スーパーロボット、異世界転移してモンスターをブチのめす 改稿版 作:NNNNkynskylove
「おおーっ、これが空からの眺めかー! フライヤーっていうのはすごいねえ、風魔法でもこんな高空には易々と昇れやしないよ!」
「……いいのかなあ、こんなことにこいつを使って」
はしゃぐレムリアとは反対に、海斗はため息をついた。
まあつまり、エックスの頭部ユニット、フライヤーでふたり空を飛んでいるわけだが。
遮蔽越しに自分の街を見下ろして、感嘆の声を上げているレムリア――と、それを膝に乗せるような格好で、操縦に集中している海斗。
一人乗りのシートに座席の余裕はないので、正直かなり窮屈ではある。
それを気にした風もなく、「あれが私の屋敷、あそこがエックスの倉庫で、とするとあの屋根が親方たちの家かな」などと、レムリアは空の眺めを楽しんでいる。
クオが言ってきた。
『いいのではないでしょうか? レムリアには大変に世話になっていますし、頼みのひとつくらい聞くのが男の甲斐性でしょう。今さらエックスに隠すような秘密があるでもなし』
「そうではあるが、私用でこいつを使うってのが変な感覚なんだよ。元の世界での戦いではそんな暇はろくになかった」
『街の見回りを兼ねてのことです。治安維持は立派な仕事だと思いましょう』
「屁理屈で説得されてる感が否めないなー」
「海斗! 次はあっちへ行こう、右だよ右!」
「へいへい」
お姫様の指差す通りに操縦桿を動かすと、傾く機影にレムリアはうひゃーっと楽しげな声を上げる。
まるでジェットコースターで遊ぶ女子高生だが、フライヤーの本来の馬力は絶叫マシンとは段違いである。
今は巡航速度からもだいぶ出力は落としているが。
まあ、とはいっても。
「年相応ではあるんだよな……こっちのほうが」
「ん? なにか言ったかい、海斗?」
「いや。せっかくだ、もう少し速度を上げるか」
「いいねえ! じゃんじゃんばりばり景気よく頼むよ、海斗!」
その言葉に苦笑しつつ、レバーとフットペダルでギアを一段上げる。
さらに加速して機械式エンジン音を響かせるフライヤーに、レムリアの歓声が重なった。
(……に、しても)
と、海斗は思った。
(さすがに距離が近すぎる……と、思うんだが。いや、全然ドギマギとかはしてねえよ? してないからな? とはいえ、こう密着してると、気にしないほうが無理がある、というか)
誰に言い訳しているのか分からないが。
具体的には尻やら髪やら二の腕やら、服の布越しに身体に当たり前に触れてくるので、落ち着かない。
年相応というのはそういう方面も発達しているということで、そこは海斗も同様だ。
一方で、別に感じることもあった。
(……この華奢な身体で戦ってるんだよな、レムリアは。剣も振るえないのにって自嘲しながら)
前線に立つのは無理でも、後方の天幕として。
魔王軍の脅威に対して一歩も引かず、王国と、自分の街、そして人々の安寧を守ってきた。
誰にでもできることではない。
そこに思い至れば、邪な気持ちは自然と退いていった。
消えるわけではないにせよ、少なくとも表に出そうとは到底思えない。
それは理性というよりは、純粋な敬意からのものだった。
なのだが。
「それにつけても、こうしてくっ付いているとなんだかドキドキするねえ。海斗はよく平気な顔でいられるものだ」
「んなあっ!?」
突然振り返ってそんなことを言い出すレムリアに、海斗は噴き出しかけた。
というのも、この距離で振り向かれると、顔同士も間近で向き合うことになるからで。
思わずフライヤーの操作も誤りかける。
がくんっ、と揺れた機影に、レムリアが文句をつける。
