スーパーロボット、異世界転移してモンスターをブチのめす 改稿版 作:NNNNkynskylove
ほどなく、残っていた魔物とやらはすべて片付いたらしい。
大時代な騎士鎧に身を包んだ一団が集まると、その人数はおおよそ三十人ほどだと分かった。
細かく数えたわけではないが、ともかくかなりの人数だ。
観察していて気づいたが、騎士たちの装備は杖の他、剣や槍を携えている者も半数ほどいた。
さしずめ、前衛と後衛といったところだろう。
いまだにさっきの、魔法としか思えない攻撃法についてはなにも分からないが、それは向こうにとっても同じだというのも理解できた。
……それは好きこのんでなどではなく、身をもってと言うべきか。
「ほうほうなるほど、機械科学というのか。それは私たちの扱う魔法文明とはまったく違うということかい? いやいや実に興味深い、ここが馬車でなければ小躍りしているところだ! 破壊力も凄かったけど、あの異様な臭いが発生する仕組みといい、私の知らないとんでもない技術の塊じゃあないか!」
まあつまり、馬車なのだった。
ガタゴト震動する居心地の悪い揺りかごで、海斗はさっきから"姫様"の質問攻めに遭っていた。
とはいえ、知っての通りと言うべきか、機械というのは仕組みを知らなくても"こうすればこう動く"という代物である。
海斗自身もさっき使ったクイックシューターの構造も、仕組みも、まして造り方なんて知るはずないのだ。
答えようがない質問ほど疲れるものはない。
何度そう言っても伝わらないとなれば、なおさらだ。
「うんうん、で、それで、それでだね君ィ」
「うっ」
キラリ、と瞳を輝かせた少女の表情に、海斗は顔を引きつらせた。
半ば恐怖とともに。
「それで、君はいったいこのクイックシューターなる道具をどこで手に入れたんだい? これは誰にでも使えるのかい? たとえば私にでも? あっちの彼でも? それとも街の子どもにでも? だとすれば魔法とはいよいよ違うなあ、魔道具の類は最低限それを起動するための触媒魔力が必要になる、複雑な造りの上位魔道具ほどその傾向は強まるからさっきみたいな威力の、それも効果範囲を絞った爆発なんて常人にはとても扱えない。扱えないんだよ、分かるかい? でも君からはそんなすごい魔力は感じられないし、クイックシューターにも魔力反応はない、いや本当になんなんだこれは素晴らしいなんてものじゃないぞすっっっごいなあー!」
「うがー! うるっさいなもう、俺はこいつのことはなにも分からないって言ってるだろー!」
とうとう耐えきれなくなって、海斗は叫んで座席をばしっと叩いた。
ずいずい迫ってきていた少女をそれで押し返して、続ける。
「ついてきてくれって言うから同行したら、やることがこの詰問か!? 恩に着せるつもりはないけど、一応命の恩人だぞ、俺! こっちだって聞きたいことは山積みなのに――」
「姫様が行き過ぎているのは事実だが、
「あん?」
口を挟んできたのは、同じ四頭立ての馬車に乗っている騎士だった。
同乗しているのは彼ひとりだけで、つまりこの場にいるのは御者をのぞけば合計三人だ。
その男は、さっき見た騎士たちと比べても一際目立つ装飾の鎧を着ていて、おそらくかなり立場が上の者なのだと察せられる。
しかつめらしい顔をしたその若い騎士は続けた。
「このお方を誰と心得る。ハイペリオン王国の第二王女にして、偉大なる勇者の剣"グランタイズ"の担い手、そして姫都市エクセルシオールの領主でもあるレムリア様だぞ。本来なら貴公のような、素性の知れない男を近づかせるなどあってはならないことだ」
「そんないっぺんに言われても分かんねえよ! それに、は、はいぺ……? 悪い、それはどこの地域のどういう国なんだ? 地理には詳しいほうじゃないし、ちょっと聞いたことがなくて……」
「なんだと? 貴公、本当にどこの田舎から出てきたのだ? 大国だと言っただろう、ハイペリオン王国の名を知らぬ者など普通はいるはずがない。魔王軍と戦う最前線の、いわば、この世に生きる者すべてが恩義ある由緒正しき聖王国だというのに――」
「まあまあ、マンフレート君。そこはこの馬車に招いた私の顔を立てると思って、細かいことはいいじゃないか。それより君、クイックシューターを私に預けてくれないかな? なあに悪いようにはしないよ、ただちょっと構造を調べたいから軽く
「なりません、レムリア様! あのような得体の知れない危険な代物、軽々に扱って御身になにかあってはお父上に顔向けが」
「あー……ええと、分かった。一回落ち着こう、ほんと。話を整理しないと進みそうにない」
懇願するような心地だったが、言うと、どうやらタイミングと幸運が味方して同意を得られたらしい。
