「百合……はどうでもいいけど、私の力になってくれるってことでいいのよね?」
クラリスが折れてない方の左手で床から聖剣を抜く。
古代聖剣アマリリスは吸い込まれるような赤と輝かしい白が混ざり合っている。
一般的な両手剣の二倍程度の分厚い刀身を持っており、柄も両手で持っても有り余るほどの大きさだ。
クラリスは持ち上げた時の重さに驚いた。
これだけ巨大な剣がここまで軽いとは思っていなかった。それでも利き手でない腕で扱うには苦労しそうだが。
【百合がどうでもいいだって!? 確かに、名前のつくような関係性にするのはもったいないかもしれないね♪】
「違う、そういうことを言ってるんじゃないの!」
思わずツッコんでしまうクラリスだったが、今はそんな余裕があるわけでもない。
目の前には自分たちより格上のドールズがいるのだ。彼はこちらの様子を伺っているようだが、その膠着状態は長く続かないだろう。
「クラリス、アマリリスは目覚めただけで起動状態ではないようだけど……」
「分かってる! アマリリス、起動条件は何?」
クラリスは剣を下段に構えながら、返答を待つ。
アマリリスはおどけた声を心の中に響かせる。
【え~、折角だし二人で握ってもらいたいなあ……】
「何を……?」
クラリスは首をかしげる。
【それは勿論、ボクのことを! 元々ボクは二人で使うことが前提の聖剣だからね】
イヴェリナは聖剣からの答えに納得していた。
古代聖剣アマリリスは、男女の恋愛感情によって動くと伝承には記されている。
しかしどの聖剣も起動時間は長くても一刻ほど。
恋人を故郷に置いて戦うには時間の制約がある以上、無理だ。
だが二人用なら話は別。常に目の前で愛を示し続け戦える人間二人でしか、そもそも扱えない聖剣というわけだ。
「ということだから、クラリス。二人でやるよ」
イヴェリナはクラリスの隣に立ち、折れていない右手で柄を握った。
「チッ……聖剣の頼みじゃなければ、あんたなんかと……」
「恨み言はいいから、前に集中して」
基本的に自分たち人類は聖剣に力を貸してもらっている側なので、強く反対することはできない。いかにクラリスがイヴェリナのことを嫌っていようとも。
強敵のドールズはこちらから目を離さぬまま、機会を伺っている。
イヴェリナとクラリスの二人で構え直そうとした瞬間を見計らって突撃してきた。
【よしじゃあ、反撃と行こう! 一瞬だけで良いから互いのことを想うんだ】
言われた通りに二人は隣にいる少女のことを想う。
クラリスは日頃から思っている気に入らなさを。
イヴェリナは密かな憧れを。
その二つの相反する想いが形となり、聖剣に力を与える。
【センチメントバースト!】
刀身が輝き赤と白、二色の感情が混じり合った斬撃が放出される。
ドールズもまさか遠距離攻撃が飛んでくるとは思ってもいなかったのだろう。
突進の威力を殺せないまま、放出されたエネルギーを食らう。
しかし――。
「あのドールズ……奪った聖剣で攻撃を受け止めてる?」
イヴェリナは驚く。
いくら同じ聖剣だとはいえ、古代聖剣の攻撃を受け止められるわけがない。
思っていた通り、じりじりと押された後、壁際まで吹き飛ばされていた。
弱っている今がチャンス。
そう思ったのは二人とも同時だった。
だがクラリスがイヴェリナを突き飛ばした。
「なにすんの!?」
「あのドールズには、私が止めを刺す」
クラリスは聖剣を持ったまま先に駆け出した。
いつもの功を焦るクラリスなのは変わらないけど……と思ったイヴェリナだったが、少しだけ彼女の様子に違和感を感じた。
「これで終わり……!」
クラリスは強敵のドールズに刃を振り下ろそうとした。
しかし躊躇して、首元で聖剣を止めてしまう。
「何やってるのよクラリス!」
そう言われてもクラリスの手は動かなかった。
強敵のドールズはその隙を見逃さない。
蹴りでクラリスを突き飛ばし、そのカバーに入ろうとしたイヴェリナに向けて聖剣ダイスを弧を描くように投擲。
クラリスという死角に阻まれての一撃にイヴェリナは反応できない。
【ちょっとごめんよ!】
アマリリスはクラリスの手からスルッと抜けて、飛んできた聖剣とぶつかる。
【ふう、危ない……】
強敵のドールズは自分への包囲網が薄れたことを確認し、残った聖剣リコリスを使い壁に開けて逃走した。
「ま、待て!!」
クラリスは起き上がりアマリリスを拾い直して追いかけようとする。
「待つのはクラリスだよ! 王城の北側はまだ制圧が完了してない……死にたいの!?」
イヴェリナは無茶な追跡をしようとするクラリスを叱る。
いつも前に出る彼女とはいえ、ここまで無謀な試みは普段ならしないはずなのに。
「でも!」
「でも、じゃない! とりあえず目標のアマリリスは確保できたんだし、それでいいじゃん」
そう諭してみるが、クラリスの表情は険しいままだった。
もしかするとあのドールズと何かあるのだろうか……と勘ぐってしまう。
「さあ、帰投しましょ」
「……わかったわ」
イヴェリナは不機嫌そうなクラリスと距離を取り、黙って歩いた。
一方の聖剣アマリリスはうきうきだった。
【ああ、楽しみだなあ……! 二人からどんな感情が得られるのかワクワクが止まらないよ!】
これから二人が帰るのは聖剣学園。
ドールズ反抗作戦の中核を担っている施設だ。