「チっ、何で繋がんないの…‥‥!」
珈音に電話をかけ続けているのに一向に出る気配がない事に痺れを切らし、舌を打つ。やっぱり何かおかしい。何かあったんんだと、店長とベルの杞憂では二事を直感した私はペースを上げて疾走する。
「うわあぁぁ!!」
「っ!?今の、ソリッドビジョン‥‥!」
今の悲鳴と爆発は、スタンディングデュエルによるもの。しかも珈音がよく使っている道のすぐ近く。まさかとは思うが、ソリッドビジョンを悪質に利用した可能性だって十分にある。
「珈音…‥‥‥!?」
曲がり角を駆け抜けてさっきの爆発と声の発生源にたどり着くと、目にしたのは腰が抜けたのか座る混んでいる珈音と、黒いドラゴンと幽霊みたいな甲冑と共に立っている男の人。さっきのは、この人が‥‥‥。
「…‥‥‥。」
「!!」
目が合った瞬間、背筋に電流が走ったかのような刺激と氷のような冷たさを感じて、全身が本能的に警鐘を鳴らす。こいつは、強者の側だと。
「‥‥‥‥‥。」
男の人は私から視線を外し、座り込んでいる珈音にゆっくりと近づいていく。ハッとした私は半ば反射で男向けた駆け出す。今の今まで目が合っていた癖に男がぎょっとした表情で体が固待った瞬間、助走をつけ体重を乗せて鳩尾に蹴りこむ。
声にもならない声を出して男は面白いくらい綺麗に吹っ飛ばされて近くの塀に激突した。一瞬だけ粘ったようだが直ぐにガクッと首を垂れたのを見ると、珈音の方に駆け寄る。
「珈音、大丈夫!?何があった「と、透さん何してるんですか!?」え。」
予想外にも、珈音はあわあわと焦り顔が真っ青になっている。
「その人が私を、珈音を助けてくれたんですよ!?」
「…‥‥‥‥え。」
「‥‥‥!お帰りなさい、透。それに珈音…‥‥…あの、そちらの方は‥‥?」
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ああ、落ち着く…‥‥‥
良い匂いがして、心地よいBGMが聞こえて、遠くに穏やかな喧騒…‥‥‥‥
こんな気分は久しぶりだ。
それもそうか。あんな事してたもんな…‥‥‥‥。
この瞬間くらいは、嫌な事全部忘れ‥‥‥‥‥
「‥‥面接っ!!…‥‥…‥はぁ…‥?」
とんでもない事を思い出して何処からか飛び起きると、後頭部と鳩尾に違和感を覚えながらキョロキョロと周囲を見渡す。アンティークながら実用的な応接…‥‥いや休憩室か?俺は上着をかけられてソファに寝ていたようだ。
「ここ、何処だ‥‥?何でこんな所で寝て…‥‥」
ここにどうやって来て、どうして寝ていたのか一切の覚えがない。直ぐ近くのテーブルには決闘盤、ベルト付きのデッキケース等が置いてあり、確認するとデッキ自体も綺麗に抜けなく収められているので誘拐されたとか、
「…‥もうこんな時間か!?ヤバイ…‥!」
壁に掛けられていた時計を見ると、バイトの面接を予定していた時間になっており慌ててスマホを確認するが、連絡が来た記録はない。
「や、やっちまった‥‥‥!」
血の気が引いて再びソファに沈み込んで天井を仰ぐ。折角早く出たのにどうして…‥‥‥
「…‥‥そういえば、あの子はどうなったんだ?」
ふとここで寝る前の記憶が蘇る。そういえば朝っぱらから幼児体型少女をナンパしている健気な男と流れで決闘したはず。俺が勝った‥‥‥‥と思う。うーむ、あやふやだな‥‥状況が分からん。俺が面接に遅刻したのは確実。そして連絡が無い事から既に俺の不採用が決定した可能性がある。うーんこれは‥‥‥‥
「…‥‥失礼します。よろしいでしょうか。」
3度、ドアがノックされると低く重厚な一声をかけられる。俺をここに寝かせた人物だろうか?