海斗は改めて口を開いた。
「こういう時は5W1Hで、順番に行こう。まず自己紹介からだ。俺の名前は鉄海斗。そっちは?」
「レムリアン・シード・ヒューペリオーン。レムリアでいいよ」
「私はマンフレート・キリルだ。だが、レムリア様のことは――」
「様付けで呼べっていうんだろ。気が向いたらな。次だ。今は"いつ"だ?」
窓から外を見れば、太陽の位置から昼下がりの頃合いだというのは分かる。
だが、聞いているのはそういうことではなく。
「? 剣友歴のことか? それなら今は458年だが……」
「……俺の知ってる西暦だと、今は20XX年なんだけどな?」
「西暦……?」
このあたりで、まさか、もしかしてという疑念は生まれつつあった。
しかしあまりに信じ難いことに、早々に結論を出すのは避けたかった。
「次だな。お互いの目的……なんでここにいるのか、だ。俺は、Dr.ゼロとのデカい戦いが終わったところで、迷子になって人を探してた。あんたたちに見つけてもらったのは幸運だったよ」
「私たちは、魔王軍の動向を探っていた前線の砦、その慰問に出ていたところだね。私が治めている都市への帰路で、あの魔物の群れに襲われたんだ。君の言う、どくたー?っていうのが誰なのか分からないけど、私たちの戦いとは無関係なのかな? 同じ場所で遭遇したのは単なる偶然?」
「生憎だけど、魔王軍ってやつに心当たりがないからな」
「だろうね。こっちもだよ」
答えるレムリアも、同じようなことを考えているのだろう。
嫌になりつつ、それでも仕方なく続ける。
「なにをする……は、お互いなんとなく分かるな。俺たちには別々の敵がいて、俺はその決着をつけたところ。あんたたちは戦ってる最中だ」
「じゃあ次だね。なんのために? 私たちは侵略にさらされていて、その脅威には立ち向かわないとならない。魔王軍は世界を滅ぼそうとしているから、私たちはそれを防ぐために全力を尽くしている」
「最後に"どうやって"――俺の戦い方は、まあ、大雑把に言えばさっき見せた"機械技術を使って"だ。あんたたちは?」
「さっき見た通りだ。剣と魔法、そして知恵と勇気をもって、巨悪を討つ」
「私は主にその知恵担当だね」
マンフレートの厳かな言い方に、レムリアが茶目っ気を添える。
そうして情報が出揃ったところで――
海斗はため息をついた。
重く、つらく、深々と。
「なるほどな……」
「なるほどだね」
嘆息の後を引き継いだのは、レムリアだった。
こちらの気を知ってか知らずか、あくまで彼女らしい軽い調子で言ってくる。
「海斗、君はこの"アル・アハド"という世界への、招かれざる客なんだね」
「マジかよ……」
異世界転移。
それはつまり、蛮堂博士や仲間たちのもとへ帰るあてがなくなったということだった。
海斗の暗澹たる気持ちとは裏腹に、道行きは順調だった。
馬車隊がどれくらい進んだか、どれくらいの間揺られていたか。
慣れない乗り物にそろそろ背中と尻が痛くなってきた頃に、景色が変わり始めた。
最初は森、次は拓けた戦場で、平野を進んできて、ようやく人工物が見えてきた。
といっても、海斗にとって見慣れたコンクリートや鉄のビル群ではなく、レンガと木組みの街並みが徐々に近づいてくる。
確か、姫都市のエクセルシオールと言っていたか。
名前のイメージほどの大都市ではなさそうだが、それでも立派な砦をいくつも備えた、円状に広がる街である。
緩やかな坂を降りる途中、その整った街並みを馬車の窓から見下ろす海斗に、レムリアが言ってきた。
「自慢じゃないけど、なかなかのものだろう? 王都ほどの規模じゃあないにしても、それでもこの国では要所と呼ばれる都市なんだ」
「自慢していいだろ。素直に大したもんだと思うし。ていうか、本当は自慢で言ってるんだろう、それ」
「ふっふーん。まあね」
逸らすように胸を張って、レムリア。
癖は強いが、意外と素直な性格なのかもしれない。
そうこうしているうちに馬車隊は門を通り、街の中へと進んだ。
舗装された道路に入って揺れも小さくなる。
アル・アハドなる世界の街の様子を見て、やはり海斗は複雑な気分になった。
機械や科学の痕跡がない――牧歌的な、悪く言えば原始的な――人々の暮らしぶりは、現代世界ではいよいよあり得ない光景である。
途上国という雰囲気ですらない。
だが、代わりに目に留まる要素もあった。
さっきの戦いでも目にした、いわゆる魔法の力である。
街角で遊んでいた子どもは、手のひらからぽんぽんと小さな火の粉を飛ばし、それを相手の子が水の盾で防いだりしている。
