餓死寸前の獣人少女に餌付けをしたら、ヤンデレハーレム村の村長になっていた 作:破滅
朝食を食べて腹を満たした俺は、この村の人たちに調理具顕現《クックメイカー》で作れた服を配っていくことにした。
「どう? お兄さん」
黒いスカートに、ふりふりとした白いエプロン。ウェイトレスさんの衣装を身にまとったアカネちゃんは短いスカートをはためかせるようにくるりとターンをして、花咲くような笑顔を見せてくれる。
「可愛いよ」
「本当に? お嫁さんにしたいくらい?」
「看板娘にはなれるんじゃない?」
「お兄さんがお店をやって、私を雇ってくれるってことですか?」
「それも良いかもね」
ホットドッグの時も手際よく焼いてくれたし、近づく子供を良い感じに嗜めてちゃんとお姉さんもしていた。よく働いてくれそうだ。
「お兄さん、凄く綺麗な服、ありがとうございます。こんな良い服着たの、生まれて初めてです」
深々と頭を下げて来た。さっきまであざと可愛く冗談を言っていたのに、急に真面目に来られると少し困ってしまう。そこがアカネちゃんの良いところでもあるんだけど。
「大袈裟だなぁ」
「そうでもない。軽いしすべすべなのに引っ張っても簡単に壊れない。凄く丈夫。これが噂のシルク?」
同じくウェイトレスドレスに、白いカチューシャをつけたサクラちゃんが服を強く引っ張ったり臭いを嗅いで確かめている。
「絹なんて上等なものじゃないよ。ポリエステルじゃないかな?」
「ぽりえす……なに?」
ポリエステルは石油製品でここ数十年の技術だから、当然この世界にはないのか。
「まあ俺の故郷の素材だよ」
「遠くの。高級品!」
「別にそんなことないよ。ありふれたものだったし」
何なら、安い服の素材は大体ポリエステル製で、綿や麻よりも安価だったような気がする。
「そう。でも聞いたことない遠方の素材なら、それだけで凄い価値が付く。黄金と等価と言われる香辛料だって現地では野菜のようにありふれた食材らしい」
それは本で読んだことがある。
中世ヨーロッパでは、胡椒を始めとしてインド産の香辛料が高値で取引されたらしい。だけどそれは造船技術が未熟で海賊もいたから、海運コストが馬鹿高くてその分の料金が上乗せされたからとかなんとか。
地球にケモ耳っ娘がいた記録なんてないから、この世界にインドがあるとは思えないけど、似たようなことがこちらにもあるらしい。
まあこの服に関してはスキルで作ったものだから、運送コストは0なんだけどね。
「サクラちゃんは博識だね」
「ふふん、おばあちゃん家の本で読んだ。……まあ、本は全部売っちゃったけど」
胸を張ったり、しょぼんとしたり忙しない。
この村の様子を見るに食料や諸々を調達するために、本を手放さざるを得なかったという事情は察するに余りあるけど。
サクラちゃんは、本読みでとても賢いようだ。
「こんな良い服を送ってくれた貴方にお礼。パンツ見せてあげる」
ぴらっと、何のためらいもなくお尻を向けてスカートを捲ってきた。
毛並みの良い黒い尻尾と、ぷりんとした真っ白なお尻が見える。
「ちょっ、サクラちゃん!?」
「あっ、パンツは汚れてたから捨てたんだった。……貴方、下着も持ってたりしない?」
心なしかサクラちゃんの頬が赤い。賢さ担当というのは勘違いだったらしい。
しかし、下着は盲点だった。
出そうと念じてみるけど、流石に出来ない。
ノーパンで厨房に立つかと問われればそんなことは絶対にないはずなんだけど、下着が調理や給仕用の服であるかと問われるとそれも違う気がするからだろうか。
流石に何でもかんでも思い通りになるほど万能ではないらしい。
まあ、現状でも十分破格の能力だとは思うけど。
「ごめん、出せない」
「そう。でも、貴方の趣味なら私は全然受け入れられる」
「いや趣味で出してないわけじゃないから!!」
「……これがお兄さんへのお礼になるなら、私だって」
今度はアカネちゃんが短い給仕服の裾を指で摘まんでたくし上げて――。
「いや、求めてないから! お礼とか良いから、本当に!」
俺は慌てて上を向いた。アカネちゃんだってノーパンに違いない。
