僕男なんですけど、どうして魔法少女にさせられたんですかね? 作:一兵卒
天狗。
という怪異をご存知だろうか。
情けない話、僕はあまり解説というものに向いていない、どうして語り部になっているかもわからないような存在なので端的に、結論から語ってしまうのだが、僕が頭を悩まされていた、怪異現象の正体は
いやいや待ってほしい、天狗というのは鼻の長い山伏で、決して白い犬ではないのだと思ったのだが、雲谷さん曰く、もともと天狗は大きな、大きな狗だったそうだ。
太陽を齧り。
月を喰らい。
薬を飲み込む――悪食の狗。
が、天狗の真の正体だったらしい。
かつて天狗は、天を駆ける狗は、凶事を告げる流星だった――凶星だった。大気圏に突入した火球は地表近くで爆発し、人々はそれを狗の咆哮として言い伝えてきた。
また、天狗が日食と月食を引き起こしたり、神のような存在である『天狐』と同一視される、なんて話もあるが、これ以上は余談である。
この話の本筋は、この怪奇譚において何よりも恐ろしいのは。
大豆田紅咲に退治されたはずの天狗は、まだ生き延びているということだ。
※※※
「な――」
僕は絶句した。
あの、白く大きな狗(こう書くと可愛らしいが、その大きさは僕の上背と同じくらい、要は160センチはあると思ってほしい)は、大豆田さんが打倒したはずの天狗がいまだ活動しているという事実に。
「え、それじゃあ」
「そうだね、もしかしたら、もう一度君の身に異変が起こるかもしれないね」
にたりと、脅すように雲谷さんが答える。
いや、まいったな、それは困る。別に命に支障があるわけじゃあないけれど、それなりに苦労していたのだから。
今でも思い出せる、視界の端で、じっとこちらを覗く天狗を。
怖気が、する。
「私の目的はその天狗退治でね。一先ず大豆田ちゃんが接触したみたいだから戦ってもらったけど……」
「ん、そうだな、その報告は後でしますよ――そんなわけだ青女子、君は帰るといい」
「聞いちゃまずいのか?」
「居て何になるわけでもないだろう」
まあ、それもそうか。
「それじゃあ大人しく帰らせてもらうよ」
「うむ、外はもう暗いからな。気を付けて」
なんて、手を振りながら大豆田は言う――。
まるで友達みたいだな、と思った。
セーラー服を着替え忘れかけた。
※※※
本当に、外は暗かった。
当たり前だ。時刻はすでに六時を回っているのだから。夏ならいざ知らず、この時期であれば六時はすでに夜と大差ないだろう。
じかじかと電灯が瞬く。
ここは田舎町なのだ。ネオンなど見かけやしない。
ただただ電灯だけが不気味に夜道を照らしていた――。
「ん」
足を止める。
いくら田舎町とは言えども、まだ六時だ。人が誰もいないなんてことは、在り得ない。普段とは異なる状況――『怪異』。
先程聞いた
怪しく、異なる。この状況にぴったりだな、まったく――。
電灯が瞬き。
そして瞬きの間に。
いやいやまさか、今日、この瞬間に、魔法少女になったばかりだぞ?そんな都合のいいタイミングで、化物が襲ってくるなんてことあるのか?
――いや。
ある時はあるのだろう――何せ、第一に、天狗の怪異現象に頭を悩ませているタイミングで彼女らと出会った時点で……
電灯が数度瞬き。
僕は目撃する。
化物を――怪しく異なる『怪異』を。
赤く、そして長いロングコート。
負けず劣らず長い、足元まで届きそうな黒髪。
かなりの上背を持つ――目測180cm。
顔はうつむいていてよく見えないが――白いマスクは、ああ、よく似合っていた。
僕は、と言う日本生まれの学生は、みんな知ってるんじゃないかな?みんな一度は聞いたことがある台詞だと思うぜ――。
最も。
一度として出会いたくなかったけど。
目の前の女は、人一人いない夜道に立つその女は、顔を上げてこう言った。
「私、キレイ?」
「今のままが一番きれいだと思いますよッ!」
そう言い残して、僕は全力で、背を向けて逃げ出した。