そんな街を一人の少女が堂々とした出で立ちで歩いていた。
夕闇によく映えるブロンドの髪は歩く度にふわりと揺れる。布製のカチューシャで前髪を上げてそこから覗くチャーミングなおでこ。
青白い顔は他人からすれば具合が悪そうに見えるが、彼女はとっても健康だ。
少女はワクワクした様子で街を歩く。闇の物品の収集が趣味の父に強引にこのノクターン横丁に連れて来られた。それも三日連続で。
流石に嫌気がするというものだ。だから少女は店主との雑談に夢中になっている父に声をかけず店を飛び出した。
父に無断で街を探索する自分はやはりスリザリンに相応しいと思いつつ、少女は街の奥へと歩みを進める。
すると、見窄らしい格好をした魔法使いにぶつかってしまった。
体勢を崩し、転ぶまいと地面に手を伸ばす。だが突然の浮遊感が少女を襲った。
何者かに持ち上げられている。そしてそのまま誰もいない路地裏へと運び込まれてしまった。
「な、何を、僕を誰だと思って────ぁあ!」
壁に叩きつけられ、顔面を一発殴られた。痛みで顔が歪み、口内が切れたのか血の味が口いっぱいに広がった。
理解の追いつかない状況に少女は泣いてしまう。
「ドラコ・マルフォイだ──!お、お前、お前の父親のせいで、俺達は、俺達の人生は滅茶苦茶になったんだ!責任を取れ、せ、責任、責任を取れぇ!!」
もう一発顔にくらった。
「ぼ、僕は……知らない!オマエのことなんか知らない!やめて……痛ぃっ……!もう、殴らないで……!」
「うるさいうるさいうるさい!お前を殺して、こ、殺して、ルシウス・マルフォイを絶望の淵に落としてやるぞっ!ヒヒヒヒヒヒ、アヒャヒャヒャ!」
男は懐から杖を取り出した。ドラコは助けを呼ぼうとしたが、口を手で抑えられ声を出せない。
殺されてしまう恐怖からドラコは震え、股の間から生暖かい液体を漏らす。
「アバダ・ケダブ──────おごぁっ!??」
呪文を唱えようとしたはずなのに、男の顔は一瞬で真っ白になって脂汗が吹き出た。
ドラコは視線をゆっくり下へ。男の股間に小さな足先がめり込んでいた。
背後からの金的。不意打ちの金的に男は為す術もなく崩れ落ちた。
「下だらねぇことしてんじゃねぇぞおっさん」
男をノックアウトさせた少年は杖を拾い上げる。ドラコは息を整えながら少年を見た。
灰色の簡素な服はほとんどが血に染まっていて汚いよりも悍ましい。
露出した肌は泥で汚れていてどういうわけか傷だらけだった。
いつものドラコなら「僕に近寄るな汚らしい奴隷めっ!」と罵っていただろう。
「綺麗だ…………」
立ち上がり、少年の頬に触れた。彼の空色の瞳があまりにも美しく、ドラコは見惚れてしまう。
「お前大丈夫か?」
「え、あ、ああ、うん。大丈夫、僕は大丈夫だよ。あの、えっと……一応礼を言っておくよ。悪漢から僕を助けてくれて。僕はドラコ。ドラコ・マルフォイ。君は?」
「俺?あー…………名前のこと聞いてんだよな?えっと……なんだっけな……名前名前…………ちょっと待ってくれ」
少年は腕を組み、「うーん」と考え込んでしまった。ドラコは彼の行動に目を見開いて驚く。
名前を答えるだけでこんなに時間がかかるものなのかと。
「あ!チッチだ!俺の名前、チッチ・ファルディスだよ」
ずいぶんと可愛らしい名前にドラコはくすっと笑う。悪漢から助けてくれた恩人の名前を笑うのは流石に失礼だと我に返ったドラコは咳払いをしてチッチが持つ杖へ話題を振った。
「その杖はどうするんだい?」
「コイツはもう俺のもんだ。これがありゃぁ皆を解放出来る」
「みんな?」
「こっちの話だよ。じゃあなドラコ。そろそろ戻らねぇと、勝手に抜け出してんのがバレたら拷問の時間が伸びちまう」
「ちょっと待ってさっきから何を言って……」
