あの日から数日が経った。
今日は家族が夜まで出かけている。多少の物音を立てても気にする必要もない。
色々と能力を測ってみよう!
彼女は自室のドアに鍵をかけ、カーテンを下ろした。
手には、いつも開けられない紅茶のペットボトル。
「んんんーっ!やっぱり開かない!」
彼女は不敵に笑い、服を脱ぎ捨てる。
「しかし、今日こそはお前をたおーす」
大きく息を吸い込んで止め、ボトルのキャップに手をかけた。
「せーの!」
力を込めた瞬間──
グシャァッ!
蓋が開くよりも早く、ペットボトル自体を握りつぶしてしまった。破裂音と共に、紅茶が身体と部屋中に勢いよくブチ撒けられる。
手に残るのは、無惨に変形したプラスチックの塊。ベタベタになった室内で、彼女は濡れたまま呆然と立ち尽くすしかなかった。
しばらくすると、彼女はタオルで紅茶を一通り拭き取り、懲りずに次の検証を始めることにした。
荷物を持ち運ぶくらいなら、いけるでしょ。
そう思って段ボール箱に雑誌をあるだけ詰め込む。
いつもなら数冊ずつ運ぶところだが、まとめて入れてしまっても大丈夫だろう。
「せーのっ!」
しかし悲劇は再び起こる。
「グシャッ!」
今度は抱き上げた段ボールを潰してしまった。
(えっ!?)
焦って箱の縁を持ち直そうとするが、そのまま指が段ボールを突き破ってしまう。
結果、床には破れた段ボール箱と雑誌が散乱した。
彼女はまたも呆然と立ち尽くすしかなかった。
しばらくしてから、我に返った彼女は雑誌をまとめ直して部屋の隅に片付けた。そして、それでも懲りずに、次の検証を開始した。
そうして、彼女に最大にして最後の試練が訪れた。
丈夫なものなら大丈夫だよね!
以前から考えていた部屋の模様替えを行うことにする。1階にある洋服ダンスを、2階の自室へ運ぶのだ。
1階へ降り、玄関の鍵をしっかりと閉める。念のため窓のカーテンも閉めた。
実際に持ち上げてみると、タンスを潰してしまうことはなさそうだ。
何度か立ち止まって休憩しながらも、とりあえず階段下に持ってきた。
前に検証したときは、30秒くらい息を止めていられた。
これだけあれば階段くらい昇れるよね!
(昇れる!軽い!)
一段。
(これなら余裕じゃん!)
二段。三段。
(…あれ?)
四段。思ったより、息が苦しい。
タイムリミットまでにはまだ時間があるはずだった。
(あと…半分……っ!)
だが、全身が激しく震え、息が苦しい。
(なんで?なんで!?)
よく考えれば当然のことであった。スマホのタイマーを見ながら30秒間呼吸を我慢できたとしても、力をこめ続けながら同じだけ息を我慢できるかは別である。
しかし、酸欠でパニックに陥っている彼女は気づかない。もし気づいたとしても、今さら後の祭りであった。
そして限界がやってくる。
「ぷはっ!!」
息を大きく吐き出した瞬間、タンスが一気に重たくなる。
「っ!?」
それでもなんとかバランスを保ち、階段の途中で踏みとどまることができた。
しかし、もうタンスの重さを支え続けることは不可能だった。
動けない。
少しでも手を離せばバランスが崩れて潰される。
(力を使わないと、重くて動けない…!)
変に動けば、タンスごと階段を転げ落ちる。
「はぁー…はぁぁー…」
必死に耐えるが、息を止めて無理をしたせいで呼吸は完全に乱れている。
今から、もう一回息を止めるなんて絶対無理っ!
大声で近所の人に助けを呼びたい!
でも、きちんと戸締まりをしてしまったし、そもそも今の自分の格好は、他人には絶対に見せられない!
「…っ!」
最後の力を振り絞って息を止め、力を込めてタンスを階段の壁へと立てかける。
ギシギシと軋んでいるタンスの下から這い出て、そのまま階段の踊り場にへたり込んだ。
「はぁ…はぁ…はぁ……っ!」
しばらくの間、酸欠で指一本動かすことができなかった。
「これ、どうしよう…」
彼女の目の前には、絶妙な角度で巨大なタンスが立てかけられている。
階段を完全に塞いでいた。
「にゃー」
階段の下からは、猫がこちらを見上げている。
「超能力なんて、ない方がよっぽど平和に暮らせる!!」