ポケットモンスターAGE 英雄のいない物語 作:natsuki
翌朝、目を覚ましたユウリが最初に目にしたのは、枕元に座り込んでこちらの顔を覗き込んでいるサルノリだった。
「……近い」
「サル」
「いつからそこにいたの?」
「サル?」
尋ねても当然ながら答えは返ってこず、サルノリは首を傾げたあと、もう起きたのなら用は済んだとでも言いたげにベッドから飛び降りると、床へ置いてあったユウリの帽子を拾い上げた。どうやら昨日から帽子そのものが気になっているらしく、頭へ被ろうとして大きすぎる帽子の中へ顔ごと埋まり、そのまま前が見えなくなって壁へぶつかる。
「だから、それはサルノリには大きいって」
帽子を取り上げて自分の頭へ戻すと、サルノリは少し不満そうに頬を膨らませたものの、すぐに窓辺へ駆け寄って外を眺め始めた。
昨日までなら、起きて着替えて朝食を食べ、その日の予定がなければ家でのんびり過ごすだけだった。ところが今日は違う。窓の向こうに広がっているのは昨日までと何も変わらないハロンタウンの景色なのに、その中でホップとメッソンが待っているのだと思うだけで、胸の奥に落ち着かないものが生まれてくる。
緊張しているのだろうか。
それとも楽しみにしているのだろうか。
自分でもよく分からないまま朝食を済ませ、家を出る頃には、サルノリの方が待ちきれないとばかりに先を走っていた。
「そんなに急がなくても、ホップは逃げないよ」
「サル!」
「メッソンと戦いたいの?」
名前を聞いた途端、サルノリは足を止めて振り返ると、頭の枝を抜いて勢いよく掲げた。
「……そこはもう分かるようになってきたかも」
昨日出会ったばかりなのに、少なくともやる気を示すときの仕草だけは覚えたらしい。そんな小さな発見を面白く感じながら歩いていると、ホップの家の前にはすでに本人とメッソン、そして腕を組んだダンデが待っていた。
「遅いぞ、ユウリ!」
「約束の時間、決めてなかったよね?」
「バトルの日は早く来るもんだろ!」
「そんな決まりあるの?」
「今作った!」
「勝手だなあ」
いつも通りのやり取りを交わしながら庭へ入ると、メッソンがホップの足元から顔を覗かせた。昨日よりは少し慣れたようだが、それでもサルノリと目が合った途端、わずかに身体を引いてしまう。
一方のサルノリはというと、相手が自分を警戒していることなど気にも留めず、嬉しそうに枝を振っていた。
「二人とも準備はいいみたいだな!」
ダンデが二人の間へ立つ。
「昨日も言ったが、バトルはただ相手を倒せばいいってものじゃない。自分のポケモンが何をできるのか、何が苦手なのか、ちゃんと見てやるんだ。それがトレーナーの仕事だからな」
「分かってるって、兄貴!」
「ホップは返事だけはいいからなあ」
「返事だけってなんだよ!」
兄弟のやり取りを聞きながら、ユウリはサルノリを見る。
何ができるのか。
昨日の夜から考えてはいたものの、結局答えは出なかった。
サルノリが草タイプのポケモンであることくらいは知っているし、頭に挿している枝を使うことも知っている。けれど、どんな技を覚えているのか、どれくらい速く動けるのか、どの程度の攻撃なら耐えられるのか、実際に戦ったことがない以上は何も分からない。
ならば、今日知ればいい。
そう考えると、昨日感じていた不安が少しだけ軽くなった。
「それじゃあ、始めるぞ!」
ダンデが片腕を上げる。
ユウリとホップが距離を取り、その間へサルノリとメッソンが進み出た。
「メッソン! 俺たちの初勝利だ!」
「メ、メソ!」
「サルノリ!」
「サル!」
「……うん。私たちも頑張ろう」
サルノリが振り返り、短く鳴く。
それだけで不思議と落ち着いた。
「バトル、スタート!」
「先手必勝だ! メッソン、はたく!」
