おまわりさん、能力者です   作:pemotaro

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第11話 真夏の愛猫救出作戦(怪力少女5)

猛暑が続く、八月半ばのことだった。

少女はドアが開かなくなった軽自動車の中を覗き込んだ。後部座席に愛猫の入ったキャリーバッグが置いてある。

 

「…二時間?」

 

彼女は言葉を失った。

 

母親が飼い猫を動物病院へ連れて行こうと、愛車にキャリーバッグを乗せたまではよかった。

しかし診察カードを忘れて家へ戻った際に、キーを車内に置いたままドアを閉めてしまったのだ。

 

母親がカードを持って家から戻ってきた時、運転席のダッシュボードの上にはキーが転がっていた。

パニックになった母親がJAFに電話をかけたものの、返ってきたのは非情な返答だった。

「現在、猛暑の影響でバッテリー上がりやパンク等のトラブルが多発しておりまして、到着まで二時間ほどかかります。」

 

二時間。そんなに待っていたら、愛猫の命はないだろう。

「ゆかちゃん、どうしよう!!」

 

取り乱す母親の前で、自室から呼び出された彼女も動揺していた。

(やるしかない。…でも、どうやって!?)

 

彼女は、あの「力」を思い浮かべる。

裸で息を止め、力を込めることで発現する「力」。

 

ちょっと田舎ではあるが、ここは住宅街の駐車場だ。おまけにすぐ隣には母親がいる。

(まずは、お母さんを遠ざけなきゃ!)

 

「お母さん!車に水かけよう!バケツにお水組んできて!たくさん!私はもう少しドア開かないか試してみる!」

「えっ?あ、分かった!」

 

母親が家の中へと戻っていく。

 

駐車場に一人残った彼女は、すぐに行動へと移った。周囲に他人がいないことを確認する。

自宅の壁と車の隙間で急いで服を脱ぎ捨てた。

そして彼女は大きく息を吸い込み、呼吸を止めて全身に力をこめ、一瞬だけドアを引っ張った。

 

(んっ!!)

メキ…バコオオオォン!!

 

破壊音が響き渡る。

彼女は勢い余って背中の壁にぶち当たった。

 

「ぐぇっ!?」

 

ドアは開いた!開いたのだが…。

彼女の手の中には「握りつぶされたドアノブ」が残っていた。

ドアを見るとノブのあった場所には穴が開いている。

「えっ、あ、取れた!?」

 

一瞬唖然としたものの、もうこういうことには慣れている。

今はそんなことを気にしている場合ではない。

慌てて車の中から猫のキャリーを引っ張り出す。

 

「メイ?大丈夫?よかったぁ…」

 

猫の様子を確認した後、慌てて車の影に隠れて服を着直した。

Tシャツが裏返しになっていることにも気づかない。

 

そして、引きちぎったドアノブを改めて見る。

一応ドアにくっつかないか試してみるが、当然つくはずもない。

 

「こんなの持ってたら私がやったみたいじゃん!」

 

とりあえず車のすぐ下の地面に、さも『最初から自然に壊れて落ちていた』かのように、そっと置いた。

 

 

「ゆかちゃん!なんかすごい音したけど大丈夫?お水と保冷剤持ってきたわよ!」

 

そこへ、水でいっぱいになったバケツを両手で持った母親が、フラフラと家から出てきた。

 

「お母さん、ドア開いたよ!メイちゃん無事!」

「えっ! 本当?よかったあぁ…」

 

母親はキャリーバッグの中の猫が無事なのを確認して胸をなでおろした。

 

しかし、母親の視線が地面へと向けられる。アスファルトの上に変形したドアノブがあった。

視線がドアノブと、車のドアに開いた穴を往復する。

 

「…ゆかちゃん?」

「…」

「何が起きたの?」

 

彼女は視線を泳がせながら、

「あ、暑さ…かな?」

「暑さ?」

「ほら、最近の日本の夏って過酷だから…その、樹脂とか部品が熱でこう、ポロッと…」

「…」

母親の視線が痛い。

「…ないよね。ごめん」

 

「にゃー…」

 

数日後。家族が集まるリビングは、別の意味で修羅場と化していた。

テーブルの上に置かれた車の修理の見積書。

「ドア丸ごと交換だってよ。中までいかれてるらしい」

父親が信じられないといった様子で見積書を見ている。

「ごめんなさい。わたしがメイちゃんを車に置いてたばかりに…」

母親が頭を下げている。その横で猫をなでながら、彼女も一緒に頭を下げていた。

 

「しかし、どうやったらこんな壊れ方するんだ?」

「さあ…。古い車だし、経年劣化じゃない? ほら、最近の夏って暑いから、部品がポロッと…」

母親がどこかで聞いたことのある説明をすると、父親はさらに怪訝な顔になる。

「ドアノブがなぁ…どうやったらこんな形になるんだ?」

彼女の手が止まった。

「…」

「にゃー!」

猫が手元から逃げていく。

「まあ、メイが無事だったんだし、仕方ないか。車は直せば済む話だしな」

 

「…うん」

 

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