目を開けると最初に見えたのは、今までに見たことがない様な巨大な塔だった。
俺は大きく目を開けたまま立ち尽くし、呟く。
「やっと、来れた・・・」
そう呟くと同時に叫び声が聞こえた。
それは、俺と同じで巨大浮遊城「アインクラッド」に来れた喜びによる歓声だった。
苦渋の表情を浮かべ、まだ人で溢れ返っていない町へと駆け出して行った。
FNC。フルダイブ不適合。
それは、俺がナーヴギアの初期接続テストで出された結果であった。
フルダイブ不適合とは、フルダイブ環境になった場合に五感のどれかが完全には機能しないとか、脳との通信に多少のラグなどが発生してしまうことを言う。
普通は大した障害にはならないが、中にはフルダイブそのものが不可能になると言うケースもあるらしい。
俺のFNCはフルダイブが不可能になるほどの物ではなかったが、五感の聴の部分に異常を来たしていた。それは、聞こえないわけでは無く、聞こえすぎる異常であった。
発売される三日前からショップに並びようやく手にしたときには涙が溢れた。それに合わせてナーヴギアも一緒に買った。ようやく憧れていた冒険と言うものに出会えると思っていた矢先のフルダイブ不適合。
もちろん、俺は一万しか販売されないソフトを入手出来たのにも関わらず、異常があるために諦めるということは出来なかった。
試しに他のVRゲームをしてみたところ、人がたくさん集まっているところに出ると、声が聞こえすぎて吐き気を催した。
十数分ならば我慢できると悟った俺はその日からSAOの情報を集めた。最初の町から次の町への道、その間に生息しているモンスター、ショップに売っているアイテム、βテストをしている人たちから集められるだけの情報を集めた。
そこで、最初の町から少し先に行ったホルンカという村に耳栓と言うアイテムがあることを知った、そのアイテムを装備することによって周囲の音を九割カットしてくれるアイテムだと言う。
ホルンカまでの道のりは険しくなく、ほどんどが非攻撃モンスターで行くまでは安全で狩りの拠点にもしやすい。
耳栓を装備するまでは一切、人との接触を避けたかった俺は最初の町から即刻にホルンカに行くことを決めていた。
急いで最初の町でショートスピア二本と回復ポーション五本を買った俺は近くの草原へと向かった。
「とりゃ!」
掛け声と同時に槍の矛先が青いイノシシに当たった。
しかし、HPは三割ほどしか削られておらず、イノシシはこちらに目掛けて突進をしてきたが、紙一重で突進を回避する。青イノシシは最初に出てくる雑魚モンスターだが、空振りや攻撃被弾をしているうちにHPを七割削られてしまった。
「あぶなっ・・・・・・それにしても情報で対処方は分かってたけど速いな」
予想していたよりも難しいソードスキル発動に焦りを覚えながらも、俺は情報サイトに載っていたコツを思い出す。
「大切なのは初動。タメを意識して・・・スキルが立ち上がったと思ったら、あとはスキルのモーションを意識しながら放つ!」
今までとは比べ物にならないほどの滑らかな動きで地面を蹴る。青イノシシもクリスに向かって突進を仕掛けようとしている。
青イノシシが突進するよりも早く、心地よい効果音を響き渡り、槍の先端が青色の線をクリスと青イノシシの間を繋ぐ。複合槍突進技《プリック》が、青イノシシの眉間に命中し、七割近く残っていたHPを吹き飛ばした。
「うしっ!」
小さくガッツポーズをした俺は再び、十メートル近く離れたイノシシに狙いを定めた。気が付かれないように数メートル近づき、短槍を振りかぶる。投剣スキル基本技《リサールシュート》のモーションを起こした。
相手がこちらに気付いていない場合には先制攻撃のチャンスがある。放たれた短槍は吸い込まれる様に青イノシシの体に突き刺さり、HPを半分近く削った。
イノシシもこちらに気付き突進してきたが、一直線に突っ込んでくるだけなので、慣れたら余裕で避けられるようになる。突進を避けられたイノシシは急旋回も急停止も出来ないらしく、こちらに背を向け徐々に速度を低下させている。それを追うように用意してあった短槍を拾い《プリック》を発動させ、後ろから突き刺す。HPが無くなり、ガラスの様に砕け散った。