理想のラスボス系うすほそになったので、完璧を求めて暗躍していたら悪が蹂躙されていた 作:ほそラス
──話を、私が現状に至るまでに戻そう。
私がこの世に生を受けたのは今から七年ほど前のこと。
両親は牧歌的な生活を送る山奥の村民で、非常に善良な人物だ。
私みたいな見た目がラスボスすぎる幼子でも、愛情を注いでくれた。
逆に言うとどうしてそんな両親から、こんな世界を滅ぼしそうな見た目の女が生まれてくるかは謎だが。
そんな両親のためにも、私は清く正しくラスボス系うすほそになると決めたのだ。
周囲は私を見た目だけで不気味がるし、前世でもあまり家族には恵まれていない。
私を愛してくれた今の両親は、本当にありがたい存在なのである。
そんな彼らが私の好きに生きなさいと言ってくれたのも、私がラスボス系うすほそを目指す動機の一つだ。
さて、私の目的は完璧なるラスボス系うすほそになること。
そのために、私は色々と試行錯誤を繰り返すこととなる。
というのも、私にはそこまで才能が無かったのだ。
この見た目で!? と思うかもしれないが、少なくともチートと呼べる適正や能力は持っていない。
後に会得する影を使った力も、努力によって手に入れたものだ。
とは言え全く無能だったかと言えばそんなことはなく、魔力に関しては人並み以上ものを持っていた。
そこで当初の私は魔術系ビルドで自身を育てるべく行動を起こした。
村に時折やってくる商人の護衛をしている魔術師の少女から魔術を習ったのだ。
名をミリザという。
「へえー、セレナちゃんは若いのに魔術について学びたいの!? いいわね! どこから知りたいのかしら!? 魔術の成り立ちから話しましょうか!!」
これがまあ快活で人のいいお姉さんなのだけど、魔術を学びたいと言い出すと興奮し始める典型的なオタクの方だ。
しかも自分の才能に絶対の自信があるらしく、褒めておだてまくると随分気前よく魔術について教えてくれる。
おかげで私の魔術研鑽は随分捗ったものだ。
ただ、それでもやはり才能の壁は高い。
いくら魔力量が人並み以上といっても、天才を自負するミリザには到底及ばない。
それをどうにかするためには、魔力量を増やすことが必要不可欠。
しかし魔力が増えすぎるのは、身体によくないのだという。
魔力を制御できなくなり、ある症状を発症してしまうとか。
故に人は生まれたときに魔力量が定められ、それが才能になるのだとか。
ただ、ここで私はこう考える。
だったら制御できるようになればいいじゃない、と。
ただこれには二つ問題があって、魔力の制御が上手いなら魔術を使うより身体強化を極めて剣士になったほうがいいらしい。
魔術というのは魔力の制御はあまり必要なく、正確な詠唱さえできれば誰でも使えるものだそうな。
そしてもうひとつは、そもそも制御を練習しても魔力が増えすぎた際の暴走を抑えるくらい制御が上達することはないということ。
魔力の暴走は身体の防衛本能みたいなもので、意識してそれを抑えることは難しいのだ。
そして魔術の制御は自転車に補助輪なしで乗れるようになるのと同じで、一定のところまでは鍛えればすぐに身につくが、そこからの上達は非常に難しい。
何かしらのお手本というか、道標が必要だが、今のところこれといってそういった技術は発展していないそうな。
それでも私は、魔力の制御を頑張ることにした。
理由は二つ、すでに魔術について学ぶ始めており、今更剣士ビルドに行くのは時間を無駄にしてしまうからだ。
ミリザより都合のいい……こほん、親身になってくれる師匠はいないのだし。
加えて、魔術ビルドで自身の将来設計を考えていた私は、すっかりその気になっていたから。
魔術を自由自在に使いこなして、ラスボスとしての威厳をみせつけたいいいいいいい!
これはメラゾーマではない、メラだってやりたいいいいいいいいいいいいいいいいい!
