餓死寸前の獣人少女に餌付けをしたら、ヤンデレハーレム村の村長になっていた 作:破滅
心配だ。サクラちゃんが一生懸命介抱してくれてるとはいえ、それでも心配なものは心配だ。
薬を出せないかと思って無限食料庫を探ってみたけど
調理具精製で消毒液まで出せたからイケると思ったけど、そこまで万能なスキルというわけでもないらしい。
基準は何なんだろう……。
昨日も、石鹸までは出せたけどシャンプーや垢すりは出せなかった。タオルや布巾は出せたけど、バスタオルは出せなかった。
調理具精製に関しては、飲食店の備品であり得るものくらいなのだろうか。
まあ、現段階でも十分融通が利くし凄く助かってはいるのだけど。
今、ツバキさんに対して祈る事しかできないのがやきもきする。
「ツバキは大丈夫そうでしょうか?」
サクラちゃんの家の前でうろうろしていると、糸目のお姉さんが話しかけて来た。
「ああ、えっと……、殴られて気を失ってるだけで命に別状はないそうです」
「そう。良かった、と言って良いのかはわからないですが、安心しました……」
「お名前、伺っても良いですか?」
「あ、そうですよね。すみません、これだけ村に良くして頂いてるのに、自己紹介もまだで。スミレと申します」
「スミレさん。俺はミチルって言います」
「存じております」
ペコペコと頭を下げ合うこの感じ、日本っぽい。ここは異世界なのに。
スミレさんはいつも子供たちの傍に居て纏めたり、何かあったら守ろうとしたりしてて少し印象に残っている。
シャツから覗かせる白い腕は枯れ枝のように細く、飢えているこの村でも特にやせ細っている。
声音や立ち居振る舞いから、物腰の柔らかい印象を受ける。
「ミチルさん、改めてこの村を――ツバキを救ってくれてありがとうございました」
「救ったなんてそんな。ツバキさんが庇ってくれなければ俺は恐らくあいつらに殺されてました」
「それもなんですが、この村に貴重な食料を分け与えてくださったことも。お陰で、飢え死にを待つばかりだった私たちは救われました」
「いえいえ。俺も貧しかった時に誰かに助けて貰いましたから」
神様から貰ったスキルで出したものだから大したものじゃない、とは言わない。
俺も、この村ほどじゃなくても貧しさと飢えに苦しんだことがあるから、そこで手を差し伸べられる嬉しさを理解できないわけじゃない。
売れ残りのパンの耳でも、大根の葉っぱでも貰えるものはありがたかった。
スミレさんは頭を上げた。
「そうなんですね。……失礼なんですが、正直ミチルさんは彼らの仲間だと思ってました」
彼ら、というのはコンキスタ商会と名乗ったクズ商人たちのことだろう。
あいつらは川の水を堰き止め森を焼いて意図的に飢饉に追いやったと言っていた。
全ては、この村の人たちを奴隷にするために。
もう既に何人も連れて行かれているらしい。
「仕方がないですよ。俺だってスミレさんの立場なら警戒する」
「それでも、ミチルさんは恩人なのにただ人間ってだけでそっけない態度を取ってしまったから。申し訳なくて、謝りたいんです」
スミセさんは再び、深く頭を下げた。
「頭を上げてください。スミレさん。自分で言うのも何ですけど俺は素性の知れないような流れ者です。この村には女子供しかいなくて、そんな中で年長者として子供たちを守ろうと俺を警戒したスミレさんは立派だと思います」
実際、お菓子を上げるなんていうのは昔から不審者の常套句とされてきていた。
食べ物をあげたくらいでいきなり感謝して全幅の信頼を寄せる方が無警戒だ。
あんな悪どい奴隷商人がいるような世界ならなおさら。
スミレさんは頭を上げた。
「ミチルさんは、お優しい方なのですね。貧しい私たちに無償で食料を分け与え、それでも疑った私を立派だと言える。まるで獅子王のように器が大きい」
獅子王が何なのかは知らないけど、凄く褒めて貰えてることは伝わった。
「いや、俺なんてそんな大それたもんじゃないですよ。現に、怪我したツバキさんにしてやれることがなくてこうしてうろうろすることしかできないのですから」
