餓死寸前の獣人少女に餌付けをしたら、ヤンデレハーレム村の村長になっていた 作:破滅
50本のソーセージが並んだ鉄板に徐々に熱が行き渡り始め重々と音が鳴る。アカネちゃんはトングを使って鼻歌交じりにひっくり返していた。
キャベツを千切りにしていく。旬になると一玉100円で売られてしかも結構お腹に溜まるので家計の助けとして重宝していたから、千切りには自信がある。
千切りにしたらフライパンに油を引いて軽く火を通し、カレーパウダーで味をつけていく。
本場だとザワークラウトというキャベツの酢漬けを使うらしいけど、このカレーパウダーはどこルーツなのだろうか?
そこはかとなく昭和の日本を感じるチョイスだが。
「朝食を作ってるのか?」
フライパンの火を止めると、覗き込むように声をかけて来た。
紫色の和服と黄色い帯、腰には刀を差しているツバキさんだった。ボロの着流しを着ている時は浪人感があったけど、着物が綺麗だと両家のお嬢様に見える。
白いひもで括り上げられたポニーテールが健康的で凄く良い。
「何を作ってるんだ?」
「ホットドッグっていう、パンに野菜と腸詰を挟んだ料理を」
「ほぅ。……まさか犬を食べるのか?」
アカネちゃんと全く同じことを言うな。
って言うか、この世界でもドッグ=犬なんだ。まあ、日本語が普通に通じてる時点で今更感はあるけど。
「豚肉ですよ」
「豚なのにドッグ。何か由来でもあるのか?」
「なんか腸詰が座った犬みたいに見えるからって感じだったと思います」
「……名付けた人は想像力が豊かだったんだろうな」
鉄板に並んでるソーセージを見たツバキさんが呟いた。
「アカネ、手伝ってるのか?」
「うん。ってツバキお姉ちゃん、服綺麗になってる! お兄さんから貰ったの?」
「ああ。良いだろう?」
「えー、羨ましい。お兄さん、私もお洋服欲しいな?」
くるりと翻ったアカネちゃんが上目遣いでおねだりしてくる。なんか悪い大人になりそうだ。
「後で村の人全員に配る予定ですよ」
「それは……ありがたいけど、ちょっと複雑かも」
アカネちゃんは少し不満そうな顔をした。
「どういうこと?」
「言ったら性格悪い感じになるから教えない」
そっぽを向いてソーセージをトングでひっくり返す作業に戻った。この年頃の女の子が考えることはよくわからないな。
「ミチル、私にも手伝えることあるか?」
「このパンに縦の切り込みを入れてください」
「縦に……こうか?」
包丁を振り下ろしてスパッと真っ二つに切り裂いた。ふんっ、と鼻息を鳴らして得意げに胸を張っている。
「あー、いや、こんな感じで途中まででお願いします。こうやってキャベツを挟んであとで腸詰も乗せるので」
「な、なるほど。すまない」
シュンと三角の耳が下がった。
「まあこれでも食べれるんで」
「すまない。こうで良いのか?」
今度は半分まで切り込みを入れる。少し浅い。
「もう少しだけ深く」
「こうか?」
「そうそう。ばっちりです」
「なるほど、了解した」
以降、ツバキさんは均一に切れ込みを入れていく。まるで工場の機械を使ったみたいに正確な太刀筋。
受け取ったコッペパンに切れ込みにマヨネーズを塗り、キャベツを挟んでいく。
「なんだか、こうして共同で作業していると夫婦みたいだな」
ぶちゅっ、とマヨネーズが多めに出てしまう。
「焼いた腸詰はこれに挟めば良いんですよね?」
カレーキャベツを挟んだパンをアカネちゃんが奪うように取ってソーセージを上に乗っけた。
「なっ……!?」
「一晩お楽しみしただけでもうお嫁さん気取りですか? 重いよ、ツバキ姉ちゃん」
「重っ……っていうかなんで知って」
「あっ、本当にシテたんだ」
「謀ったな……!」
「ツバキ姉ちゃんが馬鹿正直すぎるだけだよ」
「ぐぬぬ」
ニマニマと揶揄うマセガキアカネちゃんに悔しそうに歯噛みをするツバキさん。仲良いな、この二人。姉妹みたいだ。
「なあ、ミチル。その、今のは重かっただろうか?」
「えっ、あっ、いや……」
「責任を取れなんて言える立場でないことは理解っているが、私たちは褥を共にした仲なわけで」
泣き出しそうな顔で、こちらの目を見てくる。
ここで否定したら「一度ヤッたくらいで彼女面すんなよ」って言うタイプのクズ男と同じになってしまうじゃないか。
「言ったでしょ。ツバキさん含めて、この村の人たち全員俺が食わせるって」
「でもミチルは、村が立ち直ったら出て行くのだろう?」
この状態の村が食っていけるようになるには何年か、或いは何十年か掛かるかもしれない。それだけ居れば愛着も沸くだろうし、そこではいさようならという自分を想像が出来ない。
けど、今この場でツバキさんを安心させる為だけに一生愛しますなんて誓うのも軽薄でしかないとも思う。
「未来のことはまだ理解らない。けど、その時になってもし俺と離れたくなかったらついて来てよ」
「……良いのか?」
「外は何かと危なそうだし。強い剣士が一緒なら心強いからね」
「なんだ。私はただの護衛か」
急に不機嫌そうな声になった。
「うーん、これはお兄さんが悪いよ。途中まで良かったのに、最後ので一気に刀目的みたいになっちゃったから」
「そんな身体目的みたいな語感で」
「そっちの方が良かった」
「!?」
刀目的より身体目的が良かった!?
