狩りは十分すぎるほど順調に進んでいた。
一時間ですでに、花付きネペントを一体倒し、実付きも出ていない。
ルサと俺は別々に狩ってはいるがどちらもピンチになったら、すぐに駆けつけられる位置だ。
花付きはノーマルを倒せば倒すほど出現率が上がるらしく、俺たちはグループを組みながらも別々に狩ることを選択した。
と、は言いつつも。どちらもピンチになったら助けられる距離を保っているし、声も届く。
「クリス君ー、次はどこー!」
ネペントを倒したルサが十数メートル離れた先で叫ぶ。
一応、狩りを分担をしているが索敵スキルのないルサは、ネペントを一体倒すごとに聞いてくる。
現在、ネペントと戦っている俺にとっては至極邪魔なのだが、仕方無しに攻撃の合間を耳栓を外す。
「左の方向に一体湧いてるっ!」
ネペントが吐き出す腐蝕液を避けながら叫ぶ。
「了解ですっ」
ルサの声を聞きながらも、腐蝕液を出したことで硬直しているネペントに対して攻撃を仕掛ける。
ネペントの弱点である、ウツボ部分と茎の接合部分に槍を突き刺す。
一度離れてから、様子を見る。
先ほど攻撃したぶんと、今の攻撃で残るHPは約四割。
ネペントはウツボを膨らます。腐蝕液発射の予備動作。射程も長く、しかも早い。当たってしまうと装備の耐久力が減るうえに、粘着力によって動きが制限されてしまう。
もちろん、分かっていて避けることがそこまで難しくないが、油断できるほど甘くは無い。
腐食液を横に回転しながら避けると同時に槍を投げる。
ウツボ中心部分に当たる。弱点ではないものの、四割近く残っていたHPは無くなり砕け散る。
いま、倒したので四十匹。最初の数体で花付きが出てきたことは幸運であったが、それから全く出てきていない。
そろそろ二体目の花付きが出てきてもおかしくないころだが、と思っていた矢先。
「クリスくーん。花付き見つけたよー」
相方の緊張感の無いが聞こえた。
後ろを振り返ると、現在交戦中のルサの姿が見えた。
腐蝕液を避けながら、的確に攻撃を当てていく、俺の戦いとは違い無駄なところが一切無い。さすがβテスターといったところか。
花付きのHPを半分近く削ったところで、ルサが戦っている木の陰からネペントが現れた。耳栓外して周囲確認を忘れていた俺は焦った。
ルサも気がついたらしく、一旦花付きから離れる。
「クリス君っ、フォローお願いします!」
ルサはそれほど焦ってはおらず、的確に指示をだしてくれる。
おかげで、俺も冷静になり、ショートスピアを握りしめる。
「了解!」
投剣スキルの《リサールショット》を放つ。
外れはしなかったものの、狙いははずれHPは一割しか削る事はできなかった。
しかし、いま大切な事は敵に大きなダメージを与えることではなく、タゲを取ることだ。
ネペントは怒りの声を上げながら、根をうねうねとうならせながら近づいてくる。
俺は腐食液がぎりぎり届かなく、タゲが外れない程度の距離を保ちつつ、ルサからネペントを離していく。
ネペントの後ろで、とどめを刺すルサの姿があった。
それと同時にネペントの射程範囲に入る。
腐蝕液を吐き出してくるが、避ける。すぐさま《プリック》を発動させ、弱点を攻撃する。
攻撃を受け、ノックバックしたネペントから距離を置いた瞬間。ネペントの後ろに赤く光る一線が見え、先ほど攻撃した弱点をなぞる。
残るHPの四割近くを消し去った赤い線の名前は、片手剣水平斬撃技の《ホリゾンタル》。もちろん放ったのはルカであった。
「これでクエスト完了だね!」
無邪気な笑顔を見せる。
釣られて俺も笑ってしまう。
死を隣合わせだった戦闘を終え、安堵したときに木陰から一体のネペントが現れた。
普通であったら、何のためらいもなしに臨戦態勢を構えていたが、状況が違った。
「実付きだ」
俺がそう言うと、ルサは多少驚いた顔をして実付きのほうを向く。
「クエストも完了したし、構うこともないから逃げよう」
先ほど投げた槍を回収しつつ、実付きの逆方向へと歩き出そうとした瞬間、手を握られ引き止められた。
「待ってくださいっ」
さすがにクエストが終了した今。倒す理由もない実付きを倒そうとする人は一割もいないだろう。
しかし、ルサはその少数派であった。
「でもなぁ。花付きと違ってレアドロップもないし、経験地もノーマルと変わらないはずだよ」
