闇のカードが手元にあるが、私は平凡な人生を送りたい。 作:瑠璃色砂糖月
あのあと、泡を吹いて気絶したゴズさんをスタッフに任せてバーに戻ると、なんか凄い囃し立てられた。
「流石“禁忌のヤミィ”様!」
「相変わらずイカれてやがる!」
「そこに痺れる! 憧れるぅ!」
「ヒュー! ヤミィ、ヒュー!」
「壁とやってろランキングNo.1!」
「よっ! Ms.ソリティア!」
「うるさいなんか奢って」
私がそう言うと、一気に静かになって、各々が酒を頼み始めた。
なんなんだ本当に。
私が元の席に戻ると、すぐにオレンジジュースが置かれた。ご丁寧にストローまで刺してある。
顔を上げると、シュナさんがニコニコしていた。
「頼んでませんけど」
「奢りだよぉ。ゴズさんどうにかしてくれたでしょお? あの人最近闇のカードに引っ張られ過ぎてておかしくなってたから、近いうちに暴力沙汰起こしそうで怖かったし」
「はあ」
気の抜けた返事しか返せなかった。
カードに引っ張られる、という感覚がいまいち分からないもので。
《それはサクヤがおかしいのヨ》
至極マトモなつもりなのだが。
というか、さっきのカードはマギカ関連? それともノワール?
《ギャウ?》
《一応アタシと同じ世界のカードみたいヨ。作った記憶はないけれド。ノワール、あんたも無いでショ》
《ギュウ……? ギャオ》
マギカ関連か。
まあ、【
エグいコアブーストをするからノワールかもしれないなと思ってたけど。
「……ん?」
オレンジジュースを飲もうと手を伸ばして、手をとめる。
コップを
「シュナさん、なにしてるんですか。カードが濡れてふやけますよ」
「え? いや、カードなんて置いてないけど」
「ええ……?」
コップを持ち上げてカードを手に取る。
裏側にはソルクラの英語がおしゃれに描かれている。
表にひっくり返してみると、【
……私、ゴズさんからバトルコインは
首をかしげていたら、頭の中で声が響いた。
《ゴズに見切りをつけて貴女についてくる気ネ》
「嘘だろきみ」
いや、使えそうなカードだからいいけどさぁ……。即断即決かよ。ゴズさんが可哀想だ。
《ちなみにこのカードを使うと寿命が削れていくわヨ》
「ああ、そう」
寿命が削れるタイプか。
他のプレイヤーなら顔を歪めるだろうが、私はそこまででもない。
もう手元にその
だから、その寿命が削れるとか、そういう、なんというか、呪い? それが本当にあるのかも怪しいというか。
精神を蝕む系の精神的にクるタイプ。
肉体を損傷させる系の物理的にクるタイプ。
寿命を削る系の人生的にクるタイプ。
など、実に様々な呪いがある。
闇のカードを持つプレイヤーが長生きできず、また社会的に禁止されている理由がこれである。……らしい。
私は闇のカードがたくさん手元にあるが、今のところ体調が悪くなったことはないし、どこかしら異常が出たこともない。ので、特に問題はない。本当に。
《それは本当にサクヤがおかしいのヨ》
《それはそう》
ゴールドまで言う?
《おじさんもどっちかってェと寿命削る系じゃん?》
それはそうなんだけど。
正直削られていってる感じがしないし、眉唾じゃないのかな、とはずっと思ってる。
《削っちゃあいるんだよ? 削っちゃあいるんだけど、それよりも
《あア……あんたはそういうところあるわよネ。ラガトとか吸えるだけ吸うタイプなのニ》
《いやね、お嬢ちゃんが長生きしてくれるとおじさん嬉しいし》
《長生きネ……。その増えてる寿命は一体どこから調達してるのかしラ?》
《それは企業秘密ってやつよ、錬獄のお嬢ちゃん。悪気はねェから見逃してくんない?》
《それはアタシじゃなくてサクヤにお願いすることネ》
ええ……そこでバトンパスしないでよ。
いやまあ、悪気がないからって何をしてもいいって訳でもないんだけどね? でも、私に何かデメリットがあるって訳でもないから、何も言わないってだけで……。
うん、まあ、私に迷惑かからない程度に好きにすればいいんじゃない?
《お嬢ちゃんのそういうとこ、おじさん好きよ?》
《うワ……》
う~~ん、素直にありがとうって言ってもいいものか。
特に反応を返さなかったが、彼は笑い声をこぼしただけでそれ以上何も声は響かなかった。自分の領域に帰ったのかな。
とりあえず、【
「全員その場を動くな!!!」
デッキケースからデッキを取り出そうとしたそのとき、カードショップの出入口から怒号が聞こえてきた。
目を向ければ、自動ドアからゾロゾロと人が入ってきている。
その先頭で仁王立ちしているスーツを着た中年男性は、何かを目の前に水戸黄門の印籠よろしく掲げていた。
「カードポリス、治安維持部隊だ!! このカードショップで行われている違法レギュレーション及び賭博行為、さらに盗品売買の容疑で、この場にいる全員に逮捕バトルを仕掛けさせて貰う!!」
男性が高らかに宣言すると同時に、彼の背後にいた治安維持部隊隊員が近くにいたプレイヤーに勝負を仕掛けて、
それを皮切りに、今まで賭けやソルクラを楽しんでいたプレイヤー達は一斉に逃げ始めた。
が、ガサ入れだぁ~~~~~……。
このタイミングで? マジ? いやダルいダルいダルい。ダルすぎ問題。
やめてよガサ入れとかさぁ。私、表で使えるカード1枚も持ってないんだから、ソルクラできなくなっちゃうじゃん。
《まア、没収されてもアタシ達は大丈夫だけド、あんたはさっさと逃げた方がいいんじゃなイ? 捕まったら終身刑とか絞首刑とか言ってなかったっケ?》
そうだったよちくしょう。
他の人は精神汚染や肉体損傷があるから、まだ被害者ってことで罪は軽くて済む。それでも刑務所行きにはなると思うけど。
ただ、私の場合は
まったくもって理解はできないけどね!!