「おっとと。おいおい、気をつけておくれよー。ただでさえ狭いんだから、いきなり揺れると危ないじゃあないか?」
「いきなりはお前だ、この馬鹿姫! こっちはなんとか意識しないようにしてるってのに、いけしゃあしゃあと変なこと言い出しやがって!」
「そうなのかい? てっきりこういうのは慣れてるのかと」
「慣れてても駄目だろ、この距離は! なんかズレてるやつだとは前から思ってたが、さては天然物だなお前!? 年頃の男女がこんな密着して平気なわけねえだろ!」
「それは乗り込む前に言っておくれよー。こんな上空で言われたんじゃ拒めないじゃないか?」
「膝に座った瞬間に気づけ! 引き受けた俺が馬鹿だった、あーあー!」
そんな感じでわちゃわちゃしてしまう。
なのだが――さらに。
「くんくん、すーすー……」
「ちょっ、嗅ぐなーっ! なにやってんだ馬鹿、お前この、レムリアぁ!」
「いやいや、全然臭くないよ? むしろいい匂いだと思うね、といっても、うちのお風呂と石鹸を使っているから似たような匂いのはずだけど。なんでかなあ、戦う男の匂いって感じで、とても好意的に思えるのが不思議だね?」
「言ってる場合かっ、やめ、やめろっての! ゲノハラだこれ!」
『……やれやれ。なんですか、このおばかなラブコメノリは』
AIのくせに、やたら器用に呆れるクオの声が、にわかに騒々しくなった操縦席に小さく響いた。
「ったく、すげー疲れた……」
「いやいや悪かったよ海斗。機嫌直しておくれよー」
「そうですお客人。レムリア様に限って、悪気があるわけがないので」
若干げんなりしながら歩く海斗に、レムリアと、それとトールが続けて言ってきた。
整備場にフライヤーを戻して、今は三人連れ立って街を歩いている。
その整備場からトールが合流し、レムリアを先頭にして、煉瓦敷きの街路をとことこ進んでいた。
肩越しに振り返ったまま、レムリアが言ってきた。
「お詫びに塩牛の串焼きを奢ってあげたろう? うちの街の名物なんだ、美味しかったはずだよね?」
「確かにそうなんだが、ご機嫌取りに食べ物はズルいだろ。というか、ちょっと納得行ってないんだよな。なんかこの世界、食べ物が全部めちゃくちゃに美味いんだが」
「またそれかい? 屋敷で食べる料理も、いつもおかわりするもんね、海斗は」
「健啖家なのは感心です、はい。健康はまず食事からですお客人」
トールがうんうんとうなずいている。
ちなみに、そのトールはレムリアに手を繋がれていた。
最初は畏れ多いと言って距離を置こうとしていたのだが、引き下がる様子がないので今は諦めて従っていた。
そうして並んで歩いていると、歳の離れた姉妹みたいである。
レムリアが首をひねりながら言った。
「アル・アハドの祀る至高神ハイペリオンは、豊穣神の側面も持つからねえ。伝説ではかつて魔王ゲヘナを封印したのち、アル・アハドの大地に還ったハイペリオンは、その加護を今なお世界中の人々とその糧に遺しているとか」
「ちょくちょく話に出てくるな、そのハイペリオンって神様は。そのゲヘナが復活して暴れてるってのに、至高神様は今なにをやってんだと思わなくもないが」
「全能の救いを求めるなかれ。自らを助く者こそ、全能の加護を得る資格者である――なんて、聖典には書かれているけどね」
「よく分からん」
「そうだね。言ってはなんだけど、私も本心から信じてはいないよ」
それは現実に魔王軍の脅威と対峙してきた、レムリアのリアリストの一面だろう。
そこそこに話を打ち切って、海斗は改めて訊ねた。
「それで、今度はどこに向かってるんだ? トールが一緒ってことは、こいつ絡みの用事か?」
