理想のラスボス系うすほそになったので、完璧を求めて暗躍していたら悪が蹂躙されていた 作:ほそラス
ラスボス系ヒロインが好きだ。
絶対的な力と、人とは外れた感性。
どこか危うい妖艶さを持ち、それでいて可憐な少女らしさも併せ持つ。
何と言っても好きなのは、その存在が世界に対してジョーカーとなるところ。
どれだけ悪が胎動していようと、それを上から無慈悲に踏み潰していく。
このラスボスに逆らったら、その時点で詰みが確定する。
そんな確信を持てる特別感が好きなのだ。
まぁ、大抵のラスボス系ヒロインは普通にラスボスだし、ヒロインにはならないんだけど。
個人的にはそういうラスボス系ヒロインを隣で一般人として見守り、彼女の倫理的ストッパーになりたい。
あるいは、そんなラスボス系ヒロインが主人公となって、なんだかんだ彼女の行動で悪が倒され秩序が守られる様を見て楽しみたいのだ。
とにかく、俺はそういう少女がオタクとして癖である、ということ。
――そしてなった、自分がそんな理想のラスボス系ヒロインに。
あまりにも儚い見た目と、か細い手足。
いわゆるうすほそに分類される容姿をしている。
言うなれば、ラスボス系うすほそというやつだ。
美しい黒い髪、どこか妖艶ながらもあどけなさも残る顔立ち。
そして二イッと笑みを浮かべると、狂気じみた表情がまぁ似合うこと似合うこと。
自分自身がそんな理想のラスボス系うすほそになってしまうとは思いもしなかった。
しかし、なってしまったからには完璧を目指したいと思うのが、オタクの性というものじゃないか?
幸いにもここはファンタジーな異世界。
私が理想のラスボス系うすほそになるための手段はいくらでもあるはずだ。
こうして私は、完璧を目指して暗躍を開始することとなる。
その裏で、何が起きているかなど知る由もなく。
■
一人の少女が逃げていた。
夜、空には月も星も浮かんでいない。
どんよりとした雲が空を多い、光と呼べる光が失われた世界。
それでもなんとか、少女は森の中を駆ける。
足元はおぼつかない、体力が限界をむかえているのだろう。
いつ、この逃走劇が終りを迎えてもおかしくはないのだ。
――否、正確にはもう既にほぼ詰んでいるといっていい。
彼女を追う者たちは、既に彼女を捉えているからだ。
それでも追い続けているのは、彼女を絶望させるためか、それとも別の目的があるのか。
どちらにせよ、何とも悪趣味なことだ。
まぁどうせ山賊の類だろうし、疲れさせて捕まえた時に抵抗させないためという、ゲスな考えが理由なんだろう。
しかし、残念ながらその目的は達成できない。
何しろ私の目的も、逃げている少女なのだから。
「きゃっ!」
少女が、ついに足をもつれさせて倒れる。
ここまでよく頑張っていたが、それも限界を迎えてしまったようだ。
既に体力は底をついているというのに、それでも走れたのは純粋に火事場の馬鹿力としか言いようがない。
しかしそれも、集中が途切れてしまえばもはやそれまで。
むしろ、ここまでの負債が一気に彼女を襲っているだろう。
追いかけていた男たちは、無言で少女を見下ろしていた。
全身黒ずくめの山賊、この世界だと結構ポピュラーな格好みたいだけど、なんか流行ってるのかね。
私が潰した山賊の拠点は、半数くらいがこういう格好をしている連中のものだ。
何にしても、私は早速この場に介入することとした。
「――そこまで」
空から、闇に声が響く。
男たちの何人かが、周囲を見渡した。
こういう連中は統率が取れてるのか、この状況でも獲物の少女から一切視線を外さない奴らがいるんだよな。
まぁ、私の敵ではないけれど。
「申し訳ないけれど、この子は私がいただいていくの。お引き取り願える?」
男たちは声のした方向――すなわち空に意識を向けていた。
しかし、私が現れるのは彼らと少女の間。
闇の中から突然人が浮き上がったかのように、割って入るのだ。
これなら、獲物の少女に視線を向けている男からも彼女を庇える。
いや、別に彼女のために庇っているわけではないけどね、私のものに傷をつけられたら困るから、そうしているだけだ。
――というロールプレイである。
口調も含めて。
あまりにも女っぽい口調だが、一番雰囲気が出るためこうなった。
「――何者だ」
「あら、知らない? 貴方のような賊の類を、これまで何度も屠ってきたのだけれど」
「貴様――」
現れた私は、黒い外套に身を包んでいる。
そこには金の飾りが幾つか散りばめられ、今の私はさながら死神にも修道女にも見える存在だ。
個人的なポイントは、とんでもなく深いスリットと、そこから見えるガーダーのような紐。
着ていて少し恥ずかしいけれど、理想のためなら仕方がない。
そんな私に対して、男が呼びかける。
「――”冥姫”か!」
その言葉に、ニィっと笑みを深める。
”冥姫”、彼らにはそう呼ばれているらしい。
人としての名前はセレナ。
月を冥府への入口に例えるこの世界においては、実にそれっぽい名前と言えるだろう。
さて、彼らは夜目が効く、何人かが私の笑みに少しだけ後ずさった。
プロの賊と言っても、上位者には敵わない。
ああ、こういう感覚――私の本懐そのものだ!
