現在、俺たち一行は迷宮区に近い《ルーベルト》という村に来ている。
村の外見は至って平凡で、家の数は見たところ三十くらいしかない。
「ここだ」
ルーが立ち止まる。
目の前には鍛冶屋の店がある。
躊躇いもなく店の中に入っていくルーのあとに着いていくと、あまり武器や防具が置いていていない店内が広がっていた。
始まりの町の鍛冶屋よりかは、はるかに大きいが壁に掛かっている武器は空きが多い。
「おい、店員」
ルーが店員に話しかける。
どう見てもお客様と言った感じだ。ルー自身が店を開いている身とは思えない態度だ。
「いらっしゃいませ」
カウンターに佇んでいたのは、俺と変わらないくらいの少女の姿であった。
後ろの工房には誰もおらず、鍛冶屋特有のハンマーを叩く音も聞こえない。
「すみませんがお客様。現在、武器を作っている兄が素材集めから帰っておらず、販売しかしていないのですがそれでもよろしいですか?」
鍛冶屋の店員は悲しそうな顔をしている。
ここで販売のみで構わないと言うと武器や防具を売ってくれるのだろうが、ここで「いいえ」と言うとクエストが発生するのだろう。
「兄を探してやろうか」
ルーが上から目線で店員に話しかける。
「よろしいのですか?」
店員は少しだけ期待の眼差しをルーに向けるが、再び悲しそうな顔になる。
「兄はこの村を北に行ったところにある《ゴーレムの洞窟》と言うところに行っています」
下を向いたまま、少女は話している。
「冒険者さんには悪いとはおもうのですが、どうか兄を探してください。お礼はいたします」
「わかった」
ルーは即座に答えると同時に店内から出て行く。
なんというか、雰囲気とかよりも効率重視なのだろう。
俺とルサはルーの後を着いていく。
「まあ、大体分かったとは思うがクエストだ」
ようやく、俺が連れてこられた理由を述べられた。
もちろん昨日の夜にルサから話しを聞いていたが、ルーからの説明は一切なかった。
「おそらくお前にとっては初のボス戦だとはおもうが大丈夫だな」
俺の返答は待っていないらしく、先に歩いていってしまう。
「ボスってどんなの?」
代わりにルサに質問することにした。
「んーとね。大きいゴーレムだよ」
期待した答えとは違った答えが返ってくる。
「ダンジョンの名前から予想はつくよ。なんか注意事項とかないの?」
聞きたい情報は敵がどういった攻撃をしてきて、どこに注意したらいいかという点だった。
「とりあえず今のレベルだと攻撃を喰らったら、体力が半分以上なくなっちゃうから攻撃に当たらないことかな?」
少し待って欲しい。
半分削られる?
それは、今やるべきことじゃない気もするのだが。
「ちょっと待って。そんな相手に挑むの?」
「うん」
ルサはさも当たり前かのように答える。しかも即答。
「相手の攻撃は遅いし、距離を保っていれば余裕の相手だよ」
でも、半分削られると。
おそらく、金属鎧を着ているルサで半分くらいと言う事は、俺だと六割近く削られることになる。
そして一番の問題は、ルーの防具だ。
なんとびっくりなことに、布防具を着ている。防具の中では一番低い防御力を持つ。
もちろんそれに伴って敏捷値に補正は掛かるのだが、ルーの能力振り分けは筋力のみに振っているらしい。
しかも、持っている武器は両手槌。ルーのけして低くない身長とおなじくらいの長さがある。
ルーいわく、筋力値が武器で精一杯らしい。
「ルー。本当にその防具で良いのか?」
先に進んでいるルーに追いつき、もう一度確認する。
いまだに救援がこないこのゲームは、本当のデスゲームとなっていることは間違いないのだ。
当初は半信半疑であったが、三週間も助けがないとなると本当なのだろうと結論付けられた。もちろん、今でも疑ってはいるが。
「大丈夫だ」
ルーは先ほどと同じ答えを出す。
「攻撃に当たらなければどうってことはない」
決め台詞を吐くルーにため息をもらす。
ここまで来ると、戻るのは無理そうだ……。
俺だけ戻るという案もあるのだが、おそらくこの二人は俺がいなくなっても行くのだろう。
そんなのほっとけるほど非情ではない。
誘われたということは、俺でもいるだけマシを思われたのだろう。
「そうですか……」
反論も出来ず引き下がる。
