「今日の反省点だけど」
俺とルサは現在ホルンカの村にある《鳥の尻尾》と言う名のレストランで反省会を開いている。
目の前には黒パン、オニオンのスープ、サラダといった質素な食事が並んでいる。
ルナは実付きのネペントを倒した時は喜んでいたが、帰り道からずっと落ち込んだ表情のままでいる。
「とりあえず、実付きを作戦通りに倒せなかったところで引くべきだったと思うんだ」
暗い表情のままでいられると、こちらも暗い雰囲気になってしまうため、そこまできついことは言えずにいた。
涙を浮かべながらルサはこちらを見る。
「でもでも、あのままだったら他の人に迷惑が掛かっちゃうと思ったし……。それに、私たちがあそこで乱獲をしてたせいで湧いたってことも考えられるし」
「そうかもしれないけど……」
確かに、俺たちがあそこでネペントを倒しまくったせいで実付きが湧いてしまったということもあるだろう。
しかし自分たちの命をかけてまで倒すべきではなかっただろう。と俺は考えていた。
もちろん、花付きを探している最中に見つけてしまったのならばしょうがないが、クエストアイテムが揃え終わったにも関わらず、挑みに行くのも可笑しな話しだ。
「それに、クリス君と一緒なら倒せるって思ったんだもん」
ルサは上目遣いで俺を見る。
「そっ、そうなんだ……」
照れ隠しで黒パンを一口食べる。予想以上の硬さに顔をしかめるが、よく噛むと小麦本来の味がしてなかなか美味しい。
「うん」
ルサも黒パンを一口かじるが、俺と同様にしかめっ面をする。
想像通りの反応に少し笑ってしまった。
「えっ、なんで笑ったの?」
ルサは急に笑った俺を見て、不思議にそうに首を傾げた。
「いやっ、黒パンが硬くてしかめっ面をするリサが想像通りだったからさ」
ちょっと慌てているルサを見て、笑いがこみ上げてきた。
「だから、さっきクリス君もしかめっ面になったのか。怒ってるのかと思ったよー」
ルサも少し笑いながらパンをもう一口食べる。
「怒ってるって言ったら、怒ってるんだけどさ」
言いかけている途中でルサはどんどん暗い顔になっていく。
俺は慌てて、その場を取り持つ。
「まあ、二人とも生きていたわけだし、結果オーライと言うわけで」
あまり、暗い顔は見たくなかった。
「それでも、今日みたいな無茶は今後無し」
一応、釘は刺しておく。
こんなのを続けていたら、いつかは絶対に勝利の女神に突き放されることだろう。
このゲームの死は、現実世界での死と繋がっていることに確信は持てないが、用心にこしたことはないだろう。
「りょうかいしました!」
元気のよい返事が返ってくる。
やっぱり、笑っていたほうがルサらしい。
「それじゃあ、今後はどうしよっか?」
オニオンスープを飲みながら、ルサに質問する。
「んーと、このあたりは明日になると人でいっぱいになっちゃうと思うから、次の村へ行こうかなって」
「そうだね。人も増えればモンスターの取り合いになるだろうし」
現在、俺とルサのレベルは5にあがっていた。
このあたりのモンスターはすでに簡単に倒せるようになっていて、そろそろレベルを上げるのはきつくなってくるだろう。
明日になると人も増え、モンスターの取り合いになる。
それより先に、次の町へ行こうという提案だった。
「それじゃあ、次の行き先は《カルン》の村でいいのかな」
「そうだねー。盾も新調したいし、あそこに良いバックラーがもらえるクエストがあるから、それを取りに行こうかなって思ってるんだけど」
《カルン》の村とは、ホルンカよりも小さな村で家も数えるほどしかない。
雑貨屋、宿、それと装備のメンテナンスのみの鍛冶屋があるのみで、お世辞にも狩りの拠点としての機能を十分に果たしているとは言いがたい。
ないものねだりはしてもしょうがない。
いつの間にかに夕食を全部食べつくしていた俺たちは明日の朝、八時に出発することにし、別々の部屋へと入っていった。
ベットへ横になる、今日一日がとても長く感じたように思えてならない。
現在、時刻が午前一時。ゲームを始めてからたった十二時間しかたっていない。
考える事は一つであった。このゲームのことだ。
何で? どうして? この世界を作った理由が知りたかった。あいにく俺は、ゲーム雑誌を読むタイプではなかったため、茅場晶彦のことなんて名前くらいしか知らない。
インタビューでも見ておけば考える材料になったのかもしれない。
この世界の死は、本当に現実世界の死となるのか。それが一番知りたかった。
耳からではなく、頭の中でアラームが聞こえる。
起きると時刻が七時半。少々ギリギリかと思えたが、SAO内では用意に要する時間は現実世界の一割程度で済んでしまった。
寝癖もなく、歯を磨くことさえなくてもよい。服を着替えるのもウィンドウにタッチするだけだ。
用意を数分で終わらせた俺は、雑貨屋や装備屋に寄って、荷物の確認や武器のメンテナンスをしていた。
「おはようございますー」
後ろから寝ぼけた声がした。
朝から俺に話しかける人は、いまこのゲーム内でたった一人だろう
「おはよう、リサ。」
振り向きながら言うとそこには、目を擦っている相方の姿があった。
いつも通りの軽金属の鎧にレザーパンツ、すねまでブーツに新しく買った銅の盾とクエストの報酬品の《アニールブレード》。
「いつも、思っていたんですが。アニールブレードの形ってセンスないですよね……」
落ち込みながら言う。確かにかっこよくはない。
しかし、性能面では現在手に出来る武器の中でトップクラスを争うレベルの強さだ。
「これを第三層まで使い続けるとか、狂気の沙汰ですよ……」
ルサは鞘から直剣をを抜き取り、うらめしそうに眺める。
「まあ、一番強い武器なんだからしょうがないよ。とりあえず、第三層まで我慢すれば愛着が湧くかもよ」
俺が言うと、ルサはこちらを見て。
「そうですね。とりあえず、第二の相棒として大切にします」
ルサは持ち前の明るさで何とか持ちこたえる。
最後に二人で荷物確認をする。
回復ポーションと解毒ポーションはアクティブ化して、ポーチの中へしまう。
槍もしっかりと耐久度を調べる、昨日で大部減ってしまったが、先ほどメンテナンスをして今では最大値になっている。
昨日、腐蝕液をモロにかぶってしまったルサの盾だが、ドロドロになった挙句に耐久度はゼロになってしまった。
メンテナンスで直す事は可能であったが、新調することにしたらしい。
各自の点検を終えた俺らはホルンカの村を出発した。