理想のラスボス系うすほそになったので、完璧を求めて暗躍していたら悪が蹂躙されていた 作:ほそラス
私はノロハレを助けるようになった。
別に助けることが目的ではないけれど、助けるという大義は大事だ。
具体的に言うと、私は各地の賊を襲い始めたのである。
ようやくここで、話は最初の蹂躙まで戻るわけだ。
コノアに情報を持ってきて貰い、私が拠点を叩く。
ただコノアの情報が必ずしも正確というわけではない。
何しろ、身バレしないことを最優先に行動するよう厳命しているため、ちょっとでも危ないと感じたらすぐにコノアを退かせてるんだよね。
こちらの正体が露見して、両親に迷惑をかけるのが私の一番望まないところである。
まあ最悪、私が拠点を叩けばいいから、コノアには敵の拠点さえ見つけてもらえればそれでいいのだ。
ただこれにも二つ問題があった。
一つは元現代人の私が、敵を躊躇なく倒せるのかということ。
いくら完璧なラスボス系うすほそを目指していると言っても、中身はただのオタクである。
最初、私は敵を殺さずに制圧していた。
実力差がありすぎるから加減は簡単だし、殺してないと思ったら案外気は楽だ。
しかし、問題が発生してしまう。
私の見逃した山賊が村を狙ったのだ。
村を──すなわち私の両親を。
なんの躊躇いもなく、あっさりと。
考えてみれば当然だ。
人にとって命の価値は等価じゃない。
私にとって世界で一番優先すべき家族が狙われるなら、それは躊躇う理由を捨てさせるには十分だ。
以降、私は敵に容赦を辞めた。
だからこれは、重大ではあるけど比較的簡単に解決した問題である。
しかしもう一つ、こっちは結構厄介だ
賊が溜め込んでいた金品である。
自分達でこれを使うことは躊躇われた。
かといって、放置してもそれは別の山賊にもっていかれるだけだ。
仮に国を守る兵士がそれを回収しても、民衆に還元されることはない。
その兵士が使仕える貴族の私腹が肥えてそれで終わりである。
民衆にばら撒けばいいという案も出た。
この頃には数人のノロハレが救出されて私の配下に加わっており、そこから出た意見である。
ただこれも私としては反対だ。
降ってわいた金は人の人生を簡単に狂わせる。
宝くじは、当たらないほうがむしろ幸福なのかもしれない、みたいな話。
これは配下に加わったノロハレの中で最も商才に長けたケティも反対したことで、実行されることはなかった。
結局、自分たちが生活していく分だけを使用して後は保管することに。
それはそれで経済的にまずいんだけど、使う方法が幼い子供でしかない私達にはほとんどないのだ。
怠惰で出不精でコミュ障なケティがやる気を出してくれればいいんだけどねえ。
無理だな。
さて、さっきも言ったけど私の救出したノロハレは結構増えてきた。
ノロハレを救出したら、当然行き場がなくなってしまうからね。
さすがにそれを見捨てるほど、私も薄情じゃない。
いや、一部はリリースしてるノロハレもいるんだけどさ。
彼らは一人でも生きていける強さを持ってるから、うん。
で、うちに残ってるのは一番最近救出した子──クロシー・テールというらしい──をあわせて六人。
幼馴染のコノアや商才に長けたケティのほかに、隠密特化の子や剣術が得意な子、陰謀論者など個性豊かなメンバーである。
そのうち紹介することもあるだろう。
さて、ここまで長々と話をしてきたのは、私が今に至るまでの流れをクロシーに問われたからだ。
なので、拠点に戻るまでの時間で、つらつらとこんなことを語って聞かせたわけ。
もちろん、喋る必要の無いことは喋らない。
転生したとか、ミリザをザコメス煽りで脳みそ溶かしたとか、姿見の前でポーズの練習をしてるとか、そんなことは知る必要の無い事である。
まあそれでも結構長くなってしまったけれど、クロシーもうちに馴染んでくれるといいな。
……え、姿見? ちょっと何言ってるかわかんないですね。
決してネコババなんてしてないよ、ちょっと自室で保管してるだけだよ、ウン。
■
クロシー・テールは困惑していた。
困惑する理由は言うまでもなく、今まさに自身の主人となったセレナの語ったことだ。
クロシーは名字を持っていて、名字を持つ人間はこの世界だとそこそこ裕福な家系の出である。
だからそれなりに教養もあり、ノロハレとなって売られるまではそこそこ将来を渇望されていた。
故に、魔術の知識がある。
そんなクロシーの常識から言ってしまうと――
まず大前提として、他人に自身の魔力を操作させることがありえないのだ。
何しろ魔力とは魂から溢れ出る力そのもの。
言ってしまえば自分の心臓を相手に握らせるようなものだ。
だから、普通なら魔力を操作させることなど、許す人間はいるはずもない。
――そこを、このセレナという少女は自身のカリスマ性だけでやってのけた。
眼の前にいる少女を、クロシーは恐ろしいと思う。
その一挙手一投足が人々の恐怖を――あるいは畏怖を掻き立てる。
話の中でセレナは自分に才能などないと言った。
確かに、魔術という点において彼女は才能がないのだろう。
だが、彼女の人を惑わせる立ち振舞は本物だ。
まさか、それすら努力の賜物ということもあるまい。
他人の魔力制御は、非常に繊細な努力が必要となる作業だ。
セレナはパズルのピースをはめるようなものと言っていたが、それは本当に膨大な数のピースをはめていく作業である。
もし仮にそれができたのだとしたら、この少女はとんでもない根気強さの持ち主だ。
できるのだろうか、そんなこと。
もし仮に……本当に仮に、の話だけれど。
セレナが今のように傍若無人な振る舞いを見せる理由が、自分の容姿に殉じるためとかだったら。
本人はごくごく普通の人間だけど、見た目があまりにも妖艶だから妖艶に振る舞っているだけで。
努力でこのカリスマ性を身に着けていたとしたら――その根気強さはありえなくもない……のだろうけど。
いや、まさかねぇ。
話を聞いていると、どうしてセレナがこういう振る舞いをするようになったのかについて、説明がなかったけど。
セレナは両親のことがやたらと大好きで、最初は人を殺そうとしなかったりとか、根っこの善良さが見え隠れしてたりするけど。
両親が「将来は自分のやりたいことをしなさい」と言ってくれたことを嬉しそうに語ってたりするけれど。
本人は色々と大事な部分を隠しているようだけど、それでも何かこう……両親から愛されて育ったことが色々と漏れてしまっているのだけれど。
いや…………まさか……ねぇ…………
――というか、話の中で出てきたミリザ・コメスティアってまさか
セレナ達が暮らすアティアナ王国の王立学院に所属し、学生でありながら特級冒険者に至った若き天才。
絶対なる魔術師の名をほしいがままにする、あの神童のことだったりしないだろうか。
他国の人間だったクロシーのもとにすら名声が轟く少女が、こんな所でセレナに屈服させられて魔力を弄くられてただなんて――
……あまり考えないでおこう。
とかくセレナのやっていることは異常なのだ。
極めつけに、他人の魔力を喰う?