「そうだよ。言ってなかったっけ? 仕事の気晴らしを兼ねて、トールの服を見繕いに行くんだ」
「え? そうなんですか?」
問い返したのは、当のトール本人だった。
レムリアはにんまり笑って、告げた。
「言ってなかったねえ。ごめんごめん、気が急くあまりに」
「あのなあ……いや、お前はそういうところあるけどさ。トールにも確認取ってないのはまずいだろ。バルデル親方がすっげえ寂しそうな顔してたの、今さらながら哀れになってきたぞ」
「私は仕事が一段落したところだったので構いませんが。でも、やっぱり事前に一言添えてほしかったところです、はい」
「そうだね。はっはっは」
笑って誤魔化すレムリアに、トールとふたり嘆息する。
振り回されて苦労するのは彼女も初めてではないようだ。
そうこうしている間に服屋にたどり着いた。
慣れた様子で入店するレムリアに、店員の女性が一礼する。
「今さらなんですが、レムリア様。私は大抵工場にこもっているので、作業服があれば事足りる身なのですが。もういくらか育つ予定だからすぐ着れなくなってしまいますし」
「女の子が今からそんなでは駄目だよ。まったく、バルデル親方には困ったものだね。ご両親の代わりとはいえ、仕事の術ばかり教えるんじゃ片手落ちもいいところだよ」
おずおず言い出すトールに、レムリアはそう言って返す。
ふと気になって海斗は訊ねた。
「両親の代わりって、じゃあ、トールの親は」
「はいです、私が物心つく前にふたりとも亡くなってます。魔王軍の侵攻に巻き込まれて」
「……悪い。無神経な言い方だったな」
「お気になさらず。おじいがいるし、工場のみんなもいるので、寂しさを感じる暇もないのです。おかげさまで、たまに鬱陶しくなるくらい可愛がられていますので」
気にした様子もなく、トールはあっさり答えた。
レムリアが続ける。
「でもって、私もいるってわけだ。さあトール! 気合を入れておめかししてもらうよっ、代金は屋敷にツケておくからなんでも好きなのを選びなさい!」
「動きやすいのがいいです。あと地味なの」
「メアリーさん! この子をとびっきり可愛くしてあげておくれ!」
「承知しました。レムリア様」
「聞いてください?」
有無も言えずに店員にずるずる引きずられながら、トールが虚しい声と眼差しを残して広い店の奥へ消える。
あっという間の出来事で、海斗は半ば置き去り状態だ。
そうしてしばし。
「不本意です……」
そう言いながら戻ってきたトールは、あの作業服から装いを一変させていた。
上下揃いのツーピース、淡いグリーンが瞳の色と合っていて、上品な可愛らしさだ。
馬子にも衣装、というと身も蓋もないが、もともとトールは表情こそ大人しいものの健康に育った少女である。
着飾れば映えるのは当然の流れと言える。
感心する海斗の隣で、レムリアもうんうんとうなずいていた。
「可憐だねえ。目の保養だよ」
「不本意です。繰り返します、不本意です。こんな格好、おじいに見られたらなんて言われるか」
「鼻血噴いて倒れるんじゃねえかな、あのおっさんなら」
その光景が目に浮かぶようだ。
苦笑する海斗に、くるんとトールが振り向いてくる。
ちょっと上目遣いになりながら、訊ねてきたのはこんなことだ。
「似合うと思います? お客人」
「ん? ああ、よく似合ってるぞ。可愛い可愛い」
「そうですかね……うん。お客人がそうまで言ってくれるなら、この
「そこまで言わんでも」
どんだけ嫌だったんだ、と思うが、それでトールは機嫌を直したらしい。
とてとてと建物の奥へ向かってさっきの店員に話しかけている。
様子からすると購入を決めたようだ。