性能がぶっ壊れているだけの禁止カードを非公式な場所で使っているだけで“死”とか“地下牢行き”とかしゃれにならん。
でもその可能性がバカ高いんだよなぁ。過去の犯罪者の中にも自分の意思で闇のカードを使っていた人はいたんだけど、そういう人達って大体地下牢で終身刑みたいな報道がされていたし……。
というわけで、禁忌のヤミィはクールに去るぜ!!
「待て!! 治安維持部隊は誰も逃さない!! 響け!
「エッまじ?」
残念。去れませんでした。ちゃんちゃん。
奇妙な浮遊感と共に、目の前が真っ白になった。
と、思ったらバトルコートに立っていた。
デジタルな円形の仮想空間。
私の立つ高台には自分の
まあ超絶簡単に言えば、バト○ピでよく見るバトル空間である。
そして、私の対面には、私をこの空間に引きずり込んだ張本人が立っている。
緑色の髪を短く切り揃えている、スーツ姿の男性。普段から体を鍛えているのか引き締まっており大変見事な体型をしていた。
目つきはキツく、私をギンと見据えている。
「カードポリス治安維持部隊隊員、
「あぁ~……禁忌のヤミィ。私が勝ったらこの場は見逃して。以上」
大体こういうときは
お互いに要望を告げて、勝てばその要望が通る。
普通に手錠でも掛けた方が漏れなく全員捕らえられるだろうに、わざわざ1人1人バトルを仕掛けて無力化するなんてどれだけ手間だろう。しかも、強い相手には逃げられるとか欠陥ではなかろうか。
まあ、TCGの世界では当たり前であり、そのおかげで今まで警察にお縄にならず逃げられてきたので、是非ともこれからも続けていってほしい。
私は偽名と要望だけ簡潔に告げて、バトルボードにデッキを置いた。
その途端、バトルボードが「ビー! ビー!」とけたたましい警告音を鳴らし始める。
『警告! 警告! 闇のカードを感知! 闇のカードを感知!』
「そうだった忘れてた……」
こめかみを押さえる。
カードポリスが使えるこのバトル空間は、もちろん
そのため、バトルボードにデッキを置き、そのデッキに違法なカードが入っていると警告音が流れる仕組みになっている。
もうこれ闇のカード使いからすれば一種のデバフだよ。ズルじゃんイカサマじゃん。デッキ内容バラされるみたいなものじゃん。それが正義の味方がやることか。
……と、何度目かも分からない愚痴をこぼしたところで、私は山札から4枚、カードを引いた。
『ビー! ビー! 警告! 警告!』
「うるさい」
ゴツン、とバトルボードに拳を叩きつける。
こういうところが嫌なんだよ。表のバトルボード。
「デッキは変えない。このまま継続で」
『ビ、ビビ……! ビ……継続確認しました。では、ボイドよりライフ並びにリザーブにコアをチャージします』
ライフの場とリザーブにコアが規定個数現れた。
「闇のカード使いですか……。何故そんなカードを使うのか、理解ができませんね」
「大した理由はありませんよ」
「何?」
御加瀬さんが眉を寄せた。
私は肩を竦めてみせた。
「これ以外のカードが使えないだけです」
『先攻が決まりました。プレイヤーB・禁忌のヤミィ、ターンを開始してください』
○十三時を告げる時計塔
・種類:グランド
・属性:黒
・コスト:5
【カードテキスト】
・【誘発】
[条件:手札にあるとき]
フィールドに存在する系統:「冥府」/「破刻」のモンスター1体を破壊することで、コストを支払わずに配置できる。
・【常時】
自分の手札にある系統:「冥府」/「破刻」を持つモンスターを召喚するとき、コストを-1する。
・【自分のターン】
系統:「冥府」/「破刻」を持つモンスターが召喚されたとき、相手は、相手の自身の墓地にあるカード3枚をゲームから除外しなければならない。墓地になければ手札から、手札がなければ山札から除外する。
・【相手のターン】
相手は、自身の墓地にあるカードと同名カードの効果を発動できず、手札から使用することもできない。
【フレーバーテキスト】
時計盤には13の数字。
今にも崩壊しそうな構造をしているその時計塔は、変わらず時を逆巻きに刻み続けている。
13時の鐘が鳴ったら注意しろ。
どこまで時が戻されるのか、冥府の住民にも分からない。
――流浪者タビト『異界見聞録』冥界の章