ルサは心なしかワクワクしてる様にも思える。
俺自身は不安でいっぱいなのだが。
村を出て十数分。
思っていたよりも早く洞窟の入り口が見えた。
すると、ルーは立ち止まって振り返る。
「ここなんだが、作戦は必要か?」
その質問に俺が反応する。
「必要ですっ!」
自分でもびっくりするくらいの声で叫ぶ。
さすがに、必要だろう。
「そうか」
眉間に皺を寄せるルー。
めんどくさいのだろう。しかし、ここだけは食い下がることはしない。
「作戦は、相手はゴーレムだから斬撃などはあまり効かない。私の持っているハンマーが弱点だから相手の攻撃を弾くことを専念してろ。いいな」
作戦と言うよりも、命令に近かった。
しかし、分かりやすかったので頷いておく。
ルサはすでに知っていたのか、アイテムの確認をしていた。
「それじゃあ、行くぞ」
ルーは俺の了承を取らずに進んでいく。期待はしていなかったが。
洞窟内は思っていたよりも明るく、ちゃんと道も整っている。
敵はそこまで多くなく、石の体を持った人型のモンスターが襲い掛かってくるが、ルーの一撃で全て消え去っていく。
おどろいたのはルーの攻撃力の高さだ。
打撃が弱点と言っても、ここは最前線のダンジョンであり、ルーは生産職でもある。
その生産職に火力で負けるとなると、少し落ち込む。
ルサは周りにある鉱石類を集めていて、俺も暇なのでそれのお手伝いをする。
「ルーちゃんすごいでしょ」
ルサが鉱石を集めながらも話しかけてくる。
「すごいと言うか……」
ルサの言葉に返答しながらルーのほうへ視線を向けると、笑いながらゴーレムを叩き潰す瞬間であった。
「ルーちゃんは根っからの戦闘マニアだからねー」
アイテムストレージを整理しながら喋るルサにルーが反応した。
「それはルサだろうがっ!」
ルーはもう一体のゴーレムを叩き潰しながら叫ぶ。
「そんなことないよ」
ルサもその言葉に反応する。
「第三層のフロアボスに一人で挑んだときのことを話してやろうか」
ルーは周りのゴーレムを倒しきったのか、俺たちに近づいてくる。
「うっ」
その言葉を聞き、ルサは顔を青くさせる。
「フロアボスに笑いながら特攻して行ったのは誰だったかなー」
ルーは楽しそうに話している。
「わーわー。ルーちゃんその話は駄目ーーーーー」
よっぽど聞かれたくないのか、全力で止めに行くルサ。
そんなに凄かったのか……。
「わっはっは。まあ、この話しはこのクエストが終わってから話すとしよう」
豪快に笑うルーに対してルサはしょんぼりとしている。
「もうその話しは忘れようよぉ」
懇願に近い形でルーにお願いしていた。
「まあ、その話しは置いといて。そろそろだぞ」
ルーの視線の先には暗闇が広がっている。
整備された道もその暗闇の前で途切れていて、暗闇の先は異質を放っている。
「それじゃあ、再確認だ」
暗闇の前で腰を下ろす。
ここらへんは安全エリアで敵も出てくることは無い。
「まずは攻撃だが、ボスは殴り攻撃しかしてこない。しかも、予備動作からも遅いから避ける事は難しくない」
ルーはいつもより真剣なので、きちんと真剣に聞くことにした。
「問題はリーチが長いってことだな。距離を保っていれば問題ない」
言い終わると同時に立ち上がる。
「ちょっと早くないか!」
鉱石を集めていただけなのでそこまで疲労はないが、問題はルーだ。
数十ものモンスターを相手にして、疲労がないわけがない。
ここは一旦、休もうと提案しかけたときにルーの口が開く。
「早く戦いたくってしょうがないんだ」
顔には満面の笑み。
ルサのほうを向くが同じような顔をしている。
「はぁ。わかりましたよ。行きましょう」
重たい腰を上げる。
気分は最悪だ。
もちろん戦闘にはいれば、気分も切り替わるのだが乗り気ではない。
少しだけ自分がおかしいのかと言う錯覚に陥ったが、決して俺がおかしいわけではない。
周りがおかしいのだ。
デスゲームと化したこのゲームで、生き残る事を一番に考えず、楽しむことを考える者はいないと思っていたが、考え直さなければならないらしい。
「よっしゃ!いくぞー」
ルーが声をあげて暗闇の中に突入した。
遅れて俺たちが入っていくと、周りにあったたいまつに火が付き、周りが明るくなる。