なんだかんだ言いながら、実際にお洒落をするのは楽しいものなのだろう。
ちゃんと女の子らしい一面もあるんだな、と海斗が感慨めいたものを覚えていると。
「じー……」
レムリアが半眼になってこちらを見ていた。
若干、心なしか、わずかだけ咎めるような響きを込めて、言ってくる。
「海斗はさ、好きなんだ? ああいう可愛らしいのが」
「? そりゃまあ、お世辞抜きにもいいもんだと思ったけど。なにか変か?」
「十歳の女の子の着飾った姿に魅力を感じるんだね?」
「なんか作為的なものを感じるぞ、その言葉の切り抜きは」
「ふぅむ。そうだねえ、そういうことなら」
言いながら、レムリアは店の中を歩き出した。
さすがにこの後の展開は予想できたので、海斗はその場で待った。
手持ち無沙汰もなんなので手近な服を眺めたりするのだが、生憎と値段くらいしか分からない。
ぱっと見回した感じ、自分向きの服がある店でもない。
そうしてしばし。
「ばんばばーん! どうだい海斗っ、似合うかな!?」
ぱたぱたと小走りに戻ってきたレムリアが、くるんと回って着替えた服を見せびらかしてきた。
「――――」
桃白ボーダー二色のブラウスに、黒いプリーツスカートと、頭には大きめのベレー帽を乗せている。
普段のツナギ風ドレスとは随分印象が違っていた。
どことなく、元の世界の女学生っぽくも見える。
豪勢に着飾っているわけではないし、なんなら元の服のほうが値は張るだろう。
しかし、当たり前だが服の価値はそういうものではない。
大事なのは、誰が、どう着こなすかだ。
それを改めて再確認するくらいには、今のレムリアの姿は。
「? 海斗?」
「あ、ああ、悪い。その、魅力的で、見惚れてた」
「そうだろう、そうだろうとも、可愛いに決まってるよね! ……って、うええ?」
「え? あ……!」
うっかり口を滑らせた。
あまりにも直球な物言いに、さしものレムリアも顔を真っ赤にする。
もっとも、それは海斗のほうも人のことを言えない。
かーっと頭に熱が昇るのを自覚して、半ばパニックめいた状態に陥る。
頬が熱い、なんてものじゃなく、全身が熱暴走したみたいにあたふたしてしまう。
レムリアがずずいと迫ってきながら、叫ぶように言ってきた。
「か、海斗っ! 今、ものすごく変なことを言わなかったかい!? なんだか顔が熱くなって、色々と、こう……止まらないんだけれど!」
「そこで俺に振るか!? 聞かれたから答えただけだし、その、つまり率直な感想というか……! だからっ、理不尽なんじゃねえかなあ!?」
「そうなんだけれども! でも、トールに言ったのとは随分違うじゃないか! 私は私で、なんでこんなに反応が違うんだ! なんだろうか、これは、すごい動悸がするけれど……! どう思うかなあ、トール!」
「……さあ。どうなんでしょうね」
なぜか異様に冷めた目でこちらふたりを見やりながら、トールが胡乱に返事する。
嘆息に混じって「まあ、レムリア様も意外とポンだから」という小声が聞こえてきたりもしたが。
――静かなのにどこか騒々しい時間は、そうやって過ぎていった。
そうして帰路。
元の服に着替えたレムリアとトールと一緒に、海斗は昼下がりの街を歩いていた。
服一式は後でそれぞれの家に届けてくれるとのことで、三人とも手ぶらだ。
大した荷物でもなさそうだが、ちょっとした仕立て直しなどがあると言われれば、それもそうかと納得した。
ぐーっと両腕を伸ばしながら、前を歩くレムリアが言った。
「いやー、すったもんだあったけれど、やっぱり楽しかったねえ。こういう時間をもっと作れればいいんだけど、領主としての仕事もあるし、なかなかね。今日は付き合ってくれてありがとう、ふたりとも」