ダンデの声が響くと同時にホップが指示を出し、メッソンが地面を蹴った。
「えっ、速――サルノリ、避けて!」
ユウリが慌てて声を上げる。
サルノリは横へ跳んだが、一瞬遅かった。メッソンの尻尾が身体を掠め、サルノリが地面を転がる。
「サルッ!」
「サルノリ!」
「よし、入った!」
ホップが拳を握る。
ユウリは思わずサルノリへ駆け寄りそうになったが、サルノリはすぐに起き上がると身体についた土を払い、まだやれると示すように枝を構えた。
大丈夫。
痛そうではあるけれど、動けないほどではない。
まず相手を見る。
ダンデに言われたことを思い出し、ユウリはメッソンへ視線を向けた。
「もう一回だ、メッソン!」
再びメッソンが走り出す。
同じ攻撃。
今度は分かっている。
「サルノリ、右!」
声に反応してサルノリが跳ぶ。
今度はメッソンの尻尾が空を切った。
「そのまま、はたく!」
「サル!」
すれ違いざまにサルノリが腕を振り、メッソンの身体へ攻撃を当てる。
「メソッ!」
メッソンが転がった。
「やった!」
思わず声が出た。
ほんの一度、攻撃を当てただけだ。
それなのに、テレビでどれほど派手なバトルを見たときよりも胸が高鳴った。
自分の言葉を聞いて、サルノリが動いた。
そして、それが上手くいった。
「まだまだ! メッソン、立てるよな!」
「メソ!」
メッソンも立ち上がる。
先ほどまで怯えていた目つきが、ほんの少し変わっていた。
「みずでっぽう!」
メッソンが大きく息を吸い込み、水を勢いよく吐き出した。
「避けて!」
サルノリが横へ走る。
水流がその後を追うように地面を濡らしていくが、サルノリは身体が小さいこともあって素早く方向を変え、どうにか直撃を避け続ける。
けれど、逃げているだけでは勝てない。
ユウリは周囲を見る。
庭。
芝生。
ところどころに石があり、昨日サルノリが枝で叩いていたものも残っている。
そこで、昨日見た光景を思い出した。
「サルノリ! あの石!」
「サル?」
「枝で叩いて!」
一瞬だけ戸惑ったようだったが、サルノリはすぐにユウリの視線の先へ顔を向け、走る方向を変えると庭の端に転がっていた石へ近づいた。
「何する気だ?」
ホップが訝しむ。
「メッソン、そのままみずでっぽう!」
「メソ!」
メッソンが狙いを定め、再び水を吐き出す。サルノリは迫ってくる水流をぎりぎりまで引きつけると、頭から抜いた枝を石へ思い切り打ちつけた。
乾いた甲高い音が庭に響く。
「メソッ!?」
突然の音に驚いたメッソンの身体が跳ね、みずでっぽうの軌道が大きく逸れた。水流がサルノリの脇を通り過ぎて芝生を濡らし、その瞬間にはもう、サルノリは石の前から飛び出している。
「今! 近づいて!」
「サル!」
ユウリが指示を出したときには、サルノリも同じことを考えていたらしい。小さな身体を低くしてメッソンとの距離を一気に詰めていく姿を見て、ユウリは一瞬だけ驚いたものの、すぐに次の指示を出した。
「はたく!」
振り抜かれた腕がメッソンの身体を捉え、先ほどよりもはっきりとした手応えとともに小さな身体が芝生の上を転がっていく。
「メッソン!」
ホップが叫ぶ。
「メ、ソ……!」
メッソンはすぐには立ち上がれなかったが、それでも前脚を地面につき、震える身体を懸命に持ち上げた。
「まだいけるか?」
「メソ!」
弱々しくはあったものの、メッソンは確かに応えた。
「よし! だったらここからだ!」
ホップの声を聞いて、メッソンもサルノリへ向き直る。
ユウリは思わず息を呑んだ。
もう決まったと思っていた。
けれど、まだ終わっていない。
サルノリの方も最初の攻撃を受けているうえ、みずでっぽうを避けるために何度も走り回っている。肩を上下させる呼吸はバトルが始まったときより明らかに速くなっており、ここで焦って攻めれば、今度はこちらが隙を見せるかもしれない。
