餓死寸前の獣人少女に餌付けをしたら、ヤンデレハーレム村の村長になっていた 作:匿名希望
弟が二人、妹が二人の五人兄弟だった。
親父が浮気性のクズだったので母親は違ったけど。いわゆる腹違いってやつだ。
一番上の妹でも五歳以上離れていて、親父が蒸発した時はまだ小学生だったので働いて帰ってきた後、五人分の晩飯を俺が作っていた。
食べ盛りの五人分でも大変な作業だったけど、今日は五十人前を作らなければならない。もはや給食だ。
するすると芋の皮を剥いてから、2cm大に切っていく。
本来の芋煮は食べ応えを良くするためにもっと大きく切るのだが、長い飢えで弱った胃腸のことと、早く火が通ることを考えて細かく切っていく。
「手際が良いな。私が一つ切る間に、ミチルは二つ終わらせている。料理人でもやっていたのか?」
皮を剥きながら、隣のツバキさんが感心したように言う。
「いや、兄弟が大勢いてな。俺が料理番をしていた」
「道理で、ミチルの料理は温かいわけだ」
「温かい? 確かに冷や飯は出さなかったけど」
「そういう意味ではない。朴念仁め」
それだけ言って、黙々と芋剥きの作業を再開した。
ツバキさんの他に六人ほど手伝ってくれたけど、野菜の皮を剥いて切るだけで1時間も掛かった。他の六人は空腹のせいか、作業速度はかなり遅かったけど。
大変だった。
切った野菜が入った大鍋に水道水と感想昆布を投入して火をかけ蓋を閉める。
調理具顕現《クックメイカー》で巨大コンロを出せて良かった。
「お腹空いた……」
栗毛色の小さい男の子が調理台の上に乗っている生の豚肉に手を伸ばした。
「ダメダメ! 火が通ってないから!」
「でも……」
「ご飯は今作ってるところだから。もうちょっとだけ待って」
「作ってる。ご飯、食べれるの?」
「ああ、食べれるぞ。この人……ミチルが、全員分を作ってくれているところだ」
「みんなももう少し待ってくれ。そしたらお腹いっぱい食べれるぞ」
ツバキさんが男の子を厨房の外に連れ出しながら、不安そうに外から見ていた子供たちの前に出て行く。
「わかった、待つ」
「ご飯食べれるって」
「本当に?」
「あのお兄さんが作ってくれたって」
「食べて良いの?」
「ツバキお姉ちゃんが食べれるって」
慕われてるんだな、ツバキさんって。
俺からすればいきなり刀を向けて来たおっかない人だけど、これだけ飢えと渇きに苦しめられてる状況を見るといきなり切って来なかっただけ優しいとすら思える。
大鍋を見る。これだけ大きいと水が沸くのを待つだけでも時間が掛かる。
暇だな。
少し考えて、良いことを思いついた。
無限食料庫から小麦粉を5kgほどと塩を取り出し、大きなボウルを出す。
小麦粉と塩を軽く混ぜてから水道水を投入し、混ぜて捏ねていく。
「ミチル、それは何をしているんだ?」
「うどんを作ってます」
「うどん?」
「汁に入れる麺を作ろうと思って」
「……麺?」
「穀物を粉にして纏めたものです」
「なるほど。パンみたいなものか」
全然違うけど……。どうやらツバキさんたちに麺という概念はないみたいだし、そこからどうやってうどんを伝えれば良いのかは理解らなかった。
「まあ、そんな感じです」
完成品を見れば伝わるだろうし、説明するのは諦めて粉を纏めていく。
5kgでも結構な重労働だ。
何とか捏ねて纏めて大きな一つの玉にしてから、創り出した巨大なビニール袋に投入して放置する。
その間に俺は靴を脱いで水道で綺麗に足を洗う。
15分くらい待ってから、うどんを踏み始めた。
「ふ、踏むのか? 食べるものを」
「そういう料理です。って言うかワインだって作る時にぶどうを踏むでしょ」
「そうなのか!? ワインは行商から買うことはあっても作ることはないから知らなかった」
ワインはあるけど作りはしないのか。そして行商は来るのか。
「やってみる?」
「わ、私がか?」
「うどんはいっぱい踏むほど美味しくなるんだ」
本当はこういうのは子供の仕事で、休日は妹や弟に生地を踏んで貰っていた。
けど、流石に上で弱ってる子には頼みづらい。
「そうだな。ならやってみよう。あの子らには、より美味いものを食べてほしい」
おっかなびっくりといった様子でツバキさんは袋の上に足を乗せた。
今気づいたけど、靴、履いてなかったのか。
ふさふさの毛に覆われている。
「あ、待って。少し足の裏見せて」
「ん? こうか?」
足を上げて裏を見せてくれた。ピンク色の丸くて柔らかそうなふにふにの……肉球だ! 肉球が付いてる!
足の裏と指に!
「手も見せてくれ」
「あ、ああ」
今度は掌を見せてくれる。こっちは肉球がない。毛も生えていない、白くて綺麗な指先だ。足は猫目っぽい肉球だけど、手は人間のそれ。
でも確かに、肉球って走る時の衝撃吸収とか足音を消すのが目的だったはずだから二足歩行なら手には要らないもんな……。
少し面白い。
「一応、爪は立てないようにな。袋破けちゃうから」
「あ、ああ、気をつける」
そう言って、ツバキさんは袋のうどんに乗っかった。ふにふにと踏んでいく。
「真ん中から外側に広げるように踏んで行ってくれ」
「こ、こうか?」
「そうそう、上手い上手い」
「そ、そうか?」
ニッ、と嬉しそうに笑ってうどん踏みを続けてくれる。
大人びた印象があったけど、笑う顔は少し子供っぽいというかあどけなさが残っている。いくつくらいなんだろう。
女性相手に聞くのは不躾だろうか。
考えているとカタカタと鍋の蓋が音を鳴らした。
「そのまま踏み続けてくれ。俺は鍋を見てくる」
「ああ」
鍋の蓋を開けると、中のお湯が沸き立っていた。そこに豚肉の山を投入していく。
食料庫から出した豚肉は塊ではなく、最初から細切れになっていた。
豚肉と言えばスーパーで安く売られているこま切れ肉というイメージが染みついているからあんまり違和感はなかったけど、調理済みの完成品は出せない食料庫からこま切れが出てくるのは何気にありがたい。
塊肉を解体した経験はないから、困るところだった。
豚肉を投入して混ぜていく。
出汁用昆布は取り出すのが普通らしいけど、うちでは最初から食用昆布を買って、出汁取ったあとに食べていた。
貧しかったから昆布でも貴重な食料だし、柔らかくなった昆布は案外美味しいのだ。
それから味噌、醤油、酒、みりんを投入していく。
こんな大量に作ったことがないから味の感覚がわからないので、こまめに味見をしながら調整していく。
「まあ、こんなもんか」
あとはアルコールが飛ぶまでひと煮立ちさせたら完成だ。
「よし、出来たぞ」
「……あれ? これは使わないのか?」
うどんを踏んでいたツバキさんが止まって目を開いた。
「ん、まあそれはあの子たちの腹具合次第ってとこかな」
一生懸命踏まれたうどんを回収して無限食料庫にしまう。
それから調理具顕現でお玉と、50人前のお椀とスプーンを創り出した。
「じゃ、注いでいくからそのお椀とフォークを取って並ばせてくれ」
「あ、ああ……。みんな、これを取って並んでくれ」
ツバキさんの一声で、村の人たちが並び始めた。
前から、小さい子順に並んでいる姿にほっこりする。
みんな空腹の限界は疾うに越えているはずなのに、彼らは譲り合いが出来るほどに仲が良いのか道徳が出来ているのか。
こんな人たちを助けられる力があって良かったと心から思う。
お椀に一杯ずつ注いでいく。
汁を継いでもらった子供がはけて地面に座ってクンクンとお椀に鼻を近づけて匂いを嗅いでいた。
あ、椅子と机……。すっかり忘れてた。
でもそんなの気にした様子もなく、ぺろりと舌で汁を舐めていた。
「熱っ」
目尻に涙を浮かべながらも、フォークで芋に刺して口の中に入れていた。
ふーふーして冷まさないから、熱そうにはふはふとしているけど凄く美味しそうに食べている。
ぐぅぅぅっ、とお腹が鳴った。
みんなお腹が空いているのだ。物欲しそうに待っている子供のお椀に汁を注いでいく。
「熱っ。あふっ」
汁を飲み、湯気を口から吐き出す。無我夢中で汁をかきこんでいく姿に、俺までお腹が空いてくる。
次、次と汁を注いでいく。
大きい子はふーっと息で冷ましてから汁を飲み始めた。
「あぁぁっ、あぁぁっ。美味しい……」
ぐぅぅぅっ、と大きな音が鳴る。汁を飲んだだけなのに、目から涙があふれていた。腹の虫は、胃腸が動き出した音なのだろう。
「ありがとうございます」
注ぎ入れるとお礼を言われる。貰ったら地面に座って夢中で食べ始める。
最後尾にツバキさんが並んでいた。フリフリと尻尾を振っている。
注いでやると、嬉しそうにとてとてとどこかに走って行った。
大きな鍋だったけど、芋煮はまだ半分くらいは残っている。