「‥‥‥‥どうぞ。」
素早く荷物を仕舞い決闘盤とデッキを手に取り、一応了承する。ドアが開くと190は超えているだろうか。白シャツに黒のスラックス、ベスト、赤いネクタイといったフォーマルな装いの長身の男性が綺麗な背筋で入ってくる。いや、公的な場で使う物じゃないな。どちらかと言うとバーとかカフェの制服みたいだな。
「お座りのままで構いません。ご気分はいかがでしょう?痛みや吐き気などは?」
「‥‥‥特には。大丈夫です。」
俺が警戒しているのは目に見えているにも関わらず、男は余りに自然な所作でいる。ここは一旦、彼に従った方が良いと判断して決闘盤とデッキを置いてソファに腰を下ろす。
「それは良かった。頭を強く打ったと聞いておりましたので…‥‥‥」
「頭?何で?」
頭を打った覚えなんて……いや、頭を打ったからこそその前後の記及びここにいる理由が分からないのか。
「あの、何で俺、自分はここに?経緯が全く分からなくて‥‥‥」
「成程。大よその事情は察せましたが、念の為に情報のすり合わせをした方が良さそうですね。…‥‥こちらへどうぞ。」
どうやらドアの向こうに場を移したいようだ。ここにいても話は進まなそうなので仕方なく促されるままに部屋を出る。
「!ここは…‥‥」
アンティークな造りで、香ばしいコーヒーの香りと何処か落ち着くBGM、隅に置かれた観葉植物。カウンターに並べられ、温かいオレンジの光で光っているサイフォン。メイドさんがせわしなく働いている此処は、まさしく喫茶店。
「………‥ああ、すっかり失念しておりました。
ようこそ「PLAY・KING」へ、お客様。店長の倉敷です。」
「…‥‥‥‥あの、俺の名前、瀬名です。瀬名 遊一って言います。」
「成程、瀬名様……‥‥瀬名、遊一?」
「はい。今日バイトの面接を予定していた瀬名です。」
「…‥‥‥‥‥なんと。」
俺が告げた衝撃の言葉に、男性は頭を抱えて重々しく息を吐いた。
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「お待たせしました。お味の方はいかがでしょうか?」
店内が空くまでメイドさんの一人にサービスしてもらったコーヒーを飲んで待っていると、店長が二人のメイドさんを連れてきた。1人がナンパされていた少女である事が分かるとコーヒーを吹き出しそうになってしまい、何と耐えるが変な所に入ったようで咳込んでしまう。
「ぐっ、ゲホッ!!…‥‥君、ここのバイトだったのか!?」
「実は…‥‥はい。三司 珈音と言います。先程は助けてくれてありがとうございます。」
珈音と名乗った少女は灰色のツインテールを揺らしながら深々と頭を下げる。
「頭を上げてくれよ…‥‥まあ、ご無事で何より。それでこちらは…‥‥?」
「…‥‥‥‥。」
珈音の隣のマゼンタのメッシュが入った薄紫のポニテメイドに関しては初対面のはずなので、どうして彼が連れて来たのか分からない。しかもずっと俺から顔を逸らして気まずそうにしている。
「透。今も業務中ですよ。少し態度を…‥‥それに、言うべきことがあるはずですが?」
店長にやや厳しい視線と低い声で
「
「あぁ……そういう事だったのか…‥‥誤解されることしたこっちにも非はあるかもしれない。こちらこそ悪かった。」
「謝罪には及びません。こちらで指導いたしますので。よろしければ貴方も彼女らに改めて自己紹介の方をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん。瀬名 遊一、今年から大学生。それで、この店のバイト面接を受けに来ました。」
「え、ええ!?」
「アンタが………!?」
そりゃあこういう反応になるよな…‥‥。いや本当に、どうしてこうなった。
「私も驚きましたが、本当です。確認も取れています。」
「いやぁ、時間過ぎてるし連絡もないしで焦りましたよ‥‥‥。」