最初に見えたのが俺の身長の五倍近くもある、石の石像であった。
「もしかして、こいつ……?」
少し恐怖を覚え、隣にいるルサに話しかける。
「そうだよー」
気の抜けた声が返ってくると同時に地響きが起きた。
もちろん地震などではなく、石像が動き出したことによって起きたものであった。
「ぎゃーーーーーーーーーー」
叫ぶ俺にルーが後ろから蹴りを入れる。
「しっかりしろ。頼りにしてるからな」
その言葉を言い残し、石像へと突っ込んでいく。
「あ、おいっ! ルー危ないぞ」
俺の忠告を無視して、ルーは突っ込んでいく。
動き出した石像は右足を上げてルーを踏み潰そうとしていた。
ルーはそれを分かっていたようで、回避する。
言われていた通りに攻撃は遅いが、踏み出された足によって地響きが起きる。
ルーはよろけながらも、がら空きの左足へと攻撃をする。
黄色いエフェクトに包まれたハンマーを石像の左ひざ目掛けてぶち当てる。
石像の地響きに負けないくらいの音が鳴り響き、石像が膝をつく。
それを予想していたかのように技硬直が解けた瞬間にルーは高く跳躍した。
空中で大きく振りかぶり、振り下ろす。打撃系の武器の特徴は振り下ろし攻撃に補正が掛かるということだ。重ければ重いほど振り下ろし攻撃の攻撃力は増す。
ルーのハンマーは現在ゲーム内で一番の重さを持つであろう、その攻撃力は計り知れないものになっているはずだ。
石像の体力を見ると、五本の中の一本が七割ほど削られていた。
「なんちゅー防御力してるんだよ」
つい、突っ込んでしまう。
今まで出てきたゴーレムは、ルーの通常攻撃の一撃で全ての体力が消し去っていた。
しかし、今回はソードスキルを二撃いれたにも関わらず、一本目の七割しか削られていない。
「おいっ、クリス!集中しろ!」
着地と同時に硬直に掛かっているルーに怒鳴られる。
こんな呆然と見ている場合ではなかった。
急いで、石像に攻撃を始める。
「反撃っ、くるぞっ!」
ルーが叫ぶ。
石像はルーに目掛けて拳を振り上げている最中であった。
その拳目掛けて、投擲スキル《リサールショット》で槍を放つ。
槍が青い閃光を描き、石像の拳へと吸い込まれていく。槍を強化したおかげで命中率も良くなっていることが分かる。
予備動作中に攻撃を受けた石像は仰け反る。
それを見逃さなかったルサが相手のひざ目掛けてソードスキルを発動させる。
盾専用スキル《ラッシュ》。数はそんな多くない、盾による攻撃スキルだ。ノックバックしている相手に放つとノックバック時間が延長される。
剣での攻撃はほとんど効かないために、サポートに徹するしかないルサの機転の利いた攻撃だった。
その隙にルーが再びソードスキルを発動させる。
両手槌専用スキル《ターンアタック》。回転の遠心力を使い、攻撃する。
ルーを軸として黄色い円が出来上がる、相手の足へ一撃、二撃……計六撃の攻撃を行なった。
このスキルは敵に攻撃を当てた回数に比例され、技硬直が増えていく。基本的に三撃当たりで止めるのが主流になっているが、ルーにとっては関係ないらしい。
その間に、拳はルーに目掛けてすでに放たれていた。
俺は槍を拾っていなく、攻撃に参加する事は出来ない。
《クイックチェンジ》で最速で予備の槍を装備したが、すでに間に合わない。
「ルー危ないっ!」
俺が叫ぶと同時に、ルーの前にルサが盾を構えていた。
盾に拳が当たり、ルサが吹き飛ばされた。
「ルサっ!」
ルサの方向を見ると、体力は二割ほど削られていたが、大したことはなさそうだった。
ルーはルサを殴り飛ばした後に残された、腕に攻撃している。
現在、石像の体力は二本目があとわずかと言ったところだ。
石像の足が上がる、それに目掛けて槍を放つ。
石像に当たると地響きとともに倒れる。
ルーはもう一度跳躍をして、ソードスキルを発動させる。跳躍振り下ろし攻撃《インパクト》。
「はあぁぁぁぁぁぁ」
ルーが叫びながら、石像の頭目掛けてハンマーを振り下ろす。
石像も雄たけびを上げる。
体力が一本削られて、残り二本となった。
「こいつ声が出るのか」
ルーが気の抜けたことを言う。
「βの時にはなかったよねぇ」
いつの間にか体力が全回復しているルサが隣にいた。
石像は立ち上がり、もう一度雄たけびをあげる。