頬を膨らましてそっぽを向くツバキさん。年頃とか関係なく、女心が難しい。
ソーセージを挟んだホットドッグを紙に包んで、それからケチャップとマスタードソースをかけていく。
小さい子供には辛いかな?
なのでケチャップのみのものも作っていく。
「で、出来たよ~」
「話の続きは今夜に持ち越しだな?」
肩にポンと手を置いて、ツバキさんは小声で怖いことを言い残してから明るい笑顔に切り替わる。
「みんな列に並んでくれ。ミチルが朝食を作ってくれたぞ」
手を叩いて、いつもの調子で村の人たちを並ばせていく。
こうやってみると、頼りになる村のお姉さんって感じなんだけどな。
「お兄さん、こうやって紙に包んでこの赤と黄色のソースをかけて行けば良いんですよね?」
アカネちゃんは仕上げ作業を手伝ってくれていた。
マセてるけど、気が利く。ツバキさんがしっかりとするならこっちはちゃっかりって感じで頼りになる。
「僕のやつ黄色いのが掛かってない。ずるい!」
「これ辛いよ? それでも良い?」
「うん、食べれる!」
ケチャップのみに不満を持った男の子にマスタードソースをかけてやる。クンクンと臭いを嗅ぐとツーンとしたのか涙目で目を瞑ってた。
だから言ったのに……。
「ケチャップのみと変えようか?」
「うん、ありがとう」
なんてこともありながら、アカネちゃんとツバキさんの手伝いも相まってあっと言う間にホットドッグが全員に行き渡る。
付け合わせに、コンソメキューブを溶かしただけのスープも用意した。
玉ねぎを刻んで入れるか迷ったけど、犬や猫には毒みたいな話を聞いたことがあった。獣人にとってもそうなのかは理解らないけど、ツバキさんに聞いても玉ねぎという食べ物を知らないと言われたので大事を取って入れないことにした。
特にまだみんな飢えが残っていて体力も万全じゃないだろうし。
「ん~~、美味しいっ!」
小さな子供の獣人が大きな口でホットドッグにかぶりついた。口元にケチャップをつけながら幸せそうに笑みを浮かべている。
「お肉だ! お肉の味がする!」
「この中に入ってる葉っぱ、嗅ぐだけでお腹が空く匂いがする!」
みんなガツガツと食べていた。ホットドッグは好評みたいだ。
俺もかぶりつく。
パンパンに膨らんだソーセージの皮をぷつりと噛み千切るとジュワッと熱い肉汁と一緒にガツンと塩気があふれ出して来る。それが口の中でパンとキャベツに絡み合って、ちょうどいい塩梅に落ち着く。
凄く美味しい。
「美味い。こんなに美味いものを食べたのは初めてだ!」
先ほどまでの不機嫌はどこへやら、口元にケチャップとマスタードをつけたツバキさんがぶんぶんと尻尾を振って報告してくる。
布巾を創り出して、ツバキさんの口元を拭った。
「す、すまない、しかし美味いな。これ」
「お兄さんお兄さん、私もお口にソースが付いちゃった」
アカネちゃんがちょんちょんと袖を引くと、口元と鼻先にケチャップが付いていた。
「貸せ、ミチル。私が拭いてやろう」
「むーっ、お兄さんに拭いてもらいたかったのに!」
「見てたぞ。わざとソースをつけてただろ」
ツバキさんがアカネちゃんの口をぐゎしぐゎしと拭いている。なかよしだ。
そうこうしている間に、ホットドッグをあっと言う間に間食してしまう。スープも飲み干してしまった。けどまだ物足りない。
「おかわりはありますか?」
子供たちも近づいて来て物欲しそうに見てくる。
そうだな。何か作るか。