スーパーロボット、異世界転移してモンスターをブチのめす 改稿版 作:NNNNkynskylove
「これが魔王軍の"侵略ゲート"の全貌か……さすがにデカいな」
飛行するフライヤーから大地の亀裂を見下ろして、海斗はつぶやいた。
たとえるなら、それは閉じた門に似ていた。
森の木々を薙ぎ倒しながら開き、それから周囲の土を巻き込んでまた閉ざされた、そんなかぎ裂きの傷跡に見える。
規模は直径30mほど。
それはまさしく、あの巨竜ナグルファルが通り抜けられるくらいの大きさだ。
『レムリアの話だと、あの魔物たちもここを通って街を襲いに来たらしいですね。確かに、あれだけの数が野生に存在するとは考えにくいし、退散の際にもここを通って本拠地に戻ったらしいです』
「デタラメな話だよな。幹部は三体いるらしいが、あとの二匹もどんな怪物なのやら」
『その上に君臨する魔王もですね』
紅蓮の獅子王ゲヘナ、そして、その配下の三獣士なる巨獣たち。
クオに言われて想像してしまい、その脅威を思って頭を抱えたくなる。
ゲートは今は鎮静化している。
というのも、レムリアが封印したからだ――海斗もその現場に立ち会ったが、激しい戦闘の翌日だったのもあって、あの時はじっくり観察する余裕はなかった。
今は改めて調査したいというクオの要望のために、フライヤーで空中からゲートを見下ろしている。
レムリアが身に宿した"グランタイズ"なる剣には、ゲートを封じるための力が備わっているらしい。
あの時、魔物の群れが姫都市エクセルシオールに現れた際に神剣が反応して顕現したのも、そのもの"門"に対する"鍵"としての機能だったとか。
海斗は嘆息した。
「なんともファンタジーな話だよなあ。剣と魔法、勇者に魔王、中世ヨーロッパな街並みと暮らし。あれから一ヶ月経つけど、いまだにピンと来ないぜ」
『麻痺していますよ、海斗。そもそも我々がいた世界だってトンデモワンダーなのは変わりません。巨大ロボットが毎週のようにプロレスしてたんですよ?』
「まあそうなんだけど。いやクオ、お前もその一体の"Q"のロボだったんだろうが。どの口で言いやがる」
『あいにくと今はAIなので、口はないですね』
「そういうのを減らず口っていうんだよ……それで?」
仕切り直して、海斗は問いかけた。
「お前が調べたかったことは分かったか? 確か、俺たちの異世界転移と侵略ゲートの関係……だったか」
『おおよそは。エックスの転移座標と眼下のゲートの残存反応に、0.01秒の因果関係を検出しました。わずかな量に聞こえるでしょうが、我々の転移とこのゲートの巨大さには確定的な関連があります』
「Dr.ゼロのジジイの最後っ屁か。そういや、次元の壁を壊すだの言ってたな。腐っても天才科学者ってことか」
『自分の機体ではなく、私たちを転移させたのが目論見通りなのかは分かりませんが』
成功か失敗か、いずれにしろ迷惑な話だ。
海斗はもう一度ため息をついて、フライヤーを回頭させた。
転進して街のほうへ戻る。
街までは5キロほど、巡航速度でもものの数分だ。
帰路の途中、こんなことを話した。
「――関連があるなら、あのゲートは俺たちが帰る手がかりになるか?」
『不可能でしょうね。影響は単なる余波で、我々は直接門をくぐってきたわけではないし、次元転移のエネルギーも調達できません。それこそ、26個すべての∞チップか、その代替を用意しなければ』
「だよな。まあどっちみち、レムリアたちを放って帰るわけにもいかない。世界平和のために一肌二肌脱ぐかな」
「おかえり、海斗。ゲートの調査は――まあ、残念だったようだね」
街外れに着陸させたフライヤーから降りると、レムリアが待っていた。
こちらの表情から首尾を察したのだろう。
素直に残念そうに言ってくる彼女に、海斗は首を振って答えた。
「そんなにあてにしてたわけでもないさ。どっちみち、戦いに関わるなら状況は見て知っておいたほうがいい。侵略ゲートってのはいつもあんな感じで開くのか?」
「そう滅多なことじゃない。エクセルシオール近郊でなら、年に一度あるかないか。ただし、あんな規模で門が開いたことは、私が知る限りではなかったことだよ」
「それについては、俺たちが原因の可能性が高いらしい。謝って済むことじゃないけど……」
「よしてくれ。海斗も巻き込まれた側なんだろう? それに、私たちを守って魔王軍とも戦ってくれたんじゃないか」
そう言ってもらえるのはありがたいが。
と、レムリアに促された。
「それよりも。エックスというあのゴーレム……いや、機体だっけ? 修理がようやく形になってきたんだ、見に来ておくれよ」
「本当か?」
見るからに浮かれ足になるレムリアについて歩き出す。
道すがら、クオとレムリアが話し始めた。
『エックスには∞チップによる半永久動力と自動修復機能があるとはいえ、失った装甲材までは補給できませんからね。この世界に代替となり得る物質が存在していたのは望外の幸運でした』
