餓死寸前の獣人少女に餌付けをしたら、ヤンデレハーレム村の村長になっていた 作:匿名希望
「そういえば名前を聞いていなかったな」
村へ先導するケモ耳侍さんが立ち止まって、急に。
「尋ねるより先に名乗るのが筋だな。私はツバキという」
椿は花ごと落ちることか、断頭を想起させると言われている。
着流しに手入れの行き届いた刀。実は介錯人をしていたりするのだろうか。
「俺は飯沼満です。苗字が飯沼で、名前が満」
「名前、ミチル……。苗字があるのか。貴族なのか?」
「そういうわけではないけど、俺の故郷ではみんな持ってるんですよね」
「そうか。お前の故郷はどこなんだ?」
「遠い国だよ」
「なるほど。さしずめ世界中を旅しているといったところか」
「まあ」
実際は異世界から転生してきて、一日ほど彷徨い歩いていただけなんだけど。
ツバキさんの後を着いていくと、集落が見え始める。
木で作られた柵に囲まれ、藁葺で被せられたテントのような家が立ち並んでいる。まるで弥生時代の遺跡のようだ。
「おーい、みんな。出て来てくれ! 食料を持って帰って来たぞ!」
ツバキさんが声を上げると、家の中からのそのそとケモ耳っ娘たちが出て来た。
若い女性と子供しかいない。
みんなボロボロの小汚い服を着ていて、やせ細っている。その目には生気がなく、背筋が曲がってゾンビのようにのそのそと集まってきた。
本当に人、住んでたんだ……なんて思うのは流石に失礼か。
とはいえ、この世界の文明レベルがそれほど遅れているってことなのか、それともこの辺りが特別発展していないだけなのか。
「食事、本当に出来るんだろうな? みんなに期待させてしまったから、出来ないと言われると困るが」
ツバキさんが近づいて来て、こそこそと耳打ちをしてくる。
なら食料出し終わった後に呼べば良かったのに。……やせ細った子供たちの様子を見るに、一刻も早く食べさせてやりたいということなのだろう。俺だってそうだ。
貧しくてお腹が空いている、というのは本当に辛い。
借金取りに利子と言って食費を奪われた時は、八百屋で廃棄される予定だった大根葉を煮てみんなで空腹を紛らわせていた。
この村の子供たちの痩せ具合を見ると、大根の葉っぱすら食えてないのかもしれない。
俺には女神様に与えて貰った『無限食料庫』がある。
「ツバキさんも、みんなもちょっと離れてください」
「……理解った」
ツバキさんは少し怪訝な顔をしながらも、少し距離を取ってくれる。
「『厨房領域《エニタイム・キッチン》』」
スキルを発動すると、俺の周囲にキッチンが出現する。
清潔な水が無限に流れ出る水道、無限に出てくるハンドソープ、俺が形状と名前を知ってさえ知ればいくらでも創り出すことが出来る調理器具、そして、無限に食料が出てくる常温の倉庫と、無限に食料を収納できる冷蔵庫。
これが、女神様から貰った俺の能力の概要である。
一言で言えば、どこでも料理することが出来る能力。
「な、なんだこれは……」
ツバキさんは目を見開いて驚いていた。しかし飢えてる獣人たちは驚く余裕もないのか、虚ろな目でキッチンを見ていた。
「はは、どうしてだろ。お腹空き過ぎて、幻覚が見えて来た」
「ツバキお姉ちゃん、あの人がご飯、作ってくれるの?」
「あ、ああ。そのはずだ……」
「『料理具創造《クックメイカー》』」
能力を発動し、巨大な寸胴鍋を出現させる。
そして食料庫からは、サトイモやサツマイモなどのイモ類、大根やニンジンなどの根菜、玉ねぎやかぼちゃなどの野菜、にんにく、生姜、しいたけ、それから大量の豚肉を取り出す。
今回は豚汁、というより芋煮を作る。
理由は、この村の人たちが思っているよりも遥かに飢えて衰弱している状態にあるからだ。
ここまでになると、並大抵のものは消化が難しく本来は重湯のような消化に良いものが望ましい。食べなさ過ぎて栄養失調状態にもあるだろうから、炭水化物とタンパク質とビタミンを纏めて取れるスープのようなものが良いだろう。
無限食料庫は、あくまで食材しか出せない。
既製品でも調味料や加工品はものによっては出せたりもするけど、出せないものも多い。例えばケチャップやマヨネーズは出せるけど、それを混ぜたオーロラソースを最初から出すことは出来ない、みたいな。
