僕男なんですけど、どうして魔法少女にさせられたんですかね? 作:一兵卒
――魔法少女って実在したんだな。
何気ない一言がこぼれてしまったようだ。目の前の、こちらに目もくれず歩いていた女が――
「やはりまだ信じられないか?」
「……いや、信じる信じないのフェーズはとっくに通り過ぎたんだけどさ、でもやっぱり、実感はわかないよな」
「はは。私も、最初はそうだったよ」
やはり、目の前で年相応に笑う少女が、世にもおぞましき化け物と戦っていたとは考えづらい――が、確かに僕は――
魔法少女、と言うものをご存じだろうか。少し古い言い方をすれば魔女っ娘になるのかもしれない。
大雑把なディティールとしては、年端も行かない少女が華美な衣装をまとい、不可思議な魔法を使い、そして人にあだなす化物と戦うというのがテンプレだろう。
物語的に言えば、クラスメイトが魔法少女だった、なんてのは、テンプレを通り過ぎて陳腐と言っても差し支えないかもしれない。そこから続くのは、そのクラスメイトの化物退治を目撃して、そして紆余曲折の末に、自分も魔法少女になり、そして大きな事件の渦中に巻き込まれていく、と言うものが大半だろう。
実際僕だって、そんな平々凡々な粗筋に巻き込まれたわけだし――。
大豆田紅咲。
絶世の美女の転校生。
そして――魔法少女。
そんな彼女のバトルシーンを、僕は目撃した……してしまったというべきか。そしてそのまま、口封じと言わんばかりにどこかへ連れていかれているのだ。歩けば歩くほど周囲の人数が少なくなる。
「なあ、僕は一体全体どこに連れていかれるんだ。それだけ、本当にソレだけでいいから教えてくれないか?」
「ふむ、そうだな……町のはずれの雑居ビルがあるだろう。あのぼろぼろな」
「……聞いたのは地理的な場所じゃなくて誰の下に連れていかれるのか、なんだけども」
――さあ、一体、誰の下にでしょうか。
そんな適当に、はぐらかすようなことを言いながら彼女は歩を進める。今、僕の行動を縛るようなものは何一つとしてないが、それでも彼女の戦闘シーンを目撃してしまったものは、確実に逃げ出そうなどと考えないだろう。それほどまでに、化物退治は壮絶だったのだ。故にこそ、いかような恐怖が待ち受けていようとも、粛々と彼女に追随するしかないのだ。
次に学校であったら気まずいし。
次に学校に行けるかも怪しいが。
完全に人目がなくなった辺りを、目に入るものすべてが経年劣化しているような路地を通って、僕らは件の雑居ビルにたどり着いた――。
「さて、目的地に到達したわけだが――君がこれから会うのは、私の恩人だ」
「……恩人?」
「ああそうさ……少し前、化物に襲われて死にかけてくれた私を助けてくれた、恩人」
そういう彼女の表情には、何処か後悔が伺えた。そう、例えば、テスト直前になってどうして勉強しなかったのか自分を責め立てるような、どうしてあの時あの人に助けられてしまったのか……ようは過去のどうしようもない過ちを攻め立てているような。
そんな表情だった。
少なくとも命の恩人に対する表情じゃないと思うんだけどな……」
「いや、そんなことないぞ……君も会ってみればわかる」
「もしかして、声に出てた?」
「そうだな、確かに少なくとも命の恩人に対しては眉間に皺を寄せるべきじゃあないのかもしれない……それでも、本当に、会ってみればわかるとしか言いようがない」
彼女は若干鬱々とした表情で、何処かグロッキーな様子で、ぼろぼろの雑居ビルの扉に手をかける。
「用心してくれ、君は
「は?」
なんか、今一瞬、とんでもない文言が聞こえた気が――。
その内容を咀嚼する前に、僕は、無数の青白い手によって廃墟のビルの中へと引きずり込まれた。