スーパーロボット、異世界転移してモンスターをブチのめす 改稿版 作:NNNNkynskylove
「う……?」
海斗が目を覚ました時、そこは元のコックピットだった。
沈黙した計器類、アラートもなく、静かな硬い座席は石に座っているような感触がしたが。
「生きてるのか、俺は……あんな爆発のど真ん中に、い、て?」
だが、異常に気づいのはその直後だった。
光を映さないモニターの代わりに、頭部コックピットの
どうやら自機、エックス自体はその一角に座り込むような体勢で倒れているらしいが。
あの最後の戦い――Dr.ゼロとの決戦は、洋上に浮かぶ空中要塞で繰り広げられた。
正確な座標は分からないが、単に墜落しただけなら陸地にいるのは不自然だ。
不可思議に首をひねって、呼びかける。
「どうなってんだ、こりゃ。おい、クオ。クオ!」
『――目を覚ましましたか、海斗。お互いに無事でなによりですね』
「そうらしいな。それで、これはどういう状況なんだ? 確か俺たちは、Dr.ゼロのジジイと相討ちになりかけて――」
『そう、その直後です。あの爆発と光に呑まれてから約一時間分、私のログが消失していまして。当機体、エックスのそれも同様に』
「気を失ってたってのか? 機械のお前が、俺と同じように」
『そうなりますね』
クオの冷静な電子音声に、海斗はさらに混乱を深める。
なにせあれだけの衝撃と爆発だったのだ、AIがダウンするのもあり得ない話ではないが、生き残った上でというのが引っ掛かる。
海斗も自身の身体に手を当てて確かめてみるが、怪我らしい怪我のひとつも負っていない。
爆発した空中要塞から投げ出され、たまたまどこか大きめの島に不時着した……説明がつかないでもないが、それはどの程度の確率の幸運、あるいは不運なのだろう。
海斗自身が生きていることも含めるなら、果たして、どれだけの。
まあ、とはいえ。
「うだうだ考えてたって仕方ねえな。クオ、エックスを頼めるか?」
『構いませんが……どうするつもりで?』
「周囲を探索してくる。救助を待つなら待つで、サバイバルの準備が必要だろうしな」
『一理ありますが。しかし海斗、どうにもこの森は不自然です。うまくは言えないのですが……』
「煮え切らないな。AIだろ、はっきり言えよ」
この状況でこれ以上、おかしいもなにもなさそうだが。
とはいえ相棒の忠告だ、続きを聞く。
『いえ。やはりここは、あなた自身の目で確かめてもらうのがいいでしょう。海斗の野生の勘、あるいは野蛮じみた肌感覚は、私よりも鋭く本質を突くことがある』
「馬鹿にしてんのか、このポンコツ」
『ともかく警戒すべきです。いざという時は、すぐに私とエックスを
「……気には留めとくよ。行ってくる」
操縦席の端のレバーを引くと、バシュッと遮蔽が開いた。
機体の頭部から外へ出て、肩から腕へ軽く飛び移り、そのまま滑り降りて手のひらから地面に着地する。
森の地面は湿って柔らかく、衝撃は膝のバネで十分帳消しにできた。
そうして歩き出して――
クオの言った違和感にはほどなく気づいた。
「……まったく見たことない植物だな。それに、空気の匂いも違う」
どこがどう、とはっきりとは言えないが、風の中にどこかピリつくような感触がある。
あえて表現するなら、温度だろうか。
肌に刺さるような張り詰めた熱。
平時の木々の
首元のバッジを意識する――
クオとの通信機も兼ねるそれに、いつでも呼びかけられるようにしておいたほうがいいだろう。
向こうが勝手に聞き耳を立てているかもしれないが。
そんな時だった。
「――――!」
「……なんだ?」
機体を降りて歩き出してから三十分ほど。
森の境が見えてきたところで、その向こうから騒がしい気配が伝わってきた。
叫びと気勢、悲鳴と、金属音。
そして、草木の空気に血の臭いが混じり始める。
嫌な話だが、慣れた空気だった。
戦いの空気。
海斗の背筋に自然と緊張が走る。
だが、無視するわけにもいかなかった。
巻き込まれるリスクもあるが、それ以上に"助けを求める悲鳴"の声が気にかかったのだ。
そうなれば迷う余地はなく、足元の茂みをかき分けて駆け出す。
森の出口へ向けて。
そして。
「――ファイヤーストーム!」
目に飛び込んできたのは、奇怪な化け物と争う人間の一団だった。
いや、奇妙なのは人間側も同じだ。
仰々しい騎士鎧に身を包んだ男たちの姿は、海斗から見れば時代錯誤もはなはだしい。
そして、先の詠唱らしき声も同様だ。
叫びに呼応して、騎士らしき男の構えた杖の先端から炎の渦が巻き起こる。
「ギャアアアアーっ!」
それに呑まれた怪物が一瞬で火だるまになり、怒号めいた絶叫を上げて絶命する。
その見た目はトカゲに似ている――
だが、だとしたら二メートル近いその巨体と、背中に生えた小さな翼のような器官はなんだ?
