隣人部に着くと、幸村の他に理科と夜空がいた。星奈が俺に密着している様子を、みんな目を見開いて凝視する。しかしまずは一週間不在にしたことを謝罪した。
「みんな心配かけてごめん、今までの関係のままでいたかったから、逃げてしまった、本当にごめん!」
だが俺の謝罪よりも、俺と星奈が密着してることにみんなは興味津々だった。星奈は俺の腕に抱きついたまま、左手でピースサインを作り顔に近づけ堂々と言った。
「あたしたち今日から付き合いましたー!」
理科と幸村は拍手しながら、俺たちを祝福する。夜空はというと、腕を組み眉を顰めていた。
ふと理科は何か気づいたのかニヤつきながら、俺に声をかける。
「ところで小鷹先輩、背中が汚れてますけどナニかあったんですか?」
俺の代わりに星奈が答えた。
「あたしが押し倒してやったのよ!」
理科は嬉々として反応した。
「押し倒して、ヤった?!お二人告白してすぐ情事に至るなんて、大胆なんですね!」
「ヤってねえよ!」
思わず叫んでしまった。
最終下校時間になって、俺たちは校舎を出る。日が暮れて外はもう暗い。まだ星奈は俺の腕にくっついたままだ。なんだろう既視感があるような。
そうだ昔の流行を取り上げたテレビ番組で見た腕にしがみつく愛嬌たっぷりのダッコちゃん人形だ。ただこのダッコちゃんは人間サイズなので、俺が動きづらい。校門の外に星奈の家の車がある。つまり車まで送り届ければ、俺はダッコちゃんから解放される。しかしダッコちゃんは大人しくなかった。
「ねえ小鷹、明日デートしよ。」
星奈の一言に面食らった。付き合った翌日にデート。まあ、デート紛いなことは何度かしてきた。今更、何を怖気付く事がある。
「あ、ああ、いいぜ。」
我ながらぎこちない返答をしてしまった。
「本当?!やった!嬉しい!」
と言って俺から離れ、スキップで車に向かった。ステラさんに迎えられて後部座席に乗り込んだ星奈が手を振りながら一言、
「明日十時に駅に集合ね!」
そう言い残し車は学校を出た。
どれほどの時間、星奈に腕を掴まれていたのだろう、左腕が痺れている。
「ああ、小鷹か」
声の方に向くと日向さんがいた。
「日向さんも今帰りなんですね。」
「ああ、生徒会の仕事でさっきまでいたんだ。小鷹は隣人部か?」
日向さんの想定とは違う理由で残っていた。俺は正直に答えた。
「隣人部といえばそうなんですが、実は星奈に告白していました。」
意外な返答に日向さんは驚いていたが結果を気にしていた。
「あの、無事に付き合うことになりました」
照れながら俺は報告した。
「おお、そうか!それはめでたいな!」と日向さんは祝ってくれた。
俺は日向さんを送ることにした。道中、ふと思い出した俺は日向さんに以前の話をする。
「以前、生徒会にお誘い頂いたお話なんですが、喜んでお受けします。」
俺の言葉に日向さんは喜んでいた。
「本当か!ありがとう小鷹!改めて生徒会に来てくれたことを歓迎するよ。これからよろしくな、小鷹!」
そう言って日向さんは左手を出して握手を求めた。俺は痺れている左手をなんとか操り、日向さんの手を握った。
駅に着くと日向は俺に手を挙げ「じゃあな、小鷹。来週からまたよろしくな。」と言い別れた。
日向さんは善良な人だ。みんな俺を不良だと誤解する中、日向さんは見た目で決めつけず、分け隔てなく接してくれた。そんな日向さんに俺は恩義のような物を感じている。
俺は日向さんのためなら、生徒会で働いてもいいと思った。だから俺は生徒会執行委員に加入することを決めた。隣人部が嫌になったからじゃない。隣人部も大事だ。でも日向さんに恩義を果たそうと思った。恩人のために何かすることは、何もやましいことじゃないだろう。
家路につく俺は、以前親父が話していたことを思い出し、親父に電話をかけた。
「なんだ、小鷹から電話なんて珍しいな。」
俺から電話なんて本当に珍しい。でも何の理由もなく電話をかけたのではない。親父に今日あったことを話す。
「あのさ、今日から、星奈と付き合うことになったから、その報告。」
俺の言葉に親父は少し驚いていたが、
「お前、星奈ちゃんと付き合ってるのか!」
と電話越しに喜んでいた。親父に報告できた俺は一安心した。そこで電話を終わろうと思った矢先、親父が思い付きなのか、提案してきた。
「今、研究の一環でイギリスにいるんだが、お前と小鳩で留学に来ないか?」
親父の言葉に、俺は理解が追いつかなかった。