三つ揃えを好む老紳士には、人に言えない秘密がありました。
裸になると、怪我を癒す力を発揮できるのです。
ただし、人前で裸になんてなれないし、積み重ねた信用を失いたくもありません。
ある晴れた秋の日のことです。
おじいさんは山歩きの準備を整えると、妻に声をかけて出かけました。
「では、出かけてきます」
「いってらっしゃい。お気をつけて」
過疎化の進む田舎の山。
聞こえてくるのは木々のさざめきと、川のせせらぎだけです。
おじいさんが川沿いの山道を散策していると、怪我で動けなくなっている動物を見つけました。
動物にはまだ息がありますが、ひどく傷ついています。
野生の動物を勝手に連れ帰るわけにはいきません。
かといって、放っておくのもかわいそうです。
「また、これですか」
おじいさんは周囲を見渡すと、衣服を丁寧に畳んで岩の上に置きました。
そしてなるべく優しく傷口に触れながら、息を止めます。
「治ったらいいのに」
動物の出血は止まり、みるみる傷が塞がっていきます。
息を吐き出すと同時に能力は切れますが、動物は元気よく立ち上がり、おじいさんに一礼するようにして森へ帰っていきました。
「元気になりましたね」
手についた血を川で洗い流しながら、おじいさんは微笑みます。
「人目さえなければ、本当に良い力なんですけどねぇ」
「あれ? あそこに誰かいるぞ?」
「……」
おじいさんは一瞬で真顔になると、そそくさと逃げ出しました。
「あれ?昨日あの猫、足引きずってなかった?」
「えー…どうみても元気そうじゃない」
「おかしいなぁ…」
「そういえば、あの山には動物を治してくれる仙人がいるらしいよ」
「まさかぁ」
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閑話2 俺の特技は正拳突き
とあるファミレスで、若い会社員が二人で会話していた。
「俺、実は超能力があるんですよ」
「へえ、どんな?」
「10メートル先のろうそくの火を消せます」
「どうやって?」
「正拳突きで!」
「おー?」
「10メートルですよ?」
「すごいのか?」
「結構すごいですよ」
「ろうそく以外も消せるのか?」
「いや、それが…」
「じゃあ何に使うんだ?」
「……」
「……」
「話のネタ?」
「宴会で披露すればウケるんじゃないですか?」
「いや、それが……」
「今度、見せてくださいよ」
「いいですよ」
「いつ?」
「……今度温泉でもいきますか?」
彼らは席を立つ。
小柄な少女とすれちがいながら、会計に向かった。