「ご明察。そして申し訳ないのだけれど、この子は私がもらっていくの。これは決定事項なのよ」
「何をふざけたことを――」
そうして私は視線を向ける。
怯えた様子の少女が、私にも賊達にも同じ視線を向けていた。
うん、これもまたラスボス系の醍醐味。
弱者にとっては、私も彼らもそう違いはない。
ただ少しだけ、私には彼女を生かすつもりがあって、彼らにはないという違いがあるだけだ。
「この子のノロハレが欲しいのよ、私も」
ノロハレ。
この世界に時折発生する現象で、体中にびっしりと紋様のような斑点が浮かび上がるのだ。
その姿は恐ろしく、民衆はノロハレを迫害する。
しかし同時にどこか危険な美しさも存在し、その美しさは神が好むものであるとしてノロハレは神の供物として一部で用いられていた。
こいつらも、贄を必要としている邪悪な魔術師とかに売りさばくために、彼女を追いかけているのだろう。
「――でも、ダメね。貴方達のような連中に、この子は渡せない」
「……何を」
「だから、こうして上げましょう」
そう言って、私は少女に手をかざす。
後ずさろうとする少女だが、しかし体はもうほとんど動かないようだ。
抵抗らしい抵抗を見せず、私の手から漏れ出した昏い光が体を包み――
――体中の紋様が
「な――!」
驚いたのは、賊の連中だ。
彼らの前でこれをすると、毎回こういう反応をする。
そんなにノロハレを奪われるのが嫌なのだろうか。
まぁ、関係ない。
私は引き剥がしたノロハレの紋様を、賊達に掲げて見せる。
「どう? キレイでしょう、この紋様は。ええ、私――これがとっても
「――は?」
そうして、引き剥がした紋様を――口に含み咀嚼し始める。
味はしない。
強いて言うなら、口に入れると勝手に溶けていく金箔みたいな。
そんな食感。
するすると喉を嚥下し、最後に指をぺろりと舐める。
どうかな、この仕草。
普通に妖艶だと思うのだけど。
「な、な……何なのだ、貴様は!」
「私がこうすると、貴方達は必ずそういうのね。まあ、いいけれど――」
それから私は、ゆっくりと手をかざしてそこから魔力を迸らせる。
賊に戦意を見せたのだ。
すると、当然賊達も自身の得物を構え、戦闘態勢に入る。
これまでは警戒故に動かなかったが、交渉の余地なしと見るやすぐに切り替えた。
相変わらず、動きがプロだな。
私と交渉しようとする賊ってなんだよ、とたまに思うが。
「――どちらにせよ、貴方達は私にとって大した相手ではないのだから」
戦闘は、一瞬にして蹂躙だった。
私は影を操って戦う。
今、この場所は夜という名の帷が降ろされ、まさに世界そのものが影に覆われている今ならば私に敵う者はいない。
いや、いるかも知れないし昼でも私は負けないけれど。
こういう手合いを、瞬殺するのが容易であるということに変わりはないのだ。
「――さて」
「……ひっ」
全てを終えた後、私は少女に振り返る。
「貴方に選択肢を与えて上げる。私の元を去り、一人で生きていくか」
「あ、あ……」
「――――私のものとなり、私の手足として生きていくか」
そうして、ゆっくりと膝をついて笑みを浮かべたまま彼女に問いかけ手を差し伸べる。
これまで何度も練習してきた、とびっきりのラスボススマイルだ。
対する少女は――
「……あ、あ、ご……ご主人様」
そう、私に対してこぼし、差し伸べた手を掴むのだった。
■
――その日もまた、ある組織の者たちは頭を痛めていた。
またしても、末端が冥姫と呼ばれる幼い子どもに壊滅させられたのだ。
冥姫、それ以外の呼び名は不明。
黒い外套の、齢七つになるかどうかという幼い少女。
不健康にも見えるほどか細い手足の、一見すれば美しいだけの幼子だ。
しかし、彼女は時折ふらっと”彼ら”の前に現れては、ノロハレという彼らにとって重要な存在を奪っていく。
それだけでなく、各地の拠点を襲撃しては金品や研究資料を奪っていくのだ。
目下、この冥姫を討伐することが”彼ら”にとっての至上の命題と化していた。
――しかし、彼らは知らない。
冥姫がそもそも、彼らを一つの組織であると認識していないことを。
冥姫にこの組織を破壊する理由なんてなく、ただ力を求めているだけだということを。
冥姫という存在が――自身を完璧なラスボス系うすほそにするなどという、理由のわからない私欲で動いていることを。
かくして、今日も冥姫は悪を蹂躙しながら暗躍する。
その悪に、あるいは救った者たちに、自分がどう思われているかを気にすることもなく。
タイトルが全て、よろしくお願いします。