ボドゲ部の少女は山奥のレンタルコテージに来ていた。
山合宿なんて部員のみんなは言っている。でも、実際はクーラーの効いた部屋でボドゲやって、ついでにバーベキューでもして遊ぼうぜってことだ。
そうでなければインドア派の彼女は絶対について来ていない。
「全く開かないね…」
台所奥の物置の前で先輩達が肩を落としていた。
食材が入った大型クーラーボックスを、その物置に置いたのが間違いだった。
古い物置の引き戸を閉めたところ、動かなくなってしまったのだ。
男子学生が3人がかりで押したり引いたりしても、引き戸は全く動かない。
引率の先生がスマホを片手に、追い打ちをかけてくる。
「悪い、みんな。管理会社に連絡したけど、業者が来るのは明日の夕方だってさ。
明日は朝飯抜きだな、バーベキューの肉も多分ダメになるなぁ…」
「え―…」
「そんなぁ」
皆で嘆き合うが、それでも仕方ないとそのまま解散になった。
深夜0時過ぎ。
消灯時間を過ぎてしばらく経って、みんなが寝静まったのを確認すると、彼女は動き出した。布団を抜け出すと、「…ちょっと、トイレに行ってくるね」と同室の女子に小さく声をかける。
周囲を慎重に確認しながら、誰もいない廊下を抜けてキッチンに着くと、物陰に隠れてパジャマと下着を脱いでいく。
そして全てを脱いだ彼女は引き戸に手をかけた。
できるだけ一瞬で。なるべく壊さないように…。
引き戸をなるべく優しく開けるつもりだったが、いつものように加減が利かない。
コテージ全体に「ゴッ、バァン!!!」と衝撃音が響き渡る。
噛み合っていた引き戸は、怪力によって一瞬で壁へと叩きつけられた。建て付けがバカになって、完全に開いてしまった。
「ひえっ! 壊しちゃった?」
(って、ヤバいヤバいヤバい!!)
とりあえず足元の服を掴んで逃げ出す。
廊下を抜けてトイレの個室に走りこんだ瞬間、各部屋から人が出てくる音がする。
「なんだ今の音?」
「泥棒?」
なんとか見られずに済んだらしい。
危なかったぁ…。
そのままトイレの中で、パジャマを着ようとするが…下着がない。
探している時間などない。彼女は仕方なくそのままパジャマだけを着て、部屋の外に出た。
廊下に出ると、隣の部屋から出てきた友達に呼び止められた。
「ゆかちゃん! 今、すごい音がしなかった!?」
「う、うん、トイレにまで聞こえてきたよ?なにがあったの?」
「あっちみたいだねぇ」
友達は台所の方へ視線を向ける。つられてそちらを見ると、廊下の途中に布切れが落ちている。
「あ、それ私の!」
そこにあったのは先ほど落としたはずの彼女の下着であった。急いで駆け寄って拾い上げる。
「トイレ行く途中で、ハンカチ落としちゃったみたい」
友達に言い訳を並べながら、台所へむかう。
二人が台所に着くと、他の部員たちは既に集まっていた。
全開になっている物置の引き戸を見て混乱しているようだ。
「えっ!? なんで開いてるの!?」
「やっぱり泥棒?」
「でも誰もいないよ?」
「玄関の鍵もかかったままみたい」
部員の一人が足元に目を落とすと、古い板の床に残る痕跡に気がついた。
余程の力で踏みしめられたのであろう。小さな足跡がくっきりと見える。
「…ねえ、これ何?」
「え、人の足跡じゃない?」
「さっき、無かったよ?」
「やっぱり誰か忍び込んだんじゃ…」
「でも裸足だし、小さいよ?」
「このサイズだと…子供くらい?」
(子供じゃないよぉ…)
しばらくは侵入者の可能性を疑う声が飛び交っていたが、何も盗まれていないことがわかると、オカルト好きの友達が興奮したように話し出す。
「泥棒なんかじゃない!『座敷わらし』だよ!こんな小さな足跡、間違いないじゃない!」
「ええっ!? 座敷わらし!?」
「ここ古そうだし、あり得るかも…!」
「写真撮ってSNSに上げちゃお!」
「あ、わたしも!」
大騒ぎしている部員たちの後ろで、
「へ、へぇ…妖怪、親切でよかったねえ…。」
彼女は先ほど廊下で回収したパンツを後ろ手に隠しながら、必死に調子を合わせるのであった。
翌朝。
「みんな、おはよー…」
彼女を襲うのはいつも通りの筋肉痛。
朝食を作りにキッチンにやってきた彼女の動きはどこかぎこちなかった。
「ゆかちゃん、どうしたの?」
「ロボットみたいだよ?」
「あ、あははは…。そうそう…夜中にトイレに起きたとき、山の空気がすっごく寒くて!体がバッキバキに凝っちゃって!ほら、私って冷え性だからさ!!」
「ふーん、大変だねぇ…」
SNSのタイムラインでは「部活を救った座敷童」として小さな足跡が少しずつ拡散されていっていた。