僕男なんですけど、どうして魔法少女にさせられたんですかね? 作:一兵卒
何もなかった――ということにしておこう。
何もなかったのだ。
決して僕は力負けしてひん剥かれていない。決して僕はふんだんにフリルがあしらわれたセーラー服など着せられなかった。僕は美少女戦士ではないのだ……。
「ふむ、よく似合っているぞ、セーラー服」
「わざわざ明言するな!」
ひーひー言いながら視界の端で雲谷さんが笑い転げている。そんなにおかしいのか!この惨状が!
なんだか段々この二人の尊敬度だとかそういうのが下がっていく気配を感じるぞ。そらそうだ、変態と性格が悪そうな人たちだもの。
「いや、というか、てっきり魔法少女ってんだから魔法の力か何かで変身すると思ってたのだけれど」
「そんなシステムないよ……私も最初は同じような勘違いをしていた」
「思ってたよりは夢がないんだな」
「そう言うな、似合っているのだからいいではないか」
「一介の男子高校生としては不服の極みだよ」
そこ、服だけにとか言わない。そんなこと言われたらいよいよ屈辱極まる。
「ひー、ひー……いやあ笑わせてもらったよ青女子ちゃん。あーおかしい」
「たった今理解したッ、あんたは決して尊敬できる人類じゃあない!」
「うん、そうだね、生まれてこの方尊敬されたことなんて……駄目だセーラー服が似合いすぎて……ッ」
と、雲谷さんは吹き出して顔を背けてしまった。
何だったんだこの時間は!?
「
「冗談で済ますかは僕が決めるからな?」
「実際、魔法少女が足りていないのは本当でな」
さらりと無視しやがった。
「いや待ってほしいのだけれど、僕は少女じゃないぞ」
「んなこと言いだしたら私だって少女じゃないよ」
雲谷さんは再び復帰してそんな言葉を差し込んでくる。
む。
確かにそうだ。綺麗な女性ではあるが、とても10代には見えないもんな。
「いや確かに魔法少女なんてネーミングだがな、別に性別も年齢も関係ないのだよ」
「そうなのか!?」
それは景品表示法に反しているのでは……?
「言い方を変えれば陰陽師という事になるな……と言うかキャッチ―にするためにここ最近に魔法少女なんて名前になったのだったか」
――もっとも。
――私も新参だから、詳しいことはよく知らないけど。
はあん。てっきりベテランなのだと思ってたんだけど。
「ま、彼女もせいぜいが一年かそこらしか魔法少女やってないからね」
「なんとなくだけど、意外だ」
佇まいなんかは堂々と、そして凛としていたし。変態だったけど。
「板についてるってことだよ。よかったね大豆田ちゃん」
「うーん……まあ、いいこと、なのか?」
「悪いことじゃあないんじゃないか?いや、僕は素人だから何とも言えないけどさ」
継続は力なりって言うしな。
「ま、それもそうだな」
納得したように大豆田さん。
と言うかあれかな、僕も一年間陰陽師(こっちで呼ぶことにする)として活動したら、あんな俊敏な動きが出来るのかな?
……本当か?時々瞬間移動じみた速度で移動してたぞ?
「いや、まあ、あれは衣装――『異装』によるところが大きいな。動きやすいし、頑丈だし、なんでか身体能力なんかも増大するし――何より、魔法が使える」
にたりと、目を細めて笑う。
衣装、いや異装と言ったか。大豆田さんの其れは、確か真っ黒いコートと軍帽だったか――。確かに、このセーラー服よりは似合うだろう。彼女かっこいい感じだし。
そろそろ着替えたらだめかな?だめ?ああ、そう……。
「君が今着ているそれはあくまでサンプルだ、いずれ君専用の異装が贈られるだろう」
「へえ、そりゃあ楽しみだ……なんて言うとでも思ったか!?」
何しれっと僕が陰陽師になる前提で話してるんだよ!
「クソッ、何故バレた!」
「逆に聞くけども隠す気はあったのか!?」
「安心しろ、私はむっつりスケベではなくオープンスケベだ!」
「最初っからなかったのね、あと何馬鹿なこと言ってるんだお前は!」
一息つく。なんだろう、猛烈に疲れた。強烈に疲れた。誰かとここまで話したのなんてかなり久々なんじゃないか?
「楽しくおしゃべりしてることろ悪いけどね、青女子くん」
――僕は、ぞっとした。
ついさっきまで温まり切っていたはずの空気が、雲谷さんの一言で完全に冷え切ったことに対して。気が付けば、全身を、僕をビルに引きずり込んだ青白い手が這いまわっている――。
ひたひたと。
ずるずると。
べたべたと――不気味に。不遠慮に。
「申し訳ないけどね、君が聞いてしまった話はとても一般人には流せないようなものだ。見えない化物が、人知れず人を襲っている……なんて知ったら、そりゃあ碌な事態にならないだろう?」
雲谷さんは相変わらず人当たりの良い笑みを浮かべている。その表情は何も変わっていないはずなのに、しかし今はどうしても、どうしても不気味で仕方がない。
「ねえ、青女子ちゃん」
雲谷は――
「
いつの間にやら、口元と喉に、あの青白い手が食い込んでいた――。
「……ッ!」
正気なのか、と思った。本気なのかと疑ったが――目の前の、瀬水が凍るほどの美人は、どうやら本気のようだ
本気で。
このまま。
僕の命に
「……わかりました。なりますよ――陰陽師に」
――魔法少女ってやつに。
こうして僕は、華美な衣装を身に纏い、摩訶不思議な魔法を使って怪異と戦う、いわゆる魔法少女になることが、なし崩し的に決定したのだった。