「サルノリ、いったん止まって」
「サル?」
「大丈夫。慌てなくていいから」
追撃しようとしていたサルノリが足を止める。
ユウリ自身にも、次にどうすればいいのか明確な答えがあったわけではない。ただ、せっかくこちらが有利になったのに、急いで決めようとして失敗するのは違う気がした。
「メッソン、みずでっぽうだ!」
先に動いたのはホップだった。
メッソンが息を吸い込む。
しかし、先ほどまでとは違う。
疲れているせいなのか、息を吸ってから水を吐き出すまでに、ほんのわずかな間がある。
それを見た瞬間、ユウリの中で考えるより先に言葉が出た。
「サルノリ、横に走って!」
「サル!」
みずでっぽうが放たれると同時に、サルノリが駆け出す。
メッソンも顔を動かして狙いを追おうとするが、最初のような勢いはなく、水流が芝生の上を追いかけるだけでなかなかサルノリを捉えられない。
「追え、メッソン!」
「メソ……!」
メッソンが懸命に首を巡らせる。
その動きを見ながら、ユウリは気づいた。
サルノリはただ逃げているのではない。
少しずつ円を描くように走り、メッソンの横へ回り込もうとしている。
自分がそこまで指示したわけではない。
それでもサルノリは、最初にメッソンの攻撃を避けたときのことを覚えているのだ。
「そのまま!」
ユウリは余計な指示を加えなかった。
今はサルノリが何をしようとしているのか分かる。
だったら、それを邪魔しない方がいい。
やがてメッソンの水が途切れた。
「メソッ……!」
息を切らし、メッソンが一瞬だけ俯く。
そのときにはサルノリが側面へ回り込んでいた。
「サルノリ!」
名前を呼ぶ。
それだけでサルノリが振り返った。
目が合ったのは一瞬だった。
けれど、それで十分だった。
「いこう!」
「サルッ!」
サルノリが地面を蹴った。
「メッソン、避けろ!」
ホップもすぐに反応する。
メッソンは迫ってくるサルノリを見て横へ跳ぼうとしたが、先ほどまでのみずでっぽうで体力を使ったためか、動きがわずかに遅れる。
「はたく!」
サルノリの腕が振り抜かれる。
メッソンも最後の力を振り絞るように尻尾を振り、二匹の攻撃がほとんど同時に交差した。
「サルッ!」
「メソッ!」
サルノリがよろめく。
メッソンも後ろへ弾かれ、芝生の上を転がった。
「サルノリ!」
「メッソン!」
二人の声が重なる。
先に動いたのはサルノリだった。
片膝をつくように身体を低くしたものの、枝を地面へ突いて踏ん張り、ゆっくりと立ち上がる。
一方のメッソンも起きようとしていた。
「メ……ソ……」
前脚をつき、一度は身体を持ち上げる。
「頑張れ、メッソン!」
ホップの声に応えるように顔を上げたものの、次の瞬間には脚から力が抜け、メッソンは再び芝生へ伏せた。
それでもホップはすぐに次の指示を出そうとはせず、メッソンの様子をじっと見ていた。
ダンデも同じだった。
ほんの数秒の沈黙のあと、メッソンがもう立ち上がれないことを確かめてから、ダンデが片腕を上げる。
「そこまで! メッソン、戦闘不能!」
その声が庭へ響いた。
「勝者、ユウリとサルノリ!」
ユウリはすぐには反応できなかった。
サルノリもその場に立ったまま、呼吸を整えている。
終わった。
今度こそ、本当に。
「……勝った?」
「サル……」
サルノリがこちらを振り返る。
疲れているはずなのに、その顔にはどこか誇らしげなものが浮かんでいた。
「サル!」
次の瞬間、サルノリが駆け出した。
「え、ちょっと――」
飛び込んできた小さな身体を受け止めきれず、ユウリはそのまま芝生へ尻餅をついた。
「痛っ……もう、サルノリ!」
「サルサル!」
「……そっか」
叱ろうとして、やめた。
初めてのバトルで、初めての勝利だった。