というわけで、やり方を工夫することにした。
そういうところは、転生者でオタクな私の領分。
前世の発想で新たな制御方を生み出すのだ。
そうして色々と考えた結果、辿りついた方法は──
「ふふふ、ミリザはとってもすごいのねえ、えらいのねえ。すごく頑張ってる、ミリザこそが本物の天才よ」
「アッアッアッ」
ミリザの耳元で囁いて彼女の感情を高ぶらせることだった。
なにそれ……と思うかもしれないが、理屈としては単純だ。
人は感情が高ぶると魔力が瞬間的に増幅するらしい。
これ自体は別に危ない現象ではなく、これが一年とか長く続くと暴走が発生するのだそうだ。
私はこの状態のミリザから溢れる魔力を制御する練習をはじめた。
そう、お手本が必要なら目の前に用意してしまえばいいのだ。
私の読みは当たって、これを制御しようとすることで飛躍的に魔術の制御が上達した。
自分の魔力制御を上達させるのは、目を閉じて手の感覚だけで知恵の輪を解くようなもの。
対する他人の魔力を弄る方法は、タコ足配線をほぐしてパズルを解くような感覚に近い。
あとはその手順を暗記して、自分の体で同じようにためすだけだ。
こうして魔力の制御が飛躍的に上手くなった私の魔術師としての実力はミリザにも劣らないものとなった。
副産物としてミリザも魔術制御を飛躍的に上達させ、私に会うと耳元囁きをせがんで来るようになったけど、まあそれはいいだろう。
なお、ミリザの魔術制御が凄まじく向上したが、その上で私の魔術制御能力はミリザのそれをはるかに超える高みにある。
現在私とミリザが戦ったら、ミリザが強くなったことを差し引いても余裕で私が勝つだろう。
その頃だった。
村長の娘であるコノアから相談を持ちかけられたのは。
コノアは高飛車な娘で自分の容姿を鼻にかけ、私に嫉妬しこちらを魔女と呼び蔑んでいた。
とは言えこちらはそのことを一切気にしてはいなかったので、別にお互いの関係はそれで終わりだったのだが。
「ねえ、助けてよ魔女……! アンタならどうにかできるんでしょ!?」
と、身体中を斑点だらけにしながら助けを求めてきたのだ。
これがミリザの言っていた魔力の暴走、ノロハレというやつらしい。
うーん禍々しい、これは呪われてるようにしか見えませんわ。
しかし原理としては単なる魔力の暴走。
私は思った。
これ制御できるんじゃね?
試した。
できた。
そりゃそうだ、他人の魔力制御なんてここしばらくずっとやってきたんだから。
ちょっと頭に突き刺さった洗脳アイテムを、脳を傷付けず抜取るような繊細さが求められたけど、鍛錬の成果か何一つ問題なくノロハレを取り除けた。
ところでコノアから拭き取った黒い網みたいなこのノロハレの紋様、どーしよう。
いや待てよ? これって魔力の塊だよな?
……よし。
パクリ。
私はそれを口に含んで見た。
味はしない、サラサラと口の中で溶けていき、私の体内に魔力として流れ込んでくる。
そして当然の様に体内では魔力が暴走を起こし、さらには他者の魔力を取り込んだことによる拒絶反応まで始まってしまう。
さながら、複数の絵の具を乱雑に混ぜ合わせたかのように、ぐちゃぐちゃで粗悪な色へと自身の魔力が染まっていくのを感じる。
だけれどその時、私はそれにたいして苦しんではいなかった。
むしろ、
だってそうだろう?
黒いもやもやを食べて、黒そうな力に目覚めそうなんだから。
絵の具は色を混ぜつづければ、やがて黒に近い混沌へと向かっていく。
まさにそんな気分で、私はそれを受け入れた。
結果が、だいたい今である。
どうやらノロハレから引っぺがした魔力を食べると、自分の魔力が増えるらしい。
増やすためにはとりこんだ魔力を制御する必要はあるが、それは紋様をひっぺがせる制御能力があれば大丈夫。
つまり実質ノーコスト。
使える魔術の適性が闇に偏ってしまうという副産物もあるが、むしろコレはアドでしかない。
かくして私は、ノロハレの魔力を取り込み強くなるという最高にラスボス系うすほそっぽい力を手に入れたわけだが……
「セ、セレナ……様」
どうしようね、完全に私へ心酔の感情を向けているコノアちゃん。
どうしてこうなったかを描く感じのプロローグです。