「こちらこそです。と、言うしかない次第です。レムリア様に服を買ってもらうなんて、恥ずかしながら私もはしゃいでしまったです」
「言われてるぞ、レムリア。子どもに気を遣わせるなよな」
「はっはっは。すまないねえ!」
ちっともすまなそうでなく笑う。
と、ふと声のトーンを戻して、レムリアが言った。
「……いや。実際、私は普段、領主や勇者としての振る舞いばかり求められてしまうからね。今日、こんな風になにも気にせず遊べたのは、海斗のおかげだよ」
「俺の?」
「そうとも。三獣士の一角を打ち倒すなんて、当たり前だけど誰にでもできることじゃない。今のこの街の平和は間違いなく海斗がもたらしてくれたものだ」
「そんな大層なもんじゃないけどな。まあ、褒め言葉は素直に受け取っとくか。ありがとうよ」
「ふふふ」
他愛ないそんなやりとり。
そこに、脇からトールが一言、言ってきた。
「レムリア様の場合、それだけじゃなさそうですけどね」
「ん? トール、なにか言ったかい?」
「いえ、これ以上言うと不敬になってしまうので。もしくは不潔になってしまうので」
「? よく分からないけども。それってどういう――」
「……待て。止まれ、ふたりとも」
会話を遮って、海斗は振り返った。
話の内容は関係ない。
ただ、感じた違和感を根拠なく信じて、腰に差していたナイフを抜いて身構えた。
レムリアとトールに向けてではなく、なにもない明後日の方向に向けて。
街中で突然刃物を抜いた海斗の姿に、周囲の人々の視線が集まるが、それも気に留めず。
根拠がない、というのも実は違うが。
自慢ではないが、この手の予感が外れたことは元の世界にいた頃から一度もなかった。
「海斗?」
困惑して問いかけてくるレムリアを余所に、油断なく視線を尖らせる。
そうしてしばし。
「――気配は殺していたんじゃがな。こんな若造に見破られるとは、ワシも随分と衰えたものよ」
「!?」
視線の先で、地面の一点が不自然に揺らいだ。
煉瓦が水面のように波打ち、盛り上がる。
まるで
「魔物っ!?」
「きゃあああ!」
民衆にどよめきと、悲鳴が広がった。
レムリアが背後で身構えるのも気配で分かる。
それは一見、長いヒゲを生やした亀に似ていた。
二本の脚で立ち、曲がった杖を地面に突いて、シワだらけの顔に
なにより、そのいでたちから放たれる禍々しい気配と殺気は、とても尋常のものとは言えなかった。
周囲の様子を気にした風もなく、歯のない口をぱかりと開き、老亀が続けた。
「ナグルファルの小僧がやられたと聞いたが、なるほど、キサマがその戦士というなら納得じゃわい。今代の勇者は名ばかりの腑抜けじゃが、その並々ならぬ闘気、若かりし頃のゲヘナ様を思わせる。ニンゲンにもおるのじゃな、キサマのような
「ぺらぺらとよく回る口だな、カメ公。無駄口ついでに名乗ったらどうだよ。ブチのめされる前にな」
「ホ! こりゃ一本取られたわい、戦の前口上を忘れるとは、ワシも耄碌したものじゃな!」
驚きに次いで喜色を浮かべ、魔物が居住まいを正した。
「魔王軍、三獣士が一矢、アクパーラ――
「三獣士だって!? そんな馬鹿な、この短期間に二度も! グランタイズも反応しなかったのに……!」
レムリアが声を上げる。
海斗はあくまで冷静に、レムリアとトールを背後に庇いながら、言葉を返した。
「もう失敗してんだろうが。暗殺がバレた時点で」
「どうじゃろうな? 見た目がジジイだからとて侮られては困るぞ。そこの小娘も言ったが、神剣の探知をすり抜けられたなら、侵略ゲートの残骸を使った隠形は十分だったと言える――」
