おまわりさん、能力者です   作:pemotaro

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第10話 おうち机上論(怪力少女4)

ちょっと小さめの少女には、人に言えない秘密があった。

裸になって呼吸を止めている間は、とんでもない怪力を発揮できるのだ。

ただし、人前で裸になんてなれないし、力加減も難しい。

 

あの火事場での救出劇から数日。

全身を襲う筋肉痛が引いてくるにつれて、彼女は好奇心が抑えられなくなってきた。

 

あの時の私、時速何キロくらい出てたんだろう?

あんなに速く走れるなら、他の運動はどうなるのかな?

 

一度気になり始めると、他にも色々と試してみたくなってきた。でも、裸になって、外での検証なんて絶対に無理だ。

そこで彼女は、自宅であの力の限界を測定することを決意したのであった。

 

まずは自宅の1階、玄関からリビングへと続く直線の廊下で試すことにした。

家族が出かけていることをいいことに、いつもの無防備な格好になる。

 

「ちょっとだけ…本当に一歩だけ」

 

大きく息を吸い込み、ピタリと止める。

そして、床を軽く一歩、踏み出した。

 

ドンッ!

「!?」

 

やっちゃったと思っても、すでに身体は止まらない。

 

ドゴン!!!

「……」

 

一歩で廊下の突き当たりの壁に激突した。

しばらくの間、彼女は涙目になりながら床を転がっていた。

 

 

それでも痛みが治まってくると、彼女は気を取り直して、今度は自宅にあった握力計を持ち出してきた。

家にあるもので、まずは数値を測ってみようという試みだ。

 

まずは能力なし。

「…14kg」

「うん、まぁ普通…。よし!」

 

今度は能力を使って、壊さないように…人差し指と親指で…なるべく力の方向を変えて…。

 

メキ…。

メキメキメキ…ッ!

「あっ、待って待って!」

 

焦って声を出したときには、すでに遅かった。

力の調整は不可能だった。握力計の持ち手に指の跡がくっきりとついている。

「測定する前に壊れるじゃん…。これ、数字で測れないのかなぁ」

 

 

彼女は握力計を片付けながら次の検証方法を考えていた。

とりあえず家にある道具で測定するのは諦めて、別のことを試してみよう。

 

走るのであれだけすごいんだから、思いっきりジャンプしたら空飛べるんじゃない?

ちょっと田舎の一軒家だし、深夜の庭でなら大丈夫でしょ!

夜中。家族が寝静まった後、彼女は動き出した。

 

布団から抜け出して、カーテンの隙間から外を確認してみる。周囲の家の明かりは消えていて、庭には誰もいない。

物音を立てないように気をつけつつ、庭へと出た。もちろん、身につけているものは何もない。

深夜のひんやりとした風が、肌を冷やしていく。

彼女は大きく息を吸い込み、息を止め、地面を全力で踏みしめた。

 

ドンッ!!

 

地面を蹴った瞬間、視界が一気に変わっていく。

彼女の身体は、夜空に向かって真っ直ぐに飛び上がった。

そして、上昇の勢いがふっと消え、フワリとした浮遊感に包まれた。

「飛べた!」

 

しかし、次の瞬間。

「…あ、これ、落ちるやつだ」

 

飛行能力ではない。ただ高く跳んだだけだ。

空中で両手をばたつかせるが、当然ながら姿勢制御などできるはずもない。

彼女は息を止めて着地に備える。

 

ガシャーン!!!

 

「ひゃうっ!?」

 

庭に置かれていたプランターの群れへ、彼女は背中から突っ込んだ。

 

「なんだ今の音は!?」

「ねこ?」

家族が起きてしまったようだ。

 

「ごめんなさーい!!」

少女は慌てて立ち上がると、家の中へ駆け込んだ。

 

自室に戻った彼女は、急いでパジャマを着ると、布団に潜り込んだ。

背中の痛みでなかなか眠れずにいると、ふと次のことが気になってきた。

「…泳ぐのは、どうなんだろう?」

 

さすがに我が家の狭いお風呂で泳ぐのは無理だ。

(泳ぐのもやっぱり速くなるのかな?)

気になってスマホで検索してみる。

画面に表示された専門家の解説には、こう書かれていた。

『水泳において大事なのは技術です。力があっても、泳ぎが下手なら意味がありません。むしろ沈みます』

 

「意味ないんだ」

 

「まぁ…明日、銭湯に行って広いお風呂で試してみようっと」

 

 

翌朝。

庭で彼女は散らばったプランターを片付けながら、全身に戻ってきた筋肉痛と戦っていた。

昨日のことを必死に思い返す。

ほんの一歩走った。握力計をつまんだ。一回ジャンプした。

たったそれだけだ。

 

 

「…銭湯、こんどでいいや」

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