俺がそういうと、ルサは困った顔をしたが、一直線に俺の目を見つめ。
「そうかもしれませんが……それでも、私倒したいですっ!」
見つめられると、照れてしまいうまく対応が出来なくなってしまう。
それに加えて、今までのネペント狩りが順調すぎて天狗になっていたこともあり、倒すことを了承してしまった。
「とりあえず、作戦通りで動いてください。少しでもやばいと思ったら撤退で」
撤退のこともちゃんと考えている、完璧な作戦であった。
もちろん、ルサの目を見れば撤退するなんて考えられないほど、生き生きとした目だが。引き際はしっかりと分かっているだろう。
「準備は良いかな」
ルサが今にも飛び出しそうな前傾姿勢で問いかけてくる。
俺は無言で頷いた。
「それじゃあ、作戦開始だよっ!」
待ちきれなかったのか、叫び声よりも先に駆け出して行った。
俺は後ろからルサを見守る。
植物系などの目を持っていないモンスターには先制攻撃はしずらくなっている。
ネペントも例外ではなく、ルサが駆け出した瞬間にこちらに向かって臨戦態勢で構えている。
ルサが腐蝕液射程圏内にはいると、実付きはウツボを膨らませ液を発射させる。
慣れたステップで避けると、同時に刺突攻撃で弱点を的確に突く。
それは作戦の一つで、切るに対して刺す動作だと当たる面積が小さく、実にも当たりづらい。そのため剣の切る動作を捨て、半ば無理やりに刺しにいったのだ。
攻撃を受けた実付きは仰け反る。
それを待っていたかのように、持っている槍が青色に淡く光りだし、俺の右手から放たれる。
仰け反り《ノックバック》で動けなくなっている最中での投げ攻撃には補正が入り、当たりやすくなっている。
そのため、先にルサが突っ込み、ノックバックをさせてから投剣での攻撃だったはずなのだが弱点から外れてしまった。
完璧な作戦であったが、実付きのHPは三割も残っている結果となった。
最初の一撃、そして俺の二撃目。それで倒せなかったら逃げるという段取りであった。
「ルサ! 引くよっ!」
俺が叫んでもルサは見向きもしなかった。
ノックバックから回復した実付きは、ツルを操ってルサに攻撃をしかけている。
ツルでの不規則な攻撃に、ルサは必死に戦い続けている。
どうやら俺の声は届いていないらしい。
これはもう、作戦などとは言ってられず、ルサへ向かって走り出す。
ツルの攻撃を何とか凌ぎきったルサは一旦、実付きと距離を置いた。
「ルサ……逃げよう」
ルサに近づいて説得を試みるが、ルサの目は一直線に実付きの方へ向けられている。
「私、実付きを倒したいです」
「なんで、そんなに拘るんだよ!」
声が荒くなる。
「私はβテストの時にソロで実付きに何度も挑みました。その時の勝率は五割弱しかなかったです」
ルサは悔しそうな顔をしている。
実際に悔しかったのだろう。だから、こんなにも固執し続ける。
「しかも、ここは森の比較的浅いところです。もし、ソロの人が間違えてタゲを取ってしまったらどうするんですか!」
ルサも声を荒げながら続けざまに言う。
「全部何て無理なのは承知です……でも、目の前にいる問題を見逃すわけにはいきません」
荒げていた声が次第に泣き声に変わっていく。
そんな姿を見せられたら男として。いや、相棒として頑張らない訳には行かなかった。
「ルサ。 前衛をお願いしていいかな」
俺がそう言うと。
「はいっ!」
ルサが笑顔で元気の良い返事が返ってきた。
やっぱり、ルサは笑顔のほうが似合うよ。と、心の声を口にすることはなかった。
実付きのネペントに向かって構えなおす。
油断をしなければ、勝てない相手ではないはずだ。
新たにゲットした、《スチールショートスピア》を装備し、集中する。
ルサが走り出す。それを追う形で俺も走り出した。
ツルの攻撃を盾で弾きながら、俺のために道を作ってくれている。
実付きのウツボが膨れ上がったが、ルサは一直線に進み続ける。
放たれた腐食液を盾で受け止める。ジュゥゥゥと何かが溶けていく音が聞こえる。
「うっ……」
ルサが苦しそうにするが、構わず走り抜ける。
硬直している実付き目掛けて、複合槍単発刺突技《スペック》を放つ。
祈るように、槍の矛先を突き出す。
願いは届いたのか、見事弱点に命中し、実付きのネペントはガラスとなって崩れ去っていった。