「魔導銀――ミスリルだね。通常は騎士たちの武器に用いる、魔力伝導率が高い特別な銀なんだ。魔物たちの外皮は硬く強靭で、貫くためには強力な武器が必要になる。幸いというべきか、私の姫都市エクセルシオールはその採掘と加工を生業にしている街だったからね」
『希少品の提供には感謝しています。エックスはあれだけの巨体ですから、修理に必要な量も相当だったでしょう』
「街を救ってくれた英雄を傷だらけのままにしておくほうが忍びないよ。まあ、そんな心情は別にしても、クオと海斗には必要なものなんだろう? 便宜を図ると言った手前もあるし、お互い様で気にしないでくれたまえよ」
『それというのも、なにぶん海斗の戦い方は荒っぽいもので。苦労をおかけします……
ぺちん、と首元の通信バッジを指で叩いて、余計なことを言う
そんなやりとりにくすくす笑って、レムリアが言ってきた。
「実際、クオにも助けられているよ。崩れた外壁の組み上げを均等にするのでなく、狙われやすい箇所に集中させることで資材を節約するやり方。
「見ない間にそんなことやってたのか、お前」
『やるからには勝て。蛮堂博士のありがたい教えのひとつでしょう? 海斗がやると決めた以上、使えるものは最大限活用しますよ』
「ああ、じゃんじゃん使ってくれたまえよ。マンフレート君が喜び勇んで取り掛かってくれてる。騎士の本分って言ってね」
本当に随分と馴染んだことだ。
というか、レムリアたちの柔軟性と順応力が高いというべきなのか。
そんなことを言い合っているうちに目的地についた。
エックスの整備場、臨時格納庫として借り受けている、街一番の大きさの倉庫だ。
高さが足りなかったので増築して、やや不格好になっているが、まさか巨大ロボットを野ざらしで整備するわけにはいかない。
それなりに広大な空間は、これも増設された
そこでは今も修理工たちが忙しく動き回り、資材を運んだり工具を振るう音が響いていた。
そして、果たしてその中心にたたずむ、修理が進められている愛機の姿は。
「……言っちゃあれだが、少し不格好だな」
元のエックスの装甲は黒を基調としたものだったが、
それがドラゴンとの戦闘で破損した箇所にほとんどそのままあてがわれているため、なんだか不器用な
もっと遠慮なく言うなら、全身に泥水でも引っかけられたみたいな有様だ。
「後で塗装して誤魔化すけど、今はこれが精一杯だねえ。元の材質に比べれば強度も落ちてしまうのは否めない。というより、原型の造りが異常な完成度だったと言う他ないよ」
「悔しいけど、Dr.ゼロのクソジジイは天才だったからな……蛮堂の
『とはいえ、悪いことばかりでもないですよ』
クオが割り込んで、元の話を引き継いだ。
『レムリアたちに外装部を任せられたおかげで、私は内部系統の修復に専念できました。装甲材の変更による機体バランスを考慮しても、稼働率は80%をキープできます。なまじの相手に後れは取りませんよ』
「だといいけどな……いや。厄介事がないならそれが一番いい、って言うべきだな」
「なーにを甘っちょろいこと言ってやがる、このガキがこの馬鹿野郎! 魔王軍なんざ残らず殲滅してやる、ぐらい言いやがれってんだ、馬鹿野郎この野郎!」
格納庫に大きく響いた声に、海斗はうげっと声を出した。
大股でこちらに歩み寄ってくる大柄な人影。
いかにも偉そうで居丈高な――というより、単に口が悪くて声がデカいだけなのだが。
とはいえ、それなりに立場のある人間なのは間違ってもいない。
この整備場を仕切っている、年季の入ったシワ深い顔立ちに白髪の初老男性。
レムリアが声をかけた。
「バルデル親方。どうだい、エックスの修理の調子は? 急な頼みで申し訳なかったけど、専門外のミスリルの加工となるとお宅にしか頼めなくてねえ」
「どうもこうもねえやなあ、お姫さん! やれって言われりゃ一も二もないが、こいつは厄介極まりねえ大仕事よ。中身に触らねえようにガワだけ繕う、言葉にすりゃあそれだけだが、こいつぁあっちもこっちも内と外が複雑に絡み合ってやがる! いちいち見分けがつかねえもんで、例のけったいな"えぇあいさん"のお伺いを立てなきゃならねえ!」
『ご苦労をおかけします、親方。なにぶんブラックボックスの塊な機体なもので、下手に手を出すと私でも修復は困難になりますので』
「おうよ、なに言ってるかさっぱり分からんわ! とにかく俺らにできるのは、外側を叩いて直すことだけなのよなあ。王国一番のミスリル工がまったく情けないったらなぁ、ちくしょうめ!」
「うるせぇー……」
こっそり片手で耳を押さえて、海斗は小声でうめいた。
幸いというか、親方――バルデル・ハンマーには聞き咎められなかったが。
代わりにレムリアが苦笑した。
「そう苦い顔をしないでおくれよ、海斗。悪い人じゃないんだ。ただ昔気質で癖の強い人でね」
「分かってるよ。分かってるから苦手なんだ、こういうタイプは」
「あぁん!?
