ぐらぐら幽霊 さま(@guraguraghost)主催の合同誌「ノクチル反省文合同 いちもうだじん 再提出」に寄稿した作品です。

泥酔して別人に送ったのは作者の実話です。

※Pixivにも投稿しています

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それはきっと、彼女にとってはいつもの日常

 夜更かしはどうしようもないことらしい。

 いつだったか、テレビで精神科医が言っていた。だから作業というのは深夜にやるべきであり、そちらのほうが集中力は高まる……というのは都合のいい言い訳である。

 夜の11時。ようやくキーボードに乗った指が激しく動き始める時間。明日の体調を削ってまで行う副業の楽しさは健康とのチキンレースの楽しさに近い。

 フリーランサーの動画編集者、しかも昼は一般職でデスクワークという限りなく最悪に近い労働環境ではいつか精神も身体も問題を起こすことは分かっていた。それでもこの副業を選んでいるのは「クリエイティブな仕事」という肩書が捨てられないだけである。

 いつもと同じことをやるだけという動画は新規の顧客は増やさないが既存のファンは喜ぶので、アイドルの宣伝動画アカウントでは常套句の仕事だった。それに乗っかってしまえば、退屈な似たような仕事は大量にあった。

 聞いたこともない名前のアイドルの下らないし面白くもない雑談配信を「切り抜き動画」という銘で飾り付け、無駄な部分を削ぎ、フリーのサウンドエフェクトで情報過多を起こす。

 数か月前にAIによってすべてを自動化したアカウントを見た。――コメントの動きによって該当部分の切り抜きを行い、自動的に投稿するらしい。きっと2年後にはこの方法が一般化されるのだろう。

 マニュアル通りの編集方法でつまらない話を10分程度に飾り付け、それを元請けの映像会社に納入するだけの単純な仕事。

 どんなに凝っても両の手で足りるレイヤー数のタイムラインに並んだメディアを切り貼り。どんなに凝った編集をしたところで、動画の再生数には寄与しない。

 ……凝った編集をしたところで、技術力の無い自分では表現できない。

 くだらない、廃材アート。アメリカか、どこか別の発展途上国にあるサーバーの容量を圧迫する塵の生産者。

 自分が何で動画クリエイターなんて目指してたのかすら忘れてしまった。ただ無感情に、数分前に行った白黒+ノイズ表現と安い音声素材で深刻そうな雰囲気を作り出す。

 

「ん……」

 

 薄っぺらい耳に障るだけの声の中に、通知音が紛れ込んだ。深夜だというのに珍しい。

 副業用のチャットツールを開くとDMにはピンボケされた居酒屋の画像とたった一言のメッセージ。

 

〈YEA〉

 

 意味が分からない。

 作業の手を止める。単純作業で疲弊しきった脳みそに無理やり喝を入れて写真の意味を探ろうとする。

 送り主は端的に「浅倉透」と記されていた。メモ書きを見ると「283プロ ノクチル所属」とある。数秒かけて、それが数年前に仕事を請けたアイドルユニットであることを思い出した。

 たしかに珍しかった。非対面でのやりとりが主流となっていたのにも関わらず対面でのミーティングを求め、素人に毛が生えたような自分を直接雇った事務所だった。たしか動画の企画かなんか――そうだ、かなり大掛かりな装置を使った理科の実験の動画の撮影と編集に代打として呼ばれたんだった。あそこまで大規模な仕事はあの一度しか経験していない。

 しかし……これは何だ? 確かにやり取りも行ったが、基本的にはプロデューサーとしかやり取りはしていない。アイドルとのやりとりは事務的なもので数年ぶりにこんな写真が送られるような関係では絶対ない。

 おそらく――飲み会の写真を酔った勢いで送ろうとしたが間違ったアカウントに投稿してしまったのだろう。

 ……と考察してみたはいいものの、これの対処はいったいどうすればいいのだろうか。深夜だからいっそのこと見ていないということにして放っておくべきか?

 そうこうしているとさらに何か送られてきた。

 

〈樋口〉

 

 写真は茶髪の女性が机に突っ伏している様子だった。

 ……見ていいのだろうか。樋口円香とは恐らく関わりは一ミリだって無い。

 一応プラウザを開く。ノクチルは……何度かの炎上は起きていたものの、現在でも元気に活動をしているようだ。浅倉透と樋口円香両名は二十歳だ。大丈夫、未成年飲酒ではない。

 ……といっても特に問題が解決したわけではない。結局これはどのように指摘すればいいのだろうか?

 

〈もしかして間違えて投稿してますか〉

 

 気づいちゃったようだ。

 さすがにこれには応えなきゃいけないだろう。そう思ってDMに返信することにした。

 

〈削除してくれれば私は見なかったことにしても構いませんが〉

〈プロデューサーに聞いてみます〉

 

 それが正しい判断だろう。もっとも大した情報流出ではないのですぐに解決はするだろうが………事務所にいくつかメールを送らなければいけないかもしれない。

 とりあえずこれで終わり――

 

〈レオーと作ったひとですよね〉

「………」

 

 え、続けるの?

 酔っぱらっているためか判読不可能な誤字よりも先に、どうして送り主が誤爆したと分かっていながらもやり取りを続けようとしているのか理解できなかった。

 ぱぽん、と通知音。

 

〈楽しかったです。またやりたいです〉

「……」

 

 楽しかったかぁ。

 

*

 

頭が痛いです。

昨日、樋口と一緒に居酒やでお酒を飲みました。ビールはきらいです。なのでコーラのやつとか牛乳のお酒を飲みました。肉はそんなにおいしくなかったです。えだ豆はおいしかったです。

雑誌の人に、お酒でどんな感じになるのって聞かれたのを思い出したので写真を送りました。店の写真と寄って眠そうになっている樋口の写真です。11時過ぎに送りました。

送った後に反応がないなと思ったら、違う人に送っていました。

樋口に、まちがって送った人のことを教えてもらいました。チョコでレコードを作る動画をいっしょに作ってくれた人だったようです。

だいぶ昔の人にまちがってプライベートの写真を送ってしまいました。

本当にすいません。

千雪さんに正しいお酒の飲み方を教えてもらいます。

 

 

*

 

 お酒ってさ、案外大したことないよね。

 浅倉透二十歳が事務所で大目玉を食らった後にそんなことを言った瞬間、樋口円香は二人で大量の酒を飲んだのを激しく後悔した。

 

 


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