インドア派を自認する彼女は、ボードゲーム部に所属していた。
本当は帰宅部が良かったのだが、彼女の通う学校ではクラブ活動への所属が必須だった。
ボードゲーム部なんていうが、実際はそれなりにエアコンの効いた教室で、みんなでおしゃべりをしながらボドゲで遊ぶ。そんな緩いクラブである。
ちなみに、部員たちが遊んでいるゲームは、ボドゲだけに限らない。
一部の部員たちは、禁止されているゲーム機を持ち込んで遊んでいた。
そんな部員たちを横目に、彼女はのんびりとスマホを眺めていた。
「ゆかちゃん、何見てるの?」
「んー、ちょっと調べもの?力の分散法かな?よくわかんなくて」
「なんか難しそうだね…」
そうしていつものように、クラブ活動が終わるまで時間を潰すのであった。
クラブ活動終了のチャイムが鳴り、部員たちはいつものようにゲーム機をキャビネットにしまって扉を閉める。
「バタン!」
「鍵閉めなきゃな、鍵どこだっけ?」
「鍵なら無くさないように、中のフックにかけてあるよー」
「そっか」
ところが、彼らがキャビネットを開けようとしても、扉は開かない。
「あれっ?開かない?」
どうやら、閉めた拍子にロックされてしまったらしい。
ボドゲ部は、もともと囲碁将棋部だったものが時代に合わせて変わったものである。
古い備品も多く、いつからあるかもわからない少し錆びたスチールキャビネットは、閉めたときの振動で勝手にロックされることがあった。
そして今、それが起きた。
「やべっ…どうしよう?開かない」
「先生に言って開けてもらえばー?」
「中にゲーム機しまっちゃったんだよ」
持ち込み禁止のゲーム機である。先生に頼んでキャビネットを開けてもらえば、当然ゲーム機はバレて没収される。
それだけならまだしも、しばらくは監視までつくかもしれない。
「どうしよう…ゲーム機が没収されて、ボドゲ部が終わる…」
「私たちまで怒られるのかな?」
「やだねぇ…」
いくら嘆いていても、どうしようもない。
結局、翌朝に集まることだけを決めて、その場は解散となった。
しかし、彼女は考えていた。
この教室ならカメラもついていないし、簡単に解決できるのでは?
廊下に出て階段を降りたところで、彼女はわざとらしくカバンの中を探しながら、部長に声をかけた。
「あっ、部長!忘れ物しちゃいました!鍵貸してください!職員室に返しておきますね!」
「みんなは先帰ってていいよー」
鍵を借りて部室まで戻った彼女は、周囲を見渡してから中へ入った。
室内にも人がいないことを確認して、しっかりと内側から鍵をかけた。ついでにカーテンも閉めていった。
一応机の影に身を隠しながら服を脱ぎ、机の上に畳んで靴をそろえた。
そして、隣のロッカーにあったマイナスドライバーを取り出すと、キャビネットの扉の隙間にドライバーを差し込んだ。
なるべく壊さないように慎重に…。
息を止めて力を込め、ほんの一瞬だけ、弾くようにドライバーを押し込んだ。
バキョッ!
「ひえっ」
狙い通り、キャビネットの傷を最小限に抑えて、扉を開けることには成功した。だが、やはり加減は利かなかったらしく、使っていたドライバーはU字にぐにゃりと折れ曲がってしまっていた。
「任務完了!任務じゃないけど…」
服を着直すと、彼女は開いたキャビネットを閉じた。
(でも、これだとわかんないかな?)
ふと思いついて、もう一度扉を開けると、閉じ込められていた鍵とゲーム機を取り出し、机の上に順に並べていく。
よし…これで全部。
彼女は満足げにうなずくと、キャビネットを閉じた。
そして最後に残った、曲がったドライバーを見る。
(…これ、どうしよう?)
結局、曲がったドライバーは元のケースに入らなかったため、仕方なくロッカーの奥に隠しておいた。
最後に部室をしっかりと施錠し、職員室に鍵を返した。
そうして、彼女は何も起こらなかったかのように帰宅していった。
翌朝。
部員たちが部室に集まると、机の上には鍵とゲーム機が綺麗に並んでいた。
「えっ、なんで出てるの!?」
「バレた?」
「でも、さっき鍵かかってたよ?」
部員たちは確認するも、何も盗られていなさそうだ。高価なボドゲも、ゲーム機も残っている。
「…泥棒じゃないよね、これ」
そのとき、ロッカーを確認していた部員が首を傾げた。
「ねえ、ドライバー一本足りなくない?」
しばらく探すと、ロッカーの奥から残りの一本が見つかった。
ドライバーの先端はU字にぐにゃりと曲がっており、持ち手にはひびが入っていた。
「これ、誰がやったの?」
「この部屋、鍵かかっていたよ?」
「ドライバーってこんな風に曲がる?」
「いや、そもそもこれでキャビネット開けたの?」
皆であれこれ言っていると、オカルト好きな部員が真顔で言い出した。
「妖怪じゃないかな?こんなの普通に考えてありえないよ!」
「さすがに無くね?」
「でもこのドライバーは普通に考えてありえなくない?」
「へ、へえー…妖怪、親切でよかったねえ…」
「妖怪いるなら写真撮りたいねー」
「きっとバズるよ!」
「絶対やめよ!呪われるって!」