「クラリス、あんまり突っ込み過ぎないで!」
「チッ!」
ここは歴史国家ヒストリカルの首都にある王城。その廊下だ。
クラリス・アドベンドはこの地をドールズと呼ばれる敵性生命体から解放するために戦っている。
一人で猪突猛進するクラリスを追いかけているのはイヴェリナ・ネスト。
他の班員ではクラリスのスピードには追いつけず、彼女のサポートができるのはイヴェリナしかいなかった。
「うるさいわね! 文句があるなら、貴女も後ろで雑魚と戦っていればいい」
「そうもいかないでしょ!」
クラリスはイヴェリナのことが嫌いだ。
強いくせに前に出ずサポートに回ろうとする。
でも、味方を見捨てるような真似もできないからクラリスについてくる。
そんな二人を通せんぼするかのように現れるドールズたち。
ドールズは思念生命体であり、人を操る力を持っている。
ここにいるのは全員操られた人間だ。
ドールズだけを排除する術は未だに見つかっていない。
ただ、操られた人間諸共葬り去ることのできる技術は開発されているが。
「聖剣リコリス。起動! 私の血を吸え」
その赤い刀身でクラリスは自身の表皮を切りつける。
好物である血を与えられた聖剣リコリスが赤い光を放つ。
襲ってきたドールズたちも勿論武装している。
元々はこの国ヒストリカルの兵士だったのだろう。磨かれた穂先を持つ槍でクラリスを迎撃しようとしている。
クラリスは突きを飛び越えて、ドールズの首元を一線。
兵士たちはドールズたちから解放されると共に死を迎えた。
思念生命体であるドールズたちは、本来物理攻撃では仕留められない。
これが厄介な点で人類領土の半分が押しやられていた理由だった。寄生された肉体が死んでも、動ける部分だけで襲い掛かってくる。四肢と頭、全てを破壊しない限り止まらない軍隊。
しかし、聖剣と名の付く剣はドールズたちを仕留めることができる。
人類が古代の英知を元に開発したもの。
クラリスは自分の正面に立ちふさがったドールズのみを撃破して先へと進む。
「だから待ちなさいって!」
イヴェリナの静止を聞かずクラリスは先に進んでいく。
後処理を押し付けられたようなイヴェリナは、少しだけイラっとした。
「もー! 聖剣ダイス、起動。表出して!」
イヴェリナは襲い掛かってくるドールズたちの槍を素手で破壊しながら、コイントスを行った。結果は表、イヴェリナの宣言通り。
聖剣ダイスが起動する条件は運気。
コイントスが当たると力を貸してくれるのだ。
「行くよ、ダイス!」
鞘から抜き放ち、ドールズが操る人間たちを切り伏せていく。
防具を着ているようだが、イヴェリナのパワーは鎧如きでは止まらない。
一振一殺。
クラリスが残していったドールズたちを倒して前に進む。
イヴェリナはクラリスに追いつくために全力で走る。
訓練時には本気を出したことがないが、突っ込み過ぎて死んでしまいそうなクラリスを放っておくわけにもいかなかった。
王城の廊下を抜けて王座の間へ。
ここが今回の作戦の最終目標地点だった。
部屋の中央には古代に造られた聖剣が眠っていて、それが今回の作戦目標の一つ。
古代聖剣を守るかのように部屋の中央に居座る一人のドールズ。
クラリスと戦っていたはずなのに、傷一つないのは気になるが……。
「クラリス! やっと追いついた!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
走ってきたのはイヴェリナなのに、肩で息をしているのはクラリスだった。
イヴェリナは気づいた。
クラリスの全身が傷だらけなのだ。致命傷は避けているようだが、それでもぼろぼろなのは間違いなかった。
聖剣学園の訓練では毎回下とは差をつけて二位を取るクラリスが、ここまで追いつめられる相手をイヴェリナは知らなかった。
「クラリス! 大丈夫!?」
「……うるさいわね」
イヴェリナに気づいたクラリスだが、悪態をつく。
そして、一瞥もせずに敵のドールズへと突っ込んでいった。
相手も剣を使うようだが、聖剣に勝る硬度は存在しない。
しかしそのドールズは剣の扱いが上手かった。
聖剣とマトモに打ち合っては敵わないことを分かっているようで、全て受け流している。
クラリスもそれは承知しているが、踏み込めない。
「援護する!」
「いらないわ! 一人で勝てる!」
クラリスのそれは強がりだ。
イヴェリナも彼女に嫌われているのは知っているが、それでも一人で勝てるような相手ではないのは見ていて分かる。
ドールズを挟み込み、アイコンタクトで同時にしかける。
瞬間、ドールズが下に伏せ剣を躱す。そして二人の聖剣を握った手首をつかんでへし折った。その痛みに二人とも聖剣を手放してしまう。
バックステップで距離を取るクラリスとイヴェリナだが、要の聖剣を奪われた。
最悪の事態が起きたことをイヴェリナは確信する。
ドールズに対する特攻兵器である聖剣を起動状態で盗られてしまった。
こちらは丸腰で、相手は自分たちよりも格上。
「クラリス! ど、どうし……」
イヴェリナは思わずクラリスに縋る。
しかしクラリスは敵の方を向いたままだった。
「イヴェリナ……あんたは逃げなさない。ここは私が時間を稼ぐわ」
「で、でも……!」
「いいから! 二人で死ぬ必要なんてない。あんたと一緒に死ぬなんて、絶対いや」
と言っているクラリスの背中は震えていた。
だが、振り返ることもなく片手だけを構える。
ドールズはこちらに近づいてきていた。
クラリスは勇気を振り絞り敵へと向かっていく。
「クラリス!!」
このままでは彼女は斬られて死ぬ。
格上に対して聖剣を奪われた今、勝負になるはずもない。
だが、二人の間にどこからともなく剣が降って来た。
それを躱すため、ドールズは後ろに飛んだ。
【うーん! 尊いものを見せてもらいました! これが百合ってやつだよね!】
クラリスとイヴェリナの頭に響く声。
音を使わない念話で話しかけてきている存在、振ってきた剣を見つめる。
【ボクの名前はアマリリス。男女の恋愛感情が大好きな聖剣なんだけど、君たちがとっても良いクソデカ感情を垂れ流しているから目が覚めちゃった♪】
古代聖剣アマリリス。
歴史国家ヒストリカルの王座の間に眠るとされ、今後のドールズへの反抗作戦の切り札になり得る存在。
それが目の前に現れた。
二人の少女たちにとっては、ふざけたことを言いながら。