二年前のあの日。ドラコはチッチと出会ったことを誰にも言わないでいた。自分だけの大切な思い出にしたかったからだ。
ドラコは女として魅力的になるために努力を重ねた。再会できた時、見惚れさせてやろうと思ったから。いつか必ず会えると信じて。
意図せず叶った再会。叶ったはいいが、どういうわけかチッチはドラコのことを全く覚えていなかった。
「僕が誰だか分からないの?本当に?」
「知らねぇな。どこかで会ったことあんのか?悪い、半年前のことはなんにも思い出せないんだよ」
半年前のことが思い出せない?、とドラコは復唱した。コンパートメントの戸を閉めてチッチの隣へ座る。通路に残されたクラッブとゴイルはどうするか悩んでいると、車内販売の声が聞こえたので直ぐにそっちに夢中になった。
「君、自分の名前は分かる?」
「えっーと…………うーん……なんだったっけ……」
言葉が見つからない。二年前のチッチはすんなりとはいかなかったが自分の名前を口に出来ていた。
チッチは「あ!」と何か思い出した表情になり、ローブに手を突っ込んで小さな紙切れを引っ張った。
紙切れには達筆な字で「貴方の名前はチッチ・ファルディス」と綴られていた。
「チッチだ!俺の名前、チッチ・ファルディス。危ねぇ危ねぇ、ミネルバのばあちゃんに感謝しなきゃな」
「ミネルバ・マクゴナガルのこと?」
「ああ。
半年ほど前に
生き残ったのはチッチだけ。残った子供達は言葉にするのも憚られるほど無惨に殺されていた。
当時、ドラコは「日刊予言者新聞」でその記事を目にしたことがあった。チッチの名前や写真は載っていなかったので最後まで目を通すことはなかった。
「君は本当に半年前のことは何も思い出せないの?」
「なんにも。
「あ、ああ……そうだったね。僕はドラコ。ドラコ・マルフォイだ」
「良い名前だな。よろしくな、ドラコ」
チッチはにこやかに手を差し出す。その手は刃物で切られたような傷跡がくっきり残っていた。
「僕達は……二年前に会っているんだ」
傷跡だらけの手を握りながらドラコは言った。
「だから俺に声かけてきたのか。ごめんなドラコ、なんにも覚えてなくて」
「君が謝ることじゃない。君とこうして出会えたことが僕は何よりも嬉しいんだ」
ドラコの言葉にチッチは嬉しそうに笑った。チッチの笑顔を見るとドラコの胸が急激に熱くなった。
「ご両親のことも思い出せない?」
「俺が生まれてちょっとした頃に死んだって。ばあちゃんはそれ以上なんにも教えてくれなかったけど、俺は純血らしいぜ」
チッチの口から純血と言葉が出た時、ドラコは花が咲いたような笑顔になって彼に抱きついた。
抱きしめたことで直に伝わるチッチの体の細さに絶句したものの、自分と同じ純血の家系ということが分かった嬉しさでつい力を込めてしまった。
「やっぱり君は純血だったんだ!僕たちの出会いは必然どころじゃない、運命だったんだよ!僕達は確実にスリザリンに選ばれる!あぁ……君が純血じゃなかったら失神してたよ!」
「痛てて…………おかしな奴だな、たかが血の繋がりでそんなに喜ぶなんてよ」
魔法界に疎いチッチはドラコの考えに共感は出来なかった。ドラコの家系は純血至上主義の考えが浸透している。
なんの穢れのない純血の家系こそ偉いのだと、本気で思っているのだ。
ドラコは喜びを隠しきれなかった。顔は真っ赤になってチッチにぴったりくっついている。
「おい離れろよ。なんだよ急に」
純血と口にした途端のドラコの豹変ぶりにチッチは困ってしまう。
「離れろなんて言わないで。僕は……僕はずっと君に会いたかったんだ」
ドラコはチッチの頬に手を添える。あと一センチで唇が触れ合う。脳天から煙が噴き出しそうだ。ドラコは顔の熱がどんどん高まっていくのを感じた。
『あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いたままで結構です』
「────────ッ!?」
突然車内に響き渡ったアナウンスにドラコは驚きのあまり後ろへ飛び退いた。
飛び退いた勢いが強かったためにコンパートメントの戸に後頭部をぶつけてしまった。ドラコは「ぐぇ!」と唸り、涙目になりながら両手で後頭部を押さえた。
「何やってんだお前」
チッチの呆れたような言い方にドラコは「うるさい!」と返した。
汽車は徐々に速度を落とし、五分後には完全に停車した。通路は瞬く間に人の群れでごった返す。ドラコはチッチの方へ振り向いて手を差し出した。
チッチはドラコの手を握る。手を繋いだ二人は押し合いへし合いながらも汽車の外へ出た。
汽車の外へ出ても二人は手を繋いだままだ。外は暗いプラットフォーム。夜の冷たい風にドラコは身震いした。
「寒いのか?」
「うん……君は寒くないの?」
「何も感じねぇ」
チッチは繋いでいた手を離し、着ていた漆黒のローブを脱いだ。それをドラコの首へマフラーのように巻いてあげた。
「長いローブで良かったぜ。ほら、これでちょっとはマシだろ」
さっきまでチッチが着ていたローブが首に巻かれている。ドラコは微かに香るチッチの匂いに満たされながらもう一回手をつないだ。
「僕以外の女の子に同じことをしたら呪うから」
「その呪い跳ね返してやるよ」
「イッチ年生!イッチ年生はこっち!」
ランプを持った髭もじゃもじゃの大男が現れた。彼はルビウス・ハグリッド。ホグワーツの森の番人で毎年1年生の引率係を務める。
ハグリットの後ろを1年生が追い掛ける。険しくて狭い小道を歩き、狭い道を抜けると大きな黒い湖のほとりに出た。
岸辺に繋がれた小舟にドラコ、チッチ、クラッブ、ゴイルの4人が乗り込む。
ホグワーツ城の地下にある船着き場に到着し、全員が小舟から降りたのを確認したハグリットは石段を登っていく。
石段を登り切ると巨大な樫の木の扉が待ち構えていた。ハグリットは大きな握り拳を振り上げ、樫の木の扉を3回叩いた。
開かれる扉から視線を外し、ドラコはチッチのほうへ顔を向けた。チッチは眠たそうにして目を擦っている。
「チッチ」
「んぁ?」
「組み分けが終わったら祝杯を挙げようね」
チッチはドラコが言った言葉の真意が分からなかった。
皆さんアンケートご協力ありがとうございます!投票の結果、ハリー・ポッターも女体化させることにしました!
さて、次回は組み分けとなります。チッチはグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンのどれに入るのか、予想を感想で送ってくれると嬉しいです!
追記
ドラコの口調ですがチッチといる時に限りほんのり柔らかくなるようにしています。これは私の癖です。