サクラちゃんのお尻を見たのだって大分アウトよりなのに、この世界基準でも結婚できないゴリゴリ未成年のアカネちゃんの前を見たらレットカードで一発退場になってしまう。
「わ、ちょっと毛が生えてる。大人になったね」
「サクラ姉は見ないで!!」
毛って尻尾のことですよね、理解ります。
ってか、こんなことをしてるとすぐにでも飛んできそうなツバキさんの姿が見当たらない。さっき釘を刺されたばかりなこともあって内心慄いていたのに。
「ありがとうございます。この村全員に衣服を与えてくださって」
シャツとズボンに着替えた背の高い女性が寄って頭を下げる。
「アカネ!? こら、はしたない真似はやめなさい」
それから、アカネちゃんに手刀を落として注意をしていた。
「だって、服をくれたお兄さんにせめてものお礼をしたかったから」
「そうなのですか? ……服を頂いた手前、申し訳ないのですがアカネはまだ子供の身です。そういうお礼を求めるのでしたら年長者の私共が――」
「誤解! 誤解ですから! 別に見返りを求めてやってるわけじゃないですし」
大きなお姉さんはジッと俺を見てからもう一度アカネちゃんにチョップした。
「子供のアンタが余計な気を回すんじゃないよ、全く」
「子供じゃないもん!」
「そうやって自分を安売りするような真似をする時点で子供だよ!」
「安売りしてないもん!」
「そういうお礼ならアカネじゃなくて私がする」
腕に絡めるように胸を押し当ててくるサクラちゃん。大きなお姉さんの俺に対する警戒の目が一段強まっていた。
「サクラ姉は良いの?」
「もう結婚も自由に出来る年齢だし、そうしたいなら止めないよ」
いや、止めてよ。収拾つかないじゃん。どこ行ったんだよ、ツバキさん……。
村を見渡すと、新しい服を貰ってキャッキャしている村の人たちが見える。
男の子はシャツとズボン。女の子はふりふりのウェイトレス姿。大人の女性はシャツとズボンの人と、割烹着姿の人が半々と言った感じだが、中には子供に交じってウェイトレス姿をしている気合の入った人もいる。
因みにこれは断じて俺の趣味ではなく、リクエストを聞き入れた結果であると言っておきたい。
まあ、ケモ耳ウェイトレスが眼福じゃないと言ったら嘘になるけど。
なんてことを考えながら幸せな光景を視界に収めていると、ガラガラと車輪が地面を駆る音が聞こえる。馬の嘶きと共に、それが止まった。
「さーて、お立会いの時間です。今週もコンキスタ商会が、商品を持ってやって参りましたよ。畜生の皆さんが現金をお持ちでないことは百も承知。奴隷と食料の物々交換で取引を承りましょう!」
紫色のシルクハットとタキシード、素顔は笑った顔のお面に隠されていて、手にはステッキが持たれている。
商人、というよりは道化師に見える。
その周りには頑強そうな装備で身を固めた傭兵たちが護衛をしている。
「おや? おやおやおやぁ? 畜生の皆さんが、良いお召し物を着てますねぇ? それに見慣れない顔が。人間! これは驚きました。同業者ですか?」
どこか芝居がかった言い回しで大仰に言ってから近づいてくる。
目にも止まらぬ速さでステッキを首筋に添えられていた。横に目を向けると銀色の光が反射した。どうやらステッキだと思っていたそれは仕込み杖だったらしい。いつの間に抜刀していたのか、抜身の刃物になっている。
「困るんですよねぇ。我々は領主様に許可を貰って独占的に商売をすることを認められているのに、勝手に割り込まれると」
ぞろぞろと傭兵たちが俺の周りを取り囲むように立っている。
「あの人たち、ぼくのパパをママを連れて行った人……!」
「ママを返せ!」
「しっ、静かに。部屋に戻って隠れてなさい」
さっきまで新しい服に盛り上がっていた村の人たちが蜘蛛の子を散らすように家の中に戻っていく。しかし傭兵も、商人を名乗る道化師のような男もそれを追いかけたりするような気配はない。
なるほど。
こいつは、この村の食糧難にかこつけて、飯が欲しければ奴隷を差し出せと脅迫のような取引を仕掛けていたのだろう。
目の前の非道なクズ野郎に舌を見せて笑う。
「一つ、俺はお前の同業者じゃない。二つ、この村でお前なんぞと取引したいやつはもういない。残念だったな」