自分一人では勝てなかったし、サルノリ一匹でも同じだったのかもしれない。途中からは、自分が指示を出してサルノリが従っていたのか、サルノリが考えていることを自分が読み取っていただけなのか、それすらよく分からなかった。
それでも最後には、二人で同じ相手を見て、同じ瞬間に動くことができた。
「勝ったんだね、私たち」
「サル!」
その返事を聞いた途端、ようやく実感が追いついてきて、ユウリは腕の中のサルノリを強く抱き締めた。
「すごいじゃん、サルノリ!」
「サル!」
「最後、私が言う前に動いたよね?」
「サル?」
「……分かってない顔してる」
それでも構わなかった。
全部が自分の指示通りだったわけではない。むしろサルノリ自身が考えて動いた部分の方が大きかったのかもしれない。
それが嬉しかった。
「くっそー!」
ホップの声が聞こえ、ユウリは顔を上げた。
悔しそうではあるものの、ホップはすぐにメッソンのそばへしゃがみ込んでいた。
「ごめんな、メッソン。俺がもっと上手く指示できてたら……」
「メソ……」
「でも次は勝つぞ。絶対だからな!」
ホップが手を差し出すと、メッソンは少し迷ってから前脚を重ねた。
その様子を見ていたダンデが笑う。
「いいバトルだった!」
「兄貴、俺は負けたんだぞ?」
「最初のバトルで勝つか負けるかなんて、大した問題じゃないさ。それより、二人ともちゃんと自分のポケモンを見てた。それが大事なんだ」
「でもユウリ、途中からずるくないか? 石まで使って!」
「ずるくないでしょ。石を投げたわけじゃないし」
「メッソンがびっくりしたじゃん!」
「ホップだってびっくりしてたじゃん」
「俺は関係ないだろ!」
「ハハハ! バトルフィールドにあるものを利用するのも立派な戦術だ。もちろん公式戦ではルールを守らなきゃいけないけどな!」
ダンデにそう言われ、ホップは納得できないような顔をしながらも、それ以上は文句を言わなかった。
「それにユウリ」
「はい?」
「初めてにしては面白い戦い方だったぞ」
「面白い?」
「ポケモンに技を出させるだけじゃなく、サルノリが普段どう動いているかを見ていた。昨日あいつが石を叩いていたのを覚えていたんだろ?」
「……はい」
「そういうのは大事だ。バトルのときだけポケモンを見ていたって、分からないことはたくさんあるからな」
褒められたのだと理解するまで、少し時間がかかった。
テレビの中のダンデは、ユウリにとってホップの兄である以前にガラル最強のトレーナーだった。その人から自分のバトルを認められたのだと思うと、勝ったときとはまた違う熱が胸の奥へ広がっていく。
「どうだった?」
ダンデが尋ねる。
「え?」
「初めてのポケモンバトルだ」
ユウリは腕の中にいるサルノリを見る。
最初に攻撃を受けたときは怖かった。
自分の指示が間に合わなかったせいでサルノリが痛い思いをしたのだと思うと、逃げ出したくなるような気持ちにもなった。
けれど、次は避けられた。
攻撃を当てることもできた。
そして最後には、ユウリが考えたことをサルノリが理解し、その先を自分で考えて動いてくれた。
「……楽しかったです」
自然と、その言葉が出た。
「怖かったけど。でも、サルノリが何をしようとしてるのか考えて、それが分かったときは……なんていうか」
上手く言葉にできず、ユウリは少し考える。
「もっとやってみたいって思いました」
「サル!」
サルノリが同意するように声を上げた。
「そうか!」
ダンデは満足そうに頷いた。
その隣で、ホップが急に立ち上がる。
「だったら決まりだろ!」
「何が?」
「ジムチャレンジだよ!」
あまりにも当然のように言われ、ユウリは瞬きをした。
「……なんでそうなるの?」
「だってバトル楽しかったんだろ? だったら俺と一緒にジムチャレンジしようぜ!」
「話が飛びすぎじゃない?」