洗濯をしている女性たちは、桶に入れた服や布をどこからともなく湧いてあふれる泡を操って汚れを落とし、乾かす係なのだろうもう何人かは風を起こして(たぶん、ごく弱い熱風で)干し物をそよがせていた。
こちらの視線を見て取って、レムリアが言ってきた。
「生活魔法が珍しいかい? この世界では大抵誰でも、なんとなくで扱えるものなんだけどね」
「聞いたこともないな。なんなら、想像だってしたことがない」
「いよいよもって興味深いなあ。科学の力というのもそうだけど、世界を飛び越えるっていうのがまたなんともだ。端的に言って、わけ分からない」
「まさに今の俺の心境だよ」
なにもかもわけが分からない。
そう言うしかなくなった頃に馬車は兵舎に到着したようだった。
騎士たちが下馬し、馬を馬房に、馬車を隣の収納所に移動させ始める。
レムリアとマンフレートが降りたので、海斗もそれに従った。
マンフレートが言う。
「姫様はいつも通り、ここから歩いて帰るので?」
「うん。さっき見た科学の武器っていうのについて、歩きながら考えたい。いつも屋敷にこもりきりだし」
「分かりました。では、護衛の者を――」
「今日はいいんだ。最強に頼りになる付き人がいる」
「は?」
軽く言うレムリアに、マンフレートはぽかんを口を開ける。
レムリアが海斗の肩を二度叩いた。
「彼を私の屋敷に招待する。散らかってるけど、まあ一部屋くらいまともなところもあるよね」
「なっ……なりません、レムリア様! まだこの者が信用できると決まったわけではないのですよ!? それを、いきなりお屋敷に招き入れるなど」
慌てるマンフレートだが、海斗自身も同じ心地だった。
いきなり過ぎる話だし、いや、確かにこの後の成り行きについて相談はしていなかったが、まさか勝手に処遇を決められているとは思わない。
「俺が言うのもなんだが、マンフレートの言う通りだろ。レムリア、俺が怪しいとは思わないのか? たとえば魔王軍のスパイだとか、危ない可能性はいくらでも……」
「あの"力が掟"だとか言って憚らないゲヘナ軍が、間諜なんて使うわけないよ。それが困っているところでもある。単純に武力と兵力で負けてしまうと、力押しで来られるのが一番厄介なんだ」
「そういうことでもなくて、お年頃の男女が、同じ屋根の下はまずいんじゃないか、とか、とか……」
「? ごめん、よく聞き取れなかった。もうちょっと大きな声で言ってくれたまえよ」
「いや、だから」
「論外です! 許可できません、ご自重くださいレムリア様!」
「――あの。レムリア様」
言い合っている時だった。
不意に後ろからかけられた声に、三人して振り返った。
若い女性だった。
海斗より年上だが、三十まで行かないくらいの年齢だろう。
どこか気まずそうにたたずんで、それでいて焦っているように落ち着いていない。
女性が続けた。
「
「……奥方。ステフェン騎士は」
代わって進み出ようとするマンフレートを、レムリアが手で制した。
女性に向き直り、すっと表情を引き締めて告げた。
「――騎法騎士、ステフェン・カルカッドは亡くなった。魔物との戦闘で勇敢に戦い、三匹を仕留めて。私も彼に救われた」
「そんなっ……!」
「残念ですが。しかし、私たちは彼を誇りに思い、決して忘れません――ご遺体は収容してあります。しかる後の手続きを経てから、あなたの元へ彼を帰します」
「…………」
そこで海斗は直感した。
おそらく、遺体の損壊はかなり激しく、今のこの女性には見せられない状態なのだろう。
あの大トカゲの巨体と爪、異様に発達した牙の形状を思い出す。
泣き崩れかける女性を、レムリアが進み出て支えた。
彼女の涙を胸で受け止め、その背に優しく触れる。
「我々は剣友を決して、決して忘れはしません。願わくば、あなたも彼を誇ってほしい。子の世代のためにも」
「知っているのですか。一騎士に過ぎない夫に、一粒種の息子がいたことを」
驚いて顔を上げる女性に、レムリアはうなずいた。
そして続ける。
「慰めすら言えない私をどうか許してほしい。ステフェンに生かされたこの命。世界の未来のために使わせてください」
「はい……はい」
レムリアからそっと離れ、一礼して背を向ける女性。
歩み去るその後ろ姿を見つめて、マンフレートが言った。
「決して珍しいことではない。珍しい光景ではない……だが、慣れない。慣れてはいけないのだ」
「……そうだな。その通りだ」
心から同意して、海斗はうなずいた。
思い出したのは元の世界での戦いの日々。
いくつも幾度も流された涙を受け止めて、自分もまた戦い続けてきた。
「楽して手に入る平和がないのはどこの世界も同じか」
冷めた声とは裏腹に、海斗は、自分の心のどこかに火がつくのを感じた。