《始まりの町》は中世のヨーロッパを意識した作りとなっている。
美しく整った町並み、レンガ造りの建物。どこを見ても美しいと感じざるを得なかった。
「クリス君。口が開きっぱなしだよ」
隣にいるルサが口元に手を当て笑っていた。
どうやら景色に見とれて口が開いてしまっていたらしい。
「始りの街をこうやってじっくり見るのは初めてでさ」
頭を掻きながら照れ隠しに少し笑ってしまう。
現在、俺たちは始まりの町の北西ゲートにいる。ここから主街区に向かって歩き、大通りの商店街へと行く予定になっていた。
「そうなんですか」
ルサが少し驚いたような顔をする。
「最初に来た人はほぼ全員が観光してると思っていたので」
と、補足を加えてくる。
「俺も観光したかったんだけどね。それよりも先に耳栓を手に入れないといけなかったから」
俺にとっては何気ない一言であったが、ルサの表情を見る限り誤解をしてしまったらしい。
もちろん始まりの町を観光したくない事はなかったが、する暇がなかったし、そこまでの余裕も生まれていなかった。今がいいチャンスだろう。
ルサも同じようなことを思いついたらしく。
「一日余ってますし、観光しながら歩きましょうか。私、結構詳しいので案内しますよ」
気を使ってくれているのがとてもよくわかった。
ここは遠慮せずにその提案に乗ることにした。
「ゲートを抜けて見えて着ますのが、主街区であります」
観光バスにいるガイドの物真似をしながら案内してくれるらしい。
少し苦笑いをしながら後ろへ着いて行く。
「そして右手には大きな時計塔が建っています」
右を見ると大きな時計塔が建っていて、主街区の象徴となっている。
時刻は十二時になったばかりであった。
「ここの路地裏の先には……」
ルサが少し小走りで路地裏に入って行き、慌てて後を追いかける。
路地裏に入ると、ルサが道のど真ん中に立っていて、後ろにある一つの看板に指をさす。
「あちらが私のお気に入りのレストランとなっております」
ルサは満面の笑みで見つめてくる。
してやられた。と思いながらも、笑顔に釣られ俺自身も笑ってしまう。
「それじゃあ、お昼にしよっか」
と、提案すると。
待ってましたと言わんばかりにルサは店の前まで走っていく。
「早く早くー」
ルサが手招きをしてくる。
苦笑いをしながらも、ルサの元へ走って行った。
「おいしかったー]
ルサが満足げな声を出す。
確かに味にうるさいルサのお気に入りなだけあり、料理はとてもおいしかった。その分だけ値段も高かったが。
サラダから入り、シチューやステーキ。皿いっぱいに盛ってあるミートソーススパゲッティはゲーム内で食べたどの料理よりも美味しかった。
しかも、デザートはベリータルトを注文したが、これまた絶品で、果実の酸味に甘すぎないカスタードクリームがすごく合っていて、俺好みの味であった。
「確かに美味しかったね」
ルサのさきほどの言葉に同意すると。
「だよねっ! 料理も美味しかったけどデザートがとっても美味しいんだよ」
店員を呼び、ウィンドウから追加注文をする。これで四皿目。
もちろん支払いは割り勘である。
まあ、ルサの笑顔が見れるなら安い出費だ。
注文して数十秒で出てきたケーキをフォークで食べ、幸せそうな笑顔になる。
その笑顔に釘付けになっていたが、途端に目が合った。
急に視線がぶつかったため、ドギマギしていた俺だがルサのほうを一目見ると何やら考え込んでいた。
しばらく考えたすえにルサの口から出てきた言葉は。
「食べたいなら一口あげるよっ!」
少し思っていたことだが、またもや勘違いしている様子だった。ルサは俺がケーキを食べたくて見ていたと思ってしまったらしい。
フォークでケーキを切り取り、そのまま俺の口元へと運んでくる。
「はい」
ルサは自然な動作であったため、釣られて食べてしまった。
すると、ルサも気がついたらしく、顔を真っ赤に染め、照れ笑いをする。
「えへへ。アーンしちゃったね」
その言葉を聞き、俺も赤くなるのがわかった。
その後、店を出るまで気まずい雰囲気は続くのであった。