「心中お察しします。それでなのですが、よろしければこのまま面接を始めるというのはどうでしょうか?といいましても、簡単な問答でこの店や互いの事を知ろうと言う程度の認識で構いません。」
「まだ営業中ですけど、大丈夫ですか?」
「私は店長です。カウンターでコーヒーを入れながらお客様と話すのは日常茶飯事ですし、優秀な店員たちもいますのでご心配なく。」
「それもそうか…‥‥では、お願いします。あ、アメリカンのホット1つお願いします。」
「畏まりました。お口に合う様で良かったです。」
どこか誇らしく、嬉しそうな笑みを口元に浮かべえると、店長は慣れた手つきでサイフォンのフラスコに水やコーヒー粉を入れて火を入れる。暖かく照らされるフラスコと中でごぽごぽと沸騰する熱湯というのは中々に見ていて面白いし、落ち着く。
「では、定番のものから行きましょうか。この店を知った切っ掛けや志望理由は何でしょう?」
「実は今年から大学生で、引っ越してきたんです。それで引っ越し先を調べてたら偶々口コミを見つけて、こういう所は今まで縁がなかったので、折角環境が変わるならやってみようと思い立った次第です。」
「そういう事でしたか。挑戦する気概があるというものは素晴らしいものです。特に若者のそれは、眩しい。」
店長さんだって大分若く見えるけどな…‥‥‥。同年代と言われても人によっては通じると思う。いや、所作が完璧すぎて少しは年上には見られるか。
そう思っている所で、目の前に香り高いコーヒーが注がれたカップが置かれる。
「ありがとうございます。」
「どうぞ、ご賞味ください。‥‥‥話は変わるのですが、軽薄な男のアプローチを遮り、決闘で珈音を助けてくれたと聞きます。私としてはそのような男に興味はないのですが、決闘者と端くれとしてはどのような決闘を行い、制したのかは気になるのです。一体どのような?」
「こんな事を言うのはちょっとアレなんですけど…‥‥‥相手が弱かっただけです。」
少し言い淀んだが、あんな奴を擁護するみたいになるのが嫌なので素直な気持ちを伝えると、店長の目つきが鋭くなる。
「それはどういう意味で…‥‥?」
「ブルーアイズ3体が並んでるのに、全く圧を感じなかったんですよ。ブルーアイズですよ?攻撃力3000のあのブルーアイズ。しかもプレイングがやたら軽いと言うか何というか…‥‥別に舐めてるとか調子に乗っているとかそう言うのじゃないんです。本当に、強さが欠片も見えなかったんです。」
青眼の白龍といってもたかがカード、たかがソリッドビジョンと言う人もいるだろうが、そういうだけじゃない。そもそも、あれは
「ふむ…‥‥腕に自信はあるようですが、判断材料としては少々…‥‥‥」
…‥‥‥何か失言してしまったかもしれない。これだから素直というのは難しい。
「あの、何か失礼をしましたでしょうか‥‥‥?」
「いえ、問題ありません。それでは本日の面接の続きなのですが…‥‥瀬名さん。当店の名前はお分かりでしょうか?」
「「PLAY・KING」、ですよね?」
「間違いではないのですが、正確には”
「しかし?」
「実際に貴方がどのような決闘をするのか、確かめる必要があります。そこで、急ではありますが、瀬名さんはこちらの店員と決闘していただき、最終判断をさせていただくことになります。」
「負けたら不採用、ってやつですか?」
「いえ。勝敗も大事ではありますが、プレイングやデッキ構築なども含めて総合的に判断させていただきます。」
「そういう事なら、分かりました。」
「…‥‥随分あっさりと決められましたね。」
「決闘者としてはそちらの方が話が早いですからね。それで、誰とやれば?店長ですか?」
「私としては構わないのですが‥‥‥ここは彼女に譲りましょう。」
「彼女?」
「はい。あちらの頓宮 透との決闘。それで貴方を見定めさせていただきます。」