「そうかよ」
言葉の途中で、海斗はナイフとは逆の手でクイックシューターを抜いた。
即座に構えて引き金を引く。
群衆が逃げて射線が確保できる隙をうかがっていたのだ。
輝く弾道が、吸い込まれるようにアクパーラに突き進み――
「おおっと」
だが、光線は直前で防がれた。
地面からぶわりと浮き上がった煉瓦の塊、それが幾重の防壁となって仙亀の前に立ち塞がり、光熱波の破壊を遮ったのだ。
爆散する煉瓦片と破壊音に、周囲の人々がいよいよ悲鳴を上げて逃げ出した。
ぱらぱらと降りしきる粉塵が晴れると、そこには不動のままのアクパーラが立っていた。
さらに、仙亀が杖の先端でカンっと地面を打ちつけると。
「お返しじゃい」
「っ!」
さっきと同じように、街路を舗装する幾枚もの煉瓦が浮き上がり、アクパーラの周囲を旋回してから一斉にこちらへ飛んできた。
海斗はレムリアとトールを抱きかかえて、真横へと飛んだ。
直前までいた場所に無数の煉瓦の雨が降り注ぎ、鈍い破砕音が雪崩のごとく街に轟く。
「レムリア! トールを連れて隠れてろ!」
「っ、海斗! 君はどうするんだ!?」
「決まってんだろ――!」
答えの途中で、海斗は駆け出した。
仙亀、アクパーラへ向けて、一直線に。
構えたナイフで、切りつける!
「こいつをブッチめるんだよ!」
「ホ! ほざいたな、若造!」
ナイフの一閃は、掲げられた杖で受け止められた。
さらにアクパーラが力を込めると、見た目からは信じられない剛力で海斗は弾き返される。
どうにかバランスを取って着地するが、その時にはアクパーラは次の行動へ移っていた。
「このまま打ち合うのも楽しかろうが、せっかくの久しぶりの
ずずずぉぉっ、とあたりの地面が、大地がアクパーラへと吸い寄せられていく。
街の煉瓦のみならず、周囲の家屋が崩れ、地面の土が巻き上げられて、巨大な質量となって渦を巻いた。
「こいつは……! まずいぞ。クオ!」
『
胸元の通信機に呼びかけると、即座に返事が来た。
海斗はすぐさま手にしたナイフを空へ掲げ、叫んだ。
「サモン・コール!」
声に応えて、天へ架かった虹色の橋から、巨大な機体が瞬時に飛来する。
分離した頭部ユニットが遮蔽を開くのももどかしく、海斗は操縦席へ飛び乗った。
舞い上がったフライヤーで、上空から見下ろす――
アクパーラが吸い込んだ煉瓦と土は、際限などないかのように膨れ上がり続け、街を呑み込んでいく。
だが、やがてそれはひとつの形を成していった。
歪に盛り上がった太い手足を備えた、奇妙な岩塊へと。
「クロス・オンっ!」
ガギィン、と本体に接続したフライヤーが稲妻の眼差しを光らせ、エックスが
そして対峙する。
アクパーラが形作った、街の一角の成れの果てへと。
「ゴーレム、ってやつか……岩石の巨兵」
【そういうことじゃ。それでキサマは、その鉄の巨人でナグルファルを倒したわけじゃな?】
いつかの黒竜の時と同じように、脳内に直接響く邪声。
その声は紛れもなく、あのアクパーラのものだった。
睨み合う――鉄と岩の巨人、その二体が。
ゴーレムのサイズはちょうど、エックスと同等ほどだ。
穴が空いただけの虚ろな眼差し。
あちこちに街の残骸を貼りつけたままのちぐはぐな造形は、しかしどこまでも冒涜的で許し難い異形さだった。
(よくもレムリアの街を……!)
知らず、操縦桿を握る手に力がこもる。
戦意が高まる。
それを決意の形へと落とし込むように、海斗は叫んだ。
「あのカメ公はここで倒す――やるぞ、クオ! 意地と道理で推して参る!」
鉄の拳をレバー越しに握り締めて。
――こうして、第二の戦端は突然に開かれた。