おまわりさん、能力者です   作:pemotaro

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第13話 ほんとにいたんじゃ!伝説の天狗様!?(飛行おじさん3)

いつもにこやかなボディビルのおじさんにも、人に言えない秘密があった。

裸になって笑顔で呼吸を止めている間は、空を飛ぶことができるのだ。

ただし、人前で裸になんてなれないし、飛んでいたらすぐに見つかってしまうだろう。

 

海では空を飛ぶことで子供を救えたものの、目撃されてニュースになってしまったおじさん。

「あそこはもうだめだな」

 

海が駄目なら、別の場所を探すしかない。

「海が駄目なら山だ!」

 

以前に近くの山を調べた時は監視カメラがあったが、ちょっと遠出したらカメラの無い山もあるはずだ。

そうと決まれば、今度の休日だ。今度こそ誰にも見つからずに飛べる場所を探してやる!

 

金曜日の夕方、仕事を終えたおじさんは車を走らせ、山へ向かった。

カーナビに従い高速道路を走り、目的の山に着いた頃にはすっかり真っ暗になっていた。

 

人家もなく、街灯もない。

車のヘッドライトを頼りに慎重に山道を登っていくと、駐車できそうな開けた場所があった。

周囲に明かりすらないことを確認すると、車を停めて外に出た。

 

「おーい、誰かいませんかー?!」

念のため声を出して確認してみるが、返事はない。虫や木の葉の音だけが聞こえてくる。

おじさんは安全だと判断すると、さっそく全てを脱ぎだした。車に衣服や荷物を置き、ポーズを決めた。

 

「今日も笑顔でテイクオフ!はい、バック・ラットスプレッド!」

息を止め、両腕を大きく羽ばたかせる。

 

ふわっ。

 

夜空に向かって彼は飛び立つ。そして大きく上昇する!

 

頭上には明るく輝く月と満天の星々。

足元には静まり返った山々。

遠くには山間の民家の明かり。

 

誰にも見られない。

誰にも邪魔されない。

 

(やっぱり空はいいなぁ!)

 

本当は月明かりがあっても、昼間と違って結構怖い。

それでもようやく見つけた「飛べる場所」だった。

 

「ん?」

 

しばらく夜空を満喫していると、下の山道から妙な光が見えた。よく見ると、車のヘッドライトが不自然に上を向いている。

近づいてみると道を外れて斜面に脱輪している軽自動車だった。

 

「…事故か?」

 

おじさんは、見つからないように事故車から少し離れた場所に降り立った。

そのまま体勢を低くして、できるだけ姿を見られないように、車の後ろ側から慎重に近づいていった。

 

車内には老人が一人、携帯電話で誰かと話していた。

 

どうやら助けを呼んでいるらしい。それなら自分が出ることもないか。

あのくらいなら、多分持ち上げられるんだけどなぁ。

でも裸だからなぁ…。

おじさんはそんなことを考えながらも、結局、放っておけずに助けることにしてしまった。

 

車の背後に回り込み、バックミラーに顔だけが映るように意識して声をかける。

「脱輪ですね。手伝いますよー」

 

突然かけられた声に驚いた老人が振り返ると、バックミラー越しにおじさんと目が合った。

「うわっ!?ちょっと電話切るぞ…。いいのかい?助かるよ」

おじさんはにこやかに答える。

「いえいえ!困ったときはお互い様ですから!では押しますよー…」

 

「うぉぉぉぉ……!」

 

全身に力を込め、道路側へ向かって車を押し出す。

 

毎日のトレーニングで鍛え上げた身体は伊達ではなかった。

老人がアクセルを踏み、軽自動車が少しずつ動き始める。

 

そして――

「よしっ!」

見事、軽自動車は道路へ戻る。

 

 

老人がバックミラー越しにおじさんへ顔を向けた。

「いやぁ、本当に助かったよ。」

おじさんは身体ができるだけ見えないように、少しだけしゃがみこんだ。

 

「ところで、あんた、ここまでどうやって来たんだ?」

おじさんは固まった。

(まずい!)

 

そして思わず自分の車を停めた方向を見てしまった。

老人もその視線を追うように、山の方へ目を向けた。

「おや?あっちにはなにもないはずだが…」

(まずい!まずい!)

「えーっと…」

 

「まぁいい。そこまで乗っていくか?お礼もしたいしな」

そう言いつつ運転席のドアを開けて降りてくる。

(まずい!!!)

 

老人に姿を見られる前に、おじさんは走って逃げようと思った。しかし、車のライトの届かない山中は真っ暗で、走って逃げるのは無理であった。

 

逃げ道は一つしかない。

「すいません!できれば、今日のことは黙っていてください!」

おじさんは覚悟を決めた。

「それでは!」

 

彼は飛び立って、そのまま夜空へ逃げていった。

「バサッ、バサッ!」

 

老人は呆然と飛び立つおじさんを見送った。

「……天狗様?」

 

 

おじさんはそのまま山の上へ飛んでいき、安全そうな場所を見つけて着地する。

「ふう…危なかった。だが良いことをしたな!」

 

心地よい疲労感を感じながら、車の方に帰ろうと思ったが…。

「車、どこだ?」

 

周囲を見渡すと、どちらを見ても同じような暗闇が続いている。

しかも急いで逃げてきたせいで、元々自分がどちらから来たのかすら分からなくなっていた。

もう一度、空へ飛び上がり、上空から見回してみるが、車は見つからない。

「どこだー!」

 

着地しては休んで、また飛ぶことを繰り返している間に、東の空が少しずつ白み始めてくる。やがて、すっかり周囲が明るくなってから、ようやく木々の隙間に見覚えのある車が見えてきた。

すっかり疲れ果て、全身を虫に刺されたおじさんは、車に戻るなり呟いた。

「…山も駄目だな」

 

 

 

一方その頃。

家に帰りついた老人は、家族に先ほどの出来事を話していた。

 

「助けてもらったんじゃ…。真っ赤な顔をしていて、車を持ち上げられる程の怪力でな…」

 

真剣な顔で山を指差す。

 

「ほんとにいたんじゃ。あの山に住む天狗様じゃ」

 

 

 

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