クエストを受け、外へと出る。
簡単なクエストだったが、報酬がとても良かったのだ。
報酬は槍の《スチールショートスピア》であまり難しくないわりに簡単だったのだ。
しかも、丁寧なことに選択肢までも用意されてあった。
スチールスピアの長さが、短いものと、普通のものと、長いものの三通りの選択肢があった。
槍は生産するときに任意の長さを決めることができる。
短槍だと、短いため小回りが利き、攻撃を素早くすることができる。そして最大のメリットは投剣スキルによって投げることも可能という点だ。
投剣専用武器に比べると、命中率は心もとないが威力が凄まじく、なおかつ武器本体を強化し、さらに威力が増すという優れものだ。
長槍の利点はリーチが長いという事、牽制攻撃が優秀で,βテスト時のタンクの三割近くの人が長槍を使っていたらしい。
普通の槍は、短槍と長槍間といった感じだ。小規模ギルドの人たちでタンクも出来、アタッカーにもなれる万能屋で重宝されたらしい。
その三つが用意されていたクエストはとにかく簡単で、ホルンカの村の装備屋に作った装備を送ってほしいと言うものであった。
そして、一番気になったのは、このクエストは情報サイトには載ってなかったことだ。
こんなにも簡単なクエストが野放しにされているほど情報サイトに穴があるわけが無い。
つまり、これは特殊な条件によって起こるクエストというわけだ。
初めて情報サイトに載っていなかった情報を手に入れた俺は柄にもなくスキップをしていた、幸いにも周りには人もいなく声も聞こえない。
この武器の強化方法を考えていた時、突然鐘のような、警報機のような大ボリュームのサウンドが鳴り響いた。
突然の音に油断していた俺はうずくまってしまった。
すると、かろうじて開けていた目に映ったものは、鮮やかなブルーの壁であった。
次第に、音は小さくなっていき余裕を取り戻せた俺の前に現れたのは色とりどりの装備、髪色、美男美女の人々であった。
数秒間、俺と同じように呆然と立ち尽くしていた前に居た大男が叫んだ。
「どうなってんじゃー、はよゲームから出さんかい!」
それをきっかけに回りにいた人たちがひそひそ声で会話を始め、次第には喚きものも現れた。
約数千人――いや、現在SAOログインしている全プレイヤーの声はとても耐え切れるものではなかった。
しばらくの間、うずくまり耳を塞いでいると急に静かになった。
辺りを見渡すと、上空には真っ赤なフォントで染められた【Warning】、そして【System Announcement】の文字。
そして、二十メートルはあるであろう、真紅のフード付きローブを纏った巨大な人がたたずんでいた。
よく見ると顔が無く、フードの裏側がはっきりと見える。
周囲のプレイヤーが騒ぎ始め、再び頭を鈍痛が襲う。
すると、それらを抑えるかのように巨大なローブの袖が動く。袖口から純白の手袋が覗いたが、袖口と手袋の間にも肉体は無かった。
続いて、両手を広げて、低く落ち着いたている男の声が遥かなる高みから降り注いだ。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
この後に続いた言葉は現実のものとは思えなかった。
要約すると、このソードアートオンラインの世界での死は現実の死と結び付けられており、こちらの世界で死ぬと現実世界の俺の体は脳を破壊される。
この世界から脱出する方法は、巨大浮遊城『アインクラッド』の、のべ百層を全て攻略しなければならないらしい。βテストでろくにも上れなかったのにも関わらず、百層をクリアしろなんて不可能に近い。
ありえない虚言を吐いた巨人は最後に置き土産をしていった。
それは、現実世界の顔がこの世界の顔になってしまうものだった。広場にいた大勢の美男美女は同人誌即売会に参加している人を一万人集めればこういうものができるだろう、というものに変化し、男女比も大幅に変わった。
その後、幾つか言葉を残し、中身のない巨人は消えた。
俺は、周りの喚きや泣き声に頭痛が起き、逃げるようにその場を去った。
向かった先はホルンカの町。
このゲームがデスゲームと化してまだ、数分しかたっていなく、ホルンカへと続く道には俺一人しかいなかった。
それはそれで好都合なのだが、いまだにゲーム内で死んだら本当の死ぬとは考えられず、実感が湧かない。
そのせいなのか、ホルンカへの道のりは順調であった。
深い森の中の迷路じみた、小道を抜けるとそこには小規模ながらも村があり、狩りの拠点として使える最低限の設備は整っていた。
村に着くなり、すぐさま装備屋に駆け込む。
「お届けものです」
と、声をかけると。
「あにゃーなんじゃねー」
と、言う気の抜けた声が聞こえた。
店の裏から出てきたのは、齢九十は超えていそうな老爺であった。
「だから、おとどけものです!」
「買い物かいねー、良い物そろってるよー」
「始まりの町の鍛冶屋から注文の品のお届けものです!」
必死に叫ぶ、しかし老爺は首を横に傾げるばかり。
「あー、買取かいなー。おーい、ばあさんやー」
こんな事を繰り返すこと十分。ようやく、クエストを達成することができた。
幸いだったのが、老人たちはとても小さな声で喋ってくれていたことだ、もちろん普通の人では難儀する小ささだったろうが。
「こりゃー、俺以外のひとはもっと時間がかかるな」
と、苦笑いを浮かべながら雑貨屋へと向かった。
雑貨屋は露天で開かれていて、店員は三つ編みをしていて、麻の服にエプロンを下げていた、いかにも村娘と言った感じである。
「いらっしゃいませー。何をお求めですか?」
本当に生きているんじゃないかと思えるくらいの生き生きとした表情。
始まりの町の鍛冶屋の事務的な会話とは少々違う。
目の前に、半透明の青色のウィンドウが開いた。その中にある耳栓と言うアイテムをクリックし、ついでに回復ポーションもクリック。
決定ボタンを押すと。
「ありがとうございましたー」
と、無邪気な笑顔を見せる。
少し雑貨屋から離れて振り返ると、村娘は手を振ってくれた。照れながらも振り替えした時に気が付く。
「NPC相手に何照れてんだよ!」
自分で自分を突っ込まざるを終えなかった。
NPC相手に恋をしかけてしまうほどに、人が恋しくなった。
訳もわからず、ここまで走ってきたが人との関わり合いは一度もなかった。人肌恋しくなったというかなんというか。
とりあえず、耳栓を装備する。
急に耳が遠くなり、今まで聞こえていたものが聞こえなくなった。
最初に訪れたのは不安。次は喜びであった。
ようやく、人と普通どおりに接することができることに、感激し始めた俺はホルンカの村にぽつぽつと現れたプレイヤーに話しかけに行くことにした。