「あーもー。そんなデカい声出さなくても聞こえてるって」
迫力というより、ただただやかましさに辟易して、海斗はきもち身を引きながら答えた。
工場に響く音にも負けない声量に、不本意な周囲の視線が集まってしまうのが分かる。
だからこの手の人物は苦手なんだ――と思った次の瞬間だった。
バギャっ!
と、バルデルの声より大きく、鈍い音が響いた。
そしてバルデルが白目をむいて前のめりに倒れる。
やや遅れて、ガランと床に一振りの工具が落ちた。
真後ろから投げつけられたそれが、バルデルの後頭部を直撃した……のはすぐに分かったが。
誰がそれをしでかしたのかといえば。
「おじい、うるさい。お客人が嫌がってるでしょ」
ずかずかと大きな歩幅で現れたのは、十歳ほどの少女だった。
結んだ短い髪と大きな瞳が可愛らしいが、どこか無機質な印象があるのは、飾り気のない作業服のせいもあるだろう。
分厚い手袋をした手で、先ほど投げたのとは別の工具をぱしぱしとやっている。
……実は初めて見る光景ではないのだが、それでもぽかんとしてしまう海斗の隣で、レムリアが平然と声をかけた。
「やあトール。調子よさそうだね」
「はい、レムリア様。うちのおじいが失礼をしてしまい、申し訳ありませんです」
「粗相ってことはないんだけどね。君のツッコミは相変わらず激しいねえ」
「厳しくしないと分かりませんから、おじいは。レムリア様は寛容ですから気にしていないみたいですけど、敬語は大事です、はい」
「う、うう……トール、オメーよう……」
倒れ伏してびくびく痙攣していたバルデルが、よろよろと身を起こす。
震えながら立ち上がって、自分を張り倒した少女に振り返ると。
「トールぅー! オメーはほんっとうに可愛いなぁ、今日も世界一だ! 今でこんななら将来はどうなっちまうんだ、女神様みてーなべっぴんがこの地上に生まれちまうぜオメー!」
「うっさい、おじい。そんなことより早くお客人に謝って」
「うごぶぅっ!」
抱きつく勢いで迫ったトールから、腹に工具の一撃を受けて、バルデルが鈍い悲鳴を上げる。
が、半ばうずくまりつつもトールに手を伸ばそうとするあたり、まったく堪えた様子がない。
なんと言うべきか迷いつつ、海斗は口を開いた。
「ええと……あのな、トール。俺も気にしちゃいないから、そのへんにしとけな? お祖父ちゃんを、というか、人間を工具で殴っちゃ駄目だから」
「平気ですお客人。おじいはやたらに頑丈なので」
「り、理由になってるかなあ、それ。とにかく駄目だ。それは没収」
「ちぇー」
言いつつ、素直に凶器をこちらに手渡してくる。
トール・ハンマーはバルデル・ハンマーの孫娘だ。
この歳でもう鍛冶の腕を仕込まれているとかで、こうしてエックスの修理場にも出入りが許されている。
なのである、が――祖父とは違った意味で癖が強いので、いまだに海斗は慣れないところでもあった。
いや、それは祖父のほうの豹変ぶりも大概なのだが。
「おぉトール、トールトールトールよーう」
今もあっさり回復した様子で、バルデルはトールに抱きついてぐねぐねしている。
工具を取り上げられたトールは為す術がないようで、半眼になってされるがままになっていた。
どんな顔をしていいのか分からない海斗を余所に、首元の通信機からクオが言ってきた。
『愉快な方々ですよね。退屈を覚悟していたのですが、私も毎日張り合いがあって楽しい限りです』
「俺は急速に不安が増してるが……本当に大丈夫なのかなあ、こいつらにエックスを任せてて」
「いっそう苦々しい顔をしないでおくれよ、海斗。これでも街で一番の鍛冶屋なのは間違いないんだ。いや本当。本当の本当だよ?」
フォローするレムリアの声も余所にして、バルデルの野太い猫撫で声がしばし、格納倉庫に響いていた。