僕は友達が少ない-バタフライエフェクト-   作:金木令

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3話

「イギリスに留学…?」

 

俺は親父の言葉を反芻した。

 

「今すぐとは言わない。付き合いたてのカップルを引き離すような、野暮なことはしないよ。」

 

俺の安堵に気付いたのか、親父は続けた。

 

「来年の七月から一年間、俺と一緒に住みながら現地の学校に通う、どうだ来るか?」

 

具体的な期間を教えてくれたが、一瞬迷うも答えはすぐ出た。

 

「俺は行かない、ここでやることがあるから、親父には悪いけど行かない。」

 

俺の返答が意外だったのか、親父は少し落胆したような相槌を打った。打って変わって、小鳩の意思も確認してくれと頼まれ、通話を終えた。

 

家に入るや否や、小鳩が出迎えてくれた。

 

「遅かったな、我が半身。疾く供物を捧げよ…」

 

わかりやすいくらい大きく腹の虫が鳴っていた。

 

夕食を食べながら俺は小鳩に、星奈と交際を始めたことを報告した。俺と星奈が付き合うのが意外だったのか、動揺して箸を床に落とした。拾った箸を流しに置き、新しい箸を持って来ながらいつもの調子で、小鳩は俺に真偽を聞いてくる。

 

「あの星奈と契りを交わしたなぞ、我が半身にしては酔狂なことを言うではないか。戯れが過ぎるぞ…」

 

信じられなかったようだが、俺は事実であることを告げた。すると忽ちに表情がスッと消えた小鳩だった。

 

今の小鳩に親父の提案を話すには、居た堪れない気持ちになった。完全に話す順番を間違えてしまった。

 

しかし小鳩に大きく関わることだ、言い渋っていい訳がない。

 

「あのさ小鳩、親父がイギリスに来ないかって、来年の七月から一年間なんだけど、行くか?」

 

イギリスという単語に小鳩の興味が湧いたのか、パッと表情が明るくなった。

 

「行く!絶対行く!兄ちゃんも一緒だよね?」

 

そうだよな、小鳩はイギリスに興味を持つだろう。厨二病には聖地のようなところだろう。それに母さんのルーツだ。行きたいと思うだろう。

 

でもそれは俺も一緒という前提だ。俺は行かない、その意思を伝えなければ、妹に淡い期待を抱かせたままでは、兄貴失格じゃないか?俺は小鳩を傷つけまいと、慎重に言葉を選び、口にした。

 

「悪い、俺は行かない。星奈のことも、部活も生徒会も、放っていくことはできない。」

 

想定と違う答えだったから、小鳩は再度落ち込んでしまった。やがてか細くも小鳩は言う。

 

「じゃあウチ行かない。兄ちゃんがいないのは嫌…」

 

そうなるよな、俺がいなかったら小鳩は行きたくないよな。留学は俺たち二人とも行かないと言うことで結論が出た。

 

食事を終えた小鳩は風呂に行き、俺は皿洗いを始めた。単純な作業をしていると、思考する余裕が生まれる。

 

小鳩はイギリスに行かないと言っていたが、本当にそれで良かったのだろうか。俺がいないからを理由に、自分自身の興味を押し殺すことが、小鳩のためになるだろうか。

 

いや今更何を悩んでいる。小鳩が行かないと決めたのだから、その意思を尊重すればいいじゃないか、それでいいじゃないか。もう済んだことを考えるな。

 

家事を一通り済ませ、風呂にも入った俺は、明日が星奈とデートすることを思い出す。

 

ここにきて大きな課題を目の当たりにする。服だ。隣人部で出かけた時も、もちろん服を着て出歩いた。同じ服を着る選択肢もある。

 

しかし明日は状況が違う。相手は星奈だ。これまでに何度か出かけているが、今日から恋人同士なのだから、今までと同じ服を着ていいものか?そんな疑問を抱いた俺は、クローゼットを開き、今持っている服から選りすぐりの、コーディネートを考えた。

 

なるべく大人っぽく見せた方がいいよな。じゃあ、この七分丈のズボンか?いや子どもっぽく見えるか。それともデニムか?無難だけどシンプルだから、カッコよくないかも。

 

どれにすればいいんだ!

 

皆無のファッションセンスを頼りに、逡巡していると携帯電話が鳴った。

 

着信画面を確認すると星奈だった。

 

通話ボタンを押すと開口一番、

 

「もしもし小鷹、今何してるの?」

 

耳元で星奈の声が響き、一瞬耳がキーンとした。

 

「うわっ、声でけえよ!」

 

たまらず携帯を耳から離し、ハンズフリーに切り替え机に置く。

 

「そんなことないよ!」

 

と星奈は反論するが、そんなことあるから苦言を呈したのだ。しかしそんなことを気にしない星奈は続けて話す。

 

「ねえ小鷹、明日のデート私楽しみなの!小鷹も楽しみにしてる?」

 

顔は見えないのに嬉々とした声から、喜びに満ちた表情だと窺い知れる。

 

俺も素直に気持ちを伝える。

 

「俺も、まあ…楽しみだ。」

 

歯切れの悪い返答に、星奈は不機嫌に反応する。

 

「えーなんか、煮え切らないわね。」

 

俺は慌てて弁明する。

 

「あ、いや、楽しみだ。でも緊張もしてる。明日何着ていけばいいか迷ってたんだ。」

 

俺の釈明に安堵したのか、声のトーンが明るさを取り戻す。

 

「へーやっぱり小鷹も、楽しみにしてたんだ。嬉しいなー」

 

電話越しでも笑顔になってるのが眼に浮かぶ。

 

俺とは対照的に、星奈はありのままだと思った。

 

「星奈は、その…緊張とか、していないのか?」

 

俺は気になり、疑問を投げかけた。

 

「するわよ…」

 

さっきまでの堂々とした星奈と打って変わってしおらしかった。

 

つい俺は鸚鵡返しした。

 

「するのか…」

 

少し間を置けたことで冷静になったのか、俺の言葉に星奈は続けた。

 

「当たり前よ!彼氏とデートなんて人生で初めてなんだから!」

 

人生で初めて、その言葉に俺はドキッとした。

 

「あたしだって明日着る服迷ってるし、どこ行くかまだ決めてないけど、でも小鷹とのデートだから楽しみの方が大きいかも。」

 

もうダメだ、俺とのデートが楽しみだと?星奈も緊張していることに安堵していたのに、それでも楽しみにしているなんて言われたら、可愛いだけで済まないくらい感情が昂る。顔から火が出るどころか、背中まで熱い。

 

星奈に悟られないように、身悶えしそうになるも背筋を伸ばし、通話を続けた。

 

「小鷹なら何を着ても…」

 

と星奈は言いかけて、

 

「いや、物によるわね。」

 

と訂正した。

 

「言い直すなよ!」

 

と俺の切り返しに、いつもの調子が戻ったのか星奈は、

 

「ちゃんと選んできなさいよ!初めてのデートなんだから、変なの着てたら承知しないんだから!」

 

と言った。

 

ふと時計を見ると深夜零時を回っていた。明日のために、いやもう今日になってるか、とにかく早く寝ようとなり、通話を終えた。

 

それから小一時間、俺は悩みに悩んだ挙句ようやく組み合わせを完成させた。

 

7時に目覚ましをかけて、ベッドに就いた。暗い部屋の中、時計の針だけが音を立てていた。

 

目を瞑りながら、明日のデートに何をしようか考えを巡らせていた。やがて意識は朧げになり眠りに就いた。

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