そして当然、完成品の芋煮をいきなり出すことも出来ない。
料理を出すには、ちゃんと調理の工程を挟む必要があるのだ。
「ツバキさん、見てないで手伝ってください」
「ハッ、す、すまない。何をすればいい?」
顕現したキッチンに呆然としていたツバキさんは、俺の言葉で慌てて立ち上がった。
「とりあえず芋の皮を剥いて一口サイズに切ってください」
「理解った」
徐にその腰に携えている刀に手を伸ばし――。
「ちょ、ちょっと待った!」
慌てて制止した。
「む、ダメか?」
「ダメに決まってるでしょ。口に入るものを作るんだから。刀じゃ汚いでしょ」
「失礼な。この刀は父から受け継いだ私の宝で、手入れだって毎日欠かさず――」
「ってことは錆止めが塗ってるってことでしょ」
「確かに。私が浅慮だった。……私は、戦士として育てられてきたから炊事のことが全くわからん。教えてくれ」
シュンと耳をペタンとさせている。俺も強く言い過ぎてしまったかもしれない。
「まずは手を洗ってくれ」
「手を洗うのか? しかし、最近の旱魃で、この村の水は飲む用だけで精いっぱいなんだ。手を洗うために使うなんてそんな贅沢……」
俺は芋の皮むきを止めて、水道の蛇口を捻った。透明な水が出てくる。ただそれだけのことにツバキさんは目を見開いた。
「み、水……! しかもこんなに綺麗な」
流れる水を手で掬ったツバキさんはクンクンと臭いを嗅いでから、ぺろりと舐めていた。
「み、水だ。しかも美味い。綺麗な水だ。ミチル。これを村のみんなにも飲ませてやりたいが、良いだろうか?」
これに関しては俺の気が利かなかったかもしれない。
日本に生まれてひもじい経験をしたことは何度もあるけど、飲み水が無くて彷徨い歩いたことなんて一度もない。
公園に行けば好きなだけ水が汲めるし、水道は滞納しても中々止まらない。
だから、というわけではないが、飯を食べさせるということばかりに気を取られて水のことまで発想が行かなかった。
「『水道顕現《ウォーターメイカー》』」
俺は、日本の公園によくある飲み口と手洗い用の場所がある水道を5つほど顕現させた。
「蛇口と言って、ここを捻れば水が出てくる」
お手本を見せると、虚ろだったケモ耳っ娘たちの目に光が宿った。
「み、水だ!」
「本物だ!」
「飲めるよ! 美味しー!」
「あぁぁ、水。神様ぁ!」
「奇跡だぁぁ!」
みんな寄って集って水道に集まって浴びるようにゴクゴクと水を飲み始めた。よっぽど喉が渇いていたのだろう。
「ミチル、綺麗な水をこんなにたくさん出せてしまうなんてお前は一体……。いや、正体は探るまい。ただ、この村に水を与えてくれてありがとう」
ツバキさんは五体を地についてお礼を述べた。
「い、いや、頭上げて。それよりも、作るの手伝ってよ」
「あ、ああ。何から何まですまない。この恩をどう返せば良いか……」
「早い早い。これから五十人分の飯作んないといけないんだよ? お礼言ってる暇あったら芋の皮剥いて?」
「ふふっ。ああ、すまない。こんな神様みたいな所業をしておいて、求めることが芋の皮むきってのがおかしくてな」
可笑しそうに笑っていた。ツバキさんが笑顔になっているのを始めて見た。
張り詰めている顔も凛として格好良かったけど、笑顔が一番可愛らしい。
「包丁はそこにあるから、手をちゃんと洗ったら剥いてよ。マジで大変だから。戦場になるから。覚悟しといてよ」
「戦場か。野菜に刃を振るうなんて、こんな幸せな戦もないな」
ツバキさんは、料理をしたことがないというのが嘘みたいに器用にナイフを扱ってするすると皮むきをしていく。
刀を扱うから、刃物の扱いには慣れているのだろう。
「剥いたらこんな感じで小さく切って鍋にいれてください」
「ああ、理解った」
「あの、私たちにも手伝えることはありませんか?」
さっきまで水道に狂喜乱舞していた村の獣人たちの中でも、妙齢の女性たちがキッチンに上がり込んできた。俺は人数分包丁を精製して渡す。
「野菜は皮を剥いて、具材は一口サイズに切っていってください」