チッチはドラコとの会話をきり上げ、路地裏から走り出した。慌ててドラコも後を追う。
しかし魔法使いや魔女の人通りが酷いせいでチッチとどんどん距離を離されてしまう。
「チッチ!待って!」
まだ話は終わってないと叫ぶ。チッチはドラコの方へ顔を向けて小さく口を開いた。
「もう会うことはねぇよドラコ。やっと家族に会いに行ける」
そして、彼は姿を消した。残されたドラコは声が枯れ果てるまでチッチの名前を叫んでいた。
──────二年後──────
11歳になったドラコ・マルフォイは周りの目を引くほどの美しい女性へ成長を遂げていた。
妖精と呼ぶに相応しい美貌を振り撒き、彼女を一目でも視界に収めた男は激しい胸の痛みに声を上げるだろう。
よく手入れされたブロンドの髪を揺らし、ドラコはホグワーツ特急へと乗り込む。
空いているコンパートメント席に座り、窓際に肘をかけて手鏡を手に取った。
鏡にはいつもの見慣れた自分の顔が写る。
「チッチ…………」
無意識に彼の名前を呟く。ホグワーツ魔法魔術学校に行っても彼はいない。
チッチと出会い、会えなくなった日からドラコの心は冷え切っていた。
手鏡をローブの中に仕舞う。そう言えばこの列車にハリー・ポッターが居るそうだ。闇の帝王と呼ばれ恐れられた最恐の魔法使い「ヴォルデモート」を滅ぼした英雄。
考え込んでいると子分のクラッブとゴイルの二人が両手にお菓子を抱えて入ってきた。
ドラコの向かい側の席に座り、買ってきたばかりのお菓子を手当たり次第に口の中へ放り込んでいく。
まるで飢えた豚のようだとドラコは口角を上げた。
これで同性だというのが恐ろしい。蛙チョコレートを食い散らかし、次はかぼちゃパイに手を出した。
「…………穢らわしい豚め」
「何か言った?ドラコ」
「何も。お前達は慎みを覚えたほうがいい」
「?…………ドラコも食べろよ、美味しいよ」
クラッブが食べかけのかぼちゃパイを差し出してきた。ドラコは露骨に嫌な表情を浮かべ手のひらを横に振って拒絶した。
やることもないのでドラコは特急内を散策することにした。ハリー・ポッターがどんな子か見ておきたいのもある。
クラッブとゴイルの二人は残ったお菓子を抱えてドラコの後をついて行く。
そんな二人にドラコは何も言わず通路を進んでいく。
もしチッチがこの特急内に居たなら、ドラコのホグワーツ生活は瞬く間にお花畑で満たされるだろう。
同じスリザリンの寮に入れたなら尚更だ。
車両の真ん中辺りまで来たドラコ一行。突然ドラコが足を止めた。クラッブとゴイルはお互いに顔を見合わせ、首を傾げる。
ドラコの視線が左側のコンパートメント席へ釘付けになっていた。
その席は一人しか乗っていなかった。
脳内を稲妻が駆け巡ったような衝撃を受けた。あり得ないことが目の前で起きている。否、最も望んでいたことが叶ってしまった衝撃でドラコは石のように固まっていた。
ゴイルに肩を叩かれたことで我に返ったドラコは咄嗟にコンパートメントの戸を開いた。
力が強すぎて戸がガタンッ!と大きな音を立てる。
「────チッチ!」
この二年間会いたいと恋焦がれていたあの少年が居る。夢じゃない、現実だ。
吸い込まれそうなほどに美しい空色の瞳が目の前にある。
ドラコは耳まで赤くなり、しどろもどろになりながらも何とか言葉を捻り出した。
「ど、どうして、ここに……!?」
「お前誰だ?」
心が割れる音が耳の奥から聞こえた。チッチは、ドラコのことを全く覚えていなかった。
チッチの設定は少しずつ小出しにしていきます。あとハリー・ポッターも女体化させるべきが凄く迷ってます。
なので本作を読んで下さった方にアンケートを取りたいと思います。
気軽に投票して下さい。
原作通り男の子でいくか、女体化させるかで本作のストーリーを若干変えるつもりです。