「サクラが治療に当たってるのでしょう? 彼女が命に別状はないと言ったなら、大丈夫ですよ」
「そうですかね?」
「ええ」
スミレさんはこの村のお姉さん、というかお母さんみたいな包容力を感じる。
現に、何も出来ない焦燥感みたいなものは緩和された。
「手隙なら、ツバキに精のつくものを作ってあげたらどうですか?」
怪我の修復にも食事は不可欠だ。ツバキさんが起きた時の為に栄養たっぷりのご飯を作る。結局俺に出来ることはそれだけなのだ。
「そうですね」
そうしようと厨房を出した瞬間に、ぐぅぅと腹の虫が鳴いた。
「……全員分、昼飯を作りましょうか」
「やだ。私がお腹が空いたから催促したみたいになったかしら」
スミレさんは赤く染まった頬を手で押さえ恥ずかしそうにしている。
「お腹空いたならいくらでも催促してください。腹いっぱいなるまで食わせるんで」
「あら、私まで口説いてるの?」
「いや、そんなつもりじゃ……」
「うふふ。ミチルさんは甲斐性ありそうだし、私としては吝かじゃないけど。まあ、こんな痩せた女じゃ魅力は感じてくれないかしらね」
「いや、スミレさんは凄く綺麗ですし、率先して子供たちを守ろうとしたり面倒見ようとするところとか素敵だと思いますし、魅力的じゃないとは思いません」
「あ、あら。そんな風に言われたら、期待しちゃっても良いのかしら?」
スミレさんは、満更でもなさそうな表情でこちらに流し目を向けてくる。
俺には既にツバキさんがいるのに、ここで違いますと誤解を解いたらスミレさんが魅力ないから断ってるみたいになってしまってる。
っていうか、この世界って言うか、この村って一夫一妻が基本じゃないのだろうか?
今朝ツバキさんの家から俺が出てきたことなんて村のみんなが知っているだろうにそれでもお構いなしにアピールされてるし。
い、いや、そんなことより精のつくご飯だ!
「スミレさん、ご飯作るの手伝ってください」
「ええ、もちろん」
「『厨房領域《エニタイムキッチン》』」
スキルを発動して厨房設備を出現させる。
「わっ、何度見ても凄い能力ね」
スミレさんは出現したキッチンに恐る恐る手を伸ばして触っていた。
「あ、そこコンロ……火が出るとこなので気をつけてくださいね」
ひゅっ、と手を引っ込める。単に俺が怪しい人間だったからってのもあるだろうけど、スミレさんが元々臆病だったってのもあるんだろう。
ハンドソープをつけて手を洗っていく。
スミレさんも真似をしてハンドソープを手に乗っける。
「これ、不思議ね。押したら既に泡立って出てくる。……石鹸よね?」
「まあ。って言うか石鹸はあるんですか?」
「そうね。貧しくなる前は行商から買ってたりしたわ」
あるんだ、石鹸。そういえば古代ローマでも石鹸があったって聞いたことあるな。映画で見たからだと思う。
ごしごし手を洗ってからくんくんと臭いを嗅いで、笑顔になっていた。
「良い匂いね、これ」
スミレさん、案外お茶目というか可愛らしいところもあるらしい。
「それで何を作るのかしら?」
「どうしようかな」
傭兵たちを倒すのと、昨日の食料を出せる証明で米俵をいっぱい出したから、お米の炊き方は教えておきたい。
どうせ炊くのに時間が掛かるし、準備しながらおかずは考えれば良いか。
「とりあえず、米を炊こうと思う」
「こめ?」
「あの俵の中にいっぱい入ってるから。俺が何かの事故で死んだとしても、調理法が解ってたらしばらく食うに困らないでしょ?」
「死ぬだなんてそんな縁起でもない」
「はは、すみません」
と言ってもあの投げ斧をツバキさんが庇ってくれなかったら俺は今日死んでたかもしれないし、そうでなくても人はいきなり死んでしまうものだ。
前世も、本当はもっと家族の成長とか人生の行く末を見たかったのにその前に死んでしまったから。もうすぐ生まれるらしかった甥っ子の顔とか見たかったし。
……とはいえ、まあ軽々しく言うには少し不謹慎だったかもしれない。
内心で反省しつつ、土鍋とコンロを十個ほど精製していく。
「じゃ、お米の炊き方教えますね」