいません、すぐにします」
ゴズさんにせっつかれたので、懐から適当にデッキケースを取り出して
頭の中で「キイイイイイエアアアアヤッターーーーーー!!!」みたいな甲高い雄叫びが木霊してきて、びっくりして肩を跳ね上げる。
……あー、あの子のデッキか。
確かに速攻で終わらせようとは思ってたから、問題ないか。
私はすぅ、と冷たい息を肺いっぱいに取り込んでから、ゴズさんの狂者の目を真正面から受け止めた。
「じゃあ、始めましょうか」
「ああ」
「「響け、
ソルクラの掛け声と共に、対戦卓が起動された。