ちらりと見えた口の中、喉の奥までびっしりと生えた、棘のような牙の並びは?
そしてそもそも、トカゲはあんな声を上げて叫んだりしない。
そんな光景があちこちで繰り広げられている。
炎だけでなく、鎌鼬のような風、鋭い氷の刃が舞い飛ぶこともある。
そして逆に、トカゲの化け物に食いつかれて押し倒される騎士(?)の姿も。
「なんだ、こりゃあ……」
あまりの光景に海斗は目を瞠る。
いきなり見知らぬ土地に不時着したかと思えば、見たこともない異形の化け物と、なにか魔法?じみた技を操る騎士たちが戦っている。
ロボット同士が激突する日常も大概異常だった自覚はあるが、だからこそ余計に混乱した。
自分がエックスを駆って世界を守る一方で、世界のどこかではこんな戦いも繰り広げられていたのか……?
だが、いつまでも固まってはいられなかった。
こちらに気づいた大トカゲの一匹が、文字通り牙を剥いて海斗に襲い掛かってきたのだ。
「ギギュアアア!」
「…………っ!」
けたたましい叫びに身がすくみかけるが、それより先に長年の戦闘勘が反応した。
パイロットスーツの腰元に納めた鞘から、短刀のようなナイフを抜き放つ。
その材質はエックスの装甲と同じ、
飛び掛かる大トカゲの動きにカウンターで対応し、抜き打ちにしたナイフの刃で、その横腹を深々と斬り裂いた。
もんどり打って倒れるトカゲの化け物。
しかし、一息つく間もなく。
「きゃああああ!」
「姫様っ!」
聞こえてきたのは女の悲鳴。
海斗も反射的にそちらに振り返ると、トカゲの化け物の一匹が岩陰に隠れていた少女に襲い掛かろうとしていた。
騎士たちは距離が遠すぎる。
一番近いのは海斗だが、それでも駆け寄るには遠い。
迷っている時間はなかった。
ここがどこで、この人々が誰であろうとも。
「させるか!」
懐から取り出したのは、銃だった。
ただし、鉛玉を撃ち出す火薬式のものではなく、これもエックスの技術を応用した科学銃。
"クイックシューター"という名前の光線銃からほとばしった稲妻のような高熱の光が、大トカゲの巨体を貫いて弾けさせた。
巨体の真ん中に空洞めいた大穴が開き、飛び上がっていた宙から死骸がぼとりと落下する。
しゅううう、と焼け焦げた音を立てて、鼻につくオゾン臭があたりに立ち込めた。
間一髪、間に合ったが……
周囲の騎士たちの視線が大トカゲの死体、そして、自分に集まるのが嫌でも分かる。
海斗は顔をしかめてうめいた。
「だから嫌なんだよ、これ使うの。めちゃくちゃ悪目立ちするから」
「かかれ! 魔物たちは残り少ないぞ!」
とりあえず、こちらに害意がないのは察してくれたらしい。
指揮官らしき騎士の男の号令で、残った化け物トカゲたちの掃討が始まった。
加勢するまでもないと見て取って、海斗は先に助けた少女のほうへ駆け寄った。
とりあえず、お互いに事情を知らず連携も取れない騎士たちよりは、こちらの守りに回ったほうが良さそうだという判断もある。
腰を抜かしたように座り込んでいる少女に、海斗は声をかけた。
「あんた、大丈夫か? いきなりで驚いたかもしれないが、咄嗟のことだったんだ。返り血とか飛んでるけど、勘弁してくれよ」
「あ……す、す」
「す?」
ぱくぱくと口を動かす少女に――さっきは姫様と呼ばれていたか――海斗は怪訝な顔をする。
驚いてはいるが、その表情が怯えのそれでないことにふと気づいて。
少女が、がばーっ! と立ち上がった。
勢いよく、さっきの悲鳴はなんだったのかと思うほど元気よく。
そして叫んだ。
「すっっっごいじゃないか! なんだい、なんだい、その変な筒みたいなのは! 魔法を撃ち出すアイテム? いや、でも、こんな馬鹿みたいな威力は見たことない!」
「……は、はあ?」
「誰が作ったんだい? 君か? 君なのか? そのアイテムの名前は? 他にはどんな機能がある!? ほらケチケチしないで教えてくれたまえよ、ここで会ったのもなにかの縁じゃないかっ!」
なんなんだ、この女は?
率直に言えば、海斗が少女に抱いた最初の感想はそんなもので。
――後に知ることになるが、その少女の名前はレムリア。
レムリアン・シード・ヒューペリオーン。
この
海斗を新たな戦いへと