ルーは一度石像から距離を置いた。
「なんかおかしくないか」
ルーの顔には緊迫した表情がある。
すると、雄たけびが終わった瞬間、石像が今までとは比べ物にならないくらいスムーズに動き出した。
ルーとの距離とすぐに埋め、拳を振りかぶる。
「なっ!」
ルーは何とか回避する。
拳は床へとあたり、その破片がルーを襲う。
「ぐっ」
うめき声をあげるルーを他所に、石像は再び拳を振り上げる。
「ルーちゃん危ないっ!」
すんでのところでルサが盾で受ける。
今度は吹き飛ばされなかったが、体力は先ほどと同じくらい削られている。
「βの時と動きが違う……」
ルーの顔には焦りが見えるが、すぐさま笑みに変わった。
「面白い。そうでなくっちゃな」
石像との距離をつめる。
「クリス! 今まで通り予備動作があったら牽制してくれ」
「わ、わかった」
「ルサは防御に専念してくれ」
「りょーかいしましたー」
ルーは支持を出しながらも、石像に攻撃する。
ソードスキルは発動せず、通常攻撃だ。
体力は一割も削られていない。
拳が振りあがった。すかさず槍を投げる。
拳に当たり、ノックバックが発生するが、今までより時間が短い。
ルーはそれを予想していたかのように、ソードスキルではなく通常攻撃を的確に当てていき、距離を置く。
「悪い。二十秒だけ時間を稼いでくれ」
ルーはそういって、アイテムウィンドウを開いた。
その言葉を聞き、俺は石像との距離をつめる。
大した攻撃は出来ないが、時間を稼ぐくらいならば可能だろう。
ヘイト値はルーに集まっているせいか、石像のターゲットはルーのままだ。
ルーに目掛けて放たれた拳をソードスキルで対応する。
もちろん、威力の面ではるかに劣っている俺は吹き飛ばされたが、時間は稼げただろう。
石像は再び、ルーへと拳を放つが、ルサが受け止める。
「よくやった。上出来だ」
ルーはハンマーの頭の部分が一回り大きくなっている武器を装備しなおしていた。
そのハンマーで石像の腕を攻撃する。
石像はノックバックを起こし、すこしの間、硬直する。
ルーはその間に足元へと走っていき、膝へとハンマーを振った。
先ほどとは違った重い音が鳴り響き、石像が倒れる。
ルーは跳躍しハンマーを振りかぶる。
「ちなみにな、この武器。《重さ》+6だ」
石像に言ったのか、俺たちに言ったのかは不明であったが、《重さ》に特化して強化された武器の破壊力は凄まじいものだった。
弱点である頭目掛けて振り下ろされたハンマーは、意図も簡単に石像の頭を破壊して。石像の体は硝子片へとなり砕け散った。
「いやぁー大量大量」
機嫌がいいのか、ルーは鼻歌を歌いながら歩いている。
クエストボスのドロップ品も凄まじかったが、クエストの報奨もすごいものであった。
少し浮かばれないことがあるとしたら、鍛冶屋の店員であった少女のお兄さんは、すでに亡くなっていたと言う事だ。
ボスのドロップ品の中に、鍛冶屋ハンマーが入っており、そのハンマーの名前に形見と入っていた時点で気がついた。
報奨は素材アイテムがたんまりであったが、全てルーの懐へ入っていった。
その代わりに、俺たち二人は今後の武器の強化やメンテでの手数料は取らないと言われた。
今後のことを考えると、それはとても助かる。メンテや強化の手数料も結構かかってしまうのだ。
「それにしても、βのときと変わってるなんて思わなかったな」
ルーが思い出したかのように言った。
「そうですよ。危うく全滅するかと思いました」
一歩間違えれば本当に全滅しかねない状況であった。
「でも、楽しかったねー」
吹き飛ばされていたにも関わらず、ルサはいう。
「だな」
ルーもそれに同意な様で満面の笑みを浮かべている。
「それでもこれからは気をつけないとな。βテストのときの情報に頼ってばっかりだと、危ないかもしれないぞ」
今さらだとは思ったが、それには同意だ。
俺自身もβテストの時の情報を当てにしすぎていた気もする。
これからは考えを改めないといけない。
「それじゃあ、今日は私が奢ってやる」
ルーが太っ腹なところを見せる。
「「やったー」」
ルサと俺が同時に声をあげた。
その後、ルサの食べっぷりによってルーが泣きを見るハメになったのは内緒のお話。