餓死寸前の獣人少女に餌付けをしたら、ヤンデレハーレム村の村長になっていた 作:破滅
「くくくっ、残念。交渉決裂ですね」
バラバラになった道化面の商人の転がっている頭が不気味な笑い声をあげた。
「……ゴーレムか」
「正確には魔導人形ですねぇ。安くなかったので、壊されてしまって残念です」
「そいつらも人形なのか?」
俺に向けていた甘い表情から一転、凛々しく殺気立った顔になるツバキさん。刀の切っ先を向けられた傭兵三人はニタニタと笑っている。
「その男を抹殺してください。そいつが死ねばこの村は再び食料と物資を失い、我々に頼るしかなくなる!」
「報酬は?」
「金貨十枚、上乗せしましょう」
「ラッキー、ついてるぜ! こんなひょろがり一匹ぶっ殺すだけで一月分の報酬が貰えるなんてな!」
ハイタッチをして盛り上がる傭兵三人衆から俺を庇うように、ツバキさんが立つ。
「させると思うか?」
「まさか、俺たち三人を相手に勝てるつもりか?」
「はっはっは、こいつ馬鹿だ! ボコって犯してやろうぜ!」
「あまり油断するな。この村の用心棒は手練れと聞く」
「だとしても、この貧しさじゃ飢えて万全ですらないだろ。なぁオーナー。こいつは戦闘員だし傷物にしても良いよな?」
「ええ、好きにしてください。生死も問いません」
斧、棍棒、槍を傭兵たちはそれぞれ構える。ツバキさんは足を開き、構えに入った。ザッ、と土を蹴る音と共に、先に動いたのはツバキさんの方だった。
刀が空を切り、槍の突きを紙一重で躱す。斧、棍棒の攻撃をバク転しながら軽やかに躱した。
強い……!
素人ではない大柄な男三人相手にしているのに、しなやかな動きで対処して、致命傷とまではいかずとも小さな切り傷を攻防の度につけている。
このままいけば、ツバキさんが有利に見える。
「チッ、マジかよ。女のくせに強えじゃねえか」
「だから言っただろ、油断するなと」
「じゃあさ、こういうのはどうだ?」
斧の男が、腰から抜いた手斧を俺目掛けて投げてくる。
「ッ!」
キンッという音と共に斧は弾かれ、俺は守られる。しかし、その動きの隙は大きかったみたいで棍棒の打撃がガッ、という鈍い音を鳴らしてツバキさんの頭に直撃した。
すかさず飛んできた槍を手で掴んで無理やり受けていた。
「ツバキさん!」
「私が、油断した。ミチル、下がってくれ」
ツバキさんの額からは血が流れていた。呼吸は荒い。
立っているのが不思議なくらいだ。あんな打撃を食らえば脳震盪になって気を失っていてもおかしくない。
さっきまではツバキさん優勢だった。
でも、今のツバキさんが三人の傭兵を相手に戦って勝てるだろうか?
邪魔になるから下がるという判断をするのが少し遅れてしまった。いや、中途半端に離れてしまったせいで、投げ斧の角度が隙になってしまったのか?
わからない。戦闘の経験があるわけではないから、どうすれば良かったのかも。
でも、このままツバキさんに戦わせても状況が悪くなることはわかる。
この村で戦えそうな人はツバキさんだけ。彼女が崩れてしまえば、外敵から身を守る手段がこの村から失われてしまう。
戦わなければならない。俺も。
「『厨房領域《エニタイム・キッチン》」
能力を発動して長い刃渡りの包丁を創り出す。
「下がれ、ミチル。お前に、戦闘の経験はないだろう。下手に手を出しても、怪我をするだけだ。私が、お前を守ってやる」
ツバキさんはふらふらになりながらも刀を構え直していた。
包丁を握りしめる。鎧を着た傭兵たち。この包丁よりも長いリーチの斧、槍、棍棒の攻撃を掻い潜りながらあの鎧の隙間を狙って攻撃を当てる自信は全くない。
「ひゅーっ、格好良い」
「殺すなよ。死姦は趣味じゃねえんだ」
「だから油断するなって」
傭兵三人衆はツバキさんへの攻撃を開始する。
さっきみたいに軽やかに躱せていない。刀身で無理やり攻撃を受け、致命傷を避けつつも打撃を何回も身体で受けている。
「ミチル、逃げろ。私のことは良い。この村のことも。見捨てて、お前だけでも逃げろ。それくらいの時間は、稼ぐ」
ツバキさんが叫んだ。
「元々、ミチルが来てなかったらこうなっていたんだ。お前まで私たちに巻き込まれて死ぬ必要はない。お前が来てくれたお陰で私たちは最後に美味しい食事にありつけた」
咆哮を上げ、血を流しながらツバキさんが戦う。
この人たちを置いて、俺が逃げる……?