「飛んでない! 兄貴!」
ホップは今度はダンデへ向き直った。
「俺とユウリに推薦状を書いてくれ!」
その言葉を聞いた瞬間、ユウリはようやく思い出した。
ガラル地方のジムチャレンジへ参加するには、一定の実績を持つ人物から推薦を受ける必要がある。
そして目の前には、その推薦者としてこれ以上ない人物がいる。
「俺はずっと決めてたんだ。兄貴を超えて、俺がチャンピオンになる! そのためにジムチャレンジへ出る!」
ホップの言葉には迷いがなかった。
昨日今日で決めたことではないのだろう。
ずっと兄の背中を見て、いつか追いつきたいと願い続けてきた。その最初の機会がようやく訪れたのだから、迷う理由などない。
一方で、ユウリにはそこまでの覚悟はない。
「ユウリはどうする?」
ダンデに問われる。
昨日までなら断っていたかもしれない。
自分にはホップのような夢がないから。
チャンピオンになりたいわけではないから。
けれど、それだけで行かない理由になるのだろうか。
腕の中から抜け出したサルノリが地面へ降りると、先ほど戦っていた場所まで走っていき、そこで振り返った。
もっとやろう。
そんなふうに見えた。
もちろん、本当にそう言っているのかは分からない。
それでもユウリは、この小さな相棒についてもっと知りたいと思った。
今日のバトルだけでは分からなかったことが、まだいくつもある。
サルノリがどんなポケモンになっていくのかも知りたい。
そして、自分自身が何をしたいのかも。
ハロンタウンを出なければ、その答えはきっと見つからない。
「……私も行ってみたい」
口にした瞬間、自分でも少し驚いた。
「ジムチャレンジに?」
「はい」
ダンデを見て、今度ははっきり頷く。
「チャンピオンになりたいかって聞かれたら、まだ分かりません。でも、サルノリといろんなところへ行って、もっとバトルしてみたいです」
それだけでは理由として弱いのかもしれない。
ホップのような大きな夢ではない。
それでも、今のユウリには十分だった。
「それで、自分が何をしたいのかも……見つけられたらいいかなって」
ダンデはすぐには答えなかった。
しばらくユウリを見つめ、それからホップを見て、最後に二人のポケモンへ視線を落とす。
「なるほどな」
やがて、その顔にいつもの笑みが戻った。
「だったら、俺から一つ宿題だ」
「宿題?」
「推薦状は書いてやる。ただし、その前に二人ともブラッシータウンへ行って、ポケモン研究所を訪ねてこい」
「研究所?」
「ソニアがいる。ポケモン図鑑についても話を聞けるはずだ」
「よし! だったら今すぐ行こうぜ!」
「待って、ホップ」
「なんだよ?」
「サルノリとメッソン、まず休ませないと」
「あ」
ホップが固まった。
足元のメッソンが、少しだけ呆れたように主人を見上げている。
「……もちろん分かってたぞ?」
「今の間は何?」
「確認しただけだ!」
「何を?」
「細かいこと気にするなよ!」
昨日とまったく同じことを言い出したホップにユウリが笑うと、ダンデも豪快に笑い、サルノリは事情が分からないまま楽しそうに枝を地面へ打ち鳴らした。
少し前まで、ハロンタウンの外にある世界は、ユウリにとってテレビや雑誌の中にある景色だった。
ブラッシータウンでさえ何度も訪れたことのある隣町に過ぎず、その先に続く道を自分が歩いていくことなど考えたこともない。
けれど今は、その道の向こうに何があるのかを少しだけ知りたくなっている。
その理由がサルノリなのか、初めて勝ったバトルなのか、それとも昨日まどろみの森で見た名も知らないポケモンなのか、ユウリ自身にもまだ分からなかった。
ただ一つ確かなのは、昨日までと同じ場所に立っているはずなのに、目の前にある景色がもう昨日までとは同じに見えないということだった。