「すみません、ちょっといいですか?」
俺は雑貨屋で買い物をしていた片手剣を腰に下げている男に話しかけた。
「なんですか?」
視線をこちらに向ける。
俺が喋るより前に相手の視線は一点に集まった。
「ていうか、耳の中にあるやつなんだ?」
まあ、もっともな意見である。俺自身も耳の穴の中に何かを入れている男に出会えば聞いてしまうだろう。
嘘をいう事はできるはずも無い、もし本当にこのゲームがデスゲームとなってしまったのならば、俺は足手まといにしかならないだろう。
自分のFNCのことを言うと、片手剣の男は左右に首を振って、一言侘びをいれてから森の中に消えていった。
続けざまに数名のプレイヤーとも話をしたが、全員に耳栓のことを聞かれ、最初に出会った男のように首を振るだけだった。
おそらく、現在ここにいるのはβテスターだけであろう。彼らはソロの方が効率的なのを知っているし、FNCの俺をお荷物になんて効率的ではない。
少し不安に思ったのが、およそ二時間前に起こったであろう悲劇の話しを一度もしなかったことだ。彼らも俺と同じでいまだに信じられないのだろうか。
湖へと石を投げる。
先ほど、ぼおっとして歩いている最中に見つけた場所だった。
村の大通りからさほど遠くなかったため《圏内》であるためモンスターに襲われることはない。
水面に近寄り下を向く。
ゲーム開始当初は、逞しく育った肉体に爽やかな好青年を思い浮かべるような姿であった。
水面に浮かび上がっている姿は、筋肉は減り、逞しさは失われていた。爽やかな好青年は、残念な好青年へと進化している。
昔、友達に「残念な好青年」のあだ名を付けられた時のことを思い出し。少し笑うが、すぐにため息が漏れた。
学校では友達は多いほうであった。みんなから色んなあだ名で呼ばれて、そこそこの人気者だったと自負している。
SAOを買うため三日間並んだときも、ゲームには興味も無い友達が差し入れを持ってきてくれたことを思い出し、ため息が涙へと変わった。
とにかく、助けがくるかわからない状況の場合は、その状態で生き延びられる方法を考えるべきだ。
俺が立ち上がろうとした瞬間。
「だめぇーーーー!!!」
と、言う声と同時に背中に衝撃が走った。
ふらつく足を何とか押さえつけ、振り返るとそこには俺に抱きついた女の子の姿があった。
目の前にはハラスメントコードが出ていて、OKボタンを押したら女の子が俺に対してハラスメント行為をしていると認証され吹き飛ばされるだろう。
「死ぬなんて、駄目です!」
女の子はすっとぼけたことを言い、上目遣いで俺を見つめてきた。不覚にもドキッとしてしまったが女の子は勘違いをしている。
多分、湖の前でずっと座っていた俺が急に立ち上がり、飛び込んで自殺するとでも思ったのだろうか。
「ちょっと考え事をしてただけだから大丈夫」
戸惑いながらも必死に言葉を搾り出す。
その言葉を聞いて女の子は安心したのか、抱きついている状況を把握してすぐさま俺から離れた。
小柄で身長は百五十センチの半ばくらいだろうか。上にはスチールの軽装備をしていて、下はレザーパンツ、すねまであるブーツをはいていて、その上からフード付きのケープを羽織っている。
顔を見ると、少々幼く見える、綺麗と言うよりもかわいいがとても似合っていて、タレ目が特徴的だった。
「そっ、そうですか・・・・・・すみません。はじまりの町で自殺者を目撃してしまってちょっと過敏になってたかもです」
さきほどの真っ赤な顔と打って変わってしょんぼりとした顔になった。
「それじゃあ、また」
勘違いをして恥ずかしかったのか、すぐさま立ち去ろうとする女の子を呼び止める。
「ちょっと待って。君の腰にあるのって片手剣だよね、もしかしたら《森の秘薬》クエストを受けるのかな?」
女の子は呼び止められたことにちょっと驚いたようで、すこしびっくりした顔になっている。
「そうですけど。もしかして私と一緒でβテスターの人ですか?」
「いやっ、違うけど。良かったら一緒にどうかなーって」
恥ずかしさ半分、ちゃんとした会話ができることに対する嬉しさ半分だったが、彼女も落ち着いたのか視線は耳のほうへと向けられていた。
女の子は少しうつむき、考える。数秒した後に顔をあげると笑顔で。
「よろしくおねがいします」
と、ぺこりと頭を下げた。
多分、効率のことを考えていたんだと思う。ソロの方が効率的だったり、稼ぎが多かったり。もちろん足手まといがいなければパーティー効率とあまり変わらない、と情報サイトには載っていた。
「それじゃあ、えーと・・・・・・」
自己紹介をしておらず、名前が分からず言いよどんでだ俺を察してか。先に自己紹介をしてくれた。
「ルサリィっていいます。片手剣と盾持ちのアタッカー兼タンクです。名前は呼びづらかったらのでルサって呼んでください」
最後に満面の笑み。予想以上にかわいく、テンパって目を合わせられない俺はうつむき加減で。
「名前はクリスです。短槍使いのアタッカーで呼び方は好きに呼んでください」
焦ってしまい、大分ぶっきらぼうになってしまったが、ルサは満面の笑みを浮かべ続け。右手を差し出してきた。
「よろしくねっ、クリス君!」
「よろしく、ルサ!」
ようやく、人の温かさを感じたことで何のためらいも無く、ルサと握手した。
データとはいえ、初めての女の子の手を握った感触は暖かくて細いがとても柔らかかった。