食わせてやるって約束したこの村の人たちを――身体の関係を持って他人とは言えない関係になったツバキさんを見捨てて逃げる?
そんなこと、できるわけがない。
前世、妹たちを守るためにヤクザに脅されて犯罪行為に加担した俺が、ここで自分の命惜しさの為だけに逃げていいはずがない。
何をしてでも、ツバキさんを守る。
どうすれば良い?
包丁では、傭兵たちに勝てない。
俺の能力は何が出せる?
大きな鍋、コンロ、米の俵……あれ一個60kgだよな。
「ツバキさん! その場から全速力で離れてください!」
「っ! 解った!」
「『無限食料庫』ッ!」
傭兵たちの頭の上に食料庫を開いてそのまま米俵を10個ほど頭上に堕とす。
「何をしたって、は!? なんじゃこりゃ!」
「逃げろ!」
「いや無理だ、こんないきなり!」
「ぎゃぁああ!」
ぐしゃっ、と音を立てて固まっていた傭兵たちは米俵の下敷きになる。
死んだかどうかはわからないけど、無事では済んでないだろう。
「ちょ、何ですかこれは! 魔法、それとも食料を出すスキル……?」
首だけになったクズ商人が周りを見ていた。
「良い気にならないことですね! 貴方が空間魔法のようなスキルを持っていて多くの食料を持っていたとしても所詮は一個人に過ぎない。領主御用達の商人である私を敵に回すということがどういうことか、とくと思い知らせてやりましょう!」
聞くに堪えないので、そのまま米俵を出してぐしゃっと頭を潰した。
「……なるほど。食料をそうやって出せば、武器にもなるのか。ミチル、またお前に命を救われてしまった。すまないな……」
ふらりと倒れそうになるツバキさんを俺は支えた。
「ちょっ、大丈夫ですか!?」
俺の胸に受け止められたツバキさんは、返事をしない。目を閉じて、意識を手放してしまった。
棍棒で頭を殴られ、その後もその身を挺して攻撃を受け続けていた。脳震盪を起こしている可能性がある。
こんなになるまで戦ってくれた。俺を守るために。
謝らなければいけないのは、お礼を言わないといけないのは俺なのに。
商人が来ると同時に、家の中に隠れていた子たちがぞろぞろと出てくる。
「ツバキお姉ちゃん……」
「アカネちゃん。ツバキさんが、戦いで怪我をしてしまって。この村に医者とかはいない?」
「お医者さんは、連れて行かれて……」
そりゃそうだ。大人がいないのだから、医者がいるはずもない。
「私が診る。本、いっぱい読んだから出来るかも。怪我の手当てなら、多少できるし」
サクラちゃんが手を上げた。
ツバキさんを抱えて、サクラちゃんの家に連れて行く。
「清潔なお水と、清潔な布が欲しい」
「お湯にした方が良い? それと、消毒液も出しておくね」
「見た感じ打撲が多いから冷たい方が良い。ところで、消毒液ってなに?」
「消毒液は……あー、傷口に塗る専用のお酒みたいな?」
この世界にばい菌の概念があるかわからないし、説明が難しい。
「本に書いてあった。お酒には邪気を祓う力があるから、怪我や病気が治るって」
……なんかちょっと不安になるな。大丈夫だろうか。
とりあえず、鍋を出して外の蛇口に水を注ぎに行く。
患部を冷やす必要があるなら、氷もあった方が良いだろうか。
ポリ袋に氷と水を入れたものをいくつか作って、それも持っていく。
藁布団の上に寝かされたツバキさんは、見てて痛々しい状態だった。腕や肩、背中に赤黒い痕が見える。内出血しているのだろうか。サクラちゃんと目が合う。
「その、大丈夫そう?」
「うん。呼吸はちゃんとしてるし脈もある。頭を殴られて、気を失ってるだけでしばらくしたら起きると思う」
「そう……」
無傷で済んだわけじゃないし良かったと言って良いのかはわからないけど、命に別状はなさそうで安堵する。
「あんまりジロジロ見ないで。エッチ」
ジト目のサクラちゃんに指摘されて、やっとツバキさんが半裸の姿にされていたことに気が付いた。
男の俺がジロジロ見ていいものではないだろう。
「ご、ごめん。じゃあ、ツバキさんのことは任せるよ」
氷と水を置いた俺は、サクラちゃんにツバキさんを任せて外に出た。