眼の前で実際に彼女がやってみせたから、信じないわけには行かないが本当にできることだとは到底思えない。
魔力は魂の発露、要するに魂を混ぜ合わせるような行為を、本当に人がその身でできるものなのか?
少なくとも、セレナに特別な才能もなければ出自もない。
もし本気で彼女が耐えたのだとしたら――彼女は魂の融合を
もしそうなら、たとえ彼女の根っこが善良だとしても――セレナがセレナらしく振る舞おうとするその意思は、
そう考えると、やはりセレナは恐ろしい。
先ほど使ってみせた”影”の魔術も、とてもじゃないが普通とは言えなかった。
だからクロシーは、セレナがよくわからないのだ。
よくわからないと言えば――
「――ふふ、ついたわ。ここが私たちの拠点よ」
「あ……」
――思考が途切れる。
眼の前には山奥に建てられた小さな小屋。
ここに来るまで、クロシーなセレナに手を引かれて空を飛行してきた。
そうしてたどり着いたのが、ここだ。
近くに、小さな村落が見える。
おそらくそこがセレナの故郷なのだろう。
「これからここで、貴方は暮らすことになるの。――私たちだけの秘密基地、私たちだけの世界、私たちだけの家。どうかしら、素敵でしょう?」
「……っ」
話を聞いている間は、あるいは思考に耽っている間は、セレナの恐ろしさも少しだけ安らげた。
しかし今は、ただ言葉を囀るだけでも、どこか末恐ろしいものをクロシーは感じてしまう。
やはりカリスマは、本物なのだ。
そう考えていると――不意に声がした。
「――待っておりましたわああああああ! ご主人様あああああああああ!」
すごい勢いでドタドタと、勢いよく駆けてくる少女がいる。
白混じりの長い黒髪が大きく揺れて、メイド服を着たセレナと同年代の少女が、ずささーっと二人の前で急停止した。
おそらく彼女が――
「もう、コノア。あまり大声で騒ぐものではないわ。今はまだ夜なのよ? ムイがびっくりして起きてきてしまうわ」
「あ、あう……ご、ごめんなさいですわ」
コノア。
この少女も、よくわからない少女だ。
ノロハレを発症しながら、偶然にもセレナを最初に頼ったことで迫害されること無く元の生活に戻ることができた少女。
少しだけ羨ましくも思うが、それ以上に、なんというか……
「私は少し休むから、この子を案内してあげてちょうだい。ねぇ、クロシー? 彼女が先程はなした――」
「おっまかせくださいご主人様! あ、コノアですわー! よろしくおねがいしますわー!」
「は、はい……ク、クロシー・テール……です」
……なんかこう………………お馬鹿……じゃなくて。
とても元気な人のようだ。
それから、セレナの後を二人でついていき、セレナが部屋の中に姿を消してからコノアはひそひそと語る。
「ここがご主人様のお部屋ですわ。ご主人様が部屋にいる時は、ぜーーーーーーっったいにノックをせずはいっては行けませんの」
「ど、どうして……ですか?」
「ご主人様が、私たちも知らぬ誰かと通信を行っているからですわ……!」
「えっ……!?」
――それは、少し意外だった。
セレナは同格の他者と対等に関係を持つタイプには見えない。
ミリザのような例外を除けば、基本的に身内を自分の下に置こうとするタイプだ。
と、思う。
少なくともセレナは、自身はそうあるべしと行動しているように思える。
同時に、そんな下においた身内を庇護する様子も見受けられた。
そんなセレナが、果たして身内に正体を知らせず誰かと関係を持つものだろうか。
「何しろ、部屋の中にある姿見の前で、怪しげな言葉をぶつぶつとつぶやいていましたもの! きっと、深遠なる何者かとの通信を行っているに違いありませんわー!」
「………………ええと」
それは単純に……姿見の前で色々とポーズを取ったりしてたんじゃないだろうか……
そういうの……好きそうだし……
命の危機を救われて、数時間。
新たな人生を開始することとなったクロシー・テールは――何か変な場所で変な人に仕えることになったなぁ……と少しだけ天を仰ぐのだった。
本作最強ユニットのツッコミ役であるクロシーちゃんです。
主人公のポンコツ方向がかなり早めに露呈したので、あらすじを少し変更しました。
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