餓死寸前の獣人少女に餌付けをしたら、ヤンデレハーレム村の村長になっていた 作:破滅
陽が傾いて、空がオレンジに染まってきたので夕食を用意する。
食料庫から取り出すのは残っている芋煮と、ツバキに踏んで貰ったうどんの生地だ。コンロを創り出し、大鍋に火を掛け温め直す。
半分よりやや少なくなっていたので白菜を5玉ほど用意して、刻んで投入していく。これだけだと味が薄くなるので、味噌と醤油を追加して蓋を閉める。
その間に生地を袋から取り出し、打ち粉をして台の上に乗せた。
大きな塊を五つに分けていく。
「それは私が昼に踏んだうどん、という料理か?」
「今回はほうとうにしようかなと」
「ほうとう? うどんではないということか?」
「まあ殆ど同じようなものだよ」
「同じなのに別の名前があるのか? 不思議だな」
うどんは小麦に塩を混ぜるしお湯で湯がく一方でほうとうは塩を入れず汁で直接煮込むという違いがあったりするのだが、ややこしいし説明しなくて良いか。
うどんの方がメジャーだし伝わりやすいかなって思ってのことだったけど、麺料理の概念すらないなら端からほうとうで良かったかもしれない。言葉って難しい。
1kgずつに分けた麺を更に麺棒で均一に薄く延ばして行って、更に打ち粉をしてから三枚に追って平たく切っていく。
「ツバキさんも手伝ってください」
「ああ。ミチルがやってるように伸ばして切って行けば良いのだな?」
「はい」
麺棒を渡すと、ツバキさんは水道で手を洗ってから受け取った。
生地にそのまま棒を押し当てて――。
「ミチル、この丸木がくっついてしまったぞ! どうすれば良い」
麺棒に生地をくっつけてしまって、あわあわとしている。
「打ち粉をしてください」
「う、打ち粉?」
「小麦粉を――」
説明しようと思ったけど耳がへたりとしていたのでやめる。いきなり色々説明しても難しいか。
「……俺がやるので、ツバキさんはこれくらいの太さで切ってください」
「切るだけで良いのか? それなら得意だ」
切るだけになった生地を明け渡すと、手際よく麺を作っていく。お侍さんなだけあって刃物の扱いには長けているらしい。適材適所ってやつだ。
ボロボロになった生地に打ち粉をして、伸ばして形を修復していく。くっつかないように粉を振ってから三枚に畳んで渡していく。
ものの三十分ほどで全ての生地が麺に変わった。
白菜の水分で水嵩が増した鍋の中に生のまま麺を投入していく。
蓋を閉め、柔らかくなるまで待つのみ。
「なあ、ミチル。お前はいつまでこの村に居てくれるんだ?」
「いつまでって……。とりあえず、生活が立ち直るまでは見届けようって思ってるけど」
「立ち直るって具体的には? どれくらいだ?」
「いや、まあ。俺が出て行けばこの村がまた飢えと渇きに苦しむことはわかってますし。大丈夫そうだなって思うまではいるつもり」
「そうか。だったらずっとこの村が立ち直らなければ……」
「ん? なんて言いました?」
「い、いや、何も言ってない!」
一瞬、この村が復興しなければ良い、みたいな発言が聞こえたような気がしたけど、そんなわけないよな、ツバキさんに限って。聞き間違いをしたに違いない。
「でもその、実際のところ食料はどれだけあるんだ? これだけの人数を養うとなると、数日分が精々だろう?」
「それが、多分大丈夫なんですよ。ずっと。俺には『無限食料庫』があって」
「ああ、神から与えられた能力らしいな」
「アカネちゃんから聞きました?」
「ああ。だが私には嘘を吐かないでほしい。今後の立ち回りを考えるためにも、本当のことを知りたい」
「本当ですよ」
「いや、無限に食料を出すなんてそんなスキルがあるはず――」
試しに米を二十俵ほど出して見せる。一俵約六十kg、二十あるから1.2t。
一か月一人五kg食べるとして、五十人で二百五十kg。これだけで四ヶ月は食うに困らない計算になる。
山積みになった俵に、目を見開いて驚いていた。
「これは食べ物なのか? 種……いや、穀物か? 重い。みっちり詰まっている。どれも本物のようだ」
「米って言うんですよ。今朝、ツバキさんに出したアレと同じものです」
「こめ。なるほど、これを煮るなりして柔らかくしたのがアレか。アレは確かに美味かった。その上腹持ちも悪くなかった。これ全てがこめなら、確かにこの村は暫く食いつなぐことができる」
俵を立てて、中を見ている。玄米を手に取って、見たり嗅いだりしてじっくり観察している。ふさふさの尻尾をぶんぶん振っていた。
「なるほど。無限、というのはどうやら嘘やはったりじゃないらしい」
「そんな嘘を吐く意味もないですし」
「道理だ。一応これは置いててもらうことは出来るか?」
「もちろん」
その為に長期保存が利く玄米を出したと言っても過言ではない。
あらかじめ脱穀が済んでる白米を出すことも可能だけど、全体的に栄養不足なこの村だと脚気が流行る原因になるかもしれない。
俺がいる限り大丈夫だろうけど、追い出されないとも限らないし。
「これは明日、みんなで食料庫に運ぶとしよう」
「食料庫があるなら、俺が運びましょうか?」
「いや、大丈夫だ。獣人は力持ちが取り柄だからな」
そう言って、軽々俵を持ち上げていた。
「どうやら嘘やはったりじゃないみたいですね」
「ふっ、意味がないからな」
「確かに」
意趣返しをしてみると、ニヤリと笑って返答された。
話している間にカタカタと鍋の蓋が音を鳴らす。どうやら沸いたらしい。
蓋を上げるともわっと白い湯気が上がり、白菜はくたくたに煮込まれ、ほうとうも良い感じに柔らかくなっていた。
「みんなを呼んできて」
「もう来てるよ!」
呼びに行くまでもなく、獣っ子たちは昼のお椀を持って鍋の前に列を作っていた。
飯の匂いを嗅ぎ付けてきたらしい。
前から順番にほうとう汁を注いでいく。
「これ、お昼のと同じやつ?」
「匂いは似てる。でも、白いやつと葉っぱが増えてるよ」
お椀に入ったほうとうを興味深そうに嗅いで、隣の人と話している。
昼は飢えすぎてそんな余裕もないって感じだったから、この半日でかなり回復したらしい。
「あふっ!んー!この白いの、もひもひしてておいひー!」
ほうとうをいきなり口いっぱいに頬張った女の子は、はふはふと湯気を出しながら幸せそうな顔をしている。
「この葉っぱもしんなりしてて甘くて美味しいね」
隣の娘はふーふーしてから白菜を頬張って満面の笑みを浮かべていた。
この子たち、本当に美味しそうに食べてくれるよな。見てるこっちまでお腹空いてくる。
「お兄さん、よそ見してないで私にもください」
「ああ、ごめんごめん」
アカネちゃんに言われて、装う作業を再開する。最後尾にはお椀を持ったツバキさんが並んでいた。注いでやるとどこかに行ってしまった。
自分の分もお椀に盛って、ほうとうを食べる。
日が暮れ、夜風が冷たくなってくる頃合いに生姜の効いた野菜の甘味が凝縮された汁が染み渡る。
はふっ、と息を漏らす。
すかさず箸でほうとうを取って啜る。素人仕事だから太さが疎らで薄いところと厚いところが混在している。
それが逆に良い!
凹凸にスープがよく絡むし、つるつるともちもちが混在していて食感が楽しい。これは美味い。
「おかわり!」
「はいよ」
おかわりをねだられたのでお椀をおいて装ってあげる。
「私も良いですか?」
「俺も!」
みんなお椀一杯じゃ足りなかったみたいでおかわりに行列が出来ていた。
胃腸も動き出して空腹も殊更ってことなのだろう。
全員におかわりを何とか行き渡らせたけど、鍋は空になってしまった。
こんな大きな鍋が一日足らずで食べ尽くされるなんてな。
「みんなお腹いっぱいになったか?」
「美味しかった!でももっと食べたい!」
どうやらこれでもまだ食べ足りないらしい。
さて、明日は何を作ろうか。
「まだ残っているか?」
ツバキさんが戻ってきた。
「一応、取っておいたよ」
取り分けて置いた一杯分を渡すと尻尾を振って喜んでいた。
「すまないな。しかしこのうどんという食べ物、パンとは大分印象が違うが変わった食感で美味しいな」
はむはむと食べている。逆手に持たれたフォークが小さい頃の妹を思い出す。
「そう言えばミチル、今夜は泊まる宛てはあるのか?」
「あ、いや、この村に宿とかってあります?」
「昔はあったが今はないな。……宛てがないなら私の家に来ると良い」
「ツバキさんの、家ですか?」
「生憎出せる茶はないが、雨風は凌げる」
そういうことじゃないんだけど。……女性の家にお泊り。
とはいえ、野宿は嫌だ。この辺夜はかなり冷えるし、昨日はコンロと大鍋を出して暖を取ったけどしんどかった。
別にお泊り=何かあると決まったわけでもない。